2010年8月号
グローバルSCM

第3回 在庫日数と需給計画プロセス

AUGUST 2010  32  食品メーカーの在庫削減には二つの壁があ る。
一つ目の壁は在庫日数二六日前後、二つ 目の壁は二〇日前後にそびえている。
これを 乗り越えるには需給計画プロセスの抜本的な 改革が必要だ。
SCMの実態調査(※注)と、 実績データを基に行った在庫シミュレーション から明らかになった。
(※注)アビームコンサルティングが今年二月に発 表した「日本型SCMの将来」。
日本の一般消費 財(CPG)メーカーを対象にSCMの実態を調 査した。
本連載は同レポートをベースにしている。
 日本のCPG(Consumer Packaged Goods: 一般消費財)メーカーは、製商品在庫日数の 水準から大きく三つに分類できる。
在庫日数 が一五日未満のグループ(グループ1)、在庫 日数が二〇〜二六日未満のグループ(グルー プ2)、在庫日数が三〇日以上のグループ(グ ループ3)の三つである。
 このうちグループ1は一九九〇年代に在庫 削減を軌道に乗せた食品メーカーであり、グ ループ2は二〇〇〇年代に入ってから在庫削 減に本格着手した食品メーカー、そしてグルー プ3は過去に在庫削減に着手したが未だ軌道 に乗せられていない食品メーカーおよび日用 雑貨品メーカーであったと前号で述べた。
 それでは在庫削減を軌道に乗せるというこ とは、具体的にはどのようなことなのであろ うか。
在庫削減に成功している企業は、どの ようにサプライチェーンの管理を行っているの であろうか。
今号では需給管理のプロセスに スポットライトをあて、それを詳しく述べる。
生産計画が在庫日数を規定する  在庫計画サイクルを短くすると在庫は削減 される。
これはすでに常識となっている数々 の在庫管理方式から明らかである。
メーカー の場合に在庫計画サイクルは、?生産計画バ ケット(一計画あたりの対象期間)、?生産 ロットサイズ(一ロットあたり何日分の在庫が 作られるか)、?生産計画リードタイム(現時 点で立てている計画が何日先に生産されるも のか)、そして?生産調整頻度の四つ要因か ら、おおまかに規定される。
 これら四つの要因の中でも在庫日数に最も 大きく影響するのは、?生産計画バケットで ある。
一般的に、月次生産の企業であれば、 毎月二五日前後に翌月の生産計画を立案する。
週次に翌週の生産計画を立案する場合には、 毎週水曜日頃を目途に翌週の生産計画を立案 する。
 在庫管理方式で言えば、これは「定期不定 量発注方式(一定期間ごとに必要量を発注す る方式)」であり、生産計画バケットの単位、 時間の刻み方が、その企業の在庫量を示すグ ラフの山の高さを第一義的に規定する。
 次に影響が大きいのは?生産ロットサイズ である。
たとえ生産計画バケットが一週間で あっても、ロットサイズが市場の需要より大 きければ、生産間隔は必然的に長くなる。
第回 アビームコンサルティング 経営戦略研究センター 次世代を拓く 日本型SCM が 梶田ひかる 在庫日数と需給計画プロセス 3 33  AUGUST 2010 日本型SCMが次世代を拓く  前号でも述べたように日雑メーカーは生産 ロットサイズが大きいために、在庫日数が多 くなっている。
食品メーカーでもロットサイズ が大きいメーカーほど、在庫日数は多くなる 傾向にある。
 ?生産リードタイムは安全在庫量を規定す る。
仮に生産リードタイムが一週間以内と短 く、翌週の生産計画を週単位で立てるなら、 基本的に安全在庫は一週間の需要変動に対応 する分で済む。
 しかしながら、急激な需要変動は常に発生 しうる。
生産計画バケットの対象期間中に、 在庫が足りなくなったり、逆に出荷がいきな り少なくなったりすることはある。
 ?生産調整頻度を高めることで、そうした 事態への対応が可能になる。
生産開始直前ま で計画を日々修正することで需要変動に対応 し、安定的に在庫を削減するのである。
 在庫管理方式で言えばこれは、「発注点法 (在庫量が発注点を下回った時点で一定量を 発注する方式)や「ミニ・マックス法(在庫 量が発注点を下回った時点で、あらかじめ定 めた在庫の上限値との差分を発注する方式)」 などの「不定期方式」に分類される。
 このように、在庫日数を規定するのが生産 計画の立て方であることは、在庫管理方式と の関連からも説明できる。
そのことは以下に 見るように、今回の調査対象となった一八社 の生産計画バケット、リードタイム、生産調 整ルールの有無からも、顕著な傾向として読 み取れる(図1)。
グループ1 ──デイリー生産調整をルール化  在庫日数一五日未満のグループ1に属する 企業の需給計画プロセスの特徴は、いずれも 生産計画を生産直前までデイリーで見直すルー ルが存在することである。
 日本のメーカーでは業種に関わらず、工場 の生産計画担当者が、そのような変化を察知 して、生産量の修正やライン計画の組み換え などを行っていることが珍しくない。
 ただし、このような生産調整は多くの場合、 生産計画担当者個人の判断で行われている。
