ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年6号
物流指標を読む
第18回 欧州の空港閉鎖で物流が止まるという誤解

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む JUNE 2010  74 欧州の空港閉鎖で物流が止まるという誤解 第18 回 ●アイスランドの火山噴火で欧州各国の空港が閉鎖 ●空港・航空各社が多大な経済損失を被るのは必至 さとう のぶひろ 1964年 ●日本の物流にも影響はあるが、その大きさは限定的 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部研究 主査。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
マスコミは大騒ぎ  四月一四日、アイスランド南部で大規模な火山 の噴火があり、火山灰が欧州の広範囲に飛散した ため、欧州各国は空港閉鎖や飛行禁止措置を打ち 出した。
その後、噴火の勢いが弱まったことに加 え、景気への悪影響を懸念する声が高まったこと などから、飛行禁止は順次緩和されている。
ただ し、本原稿を執筆している五月上旬現在、噴火の 完全な終息には至っておらず、依然として一部空 港の閉鎖や航空便の欠航が続いている。
 空港閉鎖や航空便の欠航に伴い、空港、航空会 社、旅行会社等は多大な経済的影響を受けた。
ブリ ュッセルにある欧州国際空港協議会は、四月二一 日時点において、一五日〜二〇日の六日間で九〇 〇万人以上もの航空機利用客が足止めされ、空港 が直接被った損害額は二億五〇〇〇万ユーロ(約 三一二・五億円)に上ると発表した。
また、国際 航空運送協会(IATA)は、六日間における航 空会社の損失額は一七億ドル(約一五八〇億円) 以上と算定し、危機の規模は米国領空が閉鎖され た〇一年の9・ 11 テロ事件を凌ぐとみている。
 前述のとおり、現在も噴火が終息するメドがた っておらず、関連業界の被害額はさらに大きくな ることが必至であるが、その一方で、他の輸送機 関においては需要が急増するなどのプラス効果も あり、マクロ的にみれば経済への影響は限定的と いう見方も一部にはある。
ただし、長期化した場 合、ギリシャ危機と相まって、欧州経済に多大な 影響を与えかねない。
 わが国企業も、航空会社を中心に少なからぬ被 害を被っている。
物流の分野においても、たとえ ば日産自動車は、アイルランドの部品メーカーから 調達していた、タイヤの空気圧を監視するセンサ ーの納入が止まったため、四月二一日に、九州工 場(福岡県苅田町)の生産ライン二本と追浜工場 (神奈川県横須賀市)の一ラインを停止した(注: 国内の部品センターの在庫を充てて対応すること により、翌日には生産を再開した)。
これにより、 約二〇〇〇台の減産になったと報じられている。
 また、損保ジャパン・リスクマネジメント社がま とめた「アイスランドの火山噴火と企業への影響」 によると、貨物便の欠航に伴い、乳がん等の転移 診断に用いる放射線医薬品の原料輸入が止まった り(注:二〜三日程度で放射能が半分程度に減る ため、船での代替輸送は難しい)、半導体の製造 に使用する感光体樹脂の欧州への輸出が止まった ことにより、半導体の現地生産に影響が出る可能 性が危惧されているという(注:製造後、時間が 経過すると品質が劣化するため通常は空輸してい る)。
 ところで、影響が出始めた四月半ばには、各テ レビ局の報道番組で、駐機場で待機している航空 機や成田国際空港で足止めをくっている外国人旅 行客などの映像を流すとともに、物流面でも多大 な影響があると指摘し、生鮮魚介類などが品薄に なる可能性などを示唆していた。
 実を言うと、筆者も某テレビ局から、航空便の 欠航が物流面にもたらす影響の大きさに関して取 材を受けた。
しかし、正直なところ、詳細な飛行 禁止エリアや飛行禁止期間に関する見通し等が不 明であったほか、想定される代替ルートに関する情 国土交通省「平成21年度国際航空貨物動態調査報告書」 75  JUNE 2010 報を得ていなかったため、定量的に影響の大きさ をお示しすることはできない旨の返答をした。
た だし、「魚介類をはじめとする多様な商品が、長 期間にわたって店頭から消えるような事態にはお そらくならないのではないか」と申し上げた。
 報道番組においては、仮に「大きな影響はない」 と報道して、実際には「影響が大きかった」場合、 大変な責任問題になるのであろうが、逆に「大き な影響がある」と報道して、蓋を開けてみたら「た いした影響がなかった」場合は、さして叩かれる こともないのであろう。
