2010年4月号
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「世界で通用するSCMのプロを育てる」圓川隆夫 東京工業大学 教授

APRIL 2010  4 も、SCMのトータルなパフォーマン スやその成果としての収益力では遅 れをとってしまう」 ──どこで差がついてしまったのでし ょうか。
 「一九八〇年代に日本では『CI M(コンピュータ・インテグレーテッ ド・マニュファクチャリング)』が大 変なブームになり、製販物の連携が志 向されました。
それを最も上手く実 現したのが花王で、当時の花王のC IMは世界的に見てもダントツに進ん でいました。
つまり日本はメーカー主 導のSCMでは成功した」  「ところが九〇年代に入って流通業 が巨大化し、?製販同盟?など取引先 とのWin─Winの関係を求められ るようになって、上手くいかなくな ってしまった。
一方、アメリカはS CMやECR(Efficient Consumer Response:効果的な消費者対応)を 開発し、九〇年代に猛烈な巻き返し に出た。
ITを武器にして企業の壁 を超えたサプライチェーンの全体最適 化を進め、生産性を大きく向上させ ました。
その象徴がウォルマート・ス トアーズです」  「またLSCの国際比較で日本に特 徴的だったことが、戦略と組織間の 連携が弱いという他にもう一つあって、 それはSCMの現状に対する認識が 東工大が初のSCM講座 ──東京工業大学が今春、初のSC M講座(東工大大学院イノベーション マネジメント研究科キャリアアップM OTサプライチェーン戦略スクール) を開設します。
その狙いは?  「これまで日本で物流といえば商 学部などの文系の学問領域でした。
我々の東工大にも物流の講座はあり ませんでした。
一方、アメリカを始め とした諸外国では主に工科大学で物 流が教えられています。
別に文系・ 理系という分け方にこだわっている わけではありませんが、物流の最適 化にオペレーションズ・リサーチ(O R)を始めとした数理的な解析が欠 かせないのは常識です」  「ところが文系の学部では、物流を 教えるのにORどころか数学を使わな い。
実際、安全在庫の話をするにも、 需要のバラツキを示す『σ(シグマ: 標準偏差)』などの関数や数式を出す と、途端に学生たちが逃げてしまう。
そこで逃げてしまえば、科学的なモ ノの考え方ができなくなってしまう」  「日本の大手企業の経営者やSCM 部門のスタッフも文系出身者で占めら れていて、無論SCMにも文系的セ ンスは必要ですが、数理的な問題構 成に基づくSCMアプローチが醸成さ れにくい。
科学的な経営技術なしに 最適化は望めません。
そして科学的 なSCMリテラシーの育成には、我々 のような理工系大学が率先して当た るべきだと考えました」 ──科学的経営技術の欠如は、日本 のSCMにどのように影響している のでしょうか。
 「私の研究室では、二〇〇一年から 日本ロジスティクスシステム協会(J ILS)と共同で『SCMロジスティ クススコアカード(LSC)』の開発 を進めてきました。
自分の会社のS CMのオペレーションを、二二の項目 で自己評価して、簡易的なベンチマ ーキングを行うためのツールです。
そ の会社の強みや弱み、ポジショニング を把握することできます。
このLS Cの診断結果として、これまでに世 界一二〇〇以上の事業者のデータが 集まっていて、そのうち財務データの 入手が可能なものも五〇〇以上あり ます」  「そのデータを国際比較してみると、 日本は現場のオペレーションでは優れ ている。
しかし、企業戦略と組織間 の連携が弱い。
戦略と各組織の動き がバラバラなんです。
そのために個々 の現場オペレーションでは勝っていて 圓川隆夫 東京工業大学 教授 「世界で通用するSCMのプロを育てる」  日本の現場力には国際的な優位性がある。
しかし、サプライ チェーンのトータルなパフォーマンスやその成果としての収益性 は劣っている。
SCMが戦略として機能せず、現場任せになっ ている。
現状を打破するには科学的な経営技術を駆使して改革 をリードし、経営層を巻き込むことのできるSCMのプロフェッ ショナルが必要だ。
          (聞き手・大矢昌浩) 5  APRIL 2010 必要がある。
差別化の武器としてそ こは絶対に捨ててはいけません。
し かし、SCMは今や待ったなしのテー マです。
これから日本企業はアジアを はじめ世界で競争しなければならな い。
日本国内と違って海外では確固 とした戦略や科学的な管理技術を使 わないと現場自体動きません」  「こうした問題を解決するには、S CMのプロフェッショナルが必要です。
科学的な手法を使ってSCM戦略を 組織的に駆使できる、つまり経営者 を巻き込むことのできるリーダーが必 要です。
その第一歩として、我々はS SFJ内に教育支援委員会を設置し、 同委員会が東工大と連携し支援するか たちで、SCMの新講座(SSS)を 作ろうという結論に至ったんです。
こ のSSSを通じて我々は数理的な知識 や技術を持ったSCMのプロを育成し ていきたいと考えています」 会社の上層部ほ ど日本は甘くな ることなんです。
海外は逆で、ト ップに行くほど 厳しい見方をし ている。
トップ ダウンで下した 指示を、現場が 正しく実行でき ているかシビア に見ている。
そ れだけ海外では 現場を指示通り に動かすのが大 変だということ なのでしょうが、 反対に日本の経 営層は現場の優 秀さに頼ってい るとも言えます。
しかしSCMは 企業戦略です。
