2010年8月号
ケース
ケース
米J.B.ハント モーダルシフト
今年に入ってトラック運賃が急上昇
J.B.ハント・トランスポート・サービシー
ズ社は、鉄道を使った複合一貫輸送「インタ
ーモーダル」を柱とするアメリカの大手陸運
会社だ。
同社の二〇一〇年度第1四半期の決算は、 売上高が八億四四六七万ドル(七四三億三 一〇〇万円、前年同期比一六・九%増)、営 業利益が六七四四万ドル(同一八・三%増)、 最終利益が三七四八万ドル(同二一・九% 増)──の大幅な増収増益だった(図1)。
同社のカーク・トンプソン社長兼CEOは 今年度の経営環境と業績見通しについて次の ように説明する。
「われわれが過去三年間に経験した貨物業 界の不況はようやく終息の気配を見せ、今期 に入ってから貨物量は緩やかながら増加を始 めた。
これは荷主企業のサプライチェーン活 動が活発になったことに加えて、輸送業界に おける転廃業が増えたことで、輸送枠がタイ トになったことが要因としてあげられる。
さ らに、今年に入ってトラック輸送のスポット 価格が大きく上昇していることも、今後のさ らなる収益の改善につながるとみている」 アメリカのトラック輸送の一マイル当たり のスポット価格は昨年度から既に上昇に転じ ていた。
〇九年は一・二四ドルからはじまり、 〇九年の終わりには一・七ドルまで上がった。
一〇年に入っても上昇は続き、六月には二ド ル台に乗せている。
〇九年度の決算では同社も世界同時不況の 影響を受けるかたちで減収減益を余儀なくさ れた(図2)。
しかし一〇年第1四半期の業 績は、過去最高の売上高を上げた〇八年度の 決算数字と比べても遜色がないまでに回復し ている。
同社の組織は四つの事業部門から構成され る。
一〇年第1四半期の部門別の売上高と経 常利益は次の通り。
主力のインターモーダル部門の売上高は四 億六八六四万ドル(同一九・七%増)で、経 常利益は四七四七万ドル(同一四・九%増)。
3PL部門の売上高は二億七九一万ドル(同 一五・九%増)で、経常利益は一八三六万ド ル(同五・六%増)。
貸切輸送部門が一億一 二八一万ドル(同十一%増)で、経常利益が 六〇万ドル(前期は五八二万ドルの赤字)。
ソ リューション部門の売上高は六一一七万ドル (同八・三%増)で、営業利益が一一四万ド ル(前年同期比七二・二%減)。
また第1四半期末のキャッシュフローは七 七九万ドルで、前年同期末と比べると二倍以 上に増やしている。
投資会社のダルマン・ローズ社で輸送業界 のアナリストであるジェイソン・シードル氏は、 株式市場はJ .B.ハントの実力を過小評価して おり、現在三〇ドル台で推移している同社の 株価は四〇ドルまで上がるだろうと予測して いる。
モーダルシフト 米J.B.ハント 鉄道を利用したインターモーダル輸送で首位 トラック貸切輸送からの業態シフトが奏功 (注1)2009年12月期の数字 (注2)1ドル=88円で換算 企業概要本社 オランダ ホーフドルプ 社 名 J.B.ハント・トランスポート・サービシーズ 本 社 アーカンソー州ローエル 創 業 1961年 株 式 1983年にナスダックに上場 代表者 カーク・トンプソン社長兼CEO 売上高 32億300万ドル(2818億6400万円) 最終損益 1億3600万ドル(119億6800万円) 従業員数 1万2171人 53 AUGUST 2010 「トラック輸送のスポット価格が上昇してい ることに加えて、昨年の〇九年から本格的に 開始したアメリカ東部のインターモーダル輸送 が二〇%以上の伸びとなっていること、さら に、同社が荷主が幅広く選べるサービスメニ ューをそろえていることが好材料」とシード ル氏は語る。
