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2010年6月号
ケース

アスクル ビジネスモデル

プラスロジから当該物流事業を買収  オフィス用品通販最大手のアスクルは二〇 〇九年四月、商品配送の自社化に踏み切った。
それまでの業務委託先だったプラスロジステ ィクスから、アスクル向け物流事業の「ビゼ ックス(Bizex)事業」を買収したのである。
まずプラスロジがビゼックス事業のための受け 皿企業を新設。
この新設企業の全株式をアス クルが七九億円で取得することで、一〇〇% 出資の物流子会社とした。
   プラスロジ時代のビゼックス事業の規模は、 センター運営と配送事業合わせた売上高が約 一一五億円。
五億円余りの営業利益も計上し ていた。
パートやアルバイトを除いても約一 七〇人の従業員が子会社化によってアスクル と一体化した。
すでにアスクルが全国六カ所 (仙台・東京・横浜・名古屋・大阪・福岡) に構える物流センターの管理をすべてビゼッ クスが手掛ける体制へと移行している。
 もともとアスクルは?明日来る?という納 品リードタイムを社名にするほど、物流には 強いこだわりを持っている。
一九九三年に文 具メーカー、プラスの一事業部門としてビジ ネスをスタートした当初は物流センターも自分 たちで管理しようとする意識が強かった。
 ところが急成長期に入り、物流現場の管理 にまで手が回らなくなった。
そこでセンター 運営を全面的にアウトソーシングするように なり、拠点ごとのコンペで委託先を選定。
プ ラスロジや、その他の物流専業者を外注パー トナーとして活用しはじめた。
 〇四年に名古屋センターを稼働させたのを 機に、そのスタイルを再び転換した。
自社開 発のWMS(倉庫管理システム)と生産性管 理システムを組み合わせて、物流センターの 自社運営に乗り出した。
外部の事業者に頼っ たのは作業人員の手当てだけだった。
 名古屋センターの実績に手応えを得たアス クルは、〇六年に稼働した大阪の物流センタ ーでも自社運営を選んだ。
だが翌〇七年に稼 働した仙台センターは再びプラスロジに運営を 委託。
その結果、全国六拠点のうち二カ所を アスクルが直接管理し、三カ所はプラスロジ が、そして残り一カ所をまったく資本関係の ない外部の物流専業者が運営するという体制 になった。
 通販のラストワンマイル問題でも試行錯誤 を重ねてきた。
事業をスタートした当初は、 主に大手宅配事業者を配送パートナーとして いた。
しかし九八年に東京二三区内で「当日 配送サービス」を開始したことで状況が変わ 2009年4月にプラスロジティクスから物流事業 を買収した。
同社に委託していた物流機能をグルー プ内に取り込み、環境対応などを重視した次世代型 のオペレーションを強化する。
物流センターの管理 にとどまらず、商品配送のラストワンマイルまで自 ら直接管理することでフルフィルメント機能を高め ていく。
ビジネスモデル アスクル ラストワンマイルの自社運営を断行し 事業革新を支える物流インフラを整備 ビゼックスの社長を兼務しな がらアスクルのロジスティク スを率いる織茂芳行取締役 49  JUNE 2010 った。
午前十一時までにネットで受注した商 品をその日のうちに顧客に届けるというサー ビスは、宅配便の既存ネットワークでは処理 できない。
 そこでアスクルは、プラスロジと組んで専 用便による当日配送ネットワークの構築に取 り組んだ。
プラスロジが自社便や軽貨物運送 の?一人親方?を組織化するなどして、専用 の配送網を整備していった。
その後は物流セ ンターの全国展開に合わせて当日配送エリア を拡大。
プラスロジを主要な配送パートーと しながら、一部の地域は物流専業者に任せる ようになっていった。
 こうした管理体制が、今回のビゼックス事 業の買収で一変した。
全国のセンター運営を 物流子会社の直接管理に統一すると同時に、 配送機能まで社内に取り込むことになった。
その狙いをアスクルのロジスティクスの責任者 でビゼックスの社長も兼務する織茂芳行取締 役執行役員は、次のように解説する。
 「正直なところ従来のわれわれは、配送の ラストワンマイルには手を出せていなかった。
だが今後いろいろなサービスを展開していく うえで、配送業務を外注している状態のまま すべてをコントロールしていくのは難しいと 判断した。