そのため工場によって対応が異なったり、ま た生産計画担当者が変わると対応も変わって しまう。
文句をいってくる人の声の大きさで 対応が変わることもある。
 それを会社としてルール化しているのが、 グループ1企業群である。
これらの企業には 以下のような共通する特徴が見られる。
ルー ル化の前提と言えるだろう。
●在庫削減の重要性を需給計画に関わる部門 間で共通の認識としている ●生産調整をSCM部門とは異なる部署で行っ ている ●需要情報、出荷実績、生産計画を、関連部 署がそれぞれ情報システム上で相互にチェッ クできるようになっている  グループ1企業群における需給調整の一般 的パターンは、SCM部門で週(旬)次に生 産計画を立案し、SCM部門ではない部門で、 日々の在庫量変動、出荷変動を見ながら、生 産直前までデイリーで生産計画の見直しを行 なうというものである。
 例えばグループ1企業群に分類されるキッ コーマンでは、デイリーで需要計画および在 庫の上下限を調整し、その範囲内に在庫量が 図1 在庫日数と生産計画 在庫日数 グループ1 15 日未満 15 〜 20 日未満 グループ2 20 〜 26 日未満 26 日〜 30 日未満 グループ3 30 日以上 生産計画 バケット 生産計画 リードタイム デイリー 生産調整 ルール 食品メーカー3社 食品メーカー1社 食品メーカー2社 食品メーカー4社 食品メーカー1社 食品メーカー2社 食品メーカー1社 日雑メーカー2社 日雑メーカー1社 日雑メーカー1社 週 日 週 週 週 週 月 月 週 週 翌週 N/A 翌週 翌々週 週 翌々週 翌月 翌月 翌々週 翌週 有 N/A 無 無 有 有 無 無 有 有 ※「旬」(10日単位)で管理している企業については、上表で「週」と表示している。
※在庫日数は、各社からうかがった日数について、売上原価ベースに調整して使用している。
※生産計画リードタイムは、今週に立てる生産計画がいつのものかを指す。
※デイリー生産調整ルール「有」は、需要の変化に応じた生産の直前までの細かな調整を会 社としてルール化していることを指す。
c 2010 ABeam Consulting AUGUST 2010  34 収まるように生産を行っている。
これは事実 上、デイリーで生産計画を立案していること になる。
 これらの企業で、SCM部門が他部門に安 心して生産計画調整を任せられるのは、どの ような基準でそれが調整されるかをわかって いるからである。
そしてその経過および結果 についても、常に情報システムでチェックでき る。
そのために問題の発生を早期に把握でき る。
また生産部門の機会主義的行動、つまり ロットを大きくして製造原価を下げようとす る動きを抑制できるのである。
グループ2──SCPによる標準化  製商品在庫日数が二〇日〜二六日未満であ るグループ2は、二〇〇〇年以降にSCMに 本格的に取り組んだ企業から構成される。
グ ループ3からグループ1に向かう移行期にある 企業群と言える。
 グループ2に共通しているのは生産計画パ ケットが一週間単位だということである。
 その他の仕組みについては各社各様となっ ているが、今回調査でグループ2に分類され た九社中の五社は「SCP(Supply Chain Planning :サプライチェーン計画ソフト)」を 導入し、それと同時にSCM機能・権限の集 中化、生産計画の週次化、業務の標準化を 行なっている。
二〇〇五年頃の第二次SCM ブーム時にSCPを導入した企業群なのであ る。
 ただし、これら五社のうち四社は、グルー プ1と違って、デイリーでの生産計画見直し を行っていない。
 またSCPを導入していない九社中の残り 四社は、過去にSCPを導入したがカスタム メイドで作り変えた企業、SCPを需要の比 較的安定している商品に限って使用している 企業、最初からカスタムメイドとした企業、 マイクロソフト製のデータベース「Access」と 表計算ソフト「Excel」を使用している企業 である。
 清涼飲料メーカーが多いのも、グループ2 の特徴である。
飲料メーカーの場合、夏場の 需要が著しく多いため、そのような山場の生 産を一部「パッカー」と呼ばれるボトル(缶) 詰め事業者に委託している。
そのために二週 間前までに生産委託量を決定する必要がある。
つまり生産計画リードタイムが二週間となる。
グループ3 ──生産部門が生産計画握る  加工食品メーカーでこのグループに分類さ れたのは、生産計画立案を月次で行っている 一社だけだった。
日用雑貨品メーカーの四社 中二社も月次で生産計画を立案している。
月 次での生産計画立案は、製商品在庫が三〇日 以上になる主因と考えられる。
 しかしながら、日用雑貨品メーカーの中に も、週単位で生産計画立案を行い、しかも 生産直前までのデイリーで生産調整を行って いる企業はある。
それでもなお製商品在庫が 三〇日以上となってしまうのは、なぜなので あろうか。