鉄道貨物の増加を追い風に 同社は一九六九年にジョニー・ブライア ン・ハント氏(J.B.ハント氏)が貸切輸送業 者として、五台のトラックと七台のトレーラ ーで立ち上げた。
八三年にはナスダック市場 に上場を果たし、九五年に六八歳で現役を退 くまで、ハント氏はオーナー経営者として同 社を牽引した。
生家が貧しかったハント氏は、十二歳で学 校教育を終え、親戚の経営する製材所で働い たのを皮切りに、その後三〇年にわたりさま ざまな職業につきながら自分で事業を始める 資金を蓄えてきた。
JBハントを立ち上げた のは四二歳の時だった。
そのJ.B.ハントが飛躍するキッカケとなっ たのは、八九年のインターモーダル輸送市場 への参入だった。
トラック輸送に比べると小 さな市場ではあったが、貨物量は急増してい た。
北米インターモーダル協会の統計数字に よれば、インターモーダルの貨物量(積み替 え回数で数える)は、八〇年の約三〇〇万回 から九〇年の約六〇〇万回へと大きな伸びを 見せている。
ハント氏はインターモーダル輸送 を、それまで経営の柱としてきた 貸切輸送に次ぐ、第二の柱に位置 付けた。
鉄道貨物輸送大手のバー リントン・ノーザンサンタフェ鉄道 (BNSF)と手を組み、アメリカ 南西部を中心にインターモーダル輸 送のネットワークを築いていった。
この戦略が九〇年代に実を結んだ。
同じ時期に日本では鉄道貨物輸 送や通運業が衰退していったのと は裏腹に、国土の広い米国では九 〇年代以降も、六〇〇マイル(一 〇八〇キロ)を超える長距離輸送 におけるトラック輸送の代替手段としてイン ターモーダル輸送が存在感を増していった。
ちなみにJ.B.ハントのトラック輸送の平均 輸送距離がほぼ五〇〇マイルであるのに対し て、インターモーダルにおける平均輸送距離 は一七〇〇マイルを超えている。
もっとも、九〇年代の同社は世間的には、 ウィスコンシン州に本社を置くシュナイダー・ ナショナルと同様の貸切輸送業者としてのイ メージが強かった。
そのイメージが大きく変 わるのは二〇〇〇年代に入ってからのことだ。
過当競争で運賃のたたき合いが激しくなって いた貸切輸送に依存し続ければ、ROI(投 資利益率)が低くなると判断した同社は、イ ンターモーダル部門に経営の軸足を移してい 図1 2010 年第1 四半期の決算 売上高 8 億4467 万ドル 16.9% インターモーダル 4 億6864 万ドル 19.7% 荷主専属輸送 2 億791 万ドル 15.9% トラック輸送 1 億1281 万ドル 11.0% ソリューション 6117 万ドル 8.3% 営業経費 7 億7723 万ドル 16.7% レンタル・輸送枠の購入 3 億7477 万ドル 25.2% 人件費 2 億830 万ドル 8.3% 燃料費・燃料税 8038 万ドル 35.7% 減価償却 4801 万ドル 1.4% 営業支出 3604 万ドル 1.2% 保険 1155 万ドル -2.5% その他の諸経費 666 万ドル -21.2% 営業税・ライセンス費用 653 万ドル -5.2% 通信・電気・ガスなど 499 万ドル 7.1% 営業利益 6744 万ドル 18.3% 支払利息 649 万ドル -3.9% 税引き前利益 6095 万ドル 22.9% 法人税 2346 万ドル 24.5% 最終利益 3748 万ドル 21.9% 潜在株式調整後一株当たりの利益 0.29ドル 20.8% (注)部門別の売上高のうち585 万ドルが重複している。
図2 J.B. ハントの業績の推移 400 350 300 250 200 150 100 50 0 2005 年2006 年2007 年2008 年2009 年 (単位:100 万ドル) 3,800 3,700 3,600 3,500 3,400 3,300 3,200 3,100 3,000 2,900 2,800 売上高(左軸) 営業利益(右軸) AUGUST 2010 54 った。
