2010年8月号
ケース

I H I 建機 現場改善

手ぶらで作業ができる  IHI建機はショベルカーやクレーン、コ ンクリートポンプなど建設現場で使う大型機 械を製造している。
国内向けの製品は本社所 在地の横浜工場一カ所で生産し、ディーラー を通じて建設工事業者やレンタル業者などに 販売している。
 工場では完成した製品を出荷する前にさま ざまな検査を行う。
傷などのチェック、ショ ベルカーの回転やクレーンの上下にかかる時 間の測定、エンジンのシリアル番号の確認な ど、検査内容は一七〇項目にも上る。
同社が 音声認識システムに注目するようになったの はそもそも、この検査結果を入力する手段と して有効と考えたからだった。
 検査結果の入力はPDA(携帯情報端末) を使って行っている。
担当者がPDAに検査 項目をダウンロードし、検査工程で項目ごと にチェックを行い、その結果を入力する。
項 目数が多く、PDAへの入力作業が煩雑な上、 検査内容によっては機械の下にもぐって作業 を行わなければならないこともある。
 同社では社長室の情報システムグループが 情報システムの構築や改良を担当している。
同グループの花園啓部長は、音声によって指 示の伝達や結果報告を行うシステムを導入す れば、手ぶらで検査項目を入力でき、作業を 安全に手際良く行えるようになると考えた。
 そこで〇七年十二月に生産部をはじめ関係 部署の管理者を集め、ヴォコレクト社の音声 物流ソリューション「Vocollect Voice」のデ モンストレーションを行った。
このとき真っ先 に食指を動かしたのがメンテナンス用部品の 管理を担当するパーツサポート部だった。
 同社は横浜工場の隣に設けた中央パーツセ ンターでメンテナンス部品の管理を行っている。
販売後のメンテナンス業務を委託する各地の サービス工場からオーダーを受け全国へ出荷 している。
一台のショベルカーを生産するの に必要な部品は、エンジン、キャタピラーか ら小物類まで含めておよそ二〇〇〇点。
生産 が終了した製品も一〇年間は部品の供給を続 けるため、パーツセンターの在庫アイテムは六 万近い数になる。
 アイテム数が多いためセンターでは棚卸作 業に循環方式を採用している。
六万アイテム の棚卸を月に五〇〇〇アイテムずつ一年かけ て実施する。
 従来は製品の検査工程と同様に棚卸作業に もPDAを活用していた。
作業者はPDAと 棚卸指示書を携帯して現場へ行き、指示書に 印字された部品番号を表すバーコードをスキ ャナーで読み、現品を数えて数量をPDAに 入力。
さらに指示書にもボールペンで数を記 入して担当印を押し、棚に貼られた前回の指 示書をはがして新しい指示書を貼付する。
 紙を併用するのは、棚卸作業の進捗を現場 で確認するためだ。
毎年、指示書の紙の色を 変え、作業者が棚に貼付された紙の色を見て  建設機械メーカーのIHI建機はメンテナンス用部品 の棚卸しや入出荷検品作業に音声認識システム利 用している。
基幹業務システムと音声で指示や報告 をやり取りしリアルタイムでデータを更新する。
作業 者自身が端末から随時、在庫や入出荷情報を照会す ることができるようになり、業務の効率化が大幅進んでいる。
現場改善 I H I 建機 保守部品の管理に音声認識システム導入 作業者が携帯端末で進捗状況を随時照会 45  AUGUST 2010 作業がどこまで済んだか一目でわかる。
 ただし、こうした工夫は作業の煩雑さにも つながっていた。
作業時に携帯するものが多 く、手順を覚えるのに時間がかかる。
PDA の操作にも課題があった。
作業者には五十代 後半の高齢者が多く、倉庫の中では手元が暗 いため入力ミスが起きやすい。
部品の保管場 所によっては垂直昇降型の高所作業用リフト に乗って作業を行うこともあり、両手がふさ がったままでは安全面の不安もあった。
 PDAの更新時期が迫り、パーツサポート 部では業務を改善できる別の手段がないか模 索していた。
同部のマネジャーが音声認識シ ステムのデモを見たのはそんな折だった。
 情報システムグループは、導入の対象を当 初想定していた検査工程からメンテナンス部 品の管理業務へ切り替え、パーツサポート部 とともにただちに検討を開始した。
 その後の動きも速かった。
半年後の〇八年 六月には「Vocollect Voice」システムの導 入を正式に決定してプログロム開発に着手し、 さらに二カ月後の八月には運用開始にこぎつ けている。
作業の平準化が進んだ  同社はメンテナンス用部品の入出庫や 在庫を基幹業務システムで管理している。
「Vocollect Voice」では携帯端末の「Talkman (とーくまん)」を装着した作業者が、無線L ANを経由して基幹業務システムと音声で双 方向のやり取りをしながら棚卸などの作業を 行う。
従来のPDAと指示書による作業か ら音声認識による作業へ移行するにあたって、 作業工程のパターン化を行い、これに沿って 音声でやり取りするプログラムを開発した。
