2010年5月号
現場改善

第88回 ブチ猫と共に業務請負会社の提案営業

MAY 2010  70 3PL業界の黒子役  物流会社B社は年商約十二億円、特定の業種 にターゲットを絞ったセンター運営業務を主業と している。
完全なノンアセット型で、トラックや 倉庫を所有しないのはもちろん、事務所までな い。
 直接の顧客は大手物流会社や物流子会社で、 仕事のお声がかかるとパート・アルバイトを集 めてセンター実務を代行する、いわゆるセンター 運営請負会社である。
荷主や元請け物流会社の センター内で完結する仕事であるため、ハード を一切持たないのも不思議ではないのだが、B 社の場合はホームページさえない。
 B社はこれまで営業活動を一切行ってこな かった。
全く表舞台には出ず、黒子に徹してき たのである。
それでも仕事の引き合いは、ど んどん舞い込んでくる。
B社率いる創業者の H社長は二〇年近くこの業界に身を置くプロで、 ?混乱センター収拾請負人?として知る人ぞ知る 存在なのだ。
 そんなH社長から、休日のある日、筆者の携 帯電話に直接連絡が入った。
といっても、その 時点で筆者とH社長は全く面識がなかった。
筆 者の携帯に電話番号が登録されているはずもな い。
どうせ何かの売り込みか、かけ間違いだろ うと無視したところ、留守電に伝言が残されて いた。
 社名を名乗らず個人名で、しかも連絡が欲し いという内容であった。
声や話し方から、いか がわしい人物ではないだろうと判断して、折り 返し連絡を入れた。
結局この携帯電話のやり取 りは、全く面識のない相手であるにもかかわら ず、一時間強にも及んだ。
 H社長の筆者に対する要望は至って明確であ った。
?自分の考えを提案書にまとめて欲しい? というものだ。
ある大手メーカーのトップから センター運営業務を頼まれているのだが、中間 に入っている大手物流会社は、他の業務請負会 社を使いたがっている。
 そのためB社が今回の仕事を受託するには比 較検討審査をパスしなければならず、提案書が どうしても必要だ。
もちろんH社長は現場業務 に精通しているし、今回の案件でも何をどのよ うに改善すべきかは分かっている。
しかし、自 分の考えを提案書にまとめるスキルがない、と いうのである。
 電話の会話を聞いた限りでは、H社長は慎 重な人物のようであった。
依頼内容の説明でも、 どの荷主の案件か察しがつかないように注意深 く言葉を選び、またB社の社名も電話を切る直 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  業務請負会社のB社に営業支援を依頼された。
打ち合わせに 訪れた社長宅で、白と黒のブチ猫?サチ?と出会った。
社長と 筆者、そしてサチの三者でプロジェクトチームを組織して、同社 初の本格的な提案営業を開始した。
ブチ猫と共に業務請負会社の提案営業 第88 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 71  MAY 2010 前まで告げなかった。
 ちなみにH社長が筆者に連絡を入れることに したのは、あるところから我々日本ロジファク トリーのことを聞いてのことだというが、その ?あるところ?とはどこだったのか、いまだに 筆者は聞いていない。
 少なくとも、H社長は開けっ広げに話しをす るタイプではなかった。
それでも物流に対する 考え方や、今回の案件にはどのレベルの提案が 適切かといった点では、お互いの意見が一致し、 会話は多方面に広がっていった。
実力以上に手を広げない  後日、H社長と面談を行うことになった。
初 の打ち合わせ場所はH社長の自宅であった。
電 話のやり取りを通して筆者はH社長に好感を持 ってはいたが、事務所もホームページもなく、い きなり自宅に伺うことになって、黒塗りの高級 車に乗った若い衆でも迎えに来るのではないか と少し身構えた。
が、そんな心配は無用であった。