その判断が正しかったことは、世界同時 不況の影響を受 けた〇九年度の 決算においても、 貸切輸送部門 の赤字とは対照 的に、インター モーダル部門の 営業利益率が一 〇%を超えてい ることからもう かがえる(図3)。
同社が従来通り の貸切輸送中心 の経営を続けて いたなら、現在 倒産の瀬戸際に 立たされている YRCワールド ワイドや、利益 率の悪化に苦し むコンウエイの ようになってい た可能性が高い。
トンプソンC E Oはインター モーダルに参入 した当時を振り 返ってこう語る。
正確にコントロールできているという。
インターモーダル輸送に軸足移す 二〇〇〇年に入ってから、同社のインター モーダル部門には、三つの転機があった。
一 つは〇三年で、この年初めてインターモーダ ル部門の売り上げが貸切輸送部門を抜いた。
この年の売上高比率はインターモーダル部門 の三八%に対して、貸切輸送部門は三四%だ った。
さらに〇八年にはインターモーダル部 門の売上高が全体の五〇%を超えた。
そして〇九年十一月、同社はこれまで南西 部中心に築き上げてきたネットワークをアメリ カ東部にまで本格的に広げることを決断した。
東部に強力なネットワークを敷くノーフォー ク・サザン鉄道と複数年の契約を結び、同社 にとっては未開拓であった東部のインターモ ーダル事業に乗り出した。
北米東部はこれまでインターモーダルに向 かない市場と見られてきた。
一つ一つの州の 面積が大きな西部と比べて、東部の都市は隣 接しており、鉄道輸送が有利となる六〇〇マ イル以上の貨物の少ないことが理由の一つだ。
また東部の鉄道会社はこれまで、貨物輸送 への十分な設備投資を行ってこなかったため、 輸送効率の良い「ダブル・スタック(二段積 み)」コンテナ輸送のインフラが整っていなか った。
しかし、ここに来て遅ればせながら、東部 にネットワークを持つ鉄道会社も貨物輸送に 「二〇年前に当社がBNSFとインターモーダ ル部門を立ち上げた時、業界では﹃実験的だ﹄ としかみていなかった。
つまり誰もインター モーダルが、今のような収益源になるとは思 っていなかった。
しかし今日、インターモー ダルは、最も経済的で環境に優しい輸送モー ドの一つに発展した。
そして当社はこの業界 でトップの地位を占めている」 実際、同社は現在約八〇億ドルといわれる 北米のインターモーダル市場の約二割に当た る一七億ドルを同部門で売り上げ、業界トッ プの地位を維持している。
その理由としては、まず自社で鉄道コンテ ナを所有していることが大きい。
〇九年十二 月末の段階で四万本を超える自社コンテナを 所有している。
五年前と比べると一万本近く 増やしている。
鉄道コンテナは、鉄道会社が 所有するものを使うこともできるが、それで は高いサービスレベルを維持できないとの考 えから、自社の鉄道コンテナに投資を続けて いる。
同社はまた主要な鉄道貨物の拠点に、自社 専用の駐車場を構え、そこにトラクターとト レーラーを置いている。
これもまた鉄道会社 が用意した駐車場を使っていては機動的に動 くことができないという判断からだ。
しかもBNSFと長年にわたり取引を積み 重ねてきた結果、発着のコンテナを最優先に 出し入れできるようになっている。
