2010年6月号
値段
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第60回 全日本空輸
53 JUNE 2010
一〇年三月期下期は赤字幅縮小
全日本空輸の二〇一〇年三月期業績は、二
期連続の最終赤字に落ち込み、非常に厳しい決
算となった。
営業損益、経常損益も赤字転落し、 売上高は前期比十一・八%減だった(図1)。
航空業界は〇八年九月に発生した金融危機と その後の景気後退により、〇八年度下期から旅 客、貨物ともに需要の激減に見舞われた。
旅客 では企業の出張の抑制やビジネスクラスからエコ ノミーへの切り替えが航空会社に客単価の低下 という形で跳ね返り、さらに昨年五〜六月にか けて新型インフルエンザの発生・感染拡大が需 要の減少に一段と拍車をかけた。
航空貨物について見ると、〇八年八月から対 前年で減少に転じていた日本発の国際貨物は昨 年三月頃からマイナス幅が縮小し、同八月には プラスに転じた。
ただし貨物についても単価の 低下が激しく、航空会社の貨物事業の損益は低 迷した。
昨年九月には民主党が政権を獲得、経営が悪 化していた日本航空に対する政府支援に関して 従来とは異なるアプローチを取るようになった。
関係各方面で様々な方策が検討されたが、今年 一月、同社は会社更生法適用の申請を余儀なく された。
こうした中、全日空は早期退職の実施や一時 金の見直し、管理職給与の一部カットといった 人件費の圧縮、航空券の国内販売手数料の削減、 事業計画そのものの見直しなどの費用削減を行 なった。
人件費に関しては業績連動部分の比率 を上げ、固定費部分の圧縮を進めている。
一〇年三月期下期の航空運送セグメントの業 績を見ると、売上高は五四七八億円と前年同期 比二・六%の減収だったが、営業損失は前年同 期の四三四億円に対し二八四億円となり、赤字 幅が減少した。
同社が取り組む各種費用削減策 全日本空輸 国際航空貨物のビジネスモデルを転換 沖縄ハブでアジア貨物の取り込みに期待 人件費削減などのコスト削減策が奏功し、今 期二〇一一年三月期の連結業績は回復に向か う見通しだ。
先行投資段階のフレーター事業 は営業赤字が続くと予想されるが、昨年一〇 月に稼働した沖縄ハブには大きな可能性があ る。
ハブ&スポーク方式のネットワークを構築 することによって、アジア域内の貨物需要の 取り込みが可能になった。
村山 誠 野村證券金融経済研究所 企業調査一部 公益インフラ産業調査室 第60回 図1 全日本空輸の過去3 年間の業績推移。
08 年3月期はホテル事業の 売却で純利益は倍増したが、燃油費高騰などが影響して営業・経常減益。
09 年3 月期下期からは需要の激減に見舞われた 売上高 営業損益 経常損益 純損益 09 年3 月期10 年3 月期 1,392,581 (△6.4) 7,589 (△91.0) 91 (△99.8) △4,260 (−) 08 年3 月期 1,487,827 (△0.1) 84,389 (△8.5) 56,523 (△9.7) 64,143 (96.4) 1,228,353 (△11.8) △54,247 (−) △86,303 (−) △57,387 (−) (単位:百万円、カッコ内は前期比増減) JUNE 2010 54 が奏功していることがうかがえる。
同社の損益は一一年三月期には回復に向かお う。
その要因は、第一に、企業業績が回復傾 向を示していることから、新年度以降、企業に おける出張機会の増加が予想されることである。
加えて、新型インフルエンザの影響も解消に向 かおう。
今後も新型インフルエンザの感染拡大 はあり得るが、昨年五〜六月頃に見られた過剰 な出張自粛といった事態は沈静化していること から、一一年三月期には影響が一巡すると予想 される。
貨物機事業は来期の収支均衡目指す 事業別の営業損益について見ると、一〇年三 月期は国内線旅客事業が八〇億円程度の赤字、 国際線旅客事業が三二〇億円程度の赤字、フレ ーター(貨物専用機)事業が一五〇億円程度の 赤字と推測される。
一一年三月期は国内線旅客 事業が四五〇億円程度の営業黒字、国際線旅客 事業が五〇億円程度の営業黒字と、旅客事業は 国内、国際ともに黒字化すると予想される。
一方、フレーター事業については未だ先行投 資的な段階のため、一一年三月期は一〇〇億円 程度の営業赤字が残るだろう。
同事業の黒字化 には一段の貨物量の増加が必要である。
全日空 は集荷力を強化し、貨物輸送量を拡大させるこ とで、一二年三月期には損益が収支均衡程度に まで改善することを目指している。
