2010年5月号
値段
値段
第58回 日本郵船
MAY 2010 52
コンテナ船事業で自社船隊を縮小
海運市況は緩やかながら回復基調にある。
コ ンテナ船については、四半期ごとに運賃交渉が 行われる欧州航路の運賃が昨年四月から今年一 月までに約八〇%上昇したと推定される。
運 賃交渉の機会が年一回の北米航路でも割増料金 の緊急課徴金(ERC:Emergency Revenue Charge)の徴収が順調に進んだようだ。
過去一年のコンテナ運賃の値上げは、国内外 の船社の減船や減速航海などのスペース供給の 抑制策が奏功した成果と言える。
実際、閑散期 に相当する一〜三月でも消席率(積み荷スペー スに対する船積み実績の割合)は北米航路で九 〇%前後、欧州航路で一〇〇%近い水準を確保 し、ほぼ満船状態が続いている。
荷主は運賃値 上げを受け入れざるを得ない状況にあり、現在、 運賃交渉の真最中にあるアジア発北米向けコン テナ運賃の動向が今後の注目点になるだろう。
エネルギー・資源輸送でもドライバルカー(ば ら積み船)の運賃は底を打ったようにみえる。
一 般的な運賃指標であるバルチック海運指数(B DI)の水準は、直近の底値である二五〇〇ポ イントから現在では三三〇〇ポイント程度(三 月一五日時点)まで上昇した。
中国の鉄鉱石や 石炭の輸入増加、日欧の鉄鋼会社による粗鋼生 産の再開などによって「ケープサイズ」と呼ば れる大型船の運賃が上昇したことによる。
一方、 穀物や砂糖、塩、肥料など生活必需品を輸送す る中小型の「パナマックスサイズ」、「ハンディサ イズ」の運賃には下方硬直性があり、安定的に 推移することが想定される。
今後も引き続きケ ープサイズの運賃動向を注視したいと考える。
ただしメリルリンチ日本証券では、最近の運 賃上昇は〇八年〜〇九年前半にかけての暴落の 反動という面もあり、手放しで楽観できる環境 に変わったとは考えていない。
船舶過剰という 点では海運市場が変わっていないためである。
現状、船社の経営努力から今後の船舶供給 量はこれまでほど大量にはならない、との見方 も出ている。
こうした方向性や考え方は間違っ てはいないが、?世界のコンテナ船のうち約一 〇%が現在、港に係船中であり、運賃上昇局面 ではそれらが市場に投入されること、?低コス トの船社を中心に、運賃相場が回復すれば値下 げで数量を確保する動きが出てくること、?納 期が延期されていた新造船が今年後半から来年 にかけて竣工すること、など懸念すべき点は多 い。
このため船社には引き続き過剰船舶を作り 出さないための経営努力が求められている。
市況変動の激しい海運市場において、最近の 日本郵船は様々な施策を打ち出している。
まず、 コンテナ船事業では自社船隊の縮小・ライトアセ ット化という大胆な経営方針を打ち出した。
新 造船の発注停止、傭船の返船、老齢船の処分な どにより、二〇一五年には自社船の運航隻数を 〇八年比半減の約六〇隻、保有キャパシティで 日本郵船 物流事業を再編しグローバル3PLに注力 課題は日航との貨物統合断念後のNCA 海運事業の市況変動リスクを抑えるために 事業構造改革を進めている。
物流分野では自 社事業と子会社の郵船航空サービスを統合す る計画を打ち出し、海外勢に伍してグローバ ル3PLの土俵に上ろうとしている。
課題は 経常赤字の続く日本貨物航空(NCA)の 再建だ。
日本航空の貨物事業との統合も破 談になった今、残された時間は多くはない。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第58回 53 MAY 2010 は同三分の二となる二九万TEUまで削減する 計画だ。
これは自社船隊の規模を縮小するとい う額面通りの意味ではない。
荷動きに合わせて 傭船を柔軟に活用していくことである。
売上七〇〇億・経常八〇億を創出 半期または単年度の運賃契約が多いコンテナ 船事業には、売上高固定費比率が高く、収益変 動性が高いという特徴がある。
