ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年4号
特集
第6部 全ト協「 経営分析報告書」を読む「経営分析報告書─平成20年度決算版─」全日本トラック協会

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2010  30 輸送量  一社平均の輸送量(輸送トン数)については、 〇六年度:五万四五九三トン(前年度比マイナス 二・八%)に対し、〇七年度:五万二一一一トン(同 マイナス四・五%)、〇八年度:五万五六七トン(同 マイナス三・〇%)となった。
ちなみに、マクロ ベースでのトラック事業者(霊柩を除く)一社当 たりの輸送量の推移をみると、〇六年度:四万九 七七五トン(前年度比プラス〇・七%)に対し、 〇七年度:四万九八五八トン(同プラス〇・二%)、 〇八年度:四万八〇三八トン(同マイナス三・七%) となっている。
 この数値をみると、調査対象事業者の輸送量の 減少率はマクロベースのそれを〇・七ポイント下 回っており、中小事業者が多い(注:今般の調査 対象となっている事業者の属性をみると、従業員 三〇一人以上の事業者は一社もなく、日本通運、 ヤマト運輸、佐川急便などの巨大な事業者は含ま れていない。
特別積合せ貨物運送事業者や傭車売 上比率が二〇%超の事業者等、輸送量が非常に多 いと推測される事業者は対象外としているためで ある)割には善戦していることが分かる。
売上高、貨物運送事業収入(営業収益)  〇八年度の売上高は二億三八六万円で、前年 度(二億八五八万円)比マイナス二・三%、貨物 運送事業収入(営業収益)は二億二〇一万円で、 前年度(二億六九七万円)比マイナス二・四%の 減収となった。
貨物運送事業収入の大幅な減少に ついては、輸送量の減少が主たる要因である。
な お、貨物運送事業収入(営業収益)の減少率が 予測は外れたものの‥‥  一年前の本稿で、全日本トラック協会がとりま とめた「経営分析報告書─平成一九年度決算版 ─」を用いて、二〇〇八、〇九年度におけるトラ ック業界全体の営業収益営業利益率をそれぞれマ イナス七・〇%、マイナス七・四%と大胆に予測 した。
先ごろ公表された平成二〇年度決算版の同 報告書により結果を検証してみると、そこまでひ どい状況には陥っておらず、〇八年度はマイナス一・ 三%にとどまっている。
 幸いにも筆者の予測が大ハズレとなったのは、 前提とする輸送量(一社平均輸送量)が思ったほ ど減少しなかったためだ。
筆者はマイナス一〇・ 〇%と想定したが、実際にはマイナス三・〇%と 比較的小幅なマイナスになっている。
ご承知のよ うに、〇八年度は、九月のリーマンショックを発 端に、百年に一度といわれる経済危機が発生した 年であり、超悲観的な予測にならざるをえなかっ たと苦しい言い訳をしておこう。
 ただし、いずれにせよ、営業収益営業利益率は 前年度(マイナス〇・四%)に続いて二年連続の マイナスとなり、また、前年度と比べ〇・九ポイ ントもの大幅な低下となったことから、トラック 事業者の経営状態がかなり厳しい状況に追い込ま れていることが分かる。
こうした赤字幅の拡大は、 言うまでもなく、輸送量の減少に伴い営業収益が 大きく低下する一方で、燃料価格が大幅に上昇し たことなどから、営業費用の低下率がマイナス一・ 五%にとどまり、営業収益の低下率(マイナス二・ 四%)を下回ったことによるものである。
 以下で、ポイントを整理してみよう。
全ト協「 経営分析報告書」を読む 「経営分析報告書─平成20年度決算版─」全日本トラック協会  08年度のトラック事業者の経営状態が著しく傷んでいた ことが、全ト協発表の「経営分析報告書」によって明らか になった。
金融恐慌に端を発する景気低迷を受け、営業収 益は前年度を大きく下回った。
中堅以上の事業者は人件費 や下請け支出を切りつめて急場を凌いだが、中小・零細に その余地はない。
リーマンショックの影響が直撃した格好だ。
日通総合研究所 佐藤信洋 さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大 学院修了。
89年に日通総合研究 所入社。
現在、経済研究部研究 主査。
「経済と貨物輸送量の見通 し」、「日通総研短観」などを担当。
貨物輸送の将来展望に関する著書、 講演多数。
物流指標を読む 第16回 31  APRIL 2010 輸送量の減少率を下回ったことから、運賃水準は いくぶん上昇したものと推測される。
営業費用  前述のとおり、〇八年度の売上高および貨物運 送事業収入(営業収益)はそれぞれ前年度比で マイナス二・三%、マイナス二・四%となったが、 営業費用は二億四七〇万円で前年度(二億七八 二万円)比マイナス一・五%にとどまった。