同社は他社との差別化を図り、国際航空貨物 事業のビジネスモデルの転換を進めている。
同 事業では以前、ベリー(旅客機の貨物スペース) を使った輸送は自社で行い、フレーター事業に ついては一九七八年九月に日本郵船などと共同 で設立した日本貨物航空(NCA)が担ってい た。
NCAはボーイング747F(積載重量約 一〇〇トン)などの大型機を中心にした機材構 成で、北米、欧州、アジアと世界に路線ネット ワークを展開してきた。
しかし〇五年八月、全日空は保有するNCA 株を日本郵船に売却し、欧米路線ではベリーで の事業は継続するものの、大型機での事業展開 の見直しを打ち出した。
〇七年七月にはフレーターによる国際航空貨 物事業について、沖縄貨物ハブ計画を発表した。
沖縄・那覇空港をアジア向け小口貨物輸送の中 継基地(ハブ)とする航空貨物ネットワークを 構築し、アジアの主要都市から所要時間が四時 間程度という沖縄の地理的優位性と二四時間運 用可能な空港を活かして、拡大するアジア向け の小口貨物需要を取り込む方針である。
機材は中型機のB767─300F(積載重 図2 沖縄ハブモデルのダイヤ。
バンコク発以外は夜一〇時半以降に出発し、翌日 朝には各都市に到着する 出発到着 沖縄・那覇 到着 02:35 01:30 02:10 04:15 03:45 01:55 01:35 02:30 出発 05:20 06:20 06:10 03:10 05:15 06:20 05:35 05:20 07:40 08:45 08:00 04:25 06:50 06:55 07:55 07:50 24:00 22:30 24:05 24:15 23:25 23:25 23:25 20:00 羽田 成田 関西 上海 香港 台北 仁川 バンコク HND NRT KIX PVG HKG TPE ICN BKK 羽田 成田 関西 上海 香港 台北 仁川 バンコク HND NRT KIX PVG HKG TPE ICN BKK 10 年3 月28 日〜 10 月30 日 機材は全てB767-300F 図3 全日本空輸の過去10年間の株価推移 《出来高》 55 JUNE 2010 発着かつ二地点間の貨物を対象としてきた。
日 本で事業展開する海外大手インテグレーターを 含めた他の航空貨物会社は、日本国内では成田 や関西などを拠点空港としている。
これに対して全日空は、アジア域内での貨物 需要の拡大を商機として沖縄をハブにアジアの 主要都市を結ぶ。
沖縄ハブモデルは海外大手イ ンテグレーター等に対する差別化戦略でもある。
さらに、沖縄ハブによって将来的には三国間 輸送、例えば中国とアジアの都市間での貨物需 要を取り込むことも期待できる。
従来の日本発着の二地点間モデルの場合、貨 物の動向は日本経済の動向に依存してしまう。
日本国内では既に人口が減少に転じ、一人当た り所得水準の一段の向上は期待しがたく、日本 のGDPは拡大が期待しづらい状況となってい る。
このため、日本発着の貨物の成長も限られ たものとなる可能性がある。
量約五五トン)に統一し、昨年一〇月二六日、 サービスを開始した。
海外は上海、仁川、香港、 台北、バンコク、国内は羽田、成田、関西の計 八空港から沖縄ハブに深夜到着した貨物を二〜 三時間の間に積み替える。
各都市への貨物便は 沖縄を未明のうちに出発し、朝までには仕向け 地に到着する(図2)。
これに合わせてドア・ツ ー・ドアのエクスプレス商品も投入した。
積み出し空港においては貨物の約八割を最終 仕向け地別のコンテナ単位に仕立て、沖縄では コンテナを解体せずにそのまま積み替えること によって作業効率を上げ、積み替え時間を短縮 している。
アジア域内で三国間輸送が可能に 沖縄ハブのビジネスモデルの新しい点は、アジ アを面として捉えていることにある。
日本の航 空会社の貨物事業は、これまではあくまで日本 アジアの主要都市を拠点としてネットワーク を構築していれば、アジア域内における人口お よび所得水準の伸張に伴う貨物需要の拡大を取 り込むことが期待できる。
沖縄ハブを介在させ ることで、カボタージュ(外国航空会社が自国 内の地点間を輸送すること)規制などから通常 は不可能な、中国・アジア域内の都市間の貨物 輸送を自社の事業領域に取り込んでいることが 興味深い点である。
村山 誠(むらやま・まこと) 一 九九〇年三月東京都立大学経済学 部卒業、同年四月野村総合研究所入 社、企業調査部配属。
九九年五月米 国コーネル大学経営学修士、二〇〇 九年三月東京工業大学大学院技術 経営博士号取得。