そのため、テレビ局とし ては筆者から「影響が大きい」というコメントを 引き出したかったのだろうが、「それほど大騒ぎす る必要はない」とコメントしたせいか、インタビュ ーの内容がオンエアされることはなかった。
 航空輸送に関する専門的な知識を持たない彼ら が大騒ぎするのは、ある意味、やむを得ないこと なのかもしれないが、航空便の欠航に伴い、あた かも物流すべてがストップしてしまうかのような 彼らの論調は錯覚と言わざるを得ない。
航空輸送 と比べると時間は要するものの、域内はトラック での輸送が可能であるし、また海上輸送も可能で ある。
実際に、ある大手フォワーダーは、代替ル ートを利用した輸送を計画していた。
対欧州の航空貨物は意外に少ない  それに、そもそも日本を発着する対欧州の航空 貨物量は、彼らがイメージしているよりもずっと 少ない。
JAFA(航空貨物運送協会)がまとめ た〇九年度の「国際輸出航空貨物実績集計表」に よると、輸出混載貨物のうち欧州向けの割合は一 八・二%にすぎない。
また、財務省「輸出入貨物 に係る物流動向調査」(〇八年九月の一週間調査) の結果をみると、成田国際、関西国際、中部国際、 福岡の四空港から輸出された全航空貨物量のうち EU向けは一九・一%、また輸入航空貨物量のう ちEUからのものは一六・六%であった。
 このように、対欧州の航空貨物量は輸出、輸入 とも全体の二割にも満たず、海上貨物量も含める と、その割合はさらに小さくなる。
したがって、数 日間欧州線の航空便が欠航したとしても、その影 響は限定的なのである。
 ところで、日本と欧州間でどのような品目が航 空輸送されているかについては、国土交通省航空 局「平成二一年度国際航空貨物動態調査報告書」 を参考されたい。
この調査は、昨年十一月の特定 の一日間に、航空貨物代理店・混載業者が航空運 送状を発行した輸出航空貨物、および税関に輸入 申告を行った輸入航空貨物を対象に、発生・集中 地、利用空港、通関場所、相手国地域、品目など について集計したものである。
一日間調査のため、 季節波動や曜日波動に伴うブレがあるものの、品 目別に国際航空貨物の細かな流動実態を把握でき る統計がほかに無いことから、非常に使い勝手が よい。
 日本から欧州への輸出空貨物では、映像機器・ テレビ・VTR、自動車部品などの機械機器が七 十六・四%と高い割合を占めている。
一方、欧州 から日本への輸入航空貨物では、自動車部品など の機械機器(三〇・八%)、魚介類などの食料品 (二九・四%)、医薬品などの化学製品(二三・ 七%)の割合が高いことが分かる。
欧州発日本向け航空貨物の品目別内訳 スウェーデン イギリス オランダ ベルギー フランス ドイツ スイス イタリア ロシア その他 23,707 17,806 17,806 182 ─ 1,783 ─ ─ 13 3,406 530 27,192 ─ 154 1,970 652 4,925 459 3,350 4,155 9,425 6,909 31,531 20 6,059 1,062 21 9,983 23 103 1,966 12,775 1,526 20,575 ─ 10,456 385 38 5,535 ─ 1,060 473 1,427 1,712 50,379 7,193 9,494 5,096 12,320 20,008 ─ 94 3,224 10,609 5,078 117,335 ─ 1,977 1,559 18,632 35,879 123 3,899 22,266 64,810 9,088 24,338 ─ 3,024 358 9,046 10,015 1,945 790 59 6,503 1,705 44,537 902 2,039 10,432 3,996 10,465 376 ─ 2,618 13,847 7,379 1,420 ─ ─ 1,192 ─ ─ ─ 204 ─ 24 ─ 127,900 81,481 86,876 3,168 2,782 12,477 1,057 162 5,094 21,658 2,502 欧州(計) 468,912 107,402 137,884 25,405 47,486 111,069 3,982 9,662 39,867 144,482 36,428 (単位:kg) 合計 食料品繊維・ 同製品 化学製品非金属 鉱物製品 金属・ 同製品 機械機器 その他 魚介類 (小計) 医薬品 (小計) 自動車部品 (小計)

購読案内広告案内