2010年5月号
特集

第5部 サービス力が通販業最大の競争条件に

膨らむ通販市場  日本通信販売協会(JDMA)の調べによると、二 〇〇八年度の通販業界の市場規模は四兆一四〇〇億 円で、前年度の三兆八八〇〇億円から六・七%増加 している。
二〇〇〇年の同調べによる市場規模は二 兆三九〇〇億円だった。
この八年で七〇%以上マー ケットが膨らんだことになる。
 急成長の牽引役は何か。
通販ビジネス・コンサル ティング会社、トリノリンクスの三田栄一郎社長は次 のように語る。
 「やはりネット通販の台頭が大きい。
二〇〇〇年頃 から普及し始め、そこから加速度的に伸びていった。
それに比例して通販市場の規模も急拡大してきた。
直 近ではやや成長のスピードは落ち着いてきたものの、 通販市場における?ネットバブル?とでもいうべき現 象がマーケットを刷新してきた」  ネット通販の著しい成長は、経産省が発表した調 査結果でも如実に表れている。
〇八年のB to CのE C(電子商取引)市場の規模は六兆一〇〇〇億円で、 前年より一四%も伸びている。
〇五年の市場規模は 三・五兆円だったので、わずか三年間で七〇%以上 の成長を実現したことになる。
 その煽りを受けて、従来型のカタログ通販は苦戦を 強いられている。
経済紙の報道によると、カタログ通 販七一社の〇八年度の売上高は七三〇九億円で、そ のうち比較可能な七〇社の売上高合計は前年度比マ イナス二・〇%となっている。
前年割れは七年連続の ことだという。
 業績の悪化を受け、カタログ通販各社はネットへの シフトや中国をはじめとした成長市場への進出を急 いでいる。
あるカタログ通販大手の物流担当役員は 「ウチも今年からネットに注力する方針になった。
社 内に専門部隊を設置したり、複数あったサイトを一つ にまとめたりと準備を急いでいる。
もちろんネット通 販に対応した物流も必要になる。
しかし、今はまだ 何が必要なのか模索している状態だ」と危機感を募 らせる。
 マーケットの規模や構造が激変する中で、通販ビ ジネスで勝ち抜くためのポイントも変化してきてい る。
通販ビジネスコンサルタントの若松透氏は、通販 プレーヤーにいま最も強く求められているのは?サー ビス力?だと主張する。
 「通販事業を構成する要素には、大きく『商品力』 『広告宣伝力』『顧客管理力』『サービス力』の四つがあ る。
それぞれの重要度は時代によって変化してきた。
今は何といってもサービス力の時代だ。
日本の顧客は サービスレベルの要求が極めて高い。
その期待感を裏 切らずに、一〇〇%応えていける企業だけが勝ち組 になる」(若松コンサルタント)  ネットが普及する以前の九〇年代までは、商品力 が最も重要だったという。
プロダクトアウトの精神で、 良い商品を供給できれば売れた。
やがて二〇〇〇年 代に入りネット通販が普及し始めると、今度は広告宣 伝がモノをいうようになってきた。
商品はそこそこで も、ネットを中心とした様々な媒体を用いて効率的に ユーザーに周知できる企業が業績を伸ばした。
 そして四、五年ほど前からはサービス力が重要な競 争条件に浮上した。
溢れかえる広告宣伝にユーザー側 が惑わされなくなったことに加え、それまで付加価値 的な存在でしかなかったサービスに顧客が慣れ、いつ しかそれを当たり前と考えるようになった。
販売側が あまりにユーザーを甘やかした結果でもあるという。
 若松コンサルタントの言うサービス力とは、端的に サービス力が通販業最大の競争条件に  現在の通販ビジネスで最も重要なのは、商品力でも宣 伝広告力でも顧客管理力でもない。
物流を含むサービス 力だ。
顧客にあらゆる選択肢を与え、顧客のあらゆる不 満を取り除く。
それができる企業だけがマーケットを勝ち 抜いていく。
サービスレベルの設定からロジスティクスを 組み立てる必要がある。
         (石鍋 圭) MAY 2010  24 5 言えば顧客に労力をかけさせないこと、そして不満 を与えないことだ。
ユーザーにあらゆる選択肢を与え、 ユーザーのあらゆる不満を取り除く。