保有船隊の縮小 により、市況悪化局面では支配船の規模を小さ くして固定費を削減でき、市況回復局面におい ては傭船を増やすことで市況上昇のメリットを 享受できる。
もっとも市況回復局面では傭船料 も割高になるため、コンテナ船事業の経常利益 率は従来に比べて低下す ることが想定される。
日 本郵船はコンテナ船で利 益追求を狙うというより は、収益変動のボラティ リティ(変動性)を回避 するという試みを実施し ていく方針だ。
次に注目されるのが グループの物流事業の再 編だろう。
「NYKロジ スティクス」として展開 してきた国内外の物流事 業と子会社の郵船航空 サービス(YAS)を今 年一〇月から新会社「郵 船ロジスティクス」に統 合していく。
NYKロジスティクスは海上フォワ ーディングとコントラクト・ロジスティクスに強 みを持ち、YASは航空フォワーディングを主軸 に展開してきたが、荷主の活動領域のグローバ ル化・多様化に対応する。
郵船ロジスティクス の一三年度業績目標は売上高五〇〇〇億円、経 常利益一八〇億円。
統合シナジーとして〇九年 度比で売上高七〇〇億円、経常利益八〇億円を 創出するという。
この統合はいわばグローバル3PLの先駆け として注目できるだろう。
日本では海外顧客も 対象としたグローバル3PLプレーヤーが少な く、日本郵船はその有力候補になったと言える。
一方、海外では既に航空インテグレーターや郵 便会社などがグローバル3PLに注力している。
日本郵船は海外勢との競争の中で海運事業を強 みとした独自性を発揮することが求められよう。
最後に、航空貨物事業の再構築の行方が注目 されよう。
日本郵船は昨年来、子会社の日本貨 物航空(NCA)と日本航空の航空貨物事業の 統合協議を進めてきたが、独自で事業を再構築 する方針を選択した。
日本の航空会社にとって 貨物事業の優先度は旅客に比べ相対的に低かっ た。
日本郵船が国内初の航空貨物専門のインテ グレーターとして高い収益性を達成できるかど うか注目されるが、メリルリンチ日本証券では、 日本では歴史的に航空フォワーダーの価格競争 力が強いため、航空インテグレーター事業で高 い収益性を求めるのは困難と考えている。
NCAの業績は需要の低迷もあり、経常赤字 が続いている。
ただ同社では収益を改善するた め、貨物機の運航規模拡大計画を修正するなど 需要動向にマッチさせたスペース供給戦略を採 るようになってきた。
今年四月には昨夏に続い て第二弾の運賃値上げも予定しているが、手薄 とみられる営業部門の強化、海上貨物の顧客に 対する航空利用の拡販などグループ全体での協 力体制も必要になろう。
メリルリンチ日本証券 では、再建に時間を要した場合に予想される国 内外他社との業務・資本提携を含めた事業再構 築の可能性にも注目している。
日本郵船の財務面をみると、昨年十一月に発 表した公募増資により約一一〇〇億円の資金を 調達した。
株主資本比率は約三〇%となったが、 海運事業は市況産業であるうえ、現状はオフバ ランスとなっているオペレーティングリースや傭 船のオンバランス化についての議論もあるため、 さらなる内部留保の充実が必要と考えられる。
昨年三月末時点のオペレーティングリース負 債は四六〇〇億円程度であり、これが全額オン バランスとなれば株主資本比率は大きく下がる。
傭船料のオンバランス化についてはそもそもオ ンバランスにすべきか否か、またはオンバランス にする場合の傭船期間をどうすべきかなどの議 論が進行中だが、日本郵船に限らず資金調達は 海運経営の大きな課題と言えるだろう。
つちや やすひと 一九九七年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券 などを経て、二〇〇五年一〇月に現 バンクオブアメリカ─メリルリンチ日 本証券に入社。
