2010年6月号
グローバルSCM
グローバルSCM
第1回 企業間連携「CPFR」は次世代SCMたり得るか?
69 JUNE 2010
欧米の大手食品・消費財メーカーは現在、
グローバルな業務の標準化とシェアードサービ
スをSCMの軸に据えている。
しかし、その アプローチが日本企業にも有効だとは限らない。
今年二月にアビームコンサルティングが発表し た調査報告書「日本型SCMの将来」をベー スに、SCMを日本企業の強みとするための 新たな方策を探る。
日本のSCMはどこに向かうのか 日本のSCMはどこまで進んだのであろう か。
またどこに向かっていくのであろうか。
筆者らが日本におけるSCMのベンチマーク として注目している業種の一つが加工食品・ス ナック菓子・飲料・日用雑貨品などの、いわ ゆる「CPG(Consumer Packaged Goods) メーカー」である。
日本の製造業の中でいち早く在庫削減の必 要性に気付き、その削減に取り組んだのがCP Gメーカーであった。
その結果、日本のCPG メーカーの在庫は現在、大半が一カ月を切る水 準にまで低減されている。
中には半月を切って いるメーカーもある。
欧米のSCM先進企業と されるメーカーと比べても、はるかに在庫が少 ない。
その一方、最近になって、日本のCPGメ ーカーから改めてSCMについての相談や問い 合わせを受ける機会が増えている。
それらの多くは米国型のSCP(サプライチ ェーン・プランニング)パッケージを導入した 企業である。
大幅な在庫削減を期待したものの、 「当初見込んでいたほど在庫が減らない」、「投 資に見合う効果が出ていない」という。
ある いは目標を達成している場合であっても、「次 に何をすればよいのかが見えない」という悩み に直面している。
SCPパッケージの導入に成功した企業も、 そうでない企業も、次世代SCMの方向性を 模索しているのである。
次のSCMは企業間連携か? SCMの今日的定義 次世代SCMの詳しい論考に入る前に、本 連載で取り上げる「SCM」という言葉の定 義について若干の説明を行なっておく必要があ るだろう。
SCMの指す意味は、その言葉が 使われている文脈、その人の出身業界によって 違ってくる。
ロジスティクスの世界では、従来の企業内に おける供給適正化の次に来るものとしての企業 間連携の取り組みに、SCMもしくは「サプラ イチェーン・ロジスティクス」という言葉が用 いられている。
一方、生産やIT部門では、企業内の部門 間連携という意味合いでSCMという言葉を 使用している。
企業間における供給連携につ いては、別に「企業間SCM」という呼び方 第回 アビームコンサルティング 経営戦略研究センター 次世代を拓く 日本型SCM が 梶田ひかる 企業間連携「CPFR」は 次世代SCMたり得るか? 1 JUNE 2010 70 をする場合が多い。
物流部門に対して生産やIT部門は携わる 人の数が多いことから、現時点では、生産・ 販売の連携をSCMと呼ぶのが一般的だ。
し かし本連載では、企業の物流管理部門をはじ め、生産、IT分野を含めた広い読者層を想 定し、企業内・企業間に拘わらず広く需給に 関連するプロセス全体の管理をSCMと呼ぶこ とにする。
IT業界主導SCMの問題 さて、これまで日本のSCMはIT業界主 導で推進されてきたと言えるだろう。
ITベン ダーが企業内における需要・生産・供給計画 の連携ツールとして、欧米のSCPパッケージ を先進事例と共に日本に紹介・導入したこと で、SCMという言葉が普及した。
実はこのIT業界主導によるSCMの推進に、 日本のSCMの大きな問題が内包されている。
一つは「始めにITありき」のソリューショ ンとなっていることである。
もちろん、ITの 活用なしにはSCMは進歩しない。
しかしなが ら、ITと同時に必要となる組織やビジネスプ ロセス変革については、これまで十分に言及さ れてこなかった。
そのことが一部企業のSCM 導入の失敗につながっていることは否めない。
またITバブル崩壊後に、日本への欧米動 向の紹介がほとんどなされなくなってしまった ことも問題である。
欧米大手企業のSCMが 過去の状態で足踏みしているはずはない。
そ れどころか後述するように、ダイナミックな動 きを見せている。
日本のCPGメーカーもグローバル競争の波 にさらされている以上、欧米CPGメーカーが どのように動いているのかについて、ウォッチ しておく必要がある。