このため、 同業他社に比べてリードタイムが短く、かつ 図3 J.B. ハントの主要4 部門 J.B. ハントいずれも2009 年12 月末の数字 所有コンテナ 4 万170 本 自社トラクター 2303 台 自社ドライバー 2780 人 従業員 3078 人 売上高 17 億6000 万ドル 営業利益率 10.4% インターモーダル部門(JBI) 下請け業者 3969 社 荷主の車両 359 台 物流センター 87カ所 従業員 5765 人 売上高 7 億5700 万ドル 営業利益率 8.3% 3PL 部門(DCS) “1人親方” 1163 人 自社トラクター 1698 台 自社ドライバー 1823 人 従業員 2150 人 売上高 4 億4700 万ドル 営業利益率 1100 万ドルの赤字 貸切輸送部門(JBT) 支社 12カ所 下請け業者 2 万2400 人 傭車比率 80%超 従業員 323 人 売上高 2 億5900 万ドル 営業利益 5% ソリューション部門(ICS) 55 AUGUST 2010 決めた。
実際、一〇年の第1四半期には、ト ラクターの数が一六〇〇台以下にまで減って いる。
今後も自社資産による貸切輸送を減らして いくが、その代わりとして下請けの輸送会社 や?一人親方(インデペンデント・コントラク ター)?を使ったノンアセット型の輸送部門を 立ち上げている。
それが「インテグレイテッ ド・キャパシティ・ソリューションズ部門= ICS」だ。
〇六年度に貸切輸送部門の一部 として従業員一八人で立ち上げ、〇七年に独 立した部門に昇格させた 〇九年度の決算の同部門の売上高は二・ 五億ドル台で、貸切輸送部門の半分強を占め、 利益率は五%を確保している。
現在は二万社 以上の下請け業者を使い、傭車比率は八〇% を超えている。
さらに今後数年をかけて、現 在の貸切輸送部門の業務を、ソリューション 部門に引き継いで、アセットライト(資産を 出来るだけ持たない経営)な体制を敷くこと で、トラック輸送においても一定の利益率を 確保したいと考えている。
同社にとって、現在インターモーダルに次 ぐ経営の柱となっているのが、九〇年代後半 に始めた「デディケイテッド・コントラクト・ サービシーズ部門=DCS」だ。
特定荷主と 専属契約を結ぶ3PL事業を意味している。
主要荷主は家電量販店の「ベスト・バイ」 や「ワールプール」、DIYの「ホームデポ」 や食品大手の「カーギル」など。
これらの大 手荷主に対し、クロスドッキングセンターを ベースにして、荷主各社のニーズに合わせカ スタマイズしたサービスを提供している。
現在、全米に八七カ所のセンターを構えて おり、センターから一五〇マイルの範囲の中 にアメリカの人口の九八%をカバーしている という(図4)。
年間の配送件数は、二〇〇 万件を超える。
同社においては、売上高と利 益率ともに、インターモーダル部門に次ぐ部 門であり、今後はセンターの数を一〇〇カ所 まで増やして、配送エリアの密度をさらに高 めていきたいとする。
(横田増生) 投資を始めたことで、東部市場への参入の条 件が整ったとJ .B.ハントは判断した。
今回の契約においても、東部の鉄道企業の 二強といわれるノーフォーク・サザン鉄道と CSXトランスポーテーションと交渉を進めな がら、貨物鉄道の投資により積極的だったノ ーフォーク・サザン鉄道を選んだ。
J.B.ハントは従来から貸切輸送部門におい ては東部も営業エリアとしていたため、東部 における市場の動きは把握しており、荷主も 既に確保できていた。
実際、一〇年第1四半 期決算の段階で既に、東部のインターモーダ ルの輸送量は前年同期比で二六%の増加を示 している。
順調な滑り出しであり、今後も同 社は東部でインターモーダル部門を伸ばしてい くことができるとしている。
貸切輸送は傭車に転換 同社のトンプソンCEOは〇九年度の年次 決算で、営業赤字を出した貸切輸送部門につ いてこう語っている。
「貸切輸送部門の業績 悪化は、もはや許容範囲を超えている。
これ からも当社は利益の上がらない荷主や貨物に ついて継続的に対応し、貸切輸送部門におい てアセット(資産)と利益のバランスがとれ るように細心の注意を払っていく」 同社が自社の資産を抱えて貸切輸送を行う ことに見切りをつけたのは〇七年のこと。