 指定された駅に着くと、H社長自らがハンド ルを握るワンボックス車が待っていた。
自宅に 到着すると美人の奥様と白黒のブチの愛猫が出 迎えてくれた。
アメリカンショートヘアのメスで、 名前はサチという。
 実のところ筆者は無類の犬猫好きである。
(諸 般の事情があって現在は飼っていないが)奥様 との挨拶もそこそこに、猫を手招いたが全くの 無視であった。
それでも先ほどまでの緊張はど こへやら。
初回の電話の後もH社長とは何度か 電話でやり取りをして既に意気投合していたこ ともあって、名刺交換も忘れそうになる始末で あった。
 リビングに通され打ち合わせが始まった。
H 社長から改めて今回の仕事の背景、荷主の事業 概要、現場の状況、中間に入っている大手物流 会社との話し合いのこれまでの経緯、競合先の 情報などをヒアリングした。
 私がメモを取りながら話をうかがっている間 にも、あの?サチ?のしっぽがH社長の隣りの 椅子から出ては消え、消えては出る。
どうやら 打ち合わせに同席しているようである。
 H社長が何度も口にする要望があった。
それ は「私が作った提案書に見えるようにして欲し い」ということである。
難しい専門言葉や高度 な技術が入った提案書では別人が作ったことが バレてしまうというのである。
あくまでH社長 からの提案書であることが今回の案件では重要 であるらしい。
 分かる気がした。
これまでもB社では、新規 案件はH社長自身が立ち上げに加わり、運営が 軌道に乗った段階で、初めて現場のリーダーに任 せるという方法をとっていた。
B社が現場の混 乱を収拾できるのは、H社長個人の持つノウハウ とタレント性に負っているところが大きかった。
 それだけに難しさもあった。
実際、H社長と 後任の現場リーダーとのスキルのギャップが、依 頼主からの不満につながっていることも多いと いう。
後任のリーダーがH社長の七掛けの仕事 をしてくれれば、その現場の運営は維持できる と、H社長はいう。
しかし、その七掛けのリー ダーを育てるのに時間がかかる。
 それも時間をかければ確実に育ってくれると いうのならまだしも、途中で潰れてしまったり、 辞めてしまう現場リーダーも少なくない。
その ためH社長は現場リーダーが一人前に育つまで、 どんなに魅力のある仕事でも手を広げないよう にしているという。
やはり慎重な人なのだ。
 そんな話を二時間ほど聞いているうちに、サ チも筆者に慣れてきたようだ。
打ち合わせテーブ ルの上にゆったりと腰をおろしてこちらを見て いる。
さらには私のメモが気になったのか、背 伸びをしながらメモを覗き込んでくる。
それを 飼い主に叱られると、またゆったりとテーブル に腰をおろした。
 この打ち合わせのすぐ後に、今回の現場を見 学することになった。
私のわがままを聞いても らって、サチも一緒に連れて行くことにした。
現 場はクルマで約一五分の場所だったが、クルマ が走り出すとすぐにサチは寝てしまった。
 現場は築二〜三年の綺麗なセンターだった。
今 回の荷主のほかにも大手企業が入居するマルチ テナントの多層階センターで、三階のフロアに目 指す現場はあった。
 約七〇〇坪のスペースに商品が散乱している。
稼働六カ月目ということだが、移管直後のよ うに見えた。
思い思いに商品が放置されていて、 どこに何が置いてあるか全く分からない。
必要 に応じてH社長から説明を聞き、約一時間程度 で視察を終えた。
我々がクルマに戻ると、サチ はようやく目を覚ました。
 荷主の大手メーカーのトップはH社長に対し、 この見学の日から二週間後に控えた最終提案の 前に、中間報告書を出すように指示していた。
既 にH社長はその報告書を準備していた。
それを 筆者が持ち帰り、加工することになった。
併せ て現場視察で筆者の気付いた点を整理して、H 社長にメールすることを約束し、この日の面談 を終えた。
 後日、H社長に送付したメールの主な内容を ランダムに列記すると以下の通りである。