それができなけ れば、いくら商品が優れていても今のマーケットで勝 ち残ることはできない。
そして、サービス力を構成す る重要な要素の一つが?物流?だという。
 若松コンサルタントは「倉庫や配送といった物流体 制は、顧客に対するサービスレベルを大前提に設計し なければならない。
それを徹底的に追求しようとす れば、庫内作業の効率化や宅配業者の見直しといっ た基本的な改善活動はもちろん、場合によっては大々 的な社内改革が必要になるケースもある」と語る。
 若松氏が四年ほど前にコンサルに入った名古屋のボ ディソープメーカーA社は象徴的な事例だ。
顧客満足のために就業規則まで改訂  A社は主にホテルや旅館にボディソープを卸してい た。
顧客の大半は企業、つまりB to Bのビジネスで順 調に業績を伸ばしていた。
一方、業容拡大を狙い通 販市場にも進出してはいたが、そちらの方は今ひと つ軌道に乗りきれないでいた。
そこで、若松氏がコン サルに入ることになった。
 同氏がまず目指したのが、全国翌日配送の実現だっ た。
A社が扱うボディソープは基本的に毎日使うもの。
従来のように届けるまでに受注から三日も四日もか かれば、近所のドラッグストアに買いに行かれてしま う。
一度販売機会を失えば、商品を使い切るまで三 カ月程度は注文が入らない。
少なくとも受注の翌日 に届けなければ大きなチャンスロスを招くと考えた。
 それまで当日出荷するのは一五時までに受注した分 に限られていたが、それを一七時まで伸ばし、最終 集荷時間も一七時から一九時に後ろ倒しにした。
そ れに対応できるよう庫内作業も設計し直した。
A社 の受注の大半は一七時までに来るので、注文のほと んどをその日のうちに出荷できるようになった。
 次に取り組んだのが三六五日年中無休の受注受付 と出荷対応だ。
それまでは受注が月曜から土曜まで、 出荷が月曜から金曜までだった。
土曜の注文分が届く のは早くても火曜、日曜には注文も出来ない。
ここ にも大きな販売ロスが潜んでいると分析した。
その解 消を目指した。
 これには社内外から大きな反発が出た。
宅配会社 からは「土日の集荷・出荷には絶対に応じられない」 と突っぱねられ、社員の一部からは「土日の注文に 対応することが売上にどれだけ貢献するのか。
そん な微々たる仕事のために土日に出勤するのは嫌だ」と いう声が上がった。
 結局、既存の宅配会社とは契約を解除し、土日で も対応するというヤマトに切り替えた。
社内からの反 発の声は収まるまでに四カ月ほどかかった。
最後は、 A社の当時の社長の強い意向によるトップダウンで断 行した。
受注を受け付けるコールセンターや物流倉庫 を三六五日稼働させるため、交代勤務制を社内に導 入し、就業規則も変更した。
 一連の取り組みで、A社の通販事業の売上は三割 ほどアップした。
リードタイムや受注可能日時が顧客 のニーズに合っていなかったことが、多大な販売ロス の元凶になっていたことが証明された。
 若松氏は「提供しているサービスレベルと顧客ニー ズが合致していない通販会社がかなり多い。
就業規 則まで変えろとまでは言わないが、顧客の要望を汲み 取り、それに応える努力は必要だ。
宅配会社との折 衝や庫内作業のちょっとした変更で、効率化できる余 地はふんだんにあるはずだ」と言う。
25  MAY 2010 トリノリンクスの 三田栄一郎社長 通販ビジネスコンサル タントの若松透氏 通信販売市場の売上高と伸び率の推移 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 99年 (年度) 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 05 年 06 年 07 年 08 年 (単位:兆円) (億円) (%) 出所:経済産業省 出所:日本通信販売協会(JDMA) BtoC EC(電子商取引)市場 の推移 7 6 5 4 3 2 1 0 3.5 4.4 5.3 6.1 伸び率 市場規模

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