そ れまで五〇〇〇台以上抱えていたトラクター とドライバーを急ピッチで減らしていくことを
同社の二〇一〇年度第1四半期の決算は、 売上高が八億四四六七万ドル(七四三億三 一〇〇万円、前年同期比一六・九%増)、営 業利益が六七四四万ドル(同一八・三%増)、 最終利益が三七四八万ドル(同二一・九% 増)──の大幅な増収増益だった(図1)。
同社のカーク・トンプソン社長兼CEOは 今年度の経営環境と業績見通しについて次の ように説明する。
「われわれが過去三年間に経験した貨物業 界の不況はようやく終息の気配を見せ、今期 に入ってから貨物量は緩やかながら増加を始 めた。
これは荷主企業のサプライチェーン活 動が活発になったことに加えて、輸送業界に おける転廃業が増えたことで、輸送枠がタイ トになったことが要因としてあげられる。
さ らに、今年に入ってトラック輸送のスポット 価格が大きく上昇していることも、今後のさ らなる収益の改善につながるとみている」 アメリカのトラック輸送の一マイル当たり のスポット価格は昨年度から既に上昇に転じ ていた。
〇九年は一・二四ドルからはじまり、 〇九年の終わりには一・七ドルまで上がった。
一〇年に入っても上昇は続き、六月には二ド ル台に乗せている。
〇九年度の決算では同社も世界同時不況の 影響を受けるかたちで減収減益を余儀なくさ れた(図2)。
しかし一〇年第1四半期の業 績は、過去最高の売上高を上げた〇八年度の 決算数字と比べても遜色がないまでに回復し ている。
同社の組織は四つの事業部門から構成され る。
一〇年第1四半期の部門別の売上高と経 常利益は次の通り。
主力のインターモーダル部門の売上高は四 億六八六四万ドル(同一九・七%増)で、経 常利益は四七四七万ドル(同一四・九%増)。
3PL部門の売上高は二億七九一万ドル(同 一五・九%増)で、経常利益は一八三六万ド ル(同五・六%増)。
貸切輸送部門が一億一 二八一万ドル(同十一%増)で、経常利益が 六〇万ドル(前期は五八二万ドルの赤字)。
ソ リューション部門の売上高は六一一七万ドル (同八・三%増)で、営業利益が一一四万ド ル(前年同期比七二・二%減)。
また第1四半期末のキャッシュフローは七 七九万ドルで、前年同期末と比べると二倍以 上に増やしている。
投資会社のダルマン・ローズ社で輸送業界 のアナリストであるジェイソン・シードル氏は、 株式市場はJ .B.ハントの実力を過小評価して おり、現在三〇ドル台で推移している同社の 株価は四〇ドルまで上がるだろうと予測して いる。
モーダルシフト 米J.B.ハント 鉄道を利用したインターモーダル輸送で首位 トラック貸切輸送からの業態シフトが奏功 (注1)2009年12月期の数字 (注2)1ドル=88円で換算 企業概要本社 オランダ ホーフドルプ 社 名 J.B.ハント・トランスポート・サービシーズ 本 社 アーカンソー州ローエル 創 業 1961年 株 式 1983年にナスダックに上場 代表者 カーク・トンプソン社長兼CEO 売上高 32億300万ドル(2818億6400万円) 最終損益 1億3600万ドル(119億6800万円) 従業員数 1万2171人 53 AUGUST 2010 「トラック輸送のスポット価格が上昇してい ることに加えて、昨年の〇九年から本格的に 開始したアメリカ東部のインターモーダル輸送 が二〇%以上の伸びとなっていること、さら に、同社が荷主が幅広く選べるサービスメニ ューをそろえていることが好材料」とシード ル氏は語る。
鉄道貨物の増加を追い風に 同社は一九六九年にジョニー・ブライア ン・ハント氏(J.B.ハント氏)が貸切輸送業 者として、五台のトラックと七台のトレーラ ーで立ち上げた。