その 結果、売上高営業利益率、営業収益営業利益率 ともマイナス一・三%とマイナス幅が拡大した。
 費用の内訳をみ ると、前年度比で は減少している費 目が多いものの、 燃料油脂費(プラ ス五・九%)、減価 償却費(プラス六・ 九%)、フェリーボ ート利用料( プラ ス三四・三%)が 増加したほか、修 繕費もマイナス〇・ 一%と微減にとど まっており、これ らが営業費用のマ イナス幅を抑えた 主たる要因となっ ている。
言うまで もなく、燃料油脂 費の増加は燃料価 格の高騰を反映し たものである。
石油情報センターの統計によると、 燃料油脂の大半を占める軽油の価格(給油所店頭 現金価格:軽油引取税・消費税込み)は、〇八 年度平均で一三二・八円/リットルと、〇七年度 平均(一二四・三円/リットル)を六・八%上回 った。
フェリーボート利用料が増加した背景には、 フェリーを利用することにより、人件費や燃料油 脂費を少しでも削減しようという意図があったの ではないか。
営業損益  以上の結果、〇八年度の営業損益はマイナス二 六九・七万円となり、前年度(マイナス八五・七 万円)よりも赤字幅が拡大した。
車両規模別にみ ると、「一〇一台以上」規模の事業者で小幅なが ら黒字を維持できたが、その他の規模ではいずれ も赤字となっている。
前年度において黒字を計上 していた「二一〜五〇台」「五一〜一〇〇台」規 模では赤字に転落し、また「一〜一〇台」「十一 〜二〇台」規模では前年度よりも赤字幅が拡大し た。
経営状況はさらに悪化  ところで、車両規模別の営業収益および営業損 益を示した表をご覧いただきたい。
非常に奇異な 感じを受けたのは筆者だけであろうか。
「一〇一 台以上」規模の事業者において、営業収益が前年 度より一億二六三六万円も減少したにもかかわら ず、営業利益は僅かではあるが前年度を上回って いる。
一体どういうことなのかと思い、調べてみ たところ、なるほどと納得できるような実態があ った。
売り上げが減少しているのに、利益が増加 しているわけであるから、費用を大幅に削減した ことは分かる。
では、どの項目の費用をを削減し たのかというと、顕著なのが、人件費(前年度比 マイナス五三四六・七万円:マイナス一〇・六%) と傭車費等(同マイナス一一八三・九万円:マイ ナス十三・二%)だ。
ちなみに、他の規模の事業 者についてみると、人件費は微減にとどまっている。
ということは、裏読みをすれば、小規模事業者で は〇七年度において、すでに下げられる限界近く まで賃金を下げていたため、〇八年度にはもう下 げる余地がほとんど無かった。
一方、「一〇一台 以上」規模の中堅以上の事業者では、まだ賃金の 下げ余地があったことから、人件費を大幅に削減 できたということだろう。
併せて、傭車費等、下 請けに対する支出を大幅に削減している。
 大げさな言い方ではあるが、このデータのなか にトラック業界の縮図のようなものが垣間見える ような気がしてならない。
 さて、今後のトラック事業者の経営状況である が、〇九年度、一〇年度についてはさらに悪化す るのは必至だ。
日通総合研究所が昨年末に発表し た見通しによると、〇九年度、一〇年度の営業用 トラック輸送量は、前年度比でそれぞれマイナス五・ 八%、マイナス一・九%と、減少に歯止めがかか らないものとみられる。
言い換えれば、営業収益 はさらに減少するということだ。
その一方で、営 業費用はおそらく大きくは低下しまい。
ドライバ ー等を確保するため、賃金水準はもう大きく下げ られないところまできている。
また、新興国の景 気回復等を受けて、今後、世界的な石油需要の拡 大が予想されるなかで、軽油を中心に燃料価格は 上昇に向かう可能性が高いからだ。
全 体 219,282 206,967 202,005 181 △857 △2,697 1〜10 台 53,250 50,538 49,311 △1,431 △1,876 △2,326 11〜20 台 137,857 133,924 132,071 △1,266 △1,800 △3,688 21〜50 台 321,162 300,621 297,279 1,206 233 △2,917 51〜100 台 707,716 678,501 642,912 7,074 2,356 △465 101 台以上 1,333,890 1,269,478 1,143,118 14,926 4,870 5,234 営業収益 平成18 年19 年20 年平成18 年19 年20 年 項目・ 営業損益 年度 規模 車両規制別の営業収益と営業損益の推維 (単位:千円) 特 集 トラック運賃 2010

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