運輸セクター担当ア ナリストとして活躍している。
過去10年間の株価推移 《出来高》
コ ンテナ船については、四半期ごとに運賃交渉が 行われる欧州航路の運賃が昨年四月から今年一 月までに約八〇%上昇したと推定される。
運 賃交渉の機会が年一回の北米航路でも割増料金 の緊急課徴金(ERC:Emergency Revenue Charge)の徴収が順調に進んだようだ。
過去一年のコンテナ運賃の値上げは、国内外 の船社の減船や減速航海などのスペース供給の 抑制策が奏功した成果と言える。
実際、閑散期 に相当する一〜三月でも消席率(積み荷スペー スに対する船積み実績の割合)は北米航路で九 〇%前後、欧州航路で一〇〇%近い水準を確保 し、ほぼ満船状態が続いている。
荷主は運賃値 上げを受け入れざるを得ない状況にあり、現在、 運賃交渉の真最中にあるアジア発北米向けコン テナ運賃の動向が今後の注目点になるだろう。
エネルギー・資源輸送でもドライバルカー(ば ら積み船)の運賃は底を打ったようにみえる。
一 般的な運賃指標であるバルチック海運指数(B DI)の水準は、直近の底値である二五〇〇ポ イントから現在では三三〇〇ポイント程度(三 月一五日時点)まで上昇した。
中国の鉄鉱石や 石炭の輸入増加、日欧の鉄鋼会社による粗鋼生 産の再開などによって「ケープサイズ」と呼ば れる大型船の運賃が上昇したことによる。
一方、 穀物や砂糖、塩、肥料など生活必需品を輸送す る中小型の「パナマックスサイズ」、「ハンディサ イズ」の運賃には下方硬直性があり、安定的に 推移することが想定される。
今後も引き続きケ ープサイズの運賃動向を注視したいと考える。
ただしメリルリンチ日本証券では、最近の運 賃上昇は〇八年〜〇九年前半にかけての暴落の 反動という面もあり、手放しで楽観できる環境 に変わったとは考えていない。
船舶過剰という 点では海運市場が変わっていないためである。
現状、船社の経営努力から今後の船舶供給 量はこれまでほど大量にはならない、との見方 も出ている。
こうした方向性や考え方は間違っ てはいないが、?世界のコンテナ船のうち約一 〇%が現在、港に係船中であり、運賃上昇局面 ではそれらが市場に投入されること、?低コス トの船社を中心に、運賃相場が回復すれば値下 げで数量を確保する動きが出てくること、?納 期が延期されていた新造船が今年後半から来年 にかけて竣工すること、など懸念すべき点は多 い。
このため船社には引き続き過剰船舶を作り 出さないための経営努力が求められている。
市況変動の激しい海運市場において、最近の 日本郵船は様々な施策を打ち出している。
まず、 コンテナ船事業では自社船隊の縮小・ライトアセ ット化という大胆な経営方針を打ち出した。
新 造船の発注停止、傭船の返船、老齢船の処分な どにより、二〇一五年には自社船の運航隻数を 〇八年比半減の約六〇隻、保有キャパシティで 日本郵船 物流事業を再編しグローバル3PLに注力 課題は日航との貨物統合断念後のNCA 海運事業の市況変動リスクを抑えるために 事業構造改革を進めている。
物流分野では自 社事業と子会社の郵船航空サービスを統合す る計画を打ち出し、海外勢に伍してグローバ ル3PLの土俵に上ろうとしている。
課題は 経常赤字の続く日本貨物航空(NCA)の 再建だ。
日本航空の貨物事業との統合も破 談になった今、残された時間は多くはない。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第58回 53 MAY 2010 は同三分の二となる二九万TEUまで削減する 計画だ。
これは自社船隊の規模を縮小するとい う額面通りの意味ではない。
荷動きに合わせて 傭船を柔軟に活用していくことである。
売上七〇〇億・経常八〇億を創出 半期または単年度の運賃契約が多いコンテナ 船事業には、売上高固定費比率が高く、収益変 動性が高いという特徴がある。