八三年にはナスダック市場 に上場を果たし、九五年に六八歳で現役を退 くまで、ハント氏はオーナー経営者として同 社を牽引した。
生家が貧しかったハント氏は、十二歳で学 校教育を終え、親戚の経営する製材所で働い たのを皮切りに、その後三〇年にわたりさま ざまな職業につきながら自分で事業を始める 資金を蓄えてきた。
JBハントを立ち上げた のは四二歳の時だった。
そのJ.B.ハントが飛躍するキッカケとなっ たのは、八九年のインターモーダル輸送市場 への参入だった。
トラック輸送に比べると小 さな市場ではあったが、貨物量は急増してい た。
北米インターモーダル協会の統計数字に よれば、インターモーダルの貨物量(積み替 え回数で数える)は、八〇年の約三〇〇万回 から九〇年の約六〇〇万回へと大きな伸びを 見せている。
ハント氏はインターモーダル輸送 を、それまで経営の柱としてきた 貸切輸送に次ぐ、第二の柱に位置 付けた。
鉄道貨物輸送大手のバー リントン・ノーザンサンタフェ鉄道 (BNSF)と手を組み、アメリカ 南西部を中心にインターモーダル輸 送のネットワークを築いていった。
この戦略が九〇年代に実を結んだ。
同じ時期に日本では鉄道貨物輸 送や通運業が衰退していったのと は裏腹に、国土の広い米国では九 〇年代以降も、六〇〇マイル(一 〇八〇キロ)を超える長距離輸送 におけるトラック輸送の代替手段としてイン ターモーダル輸送が存在感を増していった。
ちなみにJ.B.ハントのトラック輸送の平均 輸送距離がほぼ五〇〇マイルであるのに対し て、インターモーダルにおける平均輸送距離 は一七〇〇マイルを超えている。
もっとも、九〇年代の同社は世間的には、 ウィスコンシン州に本社を置くシュナイダー・ ナショナルと同様の貸切輸送業者としてのイ メージが強かった。
そのイメージが大きく変 わるのは二〇〇〇年代に入ってからのことだ。
過当競争で運賃のたたき合いが激しくなって いた貸切輸送に依存し続ければ、ROI(投 資利益率)が低くなると判断した同社は、イ ンターモーダル部門に経営の軸足を移してい 図1 2010 年第1 四半期の決算 売上高 8 億4467 万ドル 16.9% インターモーダル 4 億6864 万ドル 19.7% 荷主専属輸送 2 億791 万ドル 15.9% トラック輸送 1 億1281 万ドル 11.0% ソリューション 6117 万ドル 8.3% 営業経費 7 億7723 万ドル 16.7% レンタル・輸送枠の購入 3 億7477 万ドル 25.2% 人件費 2 億830 万ドル 8.3% 燃料費・燃料税 8038 万ドル 35.7% 減価償却 4801 万ドル 1.4% 営業支出 3604 万ドル 1.2% 保険 1155 万ドル -2.5% その他の諸経費 666 万ドル -21.2% 営業税・ライセンス費用 653 万ドル -5.2% 通信・電気・ガスなど 499 万ドル 7.1% 営業利益 6744 万ドル 18.3% 支払利息 649 万ドル -3.9% 税引き前利益 6095 万ドル 22.9% 法人税 2346 万ドル 24.5% 最終利益 3748 万ドル 21.9% 潜在株式調整後一株当たりの利益 0.29ドル 20.8% (注)部門別の売上高のうち585 万ドルが重複している。
図2 J.B. ハントの業績の推移 400 350 300 250 200 150 100 50 0 2005 年2006 年2007 年2008 年2009 年 (単位:100 万ドル) 3,800 3,700 3,600 3,500 3,400 3,300 3,200 3,100 3,000 2,900 2,800 売上高(左軸) 営業利益(右軸) AUGUST 2010 54 った。