 メンテナンス用部品の保管場所は部品の種 類や出荷頻度などにより、同じ敷地内の五カ 所の倉庫に分かれている。
いずれの倉庫にも 「C03」のようにアルファベットの頭文字で 始まるロケーションを符ってある。
作業者は はじめに棚卸作業をするロケーションを音声 で入力する。
機械が識別しやすいようにAは ?アメリカ?、Bは?ブラジル?、Cは?チャイ ナ?と読む。
 小物類はキャビネットに保管している。
キ ャビネットには最も多いもので二六段の引き 出しがあり、引き出しの中がAからDまで四 つの列に区分されている。
さらに各列を四〜 五つに仕切り、それぞれのロケーションに一 アイテムずつ部品を在庫している。
 作業は音声指示に従って各ロケーションの 仕切りに貼付されている部品のバーコードラベ ルを、指に装着した「リングスキャナー」で 読み、数量を数えて「とーくまん」に音声で 答えるという手順で進める。
大型部品などロ ケーションにバーコードが貼付されていないも のは、品番を読み上げてシステムに識別させ ることもできる。
 従来、作業者が紙の色の違いによって確認 していた処理済みか否かについても、作業の 開始から完了報告までを最小の単位に設定す ることでシステムでも識別できるようにした。
 小物部品を例に取ると、作業単位が引き出 しの中のA〜Dの列ごとに設定してあり、作 業者は各列の作業が終わるたびに「完了」を 報告する。
この時点で未処理の部品があると 音声で警告する。
どの部品が未処理なのかは 特定しないが、一列当たり四〜五アイテムな ので探すのはそれほど難しくない。
同じ部品 を二度スキャンした場合には、システムがそ の場で音声で知らせる。
 システムが稼動したのは〇八年八月の下旬 だった。
運用開始前に作業者全員に一日一 時間半のトレーニングを一週間かけて実施し、 試験期間を設けずに本稼動させた。
とーくまん(上)とリングス キャナー キャビネットだけで在庫アイ テムは2万に上る スキャナーでバーコードを読 み音声で数量を入力 引き出しの中を4列に区切 り各列に4〜5アイテム在庫 AUGUST 2010  46  翌月から早くも導入効果が現れた。
〇八年 九月の棚卸アイテム数を日別に線グラフに描 き、導入一年前の〇七年九月の実績と比べる と、その違いは一目瞭然だ(図1)。
〇七年 九月のグラフでは、月初の一週間と月末の二 五日以降の傾斜角度が極度に大きく、その間 の期間は勾配が緩やかになっている。
これに 対し〇八年九月のグラフは月間を通じほぼ一 定の角度の傾斜で描かれている。
前年に比べ 作業量の平準化が進んだことが見て取れる。
 〇七年九月は、月間目標の五〇〇〇アイテ ムのうち二五日までに棚卸が完了していたの は二六六九アイテムだけだった。
残りの作業 を月末までの五日間に集中的にこなしている。
目標を達成するため残業などで追い込みをか けたものと推察される。
一方、〇八年九月に は二五日までに四三四二アイテムの棚卸を完 了し、前年の一六三%という高い数値になっ ている。
この時点で前年と大きな開きのある ことがよくわかる。
 花園部長は「指示書なしで作業ができるよ うになったことが(作業者を身軽にしただけ でなく)平準化にも役立っている」と分析す る。
従来は作業者に指示書を割り当て、一定 の時間帯に一斉に作業を行っていた。
音声シ ステムは「とーくまん」を装着していればい つでも作業を開始できるため、作業者が自主 的にほかの作業の合間をみて効率よく作業を 進めるようになった。
その結果がトータルで の平準化につながったと花園部長は見ている。
 花園部長は「バックオーダー(入荷待ちの 注文)が作業者に直接伝わることがメリット の一つだ」と指摘する。
特定の部品に予想以 上のオーダーが入り、センターにある在庫だ けでは足りない場合に、入荷予定情報を基に して、これから入荷する在庫にオーダーを引 き当てることがある。
 このようなケースで、バックオーダーが入 荷検収する作業者に伝わっていないと、出荷 の決まっている部品をわざわざ棚に格納する という無駄な作業が発生してしまう。
これを 避けるために従来は事務所で端末に検収結果 を入力する時点でバックオーダーの確認をし、 格納の前に処理するようにしていた。
これが 音声システムでは、検収時に音声で「この部 品は一〇個のうち三個の受注が決まっている」 入出荷検品にも運用を拡大  同社はこの結果を評価し、翌〇九年一月に さらに入荷検収・格納・ピッキング・出荷検 品・輸送業者設定の各業務にも音声システム の運用を拡大した。
 同社ではメンテナンス部品に発注点管理を 導入している。
過去の実績をもとにアイテム ごとに発注点を設定し、在庫数が発注点を 割るとシステムで発注指示データを作成する。
ただし日によって入荷作業量に大きな変動が ないよう、仕入先ごとに納品日を設定し計画 的に発注している。