野村證券金融研究 所で株式、同金融市場情報管理部で 債券のアナリストとして活躍し、〇七 年七月より現職。
営業損益、経常損益も赤字転落し、 売上高は前期比十一・八%減だった(図1)。
航空業界は〇八年九月に発生した金融危機と その後の景気後退により、〇八年度下期から旅 客、貨物ともに需要の激減に見舞われた。
旅客 では企業の出張の抑制やビジネスクラスからエコ ノミーへの切り替えが航空会社に客単価の低下 という形で跳ね返り、さらに昨年五〜六月にか けて新型インフルエンザの発生・感染拡大が需 要の減少に一段と拍車をかけた。
航空貨物について見ると、〇八年八月から対 前年で減少に転じていた日本発の国際貨物は昨 年三月頃からマイナス幅が縮小し、同八月には プラスに転じた。
ただし貨物についても単価の 低下が激しく、航空会社の貨物事業の損益は低 迷した。
昨年九月には民主党が政権を獲得、経営が悪 化していた日本航空に対する政府支援に関して 従来とは異なるアプローチを取るようになった。
関係各方面で様々な方策が検討されたが、今年 一月、同社は会社更生法適用の申請を余儀なく された。
こうした中、全日空は早期退職の実施や一時 金の見直し、管理職給与の一部カットといった 人件費の圧縮、航空券の国内販売手数料の削減、 事業計画そのものの見直しなどの費用削減を行 なった。
人件費に関しては業績連動部分の比率 を上げ、固定費部分の圧縮を進めている。
一〇年三月期下期の航空運送セグメントの業 績を見ると、売上高は五四七八億円と前年同期 比二・六%の減収だったが、営業損失は前年同 期の四三四億円に対し二八四億円となり、赤字 幅が減少した。
同社が取り組む各種費用削減策 全日本空輸 国際航空貨物のビジネスモデルを転換 沖縄ハブでアジア貨物の取り込みに期待 人件費削減などのコスト削減策が奏功し、今 期二〇一一年三月期の連結業績は回復に向か う見通しだ。
先行投資段階のフレーター事業 は営業赤字が続くと予想されるが、昨年一〇 月に稼働した沖縄ハブには大きな可能性があ る。
ハブ&スポーク方式のネットワークを構築 することによって、アジア域内の貨物需要の 取り込みが可能になった。
村山 誠 野村證券金融経済研究所 企業調査一部 公益インフラ産業調査室 第60回 図1 全日本空輸の過去3 年間の業績推移。
08 年3月期はホテル事業の 売却で純利益は倍増したが、燃油費高騰などが影響して営業・経常減益。
09 年3 月期下期からは需要の激減に見舞われた 売上高 営業損益 経常損益 純損益 09 年3 月期10 年3 月期 1,392,581 (△6.4) 7,589 (△91.0) 91 (△99.8) △4,260 (−) 08 年3 月期 1,487,827 (△0.1) 84,389 (△8.5) 56,523 (△9.7) 64,143 (96.4) 1,228,353 (△11.8) △54,247 (−) △86,303 (−) △57,387 (−) (単位:百万円、カッコ内は前期比増減) JUNE 2010 54 が奏功していることがうかがえる。
同社の損益は一一年三月期には回復に向かお う。
その要因は、第一に、企業業績が回復傾 向を示していることから、新年度以降、企業に おける出張機会の増加が予想されることである。
加えて、新型インフルエンザの影響も解消に向 かおう。
今後も新型インフルエンザの感染拡大 はあり得るが、昨年五〜六月頃に見られた過剰 な出張自粛といった事態は沈静化していること から、一一年三月期には影響が一巡すると予想 される。
貨物機事業は来期の収支均衡目指す 事業別の営業損益について見ると、一〇年三 月期は国内線旅客事業が八〇億円程度の赤字、 国際線旅客事業が三二〇億円程度の赤字、フレ ーター(貨物専用機)事業が一五〇億円程度の 赤字と推測される。
一一年三月期は国内線旅客 事業が四五〇億円程度の営業黒字、国際線旅客 事業が五〇億円程度の営業黒字と、旅客事業は 国内、国際ともに黒字化すると予想される。
一方、フレーター事業については未だ先行投 資的な段階のため、一一年三月期は一〇〇億円 程度の営業赤字が残るだろう。
同事業の黒字化 には一段の貨物量の増加が必要である。
全日空 は集荷力を強化し、貨物輸送量を拡大させるこ とで、一二年三月期には損益が収支均衡程度に まで改善することを目指している。
同社は他社との差別化を図り、国際航空貨物 事業のビジネスモデルの転換を進めている。