そのトピックの一つとなるのが「CPFR (Collaborative Planning Forecasting and Replenishment :需要予測と在庫補充のため の共同事業)」のその後の展開だ。
CPFRの現状 企業内における生販連携の次に来るのは企 業間でのプロセス連携──それが一九九〇年代 から言われていた次世代SCMのかたちであっ た。
実際、当時から今日に至るまで、欧米の SCMやロジスティクス関連の論文には企業間 連携を取り上げたものが多い。
そして企業間連携の取り組みの中でも特に効 果が高いと期待されていたのが、川下側との プロセス連携の取り組みであるCPFRである。
小売りとメーカーとの間で特売スケジュールを 共有し、それにメーカーの生産・供給活動を連 動させる。
CPFRが実現すれば、たしかに多くのメリ ットがある。
小売りでは、売上計画と販売計 画、発注と販売が連動するようになり、経営 管理の精度が著しく向上する。
メーカーは特売 の時期と量が明確になることで、欠品や廃棄ロ スを発生させることなく、少ない在庫でオペレ 流通構造 欧 米日 本 商慣行 小売業の寡占状況 小売業の IT 標準化レベル 小売業とメーカー間 の連携への意欲 消費性向 ●基本はメーカー−卸−小売 ●卸の大規模化は進展しているが、依然、多段階となって いる ●小規模小売が多い ●基本は大手メーカーと大手小売業の直取引が中心 ●メーカー建値制が基本 そのため、特定企業間での取り組みでコスト低減を実現 しても、その配分が困難 ●オープン価格が基本。
そのため、特定企業間での協業 で出たコストメリットの配分が明確化しやすい ●大手小売業のシェアが大きい。
トップ小売りのシェアが ●大手数社を合計しても2割程度 20% を超える国が多い ●多くの企業が過去のシステムを活かしながら拡張してき たため、独自性が強い ●業務効率化を目的としたシステム改変を実施 ●一部は連携に積極的 ●投資負担が効果を上回るため、実験段階で留まっている ●大手は連携による利益向上に積極的。
金額が大きいた め、双方にメリットが可能 ●当用買いが主流 ●鮮度に敏感 ●新製品等の流行に左右されやすい ●まとめ買いが主流 表1 日本と欧米の消費財業界の違い 71 JUNE 2010 日本型SCMが次世代を拓く ーションできるようになる。
このC P F Rは米国のS C M 推進団体 「V I C S (The Voluntary Interindustry Commerce Solutions Association)」によって 手法が整理され、一九九八年にガイドラインが 発表されている。
それから十余年が経過した 現在、CPFRの取り組みはいったいどこまで 進んだのであろうか。
VICSのCPFRガイドラインは、二〇 〇〇年に日本語版も出版されている。
それに 沿って日本でも一部のメーカー─小売間で粛々 と取り組みが進められている。
だが、日本市 場は欧米と比べてCPFRの導入が困難だとさ れる。
日本市場固有の業界構造や商慣行、消 費者性向の違い等がその理由として指摘されて いる(表1)。
それもあって現状では期待され たほど普及は進んでいない。
それでは欧米はどうか。
これも残念ながら、 否定的な答えとならざるを得ない。
たしかに欧 米の大手小売りの一部には着々と取り組みを進 めている企業もある。
だが、それ以外の大半 の小売りでは、販促計画と売上計画、仕入計 画が依然として乖離したままだ。
そのような状 況ではメーカーは小売りと協業しても、自らの 利益向上につなげることが難しい。
CPFRに対する期待や注目は往時に比べ て随分と後退した感が否めない。
それに替わっ て欧米の大手CPGメーカーが今日の最大のテ ーマとして取り組んでいるのが、グローバルS CMである。
欧米CPGメーカーは手本となるか? 欧米で、加工食品、飲料、日用雑貨メーカ ー等を一括りにCPGメーカーと呼んでいるの は、それらの商品が日常的に購買される最寄 品だという共通点だけでなく、実際の彼等の 経営展開が驚くほど似ていることも理由となっ ている。
グローバリゼーションに早期から着手した こと、基本は域内生産・域内販売であること、 現地の消費者に合わせたラインナップとするこ と、現地の流通構造に合わせたロジスティクス とすることなど、SCMだけを見ても共通点 は多岐にわたる。
そのためか、プロクター&ギャンブル(P& G)、ユニ・リーバはともに日雑・食品の双方 の商品を手がけている。