要す るに、何から何まで現場の作り直しに近い。
?出荷伝票の改良 納品伝票をそのまま出荷伝 票としても使用していることが、ミスを誘発 している。
本来は別に伝票を作成することが 望ましいが、それには設備が必要になるため、 当面は「カラーペン」を使って表示を明確化 することでミスの削減を図る。
?棚番地の設定 棚番地が設定されていない。
棚番地を設定して明示することで、保管ロケ ーションを明確化する。
?商品分類の明確化 商品分類の不明確な在庫 が散見された。
早朝の入荷時の商品分類を徹 底する。
紙に黒マーカーで商品分類をハッキ リと書き込んで商品に貼付し、不明品を撲滅 する。
?管理指標の導入 作業の生産性と品質を管理 する指標を設定し、スピードアップと品質向 上を図る。
?人員の適正化 人員配置表(分担表)を作成 し、それを現場に掲示して、物量の変動や作 業の進捗に合わせて配置を調整する。
?保管ロケーションの見直し 出荷頻度のAB C分析に基づく保管ロケーション、レイアウト の作成。
?定物定位置の徹底 ?保管方法の見直し 入荷ロットに合わせて、ラ ック、棚、パレット二段積みなどを使い分け る。
?パートの戦力化 熟練スタッフに担当させて いるハンドリフトを使った追加補充作業をパ ートに任せる。
?作業の標準化 「作業基本ルール」を作成し、 朝礼、昼礼で伝達して徹底させる。
?やる気を維持する 作業量、終了予定時間の 可視化と共有化によるモチベーションの維持。
?検品精度の向上 店舗でのノー検品を目指し た出荷検品の徹底による精度向上。
?料金制度の変更 請負業務の個建て料金制に よる生産性の向上。
?現場のショールーム化 整理整頓(2S)の 徹底によるショールーム化の推進。
?ピッキング方法の見直し 稼働当初の混乱が 収拾したら第2ステップとして、現在の種ま き方式を摘み取り方式へ変更する。
種まき方 式のままでは店舗数が増えると、それだけス ペースが必要になり、また出荷ミスを誘発さ せてしまう可能性が高い。
?多能工化 同様に安定稼働後の第2ステップ として、「誰もがわかる現場づくり」による 多能工化を推進する。
良い仕事こそ最高の営業  現場視察から一週間後、再びH社長宅を訪れ た。
最終提案に向けての打ち合わせだ。
また奥 様とサチが出迎えてくれた。
筆者の顔を見てサ チは一声鳴いた。
リビングに通されてソファに 腰掛けると、サチも横に座る。
筆者のペンケー スを引っ掻く。
もはやすっかりプロジェクトメン バーの一員である。
 H社長は最終提案のラフ原稿を事前に用意し ていた。
ロケーション、レイアウト、棚の種類 やサイズ、フォークリフトの台数、動線、人員 配置などが書かれている。
この資料を叩き台に、 私も意見を出して内容の詳細を詰めた。
この二 日後に筆者はラフ原稿と協議内容を提案書の形 式にまとめ、H社長に送付した。
 今回の案件は元々荷主のトップからの肝いり であるため受注確度は高いと思われた。
しか し最終判断が下されるまでは筆者も気が気では なかった。
二週間後にH社長から「決まりま した」の連絡が入った。
ほっとした瞬間であっ た。
 その後もB社には口コミによる相談や引き合 いが絶えないと聞く。
「最高の営業とは、良い 仕事をすることだ」という考え方がH社長の原 点だ。
これからもB社は営業PRに注力するこ とはないだろう。
 この仕事を通して筆者が痛感したことは二つ。
一つは営業力や提案力を誇る3PLや大手物流 会社であっても、その現場力は実のところB社 のような?請負人?によって支えられていると いう事実である。
そしてもう一つは、現場を担 うプロの物流マン、そして物流猫?サチ?との 仕事はとても楽しいということである。
MAY 2010  72

月刊ロジスティクス・ビジネス

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