2010年5月号
特集

第2部 BtoC 物流に異業種参入ラッシュ

バーチャル企業のリアルなサービス  二〇〇八年度の国内宅配便市場は、宅配便各社の デリバリー事業(メール便も含む)売上高などから 二兆三〇〇〇億円〜四〇〇〇億円規模と推測される。
うちメール便は、〇八年度のヤマト運輸の単価六五円 を当てはめると三二五〇億円。
差し引きして純粋な 宅配便の市場は二兆円余りという計算だ。
 企業発・消費者宅行きのB to C物流が、そのうち 約三割を占めていると推測される。
残りは六割が企 業間のB to B。
一割が消費者間のC to Cだ。
B to B の宅配便は既に成熟し、リーマンショック以降は縮小 に向かっている。
C to Cも停滞している。
B to Cだ けが伸びている。
 しかも、B to C物流は、代引きを始めとする付加 価値配送や受注処理・出荷作業などの付帯業務を伴 う。
日本ロジスティクスシステム協会の〇八年度の調 査によると、通販業の対売上高物流コスト比率は十 二・九%。
全産業中最も比率が高い。
それだけ物流ソ リューションに対するニーズは大きい。
 しかし、B to Bと違ってB to C向けの物流サービス はこれまで担い手が限られていた。
瞬間的に大量の注 文を処理しなければならないため、ピッキングや出荷 作業などのセンター業務に効率化の余地が小さく、ア ウトソーシングすると却って割高になることが多かった。
 そのためカタログ販売の時代に出発した大手通販会 社の多くは、自前で物流センターを建設し、運営も自 社で管理してきた。
しかし現在、通信販売のメディア はカタログからインターネットに急速にシフトしている。
カタログの作成や発送コストがかからないため、小規 模資本でも容易に事業を立ち上げられる。
 そのなかから、リアルな店舗をチェーン展開する既 存の小売業を凌ぐほどのベンチャー企業も現れている。
書籍販売のアマゾンがその筆頭格だ。
同社は日本法人 の売上高を公表していないが、その事業規模は今や 書店最大手の紀伊国屋の年商約一二〇〇億円をはる かに上回っていると目される。
 〇四年にファッション販売サイト「ゾゾタウン」を 立ち上げたスタートトゥデイはそのアパレル版だ。
一 〇年三月期の年間取扱高は前期比七割増の三七〇億 円に達した模様だ。
同社は〇八年三月、千葉県習志 野市の「プロロジスパーク習志野?」に約一〇〇〇坪 を確保して物流拠点を設置している。
自社開発のマ テハン機器やWMSを導入し、現場オペレーションに も正社員を投入している。
ネット通販の勝ち組は、い ずれも重装備の物流インフラを強力な差別化の武器に している。
物流の裏付けがない限り、ネット通販の成 長には限界があるとも言える。
 日本語版「ツイッター(Twitter)」を運営するデジ タルガレージ(DG)は今年三月、日本通運と業務提 携および合弁会社の設立で合意した。
ネット通販に必 要なマーケティング、物流、決済機能をトータルで提 供するフルフィルメント支援会社を今年一〇月一日に 共同出資で設立する。
 DGのEC支援事業部門イーコンテクストカンパ ニーではこれまで、電子決済をメーンとして、コンビ ニ店舗での受け渡しのための物流サービスを手がけて きた。
通販会社の商品をDGが仲介して、受け渡し 店舗のベースとなるコンビニ配送センターに納品する。
そのために商品を保管・クロスドッキングする自社倉 庫も運営している。
日通と提携を結ぶことで、物流 サービスの領域をさらに拡大する。
 月間三〇〇〇個以上の出荷があるネット通販会社 を主なターゲットと想定している。
そのレベルから BtoC 物流に異業種参入ラッシュ  eコマースの普及に伴いBtoC物流市場が急拡大して いる。
新たな需要に引き寄せられて、従来はバーチャ ルなネット空間を舞台としていたIT系企業がリアルな 物流市場に相次いで参入している。
既存の物流専業者 や通販会社は、異業種からの参入にどう向き合うのか 判断を迫られている。
         (大矢昌浩) MAY 2010  14 2 ネット通販はフルフィルメントが成長のカギになる。
DGの佐藤守哉上級執行役員イーコンテクストカンパ ニーカンバニーEVPは「ネット通販もコモディティ 化が進んできた。