今はチャレンジしていくステージ。
サービスの中核となる配送機能まで自ら持ち たいということから買収を決めた」  実はこのM&Aと同じタイミングで、アス クルと出身母体のプラスの関係も大きく変わ っている。
それまでアスクルの株式の四〇・ 四二%を保有していたプラスから、持ち株の 一部を売却したいという報告を受け、アスク ルが自己株式の公開買付を行った。
その結果、 プラスの株式保有比率は二二・一五%に低下 し、親子関係は解消された。
これによって今 後、アスクルは経営の独自性をより強めてい くことになると目されている。
フルフィルメントで差別化  アスクルが事業を開始した当初の取扱品目 は、プラス商品を中心とした五〇〇種類にす ぎなかった。
それが今では三万種類を超える までになっている。
さらに〇八年四月からス タートした購買支援サービス「SOLOEL (ソロエル)」では、扱い商品の対象を?間接 材?全般にまで広げた。
 ここで言う間接材とは、顧客企業の本業に かかわる調達品以外のすべての消耗品を指す。
実際、「ソロエル」事業の顧客第一号となった アサヒビールにとっては、ビールなどの製品 を作るうえで必要な原材料以外は、すべて間 接材となる。
 アスクルの既存ビジネスでは、カタログに 掲載した商品を物流センターに在庫し、これ を低コストかつジャスト・イン・タイムで顧 客に販売することで売買差益を得てきた。
し かし、アイテム数が無数にある間接材すべて をアスクルが在庫商品として用意することは できない。
「ソロエル」事業では、物品の売 買はビジネスの一つの要素にすぎず、顧客企 業の購買業務を最適化していくノウハウその ものが売り物になる。
 「ソロエル」の当面の収益源は、アスクルが 独自開発した「間接材一括購買システム」を顧 客に貸し出して収受する利用料金になる。
同 社はこのシステムを電子的な?ふるい?(必要 に応じて選り分ける道具)と称しており、こ の機能によって顧客企業の購買業務の高度化 に貢献していこうとしている。
実際に削減で きた購買コストを顧客とシェアする成功報酬 型の収益確保も想定している。
ネットを駆使してビジネスモデルを進化させてきた 大手企業 中堅企業 中小事業所 個人ぽちっと アスクル アスクル インターネット ショップ アスクルアリーナ SOLOEL SOLOEL エンター プライズ スタンダード ■間接材の最適購買および間接 材購買の業務負担軽減を支援 するSOLOEL(ソロエル) ■主に当社カタログ掲載商品を取 り扱い、将来的にはSOLOEL のお客様基盤となることが想定 されるアスクルアリーナ ■中小事業所のお客様が個別に お使いになることに適している アスクルインターネットショップ ■インターネットによる個人向け通 信販売事業のぽちっとアスクル JUNE 2010  50  アスクルが物流子会社の新設に踏み切った 理由は、この「ソロエル」事業をはじめとし た次世代ビジネスの強化にある。
具体的には 以下の四つが柱になる。
?間接材一括購買サ ービスの「ソロエル」、?個人向け通信販売 事業「アスマル」、?「ECO─TURN(エ コ・ターン)配送」、そして?中国・アジアで の事業展開、である。
いずれも物流において 競争力を発揮できなければ開花させるのが難 しい事業ばかりだ。
 この点について織茂取締役は、「当社は商 品の調達から配送サービスにまでいたるトー タルのフルフィルメント型で優位性を追求して いく」と強調する。
顧客の満足度を高めなが ら、コスト競争力も発揮できる物流サービス こそが、次世代ビジネスの成長も後押しする という判断だ。
 四つの柱のうちの一つ「エコ・ターン配送」 とは、商品配送時の梱包材を従来の段ボール から、折りたたみ式コンテナ(通い箱)とリ ターナブルバッグ(通い袋)に置き換えた配 送サービスで、配送後に梱包資材の廃棄が発 らといって「エコ・ターン配送」のために簡 単に活用できるのかという問題もあった。
 配送業務を外注している状態では、たとえ アスクルの専用便として運行されている車両 であっても、帰り便の活用でドライバーの業 務量が増えればコストアップ要因になりかねな かった。
その点でビゼックス事業の買収によ る物流業務の内製化はタイムリーだった。