保有船隊の縮小 により、市況悪化局面では支配船の規模を小さ くして固定費を削減でき、市況回復局面におい ては傭船を増やすことで市況上昇のメリットを 享受できる。
もっとも市況回復局面では傭船料 も割高になるため、コンテナ船事業の経常利益 率は従来に比べて低下す ることが想定される。
日 本郵船はコンテナ船で利 益追求を狙うというより は、収益変動のボラティ リティ(変動性)を回避 するという試みを実施し ていく方針だ。
次に注目されるのが グループの物流事業の再 編だろう。
「NYKロジ スティクス」として展開 してきた国内外の物流事 業と子会社の郵船航空 サービス(YAS)を今 年一〇月から新会社「郵 船ロジスティクス」に統 合していく。
NYKロジスティクスは海上フォワ ーディングとコントラクト・ロジスティクスに強 みを持ち、YASは航空フォワーディングを主軸 に展開してきたが、荷主の活動領域のグローバ ル化・多様化に対応する。
郵船ロジスティクス の一三年度業績目標は売上高五〇〇〇億円、経 常利益一八〇億円。
統合シナジーとして〇九年 度比で売上高七〇〇億円、経常利益八〇億円を 創出するという。
この統合はいわばグローバル3PLの先駆け として注目できるだろう。
日本では海外顧客も 対象としたグローバル3PLプレーヤーが少な く、日本郵船はその有力候補になったと言える。
一方、海外では既に航空インテグレーターや郵 便会社などがグローバル3PLに注力している。
日本郵船は海外勢との競争の中で海運事業を強 みとした独自性を発揮することが求められよう。
最後に、航空貨物事業の再構築の行方が注目 されよう。
日本郵船は昨年来、子会社の日本貨 物航空(NCA)と日本航空の航空貨物事業の 統合協議を進めてきたが、独自で事業を再構築 する方針を選択した。
日本の航空会社にとって 貨物事業の優先度は旅客に比べ相対的に低かっ た。
日本郵船が国内初の航空貨物専門のインテ グレーターとして高い収益性を達成できるかど うか注目されるが、メリルリンチ日本証券では、 日本では歴史的に航空フォワーダーの価格競争 力が強いため、航空インテグレーター事業で高 い収益性を求めるのは困難と考えている。
NCAの業績は需要の低迷もあり、経常赤字 が続いている。
ただ同社では収益を改善するた め、貨物機の運航規模拡大計画を修正するなど 需要動向にマッチさせたスペース供給戦略を採 るようになってきた。
今年四月には昨夏に続い て第二弾の運賃値上げも予定しているが、手薄 とみられる営業部門の強化、海上貨物の顧客に 対する航空利用の拡販などグループ全体での協 力体制も必要になろう。
メリルリンチ日本証券 では、再建に時間を要した場合に予想される国 内外他社との業務・資本提携を含めた事業再構 築の可能性にも注目している。
日本郵船の財務面をみると、昨年十一月に発 表した公募増資により約一一〇〇億円の資金を 調達した。
株主資本比率は約三〇%となったが、 海運事業は市況産業であるうえ、現状はオフバ ランスとなっているオペレーティングリースや傭 船のオンバランス化についての議論もあるため、 さらなる内部留保の充実が必要と考えられる。
昨年三月末時点のオペレーティングリース負 債は四六〇〇億円程度であり、これが全額オン バランスとなれば株主資本比率は大きく下がる。
傭船料のオンバランス化についてはそもそもオ ンバランスにすべきか否か、またはオンバランス にする場合の傭船期間をどうすべきかなどの議 論が進行中だが、日本郵船に限らず資金調達は 海運経営の大きな課題と言えるだろう。
つちや やすひと 一九九七年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券 などを経て、二〇〇五年一〇月に現 バンクオブアメリカ─メリルリンチ日 本証券に入社。
運輸セクター担当ア ナリストとして活躍している。
過去10年間の株価推移 《出来高》