差別化のためにはネットマーケティ ングや電子決済などのサイバーな機能だけでなく、そ れをリアルな店舗や物流と組み合わせるハイブリッド 化が必要になっている」という。
敵に回るか味方につくか  同様に日本ヒューレット・パッカード(HP)も、 「コンシューマーダイレクト」と呼ぶ直販モデルのソ リューションサービスを日本で新たに開始する。
HP が元請けとなってパートナーの協力物流会社を管理す ることで、ネット通販のITと物流のオペレーション を一括して請け負う。
 日本HPの重松隆之エンタープライズサービス事業 統括ソリューションコンサルティング本部ビジネスデベ ロップメント部部長は「倉庫だけとか、配送だけと いった個別最適ではなく、調達から納品までのグロー バルなサプライチェーンをエンド・トゥ・エンドで効 率化するノウハウを、当社はソリューションとして蓄 積している」という。
 HPはコンピュータメーカーとして、直販、代理店 販売、小売店販売などの複数チャネルを駆使し、世界 最大規模のロジスティクスを自ら運営・管理している。
新たに直販を開始する日本のメーカーや輸入商品を扱 う通販会社などに、そのスキルを提供する。
既に数年 前から海外では、欧米や中国、東南アジア諸国に物流 拠点を置いて運営を管理しているという。
 ネット通販会社自身もまた、自社インフラをプラッ トフォームとしてB to C物流の外販事業に乗り出して いる。
アマゾンは「フルフィルメント・バイ・アマゾ ン(FBA)」というサービス名で、ネット通販会社 の在庫を自社センターに保管し、受注処理から配送 までのオペレーションを個建て契約で請け負っている。
米国本土では〇八年から、ネット通販以外の一般の小 売業者にもサービス対象を広げた。
 スタートトゥデイも〇八年五月に物流業務まで請け 負うネット通販支援の子会社を設立している。
そもそ も同社は、アパレルメーカーやセレクトショップから、 物流サービスも含めたネット通販事業の運営委託を受け るアウトソーシング会社という側面を持っている。
ネッ ト通販と物流事業の距離は急速に縮まっている。
 今年五月、楽天は一〇〇%出資で楽天物流を立ち 上げる。
楽天市場の注文件数は今や年間一億件にも 上っている。
約三万の出店者が全国各地から宅配便 を使って荷物を出荷している。
小規模に分散し交錯 するこの膨大なB to C物流に、楽天は効率化のメスを 入れようとしている。
 大規模な店舗は楽天物流が新設する中央物流セン ターで在庫を預かる。
中規模店は、各地の物流パート ナーの拠点に集約する。
そして小規模店は、出荷し た商品をクロスドッキングして顧客に納品するという スタイルの全国ネットワークを想定している。
 楽天物流の社長に就任する楽天の宮田啓友物流事 業事業長物流企画部部長は「我々の目指す物流モデ ルは中央集権的な米国流のインフラとは設計思想がま るで違う。
パートナーの物流会社とのWin─Win の関係があって初めて可能になるモデルだ。
全国の物 流会社と一緒になって楽天型、日本型のB to Cネット ワークを構築していきたい」と抱負を述べる。
 異業種から物流市場に参入した新興勢力とどう向 き合うのか。
既存の物流会社や通販会社は選択を迫 られている。
15  MAY 2010 DGの佐藤守哉上級執行 役員イーコンテクストカ ンパニーカンバニーEVP 日本HPの重松隆之 ビジネスデベロップ メント部部長 注文件数 (単位:百万件) 流通総額 (単位:十億円) 楽天の流通総額・注文件数の四半期推移 (楽天市場・楽天ブックス) ※流通総額=モール(通常購入・共同購入)・モバイル(通常購入・共同購入)・ブックス 07 4Q 08 1Q 08 2Q 08 3Q 08 4Q 09 1Q 09 2Q 09 3Q 09 4Q 200 150 100 50 0 40 35 30 25 20 15 10 5 0 159.97 19.97 20.26 21.98 21.74 25.41 25.64 29.08 28.75 33.82 152.02 158.76 158.79 194.22 181.48 194.36 191.30 233.12 流通総額※ (左軸) 注文件数 (右軸)

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