一 〇〇%出資の物流子会社であれば、配送車の 帰り便を活用する自由度は格段に増す。
 残された問題は、現場を滞りなく運営する ための業務手順の確立だった。
アスクルのロ ジスティクス部門で配送マネジメントを担当 生することを、ある顧客から「これではアス クルではなく?ゴミクル?だ」と揶揄された ことなどをきっかけとして考案された。
 〇九年四月に東京都内の一〇区でサービス を開始したのを皮切りに、段階的に対象エリ アを拡大している。
同年六月には東京二三区 全域での利用が可能になり、さらに同九月に は横浜・川崎の一部でもスタートした。
そし て今年三月からは、中部(愛知)と関西(京 都・大阪・奈良)の当日配送エリアでサービ スを開始している。
 サービスの本格展開に先立って、アスクル は〇八年秋から都内で五台程度の配送車両に よるトライアルを実施した。
リターナブルバッ グの仕様などは手探りの状態だったが、顧客 の反応は良かった。
届け先で荷受けしてくれ る女性担当者からは、段ボール箱の開梱作業 が不要になることや、梱包資材を片付ける手 間がなくなる点で好評を博した。
 そこで「エコ・ターン配送」を本格的に展 開することになったのだが、大変だったのは ここからだった。
梱包資材の仕様をどうすべ きか、センターに持ち帰ってきたリターナブ ル資材の処理をどうするか、現場レベルでの オペレーションの変更をいかに浸透させるか。
クリアすべき課題が山積していた。
静脈物流のインフラを構築  そもそも従来は顧客に届けた時点で終わっ ていたドライバーの配送業務を、帰り便だか アスクルのロジスティクス部 門で配送マネジメントを担当 している田中宏之部長 既存設備を使いエコ化を推進 1998年稼働の江東区の施設 Bizexが管理する構内作業 エコ・ターン配送の梱包作業 51  JUNE 2010  ドライバーはセンターを出発する前に、そ の日に回るすべての配送先をルート情報とし てシステムに入力する。
これによって、ある ドライバーの配送先がどれだけあって、その うちどこまでの作業が「完了」したのかが地 図上に常に表示される。
この情報はアスクル の担当者だけでなく、ネット経由で顧客も閲 覧できる。
荷物が届くまでのおおよその時間 が直感的にわかるようになっている。
 〇六年に「シンクロカーゴ」が稼働したこ とで、「それ以前と比べると荷物の到着時間 に関する顧客からの問い合わせが劇的に減っ た」とビゼックスの配送部で車両運行を統括 している直井啓次統括運行管理センター長は 振り返る。
顧客がネット上の地図を見て、自 ら到着時間を判断してくれるようになったこ とが大きかった。
 「エコ・ターン配送」のためのオペレーショ ンはほどなく軌道に乗った。
東京でノウハウ をほぼ確立できたことから、関西と中部にサ ービスエリアを拡大するときには横展開する ことで対応できた。
今後も当日配送を実施し ているエリアを対象に順次、サービスを拡大 していく考えだ。
 「エコ・ターン配送」が本格的に動き出した ことで、アスクルは自らの管理下にある静脈 物流のインフラを手に入れた。
すでにリター ナブルの梱包資材だけでなく、不要になった 段ボール箱や期限切れのカタログ、トナーの 回収なども手掛けている。
こうしたサービス を通じて、ドライバーと顧客のコミュニケーシ ョンの機会も増えてきた。
 昨年五月にアスクルは、環境負荷の低減の 数値目標を経営目標に掲げている。
二酸化炭 素の排出量を十二年五月期までに、事業所に ついては〇八年五月期比で三〇%削減し、配 送については一〇年五月期比で一〇%減らす。
資材の消費量についても、十二年五月期に〇 八年五月期比で事業所・配送とも三〇%減ら すことをめざしている。
 これに先立ち四年前から「e─プラットフォ ーム」(情報システムおよび物流)の見直しを 進めてきた。
先のシンクロカーゴを始め、サ し、「エコ・ターン配送」の実現を牽引して きた田中宏之部長は、「ドライバーがセンター に持ち帰った梱包資材を、オーダーのスター トラインに戻すまでのオペレーションを確立す るのが一苦労だった」と述懐する。
 子会社化によって配送管理を自社化したと いっても、アスクルが全国で運行している約 一五〇〇台の車両のうち、ビゼックスが保有 している自社車両はわずか八〇台余り。
