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2010年6月号
ケース

デンマークDSV 世界同時不況

料金水準よりも市場シェアを重視  ヨーロッパの小国デンマークに本社を置く DSVは、日本円で六〇〇〇億円近くの年商 と、二万人強の従業員を抱えるグローバルプ レーヤーだ。
〇九年度の決算では世界同時不 況の影響を受けて売上高を落としたが、それ でも一〇年前に比べれば規模を二倍以上に伸 ばしている(図1)。
 同社のジャン・アンデルセンCEO(最高 経営責任者)は、「当社はヨーロッパのロジス ティクス企業から、世界的な仕事を請け負う ことができる規模にまで成長した」と語り、 今後は国際企業のサプライチェーン業務の受 注にも積極的に取り組んでいきたいとする。
 同社の〇九年通年の決算数字は売上高が三 六〇億八五〇〇万DKK(五七七三億六〇 〇〇万円、前期比三・六%減)、EBITA (税引前支払利息・償却費控除前利益)は一 七億三〇〇万DKK(同十二%減)、最終利 益は一億九一〇〇万DKK(同八四・五% 減)の減収減益だった。
 同業他社の世界同時不況後の決算と比べれ ば売上高などの落ち込み幅は小さい。
これは ABXロジスティクスの買収によるプラスの影 響で、それがなければ売上高で二〇%の落ち 込みとなっている。
また最終利益が大幅に落 ち込んだのは、〇八年に実施したABXロジス ティクスの買収費用に加え、一時的な会計処 理の変更のため通常なら二〇%台の法人税が 五〇%を超えたことなどが影響している。
そ うした一過性の影響を調整した利益は、七億 九九〇〇万DKK(同二九・三%減)となる。
 同社が〇九年度の決算発表で強調したの は、世界同時不況後の貨物減少の時期にあっ ても、市場占有率(シェア)を落とさなかっ た点だ。
同業他社との競争で運賃単価を落と したとしても、シェアを守ることが今後の国 際的な展開に必要だという判断だ。
同社は現 在、主力のトラック輸送部門に加えて、フォ ワーディング部門とソリューション部門(3P L部門)の三部門を擁している(図2)。
 〇九年度の部門別の売上高とEBITA をみると、トラック輸送部門は売上高一八三 億九〇〇〇万DKK(前期比七・一%減)、 DSVは同業他社を次々に買収することで、デンマ ークの小規模なトラック運送会社からヨーロッパ有 数の総合ロジスティクス企業へと成長を遂げた。
2008 年にはベルギーのABXロジスティクスを買収し、世 界規模のSCMを請け負う態勢も整った。
しかし、同 社統合では、各国の労働組合の抵抗にあい、苦戦 を強いられている。
世界同時不況 デンマークDSV 相次ぐM&Aでグローバルプレーヤー入り ABX統合に苦戦し豪トールによる買収説も 企業概要 社 名 DSV 本 社 デンマーク ブレンビューベスタ(Brøndby) 創 業 1976年 代表者 ジャン・アンデルセンCEO 売上高 360億8500万DKK(5773億6000万円) 最終利益 1億9100万DKK(30億5600万円) 従業員数 2万2128人 (注1)2009年12月期の数字 (注2)DKK:デンマーク・クローネ、1DKK=16円で換算 DSVの略史 1976 年 10 人のトラック運転手が集まりDSVを立ち上げる 1987 年 コペンハーゲン株式市場に上場 1989 年 デンマークの輸出企業2 社を買収 1997 年 1999 年 スベックス(Svex)グループを買収 2000 年 DFDSを買収して、売り上げ規模が4倍に。
社名をDFDSトランスポートに変更 2002 年 蘭TNTとの合弁で3PL企業を設立 2004 年 TNTとの合弁企業の全株を取得する 2005 年 J.H.バックマン社を買収してフォワーディング部門を強化 2006 年 蘭フランス・マー社を買収し、3PL部門を強化 2007 年 社名をDFDSから、再びDSVに変更 2008 年 ABXロジスティクスを買収し、フォワーディングの売上高 が2倍に サムソン・トランスポートを買収して、売り上げ規模が3 倍増に 45  JUNE 2010 EBITAは五億九七〇〇万DKK(同三 一・七%減)。
海上・航空フォワーディング 部門は売上高一四〇億六二〇〇万DKK(同 三・五%増)、EBITAは九億五五〇〇万 DKK(同五・四%増)。
ソリューション部門 は売上高五七億八八〇〇万DKK(同九・ 七%増)、EBITAは一億九六〇〇万DK K(同七・五%減)││となっている。
 EBITAベースでは、海上・航空フォ ワーディング部門が初めてトラック輸送部門 を抜いて、同社の稼ぎ頭となっている。
 また〇九年度の期末の調整済みフリー・ キャッシュ・フローは、十二億五七〇〇万D KKで、前期と比べてほぼ二倍に増えている。
キャッシュ・フロー増の一番の要因は、売掛 金回収の早期化によって、必要とする運転資 金の売上高に対する比率を〇・四%に抑えた ことによる。
 同社のジャン・ランドCFO(最高財務責 任者)は、「通常この値が一%以下なら非常 に低いと言える状態。
今は、この数字が当社 の歴史はじまって以来、最も低い水準になっ ている。