この二社に加え、ネス レ、クラフトフーズなどのCPG業界の世界的 プレイヤーが現在躍起になって取り組んでいる のが、グローバルレベルでのローコスト化、そ して買収した企業を統合するスピードを向上さ せることである。
それを目的に、グローバルなオペレーション の標準化や、域単位でのシェアードサービス化 が推進されている。
また、その情報基盤とし てはSAPのEPRパッケージを採用している 企業が圧倒的だ。
日本では、花王が同じスタイ ルをとっている。
そうした欧米のグローバルCPGメーカーの 在庫レベルは、日本国内における同業種メーカ ーよりも明らかに多い。
図1はグローバルCP Gトップ一五社の連結ベースでの在庫日数を示 している。
ビール、清涼飲料、スナック菓子といった日 持ちのしない商品の在庫が相対的に少ないの ヘンケル ゼネラルミルズ コルゲート・ パルモリーブ アサヒビール キンバリー クラーク ハイネケン SABミラー キリンビール アンハイザー・ ブッシュ コカ・コーラ クラフトフーズ ペプシコ ユニリーバ P&G ネスレ (在庫日数) 出所:各社の2009 年12 月末時点でのアニュアルレポートを基に作成。
在庫日数=棚卸資産/売上原価 ×365 業種は各社の売上最大事業セグメントをベースに分類 図1 グローバルCPG メーカーの在庫日数 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 加工食品 飲料 日用雑貨 JUNE 2010 72 は当然としても、その他の加工食品、日用雑 貨メーカーの在庫は、いずれも二カ月以上ある。
同図における在庫日数は棚卸資産金額ベースで の算定のため、製商品に加え仕掛品、原材料、 貯蔵品なども含まれている。
その分を割り引き、 大まかに棚卸資産全体の半分が完成品在庫だ と考えても一カ月強という水準だ。
しかし、欧米のCPGメーカーが需給管理 精度を向上させて、在庫水準を積極的に減ら そうとしているようには見受けられない。
今回の世界同時不況においても、彼等が行 なったのはSGA(販売管理・一般管理費)の 削減であった。
一部にアイテム削減の動きも見 られたが、これも目的としては在庫削減より、 キャッシュフローを改善してM&Aを容易にし ようという狙いのほうが大きかった。
現状を見る限り、欧米のCPGメーカーはき め細かな需給管理を行なうことよりも、徹底し た業務の標準化によるコスト低減で、低価格・ 高利益を追求することを優先していると判断 するほかない。
さて、ここで我々が見極めなければならない のは、需給管理の高度化よりも、オペレーショ ンのローコスト化を優先する欧米の動きが、果 たして日本でも有力なのか。
日本のメーカーも 在庫削減よりもコスト低減を優先すべきなのか という問題だ。
ここで注目すべきは販売計画の位置づけで ある。
グローバルCPGメーカーの在庫が多い のは、輸出入による輸送リードタイム長期化が 原因ではない。
むしろ販売計画の扱いの違い がその要因となっている。
CPGメーカーはいずれも基本を現地生産・ 現地販売とし、地域性を重視したマーケティン グを行っている。
そのため営業のコミッション に直結する販売計画を重視し、販売計画に対 応して在庫を手配する体制をとっている。
この ことが在庫を多くしている主な要因だ。
これは欧米企業に固有の話ではない。
日本 で低い在庫レベルを誇っている企業でも、海外 生産・海外販売に本格的に乗り出した途端に、 連結ベースの在庫が急増するケースが見られる。
そのようなことから、近年注目されているの が経営戦略とSCMのオペレーションを統合す る「S&OP(Sales & Operation Planning)」 という手法である。
具体的には、SKU単位 で販売計画を立て、その精度を向上すること による在庫削減と販売機会損失削減を目指す。
しかし、現状でそれができている企業は驚 くほど少ない。
営業の販売予測精度には個人 差が大きい。
それを全体として向上させるのは 容易ではない。
それにも拘わらずグローバルメ ーカーが販売計画を尊重するのは、どれだけ実 現が難しく、いかに時間がかかろうとも、S& OPが将来のあるべき姿であると考えているか らであろう。
日本型SCMの可能性 日本のCPGメーカーの国内在庫が欧米企 業と比べて少ないのは、販売計画と切り離して 需要計画を立案していることが大きい。
極端 な言い方をすれば、販売計画を当てにしない で生産していることが原因である。
日本では 欧米と異なる独自の需給管理高度化が進んだ のである。
日本でも一九八〇年代までは販売計画精度 の向上が指向され、それに基づく需要計画の立 案が行われていた。