現場に頼れるも のではありませ ん」 ──確かに日本 は物流の延長で SCMをとらえ てしまっている ところがありま すね。
 「そこで我々は昨年の夏に同じ問題 意識を持つ研究者や実務家の方々に集 まってもらい、『サプライチェーン戦 略フォーラム日本(SSFJ)』とい う任意団体を立ちあげました。
その 発起人たちで、まずは『CRT(カ レント・リアリティ・ツリー)』と呼 ばれる制約理論の手法を使って、現 状の問題を掘り下げました。
日本のS CMの問題点をメンバーたちがそれぞ れ付箋に書き出してボードに貼り、そ れを原因と結果を示す矢印で結んでい ったんです」  「その議論を通じて、一つは日本特 有の消費者性向に過剰適応した日本 の小売り業態の問題を整理しました。
つまり幅広い品揃えと極端に低い欠品 率、そしてコスト競争という、厳しす ぎる要求に日本企業が過剰反応して いる問題です。
現場が強いので、多 少の無理でも日本では通ってしまう。
しかし、その結果として日本市場の ?ガラパゴス化?が進み、高コスト体 質に陥っている」  「また現場の強さが経営者をして根 本的解決を避け、現場レベルのミク ロな部分最適に任せておく体質にも つながっている。
そのためにSCM が経営の柱にならない。
もちろん日 本の現場の強みは今後も活かしていく えんかわ・たかお 1949年生まれ。
75年、東 京工業大学大学院修士課程経 営工学専攻修了。
80年工学 博士、東京工業大学助教授。
88年、同教授。
2003年〜 05年、同大学院社会理工学 研究科長兼務。
05年〜09年、 大学院イノベーションマネジメ ント研究科長兼務。
専門は生 産管理、品質管理、SCM。
東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科 キャリアアップMOT サプライチェーン戦略スクール ストラテジックSCMコース(春季)募集要項 受講期間 2010 年5 月〜8 月毎週金曜 19:00〜21:00 計15 回 カリキュラムは右の表参照 受講対象者 企業の経営企画を担当する経営幹部あるいはス タッフの方、サプライチェーンの計画・設計・ 管理・運営を担当する社会人の方 受講場所 東京工業大学・田町キャンパス (JR山手線田町駅徒歩1 分) 申込期間 2010 年3 月1 日(月)〜4 月16 日(金) 受講料 15 万7500 円(税込) 募集人数 20 人(最小開催人数13 人) 申込方法 専用サイト (http://www.mot.titech.ac.jp/cumot/ sss/scm/index.html)から申込用紙をダウンロー ドして下記住所まで郵送。
書類審査の上、メール もしくは電話で本人に受講を通知。
〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6 キャンパス・イノベーションセンター705  CUMOT 事務局 サプライチェーン戦略スクール受講申込担当 問い合わせ先 URL http://www.mot.titech.ac.jp/cumot/ eメール cumot-scm-info@mot.titech.ac.jp ?5/14 (オリエンテーション)SCM 総論/SCM と在庫戦略+課題研究説明 圓川隆夫 東京工業大学大学院 社会理工学研究科教授 同大学院 イノベーションマネジメント研究科協力講座教授 ?5/21 経営戦略とSCM革新(1) パラダイムシフト ?5/28 経営戦略とSCM革新(2) チェンジマネジメント (事例研究) 藤野直明 野村総合研究所 ビジネスイノベーション事業部部長 上席コンサルタント ?6/4 需給マネジメントと在庫最適化シミュレーション 相澤りえ子 構造計画研究所 製造BPR 営業部技術担当部長 ?6/11 サプライチェーン・ネットワーク計画 高井英造 フレームワークス 特別技術顧問 多摩大学大学院客員教授 ?6/18 SCM における最適化とORの活用 中川義之 キヤノンIT ソリューションズ ソフトウェアソリュ−ション本部 コンサルティングセンター長 多摩大学大学院客員教授 ?6/25 SCM とイノベーション・知財 田中義敏 東京工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科教授 ?7/2 課題中間発表とディスカッション   講師陣 ?7/9 消費財流通のチャネル戦略とSCM (事例研究) 加藤司 大阪市立大学大学院 経営学研究科教授 市川隆一 日本ロジスティクス研究所 代表取締役社長 多摩大学大学院客員教授 ?7/16 グローバルSCM のリスク・マネジメント 川島孝夫 東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科教授 ?7/23 グリーンサプライチェーンとトレーサビリティー 森川健 野村総合研究所 事業戦略コンサルティング?部 上級コンサルタント ?7/30 グローバル・サプライチェーン戦略 橋本雅隆 横浜商科大学 商学部教授  一橋大学商学部客員教授 ?8/6 SCORモデルと業務プロセス改革 (事例研究) 中山健 日立東日本ソリューションズ ビジネスコンサルティング部チーフコンサルタント ?8/20 SCM における調達マネジメント (事例研究) 三枝利彰 日本ビジネスクリエイト コンサルティング統括本部ディレクターコンサルタント 中ノ森清訓 戦略調達 代表取締役社長 ?8/27 課題発表会(SCM改革プロジェクトを成功させるには)   講師陣

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