そ の大半は東京都内の中心部に配備されており、 子会社化してからも傭車を大幅に自社車両に 置き換えていくつもりはなかった。
こうした 現場の実状まで踏まえて、新しいオペレーシ ョンを軌道に乗せる必要があった。
 「エコ・ターン配送」を最初に東京で本格化 する段階で、かなり細かい作業手順のマニュ アル化などを行った。
そこでは、アスクルが 〇六年に稼働させた独自開発の配送管理シス テムである「シンクロカーゴ」との連携が欠 かせなかった。
これはドライバーが携行する 専用端末と携帯電話を駆使して効率よく配送 を管理する仕組みだ。
 このシステムの最大の特徴は、すべての関 係者が配送状況をリアルタイムに近いかたち で共有できる点にある。
配送作業中のドライ バーが専用端末を操作して「完了」と入力す ると、このデータが携帯電話を介して「シン クロカーゴ」に伝えられる。
するとこの情報 が、インターネットで閲覧できる地図上に即 座に反映される。
配送車両はBizex保有と傭車 配送担当者が出荷貨物を処理 出荷伝票を読みルートを決定 専用の携帯端末で業務を管理 プライヤーと情報を共有して在庫水準を適正 化していく「シンクロマート」や、営業支援 の「シンクロエージェント」など、オペレーシ ョンを高度化するシステムは、すでに機能と しては揃っていた。
それを必要に応じてアッ プデートしていけば当面は問題ない。
 ただし、九七年の独立時に構築して以来、 と、従来のように六拠点すべてでフルライン の商品在庫を持つのは難しい。
 そこで最近は、商品特性に応じて東西二カ 所だけに在庫したり、在庫を持たずに通過型 で処理するといった工夫をしている。
このよ うに商品を在庫型で処理するという既存のや り方が徐々に変化してきたことは、物流セン ターのレイアウトなどにも少なからぬ影響を 及ぼしてきた。
 〇六年以降に稼働した大阪や仙台の物流セ ンターは、ランプウェー構造によって一階だ けでなく上層階にも車両を乗り入れられるよ うになっている。
もはや以前のように、上層 階に在庫した商品をピッキングして、一階か ら出荷するというシンプルな動線だけでは対 応できなくなっているためだ。
 今後「ソロエル」のような次世代ビジネス が本格化していけば、物流現場での作業はさ らに複雑化していくはずだ。
織茂取締役は物 流子会社の経営トップとして「将来の可能性 として﹃ソロエル﹄の利用企業同士の共同物 流などまでをビゼックスが担っていけるかど うか。
こうしたがことが、われわれのチャレ ンジになっていく」とのビジョンを語る。
 ビゼックスは向こう約三年間は、アスクル の物流の高度化を最優先していく方針だ。
し かし将来的には、アスクルの海外展開に応じ た海外進出や外販の拡大によって物流事業者 として成長していくことも視野に入れている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 追加の機能開発を繰り返してきた基幹システ ムについては、抜本的な見直しを必要として いた。
近年のアスクルはインターネットの活 用に注力して、ネット経由の受注や、「ソロエ ル」のようにネット利用を前提とするビジネス モデルの強化に努めてきた。
ところが旧・基 幹システムの機能不足がネックになって、外 部との情報共有が制約されるといったことが 目立つようになってきていた。
 そこで〇七年から約二年半を費やして基幹 システムの刷新プロジェクトに取り組んだ。
S AP社のERPを導入し、システムの統合や ウエブ機能の強化などを推進。
これによって、 ネットの双方向性を生かして顧客を細かくセ グメントしたり、個々のニーズや利用状況に 応じて柔軟にサービスを提供できる体制を整 えた。
 これに加え環境配慮型の物流インフラを整 備することで、既存の「e─プラットフォーム」 を「エコ・プラットフォーム」へと進化させ ようとしている。
物流子会社のチャレンジ  アスクルが紙媒体として配っているカタロ グに掲載している商品アイテムの数はいまだ に増えつづけている。
〇四年に名古屋センタ ーを開設して全国六センター体制を確立した 段階で約一万七六〇〇種あったアイテム数が、 直近では約三万二九〇〇種へと二倍近くに増 えている。
これほどアイテム数が膨れ上がる

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