ところがこの需給プロセス は、量販店やコンビニなどの組織型小売業の台 頭によって方向転換を余儀なくされた。
バブル崩壊の影響でCPGメーカー各社は過 剰在庫問題に直面した。
販売計画に大きな見 込み違いが生じて売れ残りが急増したのだ。
こ れに対処するため、日本のCPGメーカーは需 要計画立案のベースを、販売計画から出荷動 向に変更した。
もちろん日本のCPGメーカーも小売りの特 売情報は考慮しているが、欧米のように、そ れに完全に依拠して需要計画を立案しているわ けではない。
その結果として在庫が減った。
日本のCPGメーカーがこのような独自の需 給管理を構築したのは、欧米との市場環境に 表1に示したような違いがあるためだ。
つまり 日本の市場環境に適応した結果なのである。
本稿では、それを「日本型SCM」として 位置付けようと思う。
そして日本型SCMに 筆者らは日本企業の新たな競争の武器を見出そ うと考えている。
グローバル企業における徹底した標準化の流 73 JUNE 2010 日本型SCMが次世代を拓く れを知りながら、筆者らがあえて日本型SC Mに注目しているのにはいくつかの理由があ る。
これから本格的にグローバル展開に乗り出す 日本のメーカーを挙げると、やはり大手が中心 になる。
しかし、そうした大手も当然ながら 日本市場を捨てるわけにはいかない。
グローバ ル展開を進めると同時に、海外とは状況の異な る日本市場の中でも依然として競争し続けて行 かなくてはならない。
日本の商慣行、業界構 造、消費者動向に今後も適応し続けなければ ならない。
それが理由の一つである。
二つ目の理由は、日本市場で培ったノウハ ウが、日本企業のグローバル展開の強みにな ると考えているからだ。
日本の消費者性向は、 将来的なアジアの消費者性向を先取りしてい る可能性が高い。
トレンドに左右されやすい アジア市場においては、売れ行きが急激に変 化することを前提としたビジネスモデルの構築 が必要になる。
そこに日本型需給管理が活き てくる。
さらに、そのような急変する市場に適応させ た需給管理ノウハウは、他の「FMCG(Fast Moving Consumer Goods:CPGに加え情報 家電も含めた市場変化の激しい消費財)」にも 展開できる可能性がある。
つまり市場即応を実現するSCMの重要な ヒントが、CPGメーカーの需給管理プロセス、 組織および評価、ITにあると考えているの である。
CPGメーカーから学ぶ 日本のSCMの将来 今年二月、アビームコンサルティングは、C PGメーカーの需給管理実態調査に基づく「日 本型SCMの将来」と題した調査レポートを発 表した。
食品(加工食品、飲料、スナック菓 子)、日雑といった在庫の少ない業種から、中 堅以上の規模のメーカー一八社を選び、インタ ビュー調査を行なった(表2)。
SCMの能力については、最も簡単な指標 である在庫日数を用いた。
ここでいう在庫日 数は、需給管理のために管理部門が指標とし て用いている製商品在庫日数である。
そのた め、調査対象企業が複数事業を行なっている 場合は、その うちの一事業 を対象とした。
その在庫 日数に影響 すると思われ る需給管理 組織、プロセ ス、ITにつ いて、何が在 庫日数に影響 するのかを調 べた。
その結 果、特に食品 メーカー群において極めて特徴的な日本独自の SCMが進展しているという兆候が示された。
この結果から筆者らは、次世代のSCMは 欧米型の企業間連携ではなく、需給管理の高 度化であるという結論に達した。
欧米型とは アプローチの異なる日本型SCMの時代が間も なくやってくるだろう。
それでは日本型SCMとは何なのか。
欧米 と比較してどのような特徴を持っているのか。
日本型SCMを進化させていくにはどうした らいいのか。
本連載で解説していきたい。
梶田ひかる(かじた・ひかる) 1981年、南カリフォルニア大学OR理学修士 取得。
同年、日本アイ・ビー・エム入社。
91 年、日通総合研究所入社。
2001年、デロイト トーマツコンサルティング入社(現アビームコ ンサルティング)。
現在に至る。
電気通信大 学大学院情報システム学科学術博士。
中央職 業能率開発協会「ロジスティクス管理2級・3 級」のテキスト共同監修のほかSCM関連の著 書多数。
アビームコンサルティングHP http:// jp.abeam.com 表2 インタビュー対象企業の構成 対象事業の売上高 5000 億円以上 3000 億〜5000 億円 1000 億〜3000 億円 1000 億円未満 計 2 1 9 2 14 加工食品・ 飲料・菓子 0 2 1 1 4 日用雑貨