それがキャッシュ・フローの積み増 しにも寄与している」と説明する。
 今期二〇一〇年度に入ってから、業績は急 回復している。
四月下旬に発表した一〇年度 第1四半期の決算は、売上高が九六億五九 〇〇万DKK(前年同期比二・二%増)、E BITAが四億五一〇〇万DKK(同二・ 〇%増)、最終利益が二億五一〇〇万DKK (二九一・二%増)の増収増益だった(図3)。
 アンデルセンCEOはこの結果に「満足し ている」として、「ここ数年で初めて貨物ス ペースが不足気味になりつつある。
第2四半 期以降の業績は今以上に回復する可能性があ る」と強気の見通しを述べている。
約三〇社を買収し規模を急拡大  同社は個人営業のトラックドライバー一〇 人が集まって一九七六年に創業した。
当初は ドライバー間で荷物と貨物スペースをマッチン グするという求貨求車の事業モデルをとって いたが、間もなくヨーロッパ全土を網羅する トラック輸送のネットワークを張り巡らせるこ とを目標に据えた。
 ヨーロッパ各地のトラック運送会社を買収 することでネットワークを拡大していくとい う戦略だ。
手元資金が十分でなかった九〇年 代は、デンマーク国内の四つの企業を買収し ただけだったが、二〇〇〇年には最初の大型 買収を行っている。
図1 DSV の業績の推移 (注)2001 年度は決算期変更のため、17カ月の変則決算 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 (単位:100 万DKK) 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 売上高(左軸) EBITA(右軸) 図2 DSV の事業部門 DSV DSV Road トラック輸送部門 DSV Air&Sea フォワーディング部門 DSV Solutions 3PL 部門 売上高 183 億9000 万DKK 140 億6200 万DKK 57 億8800 万DKK EBITA 5 億9700 万DKK 9 億5500 万DKK 1 億9600 万DKK 従業員 9,589 人 5,925 人 5,497人 (注1)2009 年12月期の数字 (注2)売上高の一部は部門で重複 図3 四半期ごとの業績の推移 売上高 11,318 9,451 8,816 8,674 9,144 9,659 直接コスト 8,208 6,633 6,057 6,043 6,473 7,466 人件費(ブルーカラー) 572 506 497 470 508 ― 貢献利益 2,538 2,312 2,262 2,161 2,163 2,193 人件費(ホワイトカラー) 1,276 1,269 1,181 1,104 1,117 1,155 その他の支出 760 685 635 592 612 587 EBITA 502 358 446 465 434 451 従業員数( 人) 25,056 23,377 22,449 21,761 21,280 21,153 08 年Q4 09 年Q1 09 年Q2 09 年Q3 09 年Q4 10 年Q1 (単位:100 万DKK) JUNE 2010  46  デンマークの海上輸送業者であるDFDS からそのトラック輸送部門とフォワーディング 部門を持つ「DFDSダン・トランスポート」 を五五〇万DKKで買収した。
これによって DSVは売上高をそれまでの四倍に増やした。
 同時に、デンマークだけに限定されていた トラック輸送のネットワークをスカンジナビア 半島やイギリスなどにも広げることができた。
また、フォワーディング部門の獲得で、アジ アや北米の貨物も取り扱えるようになった。
 この大型買収を皮切りに、DSVはこれま で大小合わせて約三〇社の買収を行っている。
その最大案件が〇八年のベルギーの総合ロジ スティクス企業であるABXロジスティクスの 買収で、買収金額は五六億DKKだった。
 ABXロジスティクスは、ベルギーの国営 鉄道会社の物流事業部門としてスタートし、 民営化後に投資会社の3iに買収され、さら にそれをDSVが買収した。
 DSVにとってABXロジスティクスの 魅力は、ドイツ、フランス、スペインといっ たヨーロッパ大陸の主要国にトラック輸送の ネットワークを持っていること、そしてアジ アや北アメリカ、南アメリカにフォワーディン グの拠点を持っていることだった。
買収によ り同社のフォワーディング事業の売り上げ規模 は二倍になった。
 しかしABXロジスティクスの買収後の業 務統合は、必ずしもスムーズに進んでいるわ けではない。
買収によってネットワークを拡 交渉が進んでおり、アンデルセンCEOは「黒 字化のめどが立った」という。
 このABXロジスティクスの買収後、同社 は買収を行っていない。
今後も有望な案件が あれば買収に乗り出す準備はあるとするが、 景気の先行きに不透明感があることから、買 収攻勢の再開は早くとも十一年以降になるも のとみられている。
 逆に同社がM&Aの対象になる可能性も出 てきた。