同 事業では以前、ベリー(旅客機の貨物スペース) を使った輸送は自社で行い、フレーター事業に ついては一九七八年九月に日本郵船などと共同 で設立した日本貨物航空(NCA)が担ってい た。
NCAはボーイング747F(積載重量約 一〇〇トン)などの大型機を中心にした機材構 成で、北米、欧州、アジアと世界に路線ネット ワークを展開してきた。
しかし〇五年八月、全日空は保有するNCA 株を日本郵船に売却し、欧米路線ではベリーで の事業は継続するものの、大型機での事業展開 の見直しを打ち出した。
〇七年七月にはフレーターによる国際航空貨 物事業について、沖縄貨物ハブ計画を発表した。
沖縄・那覇空港をアジア向け小口貨物輸送の中 継基地(ハブ)とする航空貨物ネットワークを 構築し、アジアの主要都市から所要時間が四時 間程度という沖縄の地理的優位性と二四時間運 用可能な空港を活かして、拡大するアジア向け の小口貨物需要を取り込む方針である。
機材は中型機のB767─300F(積載重 図2 沖縄ハブモデルのダイヤ。
バンコク発以外は夜一〇時半以降に出発し、翌日 朝には各都市に到着する 出発到着 沖縄・那覇 到着 02:35 01:30 02:10 04:15 03:45 01:55 01:35 02:30 出発 05:20 06:20 06:10 03:10 05:15 06:20 05:35 05:20 07:40 08:45 08:00 04:25 06:50 06:55 07:55 07:50 24:00 22:30 24:05 24:15 23:25 23:25 23:25 20:00 羽田 成田 関西 上海 香港 台北 仁川 バンコク HND NRT KIX PVG HKG TPE ICN BKK 羽田 成田 関西 上海 香港 台北 仁川 バンコク HND NRT KIX PVG HKG TPE ICN BKK 10 年3 月28 日〜 10 月30 日 機材は全てB767-300F 図3 全日本空輸の過去10年間の株価推移 《出来高》 55 JUNE 2010 発着かつ二地点間の貨物を対象としてきた。
日 本で事業展開する海外大手インテグレーターを 含めた他の航空貨物会社は、日本国内では成田 や関西などを拠点空港としている。
これに対して全日空は、アジア域内での貨物 需要の拡大を商機として沖縄をハブにアジアの 主要都市を結ぶ。
沖縄ハブモデルは海外大手イ ンテグレーター等に対する差別化戦略でもある。
さらに、沖縄ハブによって将来的には三国間 輸送、例えば中国とアジアの都市間での貨物需 要を取り込むことも期待できる。
従来の日本発着の二地点間モデルの場合、貨 物の動向は日本経済の動向に依存してしまう。
日本国内では既に人口が減少に転じ、一人当た り所得水準の一段の向上は期待しがたく、日本 のGDPは拡大が期待しづらい状況となってい る。
このため、日本発着の貨物の成長も限られ たものとなる可能性がある。
量約五五トン)に統一し、昨年一〇月二六日、 サービスを開始した。
海外は上海、仁川、香港、 台北、バンコク、国内は羽田、成田、関西の計 八空港から沖縄ハブに深夜到着した貨物を二〜 三時間の間に積み替える。
各都市への貨物便は 沖縄を未明のうちに出発し、朝までには仕向け 地に到着する(図2)。
これに合わせてドア・ツ ー・ドアのエクスプレス商品も投入した。
積み出し空港においては貨物の約八割を最終 仕向け地別のコンテナ単位に仕立て、沖縄では コンテナを解体せずにそのまま積み替えること によって作業効率を上げ、積み替え時間を短縮 している。
アジア域内で三国間輸送が可能に 沖縄ハブのビジネスモデルの新しい点は、アジ アを面として捉えていることにある。
日本の航 空会社の貨物事業は、これまではあくまで日本 アジアの主要都市を拠点としてネットワーク を構築していれば、アジア域内における人口お よび所得水準の伸張に伴う貨物需要の拡大を取 り込むことが期待できる。
沖縄ハブを介在させ ることで、カボタージュ(外国航空会社が自国 内の地点間を輸送すること)規制などから通常 は不可能な、中国・アジア域内の都市間の貨物 輸送を自社の事業領域に取り込んでいることが 興味深い点である。
村山 誠(むらやま・まこと) 一 九九〇年三月東京都立大学経済学 部卒業、同年四月野村総合研究所入 社、企業調査部配属。
九九年五月米 国コーネル大学経営学修士、二〇〇 九年三月東京工業大学大学院技術 経営博士号取得。
野村證券金融研究 所で株式、同金融市場情報管理部で 債券のアナリストとして活躍し、〇七 年七月より現職。