しかし、その アプローチが日本企業にも有効だとは限らない。
今年二月にアビームコンサルティングが発表し た調査報告書「日本型SCMの将来」をベー スに、SCMを日本企業の強みとするための 新たな方策を探る。
日本のSCMはどこに向かうのか 日本のSCMはどこまで進んだのであろう か。
またどこに向かっていくのであろうか。
筆者らが日本におけるSCMのベンチマーク として注目している業種の一つが加工食品・ス ナック菓子・飲料・日用雑貨品などの、いわ ゆる「CPG(Consumer Packaged Goods) メーカー」である。
日本の製造業の中でいち早く在庫削減の必 要性に気付き、その削減に取り組んだのがCP Gメーカーであった。
その結果、日本のCPG メーカーの在庫は現在、大半が一カ月を切る水 準にまで低減されている。
中には半月を切って いるメーカーもある。
欧米のSCM先進企業と されるメーカーと比べても、はるかに在庫が少 ない。
その一方、最近になって、日本のCPGメ ーカーから改めてSCMについての相談や問い 合わせを受ける機会が増えている。
それらの多くは米国型のSCP(サプライチ ェーン・プランニング)パッケージを導入した 企業である。
大幅な在庫削減を期待したものの、 「当初見込んでいたほど在庫が減らない」、「投 資に見合う効果が出ていない」という。
ある いは目標を達成している場合であっても、「次 に何をすればよいのかが見えない」という悩み に直面している。
SCPパッケージの導入に成功した企業も、 そうでない企業も、次世代SCMの方向性を 模索しているのである。
次のSCMは企業間連携か? SCMの今日的定義 次世代SCMの詳しい論考に入る前に、本 連載で取り上げる「SCM」という言葉の定 義について若干の説明を行なっておく必要があ るだろう。
SCMの指す意味は、その言葉が 使われている文脈、その人の出身業界によって 違ってくる。
ロジスティクスの世界では、従来の企業内に おける供給適正化の次に来るものとしての企業 間連携の取り組みに、SCMもしくは「サプラ イチェーン・ロジスティクス」という言葉が用 いられている。
一方、生産やIT部門では、企業内の部門 間連携という意味合いでSCMという言葉を 使用している。
企業間における供給連携につ いては、別に「企業間SCM」という呼び方 第回 アビームコンサルティング 経営戦略研究センター 次世代を拓く 日本型SCM が 梶田ひかる 企業間連携「CPFR」は 次世代SCMたり得るか? 1 JUNE 2010 70 をする場合が多い。
物流部門に対して生産やIT部門は携わる 人の数が多いことから、現時点では、生産・ 販売の連携をSCMと呼ぶのが一般的だ。
し かし本連載では、企業の物流管理部門をはじ め、生産、IT分野を含めた広い読者層を想 定し、企業内・企業間に拘わらず広く需給に 関連するプロセス全体の管理をSCMと呼ぶこ とにする。
IT業界主導SCMの問題 さて、これまで日本のSCMはIT業界主 導で推進されてきたと言えるだろう。
ITベン ダーが企業内における需要・生産・供給計画 の連携ツールとして、欧米のSCPパッケージ を先進事例と共に日本に紹介・導入したこと で、SCMという言葉が普及した。
実はこのIT業界主導によるSCMの推進に、 日本のSCMの大きな問題が内包されている。
一つは「始めにITありき」のソリューショ ンとなっていることである。
もちろん、ITの 活用なしにはSCMは進歩しない。
しかしなが ら、ITと同時に必要となる組織やビジネスプ ロセス変革については、これまで十分に言及さ れてこなかった。
そのことが一部企業のSCM 導入の失敗につながっていることは否めない。
またITバブル崩壊後に、日本への欧米動 向の紹介がほとんどなされなくなってしまった ことも問題である。
欧米大手企業のSCMが 過去の状態で足踏みしているはずはない。
そ れどころか後述するように、ダイナミックな動 きを見せている。
日本のCPGメーカーもグローバル競争の波 にさらされている以上、欧米CPGメーカーが どのように動いているのかについて、ウォッチ しておく必要がある。
そのトピックの一つとなるのが「CPFR (Collaborative Planning Forecasting and Replenishment :需要予測と在庫補充のため の共同事業)」のその後の展開だ。