オーストラリアの経済紙は四月中旬、 DSVと同様に各国の物流会社のM&Aを繰 り返すことで事業を拡大してきた豪トール・ ホールディングスが、DSVの買収に動き始 めたと伝えた。
DSVはこの新聞報道を否定 するコメントを発表したが、アジアを中心と したネットワークを持つトールが、ヨーロッパ を中心としたネットワークを持つDSVを買 収すれば、世界の主要地域を網羅したネット ワークができる。
事業規模として日本円にし て一兆円規模のロジスティクス企業が誕生す ることになる。
配送・庫内作業とも九五%を委託  同社の主要三部門の基本的な戦略は以下の 通り。
 先に述べたように同社の起源はトラック輸 送で、現在もトラック輸送が主力部門の一つ であることに変わりはない。
約一万七〇〇〇 台の車両を使ってヨーロッパの三四カ国を網 羅している。
しかし車両のほとんどは各地の 大できた反面、DSVの既存のネットワーク と重複する部分も少なくなかったために、大 規模なリストラが不可欠であることは当初か ら分かっていた。
 買収によってそれまで一万九〇〇〇人台 だったDSVの従業員数は二万五〇〇〇人を 超えた。
これを買収から三年後にあたる十一 年度までに従業員を二割削減して二万人まで 減らすことで、買収による相乗効果を出すと いう計画だった。
だが、買収が決まった直後 に、世界同時不況が始まったことから、リス トラを一年間前倒しして進める必要が生じて しまった。
 しかし、従業員数は〇九年度第3四半期 に二万一〇〇〇人台まで削減できたものの、 その後は足踏み状態が続いている(図3)。
人員削減が思い通りに進まないのは、フラン スとドイツ、スペインの三カ国で労働組合の 反対にあっているからだ。
とくにトラック輸 送部門のリストラで、大きな抵抗にあってい る。
〇九年度の決算においては、左記の三カ 国でリストラが進まなかったために、三カ国 合計で一億DKKを超す赤字も発生させてい る(EBITAベース)。
 同社は〇九年に三カ国のトラック部門の トップマネジメントを刷新している。
その結 果、スペインとドイツでは状況が好転し、一 〇年中にも目標の人員削減を進めることがで きるとする。
ヨーロッパで最も労働組合が強 いといわれるフランスにおいても、労組との 47  JUNE 2010 に現地のマネジメントチームに大幅に権限を委 譲している。
同時にDSVの本社では、各国 の予算やその達成率の数字の推移などを追う ことで、問題があればすぐに手を打てる体制 をとっている。
また各国の業績を競わせるこ とで、社内のモチベーションを高める仕組み をとっている。
 ヨーロッパのトラックのネットワークの中で 稼ぎ頭となっているのは、本国デンマークと 隣国スウェーデンだ。
この二カ国でトラック輸 送部門のEBITAの三分の二を上げる。
 ヨーロッパ全域にトラック輸送のネットワー クを張り巡らすという目標は、〇六年にオラ ンダの「フランス・マー」を買収し、また〇 八年にABXロジスティクスを買収したこと で、ほぼ達成した。
今後は買収した各社の情 報システムを統合して作業効率を高めること で、荷主企業の利便性を高めるとともに、自 らの利益率を押し上げることを新たな目標に 据える。
 〇九年度のトラック輸送部門は、貨物量の 急激な減少を受けて、運賃競争が激しくなっ たために利益率が落ちた。
一〇年度第1四半 期も、トラック輸送部門の売上高としては前 年同期を若干上回るまで回復してきたが、依 然として運賃水準は好転せず、EBITAで は一〇%以上の落ち込みとなっている。
 航空・海上フォワーディング部門の〇九年 度の取扱量は、航空貨物が一七万五〇〇〇ト ン、海上貨物は六二万五〇〇〇TEU(二〇 フィートコンテナ換算)だった。
収益面でも ABXロジスティクスの買収によって、フォ ワーディング部門が大幅に強化されたことで、 〇九年度は同社のEBITA全体の五五%を 産みだすまでになった。
 フォワーディング部門で売上高とEBIT Aが一番伸びたのはイタリアで、それまで トップだったアメリカを抜いて一位となった。
その他に健闘したのは、香港、中国本土、日 本や韓国を含む極東アジアだ。
 日本を含む極東アジアの売上高とEBIT Aは、どちらも前年比で三〇%前後の大きな 伸びを見せた。
逆に、この部門の利益率の足 を引っ張っているのがデンマークとスウェーデ ンで、赤字にはなっていないものの、全社平 均の利益率を大きく下回っている。
 3PL業務を請け負うソリューション部門 は荷主の要望に沿って、?自動車産業、?補 修部品、?ハイテク産業、?医療産業、? 小売業││の五部門に分かれて業務を請け 負っている。
トラック輸送部門と同じように、 ここでも自社の従業員が行う作業は全体の 五%以下に抑えて、あとは協力会社を利用し て物流センター業務を行っている。
主にヨー ロッパの九カ国で業務を行っており、売上高 の大きな順番にベネルクス三国、ドイツ、イ タリア││となる。
 同部門の今後の課題は、現在八〇%台にと どまっている物流センターの稼働率を九〇% 以上に引き上げることだ。
   (横田増生)

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