このため一日あたりの入 荷件数は比較的安定している。
出荷は一日に 三〇〇〜四〇〇件で、路線便や宅配便を使い 全国へ輸送している。
 これまで入荷検収から格納、ピッキング、 出荷検品までの一連の工程は、目視による作 業が基本で、棚卸作業とは異なりPDAは導 入していなかった。
 入荷時に納品伝票と現品の部品番号を照合 して検収を行う。
納品伝票に部品番号のバー コードが印字されており、入荷作業が終了し た後、事務所の端末で伝票のバーコードと数 量をまとめて入力し、バッチで処理していた。
 音声システムでは、入荷時に納品伝票のバ ーコードをスキャンして数量を数え、その場 で音声入力することで検収を行う。
タイムラ グがなく、入荷作業と同時に入荷情報を更新 できる。
図1 棚卸報告累計 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 日付 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 棚卸アイテム数 2007年9月 2008年9月 47  AUGUST 2010 する。
 各エリアのピッキングが完了すると、出荷 案内書単位に集約し、音声システムで検品 を行う。
出荷案内書に印字されたバーコード と、集品した部品のラベルのバーコードを読 み、数量を音声入力してチェックする。
 これらの一連の作業には従来からラベルや 荷札を用いていたが、バーコードは印字して いなかった。
作業フローを大きく変えずバー コード化を進めたことで作業の効率と精度が 大幅にアップした。
 音声システムはこのほか、運送会社へ貨物 を引き渡す際にも活用している。
出荷案内書 の出荷管理番号と運送会社の送り状番号を 交互に音声入力して紐付ける。
これによって、 貨物の問い合わせがあった時には出荷管理番 号をもとに運送会社の貨物追跡システムで照 会を行うことができる。
基幹システムにいつでもアクセス  パーツサポート部では半期ごとに誤出荷の 履歴を取っている。
音声システムを導入する 前の過去五年間には、数量のミスが半期に三 〜一〇件、品目違いが六〜一五件あった。
導 入後は数量ミスが〇八年下期から〇九年下期 までの間でわずかに一件、品目違いは半期に 一〜四件という水準に減少した。
生産性も向 上し、入荷検収作業の要員を二人から一人に 削減できた。
 花園部長は「なによりも作業者に仕事がや りやすくなったと言われるのがうれしい」と 話す。
手ぶらで作業できることが大きな要因 だが、もう一つ重要な要素は「基幹業務シス テムの情報がリアルタイムで更新され、その 情報に作業者がシステムの端末からいつでも アクセスできるようになったことだ」という。
 音声システムには「品目照会」機能があり、 作業者が部品番号によって保管場所のロケー ションや格納数、受注中、出荷中などのリア ルタイムの情報を照会できる。
 ピッキングする部品の現品の在庫数が足り なかった場合など、従来はその原因を調べる ために、作業者が倉庫内を行き来して、格納 数に差異があるのか、別のオーダーに引き当て られてしまったのかなどを確認していた。
音 声システムの導入によって、倉庫全体の作業 の進捗状況を各作業者が携帯端末で把握でき るようになったことで、そうした無駄な動き が要らなくなった。
 パーツセンターでは「とーくまん」を一五 台導入している。
高齢者の多い作業現場にも 関わらず、短期間に運用領域を広げ、作業改 善に成果を上げている。
花園部長は「操作の 煩わしいPDAだったらこれほどスムーズに はいかなかったろう」という。
同社ではさら に音声システムをフル活用するため、庫内作 業の最終工程となる請求システムへの入力を 出荷検品工程で一括処理する方法などを検討 しているところだ。
(フリージャーナリスト・内田三知代) といった情報が伝わるため、作業者がその場 で判断できる。
 入荷検収後の格納作業は別の作業者が担当 する。
入荷検収が完了するたびに、格納票と 部品の数量分のラベルを発行し、ラベルを一 枚ずつ部品に貼付しておく。
格納票とラベル にはそれぞれバーコードが印字してある。
作 業者は格納票に表示されたロケーションへ行 き、部品を棚に収める。
その際に格納票のバ ーコードを読み、個数を音声入力して入庫デ ータを更新する。
 ピッキング作業はロケーションごとに作業 者を配置し、各ロケーションで届け先別に摘 み取り方式で行う。
届け先別の「出荷案内書」 とアイテム別の荷札を発行し、各ロケーショ ンの担当者が自分のエリアで荷札をもとに集 品する。
 荷札にはピッキング番号のバーコードとロケ ーション番号、数量が印字してある。
作業者 は荷札に表示されたロケーションへ行き、荷 札のバーコードとピッキングした部品のラベル のバーコードをスキャンし、数量を音声入力

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