CPFRの現状 企業内における生販連携の次に来るのは企 業間でのプロセス連携──それが一九九〇年代 から言われていた次世代SCMのかたちであっ た。
実際、当時から今日に至るまで、欧米の SCMやロジスティクス関連の論文には企業間 連携を取り上げたものが多い。
そして企業間連携の取り組みの中でも特に効 果が高いと期待されていたのが、川下側との プロセス連携の取り組みであるCPFRである。
小売りとメーカーとの間で特売スケジュールを 共有し、それにメーカーの生産・供給活動を連 動させる。
CPFRが実現すれば、たしかに多くのメリ ットがある。
小売りでは、売上計画と販売計 画、発注と販売が連動するようになり、経営 管理の精度が著しく向上する。
メーカーは特売 の時期と量が明確になることで、欠品や廃棄ロ スを発生させることなく、少ない在庫でオペレ 流通構造 欧 米日 本 商慣行 小売業の寡占状況 小売業の IT 標準化レベル 小売業とメーカー間 の連携への意欲 消費性向 ●基本はメーカー−卸−小売 ●卸の大規模化は進展しているが、依然、多段階となって いる ●小規模小売が多い ●基本は大手メーカーと大手小売業の直取引が中心 ●メーカー建値制が基本 そのため、特定企業間での取り組みでコスト低減を実現 しても、その配分が困難 ●オープン価格が基本。
そのため、特定企業間での協業 で出たコストメリットの配分が明確化しやすい ●大手小売業のシェアが大きい。
トップ小売りのシェアが ●大手数社を合計しても2割程度 20% を超える国が多い ●多くの企業が過去のシステムを活かしながら拡張してき たため、独自性が強い ●業務効率化を目的としたシステム改変を実施 ●一部は連携に積極的 ●投資負担が効果を上回るため、実験段階で留まっている ●大手は連携による利益向上に積極的。
金額が大きいた め、双方にメリットが可能 ●当用買いが主流 ●鮮度に敏感 ●新製品等の流行に左右されやすい ●まとめ買いが主流 表1 日本と欧米の消費財業界の違い 71 JUNE 2010 日本型SCMが次世代を拓く ーションできるようになる。
このC P F Rは米国のS C M 推進団体 「V I C S (The Voluntary Interindustry Commerce Solutions Association)」によって 手法が整理され、一九九八年にガイドラインが 発表されている。
それから十余年が経過した 現在、CPFRの取り組みはいったいどこまで 進んだのであろうか。
VICSのCPFRガイドラインは、二〇 〇〇年に日本語版も出版されている。
それに 沿って日本でも一部のメーカー─小売間で粛々 と取り組みが進められている。
だが、日本市 場は欧米と比べてCPFRの導入が困難だとさ れる。
日本市場固有の業界構造や商慣行、消 費者性向の違い等がその理由として指摘されて いる(表1)。
それもあって現状では期待され たほど普及は進んでいない。
それでは欧米はどうか。
これも残念ながら、 否定的な答えとならざるを得ない。
たしかに欧 米の大手小売りの一部には着々と取り組みを進 めている企業もある。
だが、それ以外の大半 の小売りでは、販促計画と売上計画、仕入計 画が依然として乖離したままだ。
そのような状 況ではメーカーは小売りと協業しても、自らの 利益向上につなげることが難しい。
CPFRに対する期待や注目は往時に比べ て随分と後退した感が否めない。
それに替わっ て欧米の大手CPGメーカーが今日の最大のテ ーマとして取り組んでいるのが、グローバルS CMである。
欧米CPGメーカーは手本となるか? 欧米で、加工食品、飲料、日用雑貨メーカ ー等を一括りにCPGメーカーと呼んでいるの は、それらの商品が日常的に購買される最寄 品だという共通点だけでなく、実際の彼等の 経営展開が驚くほど似ていることも理由となっ ている。
グローバリゼーションに早期から着手した こと、基本は域内生産・域内販売であること、 現地の消費者に合わせたラインナップとするこ と、現地の流通構造に合わせたロジスティクス とすることなど、SCMだけを見ても共通点 は多岐にわたる。
そのためか、プロクター&ギャンブル(P& G)、ユニ・リーバはともに日雑・食品の双方 の商品を手がけている。
この二社に加え、ネス レ、クラフトフーズなどのCPG業界の世界的 プレイヤーが現在躍起になって取り組んでいる のが、グローバルレベルでのローコスト化、そ して買収した企業を統合するスピードを向上さ せることである。