その判断が正しかったことは、世界同時 不況の影響を受 けた〇九年度の 決算においても、 貸切輸送部門 の赤字とは対照 的に、インター モーダル部門の 営業利益率が一 〇%を超えてい ることからもう かがえる(図3)。
同社が従来通り の貸切輸送中心 の経営を続けて いたなら、現在 倒産の瀬戸際に 立たされている YRCワールド ワイドや、利益 率の悪化に苦し むコンウエイの ようになってい た可能性が高い。
トンプソンC E Oはインター モーダルに参入 した当時を振り 返ってこう語る。
正確にコントロールできているという。
インターモーダル輸送に軸足移す 二〇〇〇年に入ってから、同社のインター モーダル部門には、三つの転機があった。
一 つは〇三年で、この年初めてインターモーダ ル部門の売り上げが貸切輸送部門を抜いた。
この年の売上高比率はインターモーダル部門 の三八%に対して、貸切輸送部門は三四%だ った。
さらに〇八年にはインターモーダル部 門の売上高が全体の五〇%を超えた。
そして〇九年十一月、同社はこれまで南西 部中心に築き上げてきたネットワークをアメリ カ東部にまで本格的に広げることを決断した。
東部に強力なネットワークを敷くノーフォー ク・サザン鉄道と複数年の契約を結び、同社 にとっては未開拓であった東部のインターモ ーダル事業に乗り出した。
北米東部はこれまでインターモーダルに向 かない市場と見られてきた。
一つ一つの州の 面積が大きな西部と比べて、東部の都市は隣 接しており、鉄道輸送が有利となる六〇〇マ イル以上の貨物の少ないことが理由の一つだ。
また東部の鉄道会社はこれまで、貨物輸送 への十分な設備投資を行ってこなかったため、 輸送効率の良い「ダブル・スタック(二段積 み)」コンテナ輸送のインフラが整っていなか った。
しかし、ここに来て遅ればせながら、東部 にネットワークを持つ鉄道会社も貨物輸送に 「二〇年前に当社がBNSFとインターモーダ ル部門を立ち上げた時、業界では﹃実験的だ﹄ としかみていなかった。
つまり誰もインター モーダルが、今のような収益源になるとは思 っていなかった。
しかし今日、インターモー ダルは、最も経済的で環境に優しい輸送モー ドの一つに発展した。
そして当社はこの業界 でトップの地位を占めている」 実際、同社は現在約八〇億ドルといわれる 北米のインターモーダル市場の約二割に当た る一七億ドルを同部門で売り上げ、業界トッ プの地位を維持している。
その理由としては、まず自社で鉄道コンテ ナを所有していることが大きい。
〇九年十二 月末の段階で四万本を超える自社コンテナを 所有している。
五年前と比べると一万本近く 増やしている。
鉄道コンテナは、鉄道会社が 所有するものを使うこともできるが、それで は高いサービスレベルを維持できないとの考 えから、自社の鉄道コンテナに投資を続けて いる。
同社はまた主要な鉄道貨物の拠点に、自社 専用の駐車場を構え、そこにトラクターとト レーラーを置いている。
これもまた鉄道会社 が用意した駐車場を使っていては機動的に動 くことができないという判断からだ。
しかもBNSFと長年にわたり取引を積み 重ねてきた結果、発着のコンテナを最優先に 出し入れできるようになっている。
このため、 同業他社に比べてリードタイムが短く、かつ 図3 J.B. ハントの主要4 部門 J.B. ハントいずれも2009 年12 月末の数字 所有コンテナ 4 万170 本 自社トラクター 2303 台 自社ドライバー 2780 人 従業員 3078 人 売上高 17 億6000 万ドル 営業利益率 10.4% インターモーダル部門(JBI) 下請け業者 3969 社 荷主の車両 359 台 物流センター 87カ所 従業員 5765 人 売上高 7 億5700 万ドル 営業利益率 8.3% 3PL 部門(DCS) “1人親方” 1163 人 自社トラクター 1698 台 自社ドライバー 1823 人 従業員 2150 人 売上高 4 億4700 万ドル 営業利益率 1100 万ドルの赤字 貸切輸送部門(JBT) 支社 12カ所 下請け業者 2 万2400 人 傭車比率 80%超 従業員 323 人 売上高 2 億5900 万ドル 営業利益 5% ソリューション部門(ICS) 55 AUGUST 2010 決めた。
