ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年5号
物流指標を読む
第17回 意外に少ないトラック事業者の交通事故

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む MAY 2010  68 意外に少ないトラック事業者の交通事故 第17 回 ●貨物車が第一当事者の事故が前年比で8.3%減少 ●法的規制に加え、物量・走行距離の減少が要因 ●需要回復が見込まれる今年は減少率鈍化の可能性も さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部研究 主査。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
事故件数が五年連続で減少  警察庁交通局の統計によると、昨年一年間にお ける交通事故の発生件数は七三万六六八八件で、 前年(〇八年)より二万九四五九件減少(三・ 八%減)した。
発生件数の減少は五年連続であり、 ピークであった〇四年(九五万二一九一件)と比 較して二二・六%の低下となっている。
また、そ れに伴い死者数や負傷者数もこのところ着実に減 少しており、〇九年の死者数は四九一四人(前年 比四・七%減)、負傷者数は九一万一一五人(同 三・七%減)で、第八次交通安全基本計画(中央 交通安全対策会議、〇六年三月)が掲げた「平成 二四年(二〇一二年)までに、交通事故死者数を 五〇〇〇人以下とし、世界一安全な道路交通の実 現を目指す」という目標を前倒しで達成できたこ とになる。
 このように、わが国全体の交通事故発生件数が 減少しているなかで、貨物車による交通事故も著 しく減少している。
〇九年の交通事故発生件数七 三万六六八八件のうち、貨物車が第一当事者とな った事故は十二万九三九八件(注:全件数に占め る割合は一七・六%)で、前年より一万一七七八 件減少(八・三%減)した。
 また、貨物車が第一当事者となった事故のうち、 事業用貨物車によるものが二万四九七四件で、前 年より三八六四件の減少(十三・四%減)と大幅 に改善した。
ピークであった〇三年(三万七二七 八件)と比較して約三分の二の水準まで低下して おり、自家用乗用車、事業用乗用車、自動二輪車 などと比べて、低下率が非常に大きくなっている。
 貨物車の事故に関しては、乗用車や二輪車等と 比べて、ニュースなどで大きく報道されるような 重大事故となる割合が高いため、貨物車の事故が まだまだ多いものと錯覚している向きもあろうが、 事業用貨物車が第一当事者となった事故(〇九 年)は全体の三・四%、死亡事故については全体 の八・二%に過ぎず、「案外少ない」というのが 筆者の正直な感想である。
もちろん、事故ゼロの 達成に向けて、業界をあげて邁進していかなけれ ばならないのは言うまでもないことであるが。
 ところで、事業用貨物車による交通事故発生件 数がここ数年の間に劇的に減少してきた要因であ るが、第一に、法律の厳格化など社会的規制が強 化されてきたことがあげられよう。
まず、道路運 送車両の保安基準改正により、〇三年九月から大 型貨物車に対してスピードリミッターの装着が義務 付けられ、走行速度の上限が九〇?/hに制限さ れた。
また、道路交通法の改正(〇七年九月施行、 〇九年六月施行)により、飲酒運転やひき逃げ等 悪質・危険な運転者に対する罰則が厳しくなって いる。
さらに、〇七年六月より、中型免許制度が 導入されたが、その目的のひとつに、車両総重量 五トン以上の大型車による死亡事故が多いことを受 け、それを防止することがあった。
ちなみに、中 型免許制度導入の効果なのかどうかは明言できな いが、車種別の交通事故発生件数の推移をみると、 中型貨物車による事故の減少がこのところ顕著で ある。
 また、業界団体における安全運転への積極的な 取り組みの影響も大きい。
全日本トラック協会は、 トラック運送事業者の交通安全対策などへの事業 「平成21年中の交通事故の発生状況」 「平成21年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」 警察庁交通局 69  MAY 2010 認定し、公表する制度であり、〇九年十二月現在 において、安全性優良事業所と認定された事業所 は一万三一九〇事業所に及ぶ。
 さらに、企業経営においてCSRの遂行が強く 求められるようになっており、トラック事業者も、 自社トラックはもとより、下請けのトラックに対し ても安全運転を徹底させる必要がある。
日本通運 は、運輸安全マネジメントの継続的改善に取り組 んでいる。