それを目的に、グローバルなオペレーション の標準化や、域単位でのシェアードサービス化 が推進されている。
また、その情報基盤とし てはSAPのEPRパッケージを採用している 企業が圧倒的だ。
日本では、花王が同じスタイ ルをとっている。
そうした欧米のグローバルCPGメーカーの 在庫レベルは、日本国内における同業種メーカ ーよりも明らかに多い。
図1はグローバルCP Gトップ一五社の連結ベースでの在庫日数を示 している。
ビール、清涼飲料、スナック菓子といった日 持ちのしない商品の在庫が相対的に少ないの ヘンケル ゼネラルミルズ コルゲート・ パルモリーブ アサヒビール キンバリー クラーク ハイネケン SABミラー キリンビール アンハイザー・ ブッシュ コカ・コーラ クラフトフーズ ペプシコ ユニリーバ P&G ネスレ (在庫日数) 出所:各社の2009 年12 月末時点でのアニュアルレポートを基に作成。
在庫日数=棚卸資産/売上原価 ×365 業種は各社の売上最大事業セグメントをベースに分類 図1 グローバルCPG メーカーの在庫日数 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 加工食品 飲料 日用雑貨 JUNE 2010 72 は当然としても、その他の加工食品、日用雑 貨メーカーの在庫は、いずれも二カ月以上ある。
同図における在庫日数は棚卸資産金額ベースで の算定のため、製商品に加え仕掛品、原材料、 貯蔵品なども含まれている。
その分を割り引き、 大まかに棚卸資産全体の半分が完成品在庫だ と考えても一カ月強という水準だ。
しかし、欧米のCPGメーカーが需給管理 精度を向上させて、在庫水準を積極的に減ら そうとしているようには見受けられない。
今回の世界同時不況においても、彼等が行 なったのはSGA(販売管理・一般管理費)の 削減であった。
一部にアイテム削減の動きも見 られたが、これも目的としては在庫削減より、 キャッシュフローを改善してM&Aを容易にし ようという狙いのほうが大きかった。
現状を見る限り、欧米のCPGメーカーはき め細かな需給管理を行なうことよりも、徹底し た業務の標準化によるコスト低減で、低価格・ 高利益を追求することを優先していると判断 するほかない。
さて、ここで我々が見極めなければならない のは、需給管理の高度化よりも、オペレーショ ンのローコスト化を優先する欧米の動きが、果 たして日本でも有力なのか。
日本のメーカーも 在庫削減よりもコスト低減を優先すべきなのか という問題だ。
ここで注目すべきは販売計画の位置づけで ある。
グローバルCPGメーカーの在庫が多い のは、輸出入による輸送リードタイム長期化が 原因ではない。
むしろ販売計画の扱いの違い がその要因となっている。
CPGメーカーはいずれも基本を現地生産・ 現地販売とし、地域性を重視したマーケティン グを行っている。
そのため営業のコミッション に直結する販売計画を重視し、販売計画に対 応して在庫を手配する体制をとっている。
この ことが在庫を多くしている主な要因だ。
これは欧米企業に固有の話ではない。
日本 で低い在庫レベルを誇っている企業でも、海外 生産・海外販売に本格的に乗り出した途端に、 連結ベースの在庫が急増するケースが見られる。
そのようなことから、近年注目されているの が経営戦略とSCMのオペレーションを統合す る「S&OP(Sales & Operation Planning)」 という手法である。
具体的には、SKU単位 で販売計画を立て、その精度を向上すること による在庫削減と販売機会損失削減を目指す。
しかし、現状でそれができている企業は驚 くほど少ない。
営業の販売予測精度には個人 差が大きい。
それを全体として向上させるのは 容易ではない。
それにも拘わらずグローバルメ ーカーが販売計画を尊重するのは、どれだけ実 現が難しく、いかに時間がかかろうとも、S& OPが将来のあるべき姿であると考えているか らであろう。
日本型SCMの可能性 日本のCPGメーカーの国内在庫が欧米企 業と比べて少ないのは、販売計画と切り離して 需要計画を立案していることが大きい。
極端 な言い方をすれば、販売計画を当てにしない で生産していることが原因である。
日本では 欧米と異なる独自の需給管理高度化が進んだ のである。
日本でも一九八〇年代までは販売計画精度 の向上が指向され、それに基づく需要計画の立 案が行われていた。
ところがこの需給プロセス は、量販店やコンビニなどの組織型小売業の台 頭によって方向転換を余儀なくされた。