実際、一〇年の第1四半期には、ト ラクターの数が一六〇〇台以下にまで減って いる。
今後も自社資産による貸切輸送を減らして いくが、その代わりとして下請けの輸送会社 や?一人親方(インデペンデント・コントラク ター)?を使ったノンアセット型の輸送部門を 立ち上げている。
それが「インテグレイテッ ド・キャパシティ・ソリューションズ部門= ICS」だ。
〇六年度に貸切輸送部門の一部 として従業員一八人で立ち上げ、〇七年に独 立した部門に昇格させた 〇九年度の決算の同部門の売上高は二・ 五億ドル台で、貸切輸送部門の半分強を占め、 利益率は五%を確保している。
現在は二万社 以上の下請け業者を使い、傭車比率は八〇% を超えている。
さらに今後数年をかけて、現 在の貸切輸送部門の業務を、ソリューション 部門に引き継いで、アセットライト(資産を 出来るだけ持たない経営)な体制を敷くこと で、トラック輸送においても一定の利益率を 確保したいと考えている。
同社にとって、現在インターモーダルに次 ぐ経営の柱となっているのが、九〇年代後半 に始めた「デディケイテッド・コントラクト・ サービシーズ部門=DCS」だ。
特定荷主と 専属契約を結ぶ3PL事業を意味している。
主要荷主は家電量販店の「ベスト・バイ」 や「ワールプール」、DIYの「ホームデポ」 や食品大手の「カーギル」など。
これらの大 手荷主に対し、クロスドッキングセンターを ベースにして、荷主各社のニーズに合わせカ スタマイズしたサービスを提供している。
現在、全米に八七カ所のセンターを構えて おり、センターから一五〇マイルの範囲の中 にアメリカの人口の九八%をカバーしている という(図4)。
年間の配送件数は、二〇〇 万件を超える。
同社においては、売上高と利 益率ともに、インターモーダル部門に次ぐ部 門であり、今後はセンターの数を一〇〇カ所 まで増やして、配送エリアの密度をさらに高 めていきたいとする。
(横田増生) 投資を始めたことで、東部市場への参入の条 件が整ったとJ .B.ハントは判断した。
今回の契約においても、東部の鉄道企業の 二強といわれるノーフォーク・サザン鉄道と CSXトランスポーテーションと交渉を進めな がら、貨物鉄道の投資により積極的だったノ ーフォーク・サザン鉄道を選んだ。
J.B.ハントは従来から貸切輸送部門におい ては東部も営業エリアとしていたため、東部 における市場の動きは把握しており、荷主も 既に確保できていた。
実際、一〇年第1四半 期決算の段階で既に、東部のインターモーダ ルの輸送量は前年同期比で二六%の増加を示 している。
順調な滑り出しであり、今後も同 社は東部でインターモーダル部門を伸ばしてい くことができるとしている。
貸切輸送は傭車に転換 同社のトンプソンCEOは〇九年度の年次 決算で、営業赤字を出した貸切輸送部門につ いてこう語っている。
「貸切輸送部門の業績 悪化は、もはや許容範囲を超えている。
これ からも当社は利益の上がらない荷主や貨物に ついて継続的に対応し、貸切輸送部門におい てアセット(資産)と利益のバランスがとれ るように細心の注意を払っていく」 同社が自社の資産を抱えて貸切輸送を行う ことに見切りをつけたのは〇七年のこと。
そ れまで五〇〇〇台以上抱えていたトラクター とドライバーを急ピッチで減らしていくことを