運輸安全マネジメントとは、経営管理 部門と現場との双方向のコミュニケーションを通じ てPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクル を適切に機能させ、安全文化を構築し、「安全最 優先」の原則を組織内に徹底させていく安全管理 手法であり、改正貨物自動車運送事業法に基づき、 「運輸安全管理規程」を作成するとともに、「安 全統括管理者」を選任している。
物量減で七〇〇件の事故が減少か?  こうした要因に加えて、〇九年については、事 業用貨物車の走行距離が大幅に短縮されたという 要素も無視できない。
国土交通省「自動車輸送統 計月報」により、〇九年上期(一〜六月期)に おける営業用自動車の走行距離をみると、前年同 期比で五・六%減となっている。
言うまでもなく、 〇九年上期は世界同時不況の影響などで景気が悪 化し、これを受けて営業用自動車輸送量も前年同 期比で九・四%減(注:輸送距離の短い建設関連 貨物を除くと、七・五%減)と大きく落ち込んだ 時期であり、当然のことながら、走行距離も大幅 に短くなった。
下期についても、前年同期の水準 を下回ることは確実であり、年間を通しておそら く四%前後短縮されたものと推測される。
 走行距離が短くなれば、当然事故の発生件数も 減少する可能性が高くなることから、図らずも、景 気低迷に伴う物流需要の減退が交通事故の発生を 抑制するのに一役買った格好となっている。
 では、物流需要の減退に伴う事故の抑制効果 はどの程度であっただろうか。
〇八年においては、 走行距離が前年比で〇・七%短縮されたのに対 し、発生件数は同三一六七件の減少となった。
一 方、〇九年においては、走行距離が四%前後短縮 されたものと推測されるが、これに対して、発生 件数は同三八六四件減少した。
〇八年、〇九年に おける前年比の減少数を比較すると、〇九年にお いては六九七件ほど減少幅が拡大したことになる。
やや乱暴な推計ではあるが、〇八年の走行距離が 前年比でそれほど大きく短縮されていないことか ら、この両者の差である七〇〇件前後という数値 が物流需要の減退に伴う事故の抑制効果であった と考えられなくはないだろうか。
 事業用貨物車による交通事故が今後も減少して いくことを切に願っているが、一〇年については 減少率が多少鈍化するかもしれない。
物流需要の 回復により、走行距離が前年水準を上回る可能性 が高いからだ。
日通総合研究所の予測(一〇年三 月発表)によると、一〇年度の営業用自動車の 輸送量は、〇・六%増と三年ぶりに増加に転じる 見通しとなっている(注:建設関連貨物を除くと 二・〇%増)。
また、トラックドライバーの減少に 伴い、一人当たりの労働時間が長くなっていると いう話も耳にしているが、こうした労働条件の悪 化も、懸念材料のひとつである。
所単位での取り組みを評価し、一定の基準をクリ アした事業所を認定する貨物自動車運送事業安全 性評価事業(Gマーク制度)を実施している。
こ の事業は、利用者がより安全性の高い事業者を選 びやすくするとともに、事業者全体の安全性の向 上に対する意識を高めるための環境整備を図るこ とを目的として、事業者の安全性を正当に評価し、 事業用貨物車が第1当事者となった交通事故件数および走行距離の推移 大型貨物 7,713 7,668 7,440 7,181 6,913 8,999 7,616 中型貨物 24,777 24,733 24,548 23,130 8,969 9,157 8,643 普通貨物 11,467 6,061 4,402 軽貨物 4,788 4,805 4,794 4,629 4,656 4,621 4,313 合 計 37,278 37,206 36,782 34,940 32,005 28,838 24,974 (増減率) 2.3 -0.2 -1.1 -5.0 -8.4 -9.9 -13.4 走行距離(億km) 770.7 758.1 762.6 782.4 797.1 791.4 759.7 (増減率) 0.8 -1.6 0.6 2.6 1.9 -0.7 -4.0 48.37 49.08 48.23 44.66 40.15 36.44 32.87 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 09 年 1億走行キロ当たり 交通事故件数 注)1.09 年の走行距離は想定値。
2.警察庁「平成21年中の交通事故の発生状況」では、1億走行キロ当たりの交通事故件数は当該年の 件数を年度の走行距離で割って算出しているが、上記の表では当該年の走行距離で割って算出した。
(単位:件、億km)

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