バブル崩壊の影響でCPGメーカー各社は過 剰在庫問題に直面した。
販売計画に大きな見 込み違いが生じて売れ残りが急増したのだ。
こ れに対処するため、日本のCPGメーカーは需 要計画立案のベースを、販売計画から出荷動 向に変更した。
もちろん日本のCPGメーカーも小売りの特 売情報は考慮しているが、欧米のように、そ れに完全に依拠して需要計画を立案しているわ けではない。
その結果として在庫が減った。
日本のCPGメーカーがこのような独自の需 給管理を構築したのは、欧米との市場環境に 表1に示したような違いがあるためだ。
つまり 日本の市場環境に適応した結果なのである。
本稿では、それを「日本型SCM」として 位置付けようと思う。
そして日本型SCMに 筆者らは日本企業の新たな競争の武器を見出そ うと考えている。
グローバル企業における徹底した標準化の流 73 JUNE 2010 日本型SCMが次世代を拓く れを知りながら、筆者らがあえて日本型SC Mに注目しているのにはいくつかの理由があ る。
これから本格的にグローバル展開に乗り出す 日本のメーカーを挙げると、やはり大手が中心 になる。
しかし、そうした大手も当然ながら 日本市場を捨てるわけにはいかない。
グローバ ル展開を進めると同時に、海外とは状況の異な る日本市場の中でも依然として競争し続けて行 かなくてはならない。
日本の商慣行、業界構 造、消費者動向に今後も適応し続けなければ ならない。
それが理由の一つである。
二つ目の理由は、日本市場で培ったノウハ ウが、日本企業のグローバル展開の強みにな ると考えているからだ。
日本の消費者性向は、 将来的なアジアの消費者性向を先取りしてい る可能性が高い。
トレンドに左右されやすい アジア市場においては、売れ行きが急激に変 化することを前提としたビジネスモデルの構築 が必要になる。
そこに日本型需給管理が活き てくる。
さらに、そのような急変する市場に適応させ た需給管理ノウハウは、他の「FMCG(Fast Moving Consumer Goods:CPGに加え情報 家電も含めた市場変化の激しい消費財)」にも 展開できる可能性がある。
つまり市場即応を実現するSCMの重要な ヒントが、CPGメーカーの需給管理プロセス、 組織および評価、ITにあると考えているの である。
CPGメーカーから学ぶ 日本のSCMの将来 今年二月、アビームコンサルティングは、C PGメーカーの需給管理実態調査に基づく「日 本型SCMの将来」と題した調査レポートを発 表した。
食品(加工食品、飲料、スナック菓 子)、日雑といった在庫の少ない業種から、中 堅以上の規模のメーカー一八社を選び、インタ ビュー調査を行なった(表2)。
SCMの能力については、最も簡単な指標 である在庫日数を用いた。
ここでいう在庫日 数は、需給管理のために管理部門が指標とし て用いている製商品在庫日数である。
そのた め、調査対象企業が複数事業を行なっている 場合は、その うちの一事業 を対象とした。
その在庫 日数に影響 すると思われ る需給管理 組織、プロセ ス、ITにつ いて、何が在 庫日数に影響 するのかを調 べた。
その結 果、特に食品 メーカー群において極めて特徴的な日本独自の SCMが進展しているという兆候が示された。
この結果から筆者らは、次世代のSCMは 欧米型の企業間連携ではなく、需給管理の高 度化であるという結論に達した。
欧米型とは アプローチの異なる日本型SCMの時代が間も なくやってくるだろう。
それでは日本型SCMとは何なのか。
欧米 と比較してどのような特徴を持っているのか。
日本型SCMを進化させていくにはどうした らいいのか。
本連載で解説していきたい。
梶田ひかる(かじた・ひかる) 1981年、南カリフォルニア大学OR理学修士 取得。
同年、日本アイ・ビー・エム入社。
91 年、日通総合研究所入社。
2001年、デロイト トーマツコンサルティング入社(現アビームコ ンサルティング)。
現在に至る。
電気通信大 学大学院情報システム学科学術博士。
中央職 業能率開発協会「ロジスティクス管理2級・3 級」のテキスト共同監修のほかSCM関連の著 書多数。
アビームコンサルティングHP http:// jp.abeam.com 表2 インタビュー対象企業の構成 対象事業の売上高 5000 億円以上 3000 億〜5000 億円 1000 億〜3000 億円 1000 億円未満 計 2 1 9 2 14 加工食品・ 飲料・菓子 0 2 1 1 4 日用雑貨