 生産ロットサイズの大きさ、予測困難かつ 大量な特売といった環境要因が、その原因な のであれば、環境を変えられない限り、日用 雑貨品メーカーは在庫を三〇日以下に削減で 図2 在庫日数と計画立案部門 グループ1 15日未満 グループ2 20 〜 26 日未満 グループ3 30日以上 加工食品 メーカー 日用雑貨 メーカー ブロック内の購買・生産・物流が合議で決定 SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM 生産 SCM SCM SCM SCM 生産 SCM SSC 生産 生産 生産 SCM SCM 生産 SCM SCM SCM 生産 生産 生産 生産 生産 生産 生産 SSC SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SCM SSC SSC SCM SCM 物流 SCM 需要計画生産計画供給計画 少 多 c 2010 ABeam Consulting 35  AUGUST 2010 日本型SCMが次世代を拓く きないということになってしまう。
 そこで我々が注目したのは、計画立案組織 である。
 図2は、調査対象企業を製商品在庫日数の 少ない順に並べて、各社の需要計画、生産計 画、供給計画の立案部門を列記したものであ る。
ここで「SCM」としているのは在庫監 視の役割を担っている部門、「SSC」とし ているのは物流子会社やシェアードサービス会 社などの機能子会社である。
 このように並べてみたところ、生産計画に ついては、在庫の少ないグループ1と、在庫 の多いグループ3で、共に生産部門が生産計 画立案を行っているという傾向が見られた。
製商品在庫三〇日以上のグループ3に限れば、 全社が生産計画立案を生産部門が行っている。
 以上のことから、各グループの需給計画プ ロセスの特徴をまとめたものが図3である。
これらから見えてくる在庫削減の道筋につい ては、回を改めて深掘りしていくが、その前 に在庫削減の「壁」について考察しておきたい。
在庫の壁の存在  すでに述べたように、本調査で我々がイン タビューを行った企業は、その在庫日数から 大きく三つのグループに分類できるが、それ ぞれのグループの間には在庫日数の空白期間 が存在する。
 具体的には、グループ3の在庫日数「三〇 日以上」とグループの2の「二〇日以上〜 二六日未満」の間、つまり「二六日以上〜 三〇日未満」に該当する企業は一社もなかった。
同様にグループ2とグループ1の間となる「一五 日以上〜二〇日未満」の企業もなかった。
 この現象が、偶然によるものなのか、ある いはこのような在庫の「壁」が一般的に存在 するものなのかについては検証が必要であろう。
 これまで見てきたように、在庫日数が三つ のグループに分かれた理由の一つは、SCM への本格的な着手時期によるものであった。
 そして今回の需給管理プロセスの比較で明 示したように、グループ3からグループ2への 移行は、月次生産計画から週次生産計画への 変更、あるいは生産計画立案の生産部門から AUGUST 2010  36 日本型SCMが次世代を拓く  従って、グループ2の企業が二〇日の壁を 乗り越えるには、図3であげたグループ1の 需給プロセスに組み替えるとともに、生産ロッ トサイズの縮小、一ロットあたりの在庫日数 が大きい製商品のアイテムカット、特売品受 注プロセスの見直しなどを同時に行なうこと が必要だと考えられるのである。
い壁があると思われる。
 実際、インタビューを行った企業からも、 「在庫がどうしても二六日を切らなかったため、 SCPを導入して週次生産に切り替えた」、「在 庫が一カ月弱からなかなか減らず、原因を一 つずつ究明して解決していったところ、よう やく順調に在庫が減り始めた」という話を聞 いている。
 またグループ2からグループ1へ移行できた という事例は、我々の調査では残念ながら見 つけられなかった。
今回の調査でグループ1 に区分された四社はいずれも一九九〇年頃に はすでに製商品在庫日数で二〇日を切ってい た。
 しかしながらこちらも、在庫推移シミュレー ションから推測できる。
数社の実績データに 基づいて、毎週水曜日に翌週分の生産計画を 立案し、そのとおりに生産するというシミュ レーションを行った結果、いずれも在庫水準 は二〇日程度になった。
 つまり、このプロセスのままでは二〇日あ たりで壁にぶつかることになる可能性が高い。
それを在庫が一定レベルを切ったら生産する という不定期発注方式に変えてシミュレーショ ンしてみたところ、在庫を二〇日よりも減ら すことができた。
 ただし、どこまで減らせるのかについては、 アイテム別の生産ロットサイズが影響する。
生 産ロットの一単位が、そのアイテムの何日分 の在庫に相当するのかということが制約になる。
SCM部門への移管が影響している。
 さらにグループ2からグループ1への移行に は、需給計画の関連部門間での可視化・ルー ル化および生産直前までの生産計画の見直し が有効と考えられる。
 それでは、これらの抜本的なプロセス改革 をせずに、既存プロセスのまま改善を重ねた 場合には、どこまでの在庫削減が可能なので あろうか。
これについては、経年で複数社の 比較調査を行わなければ明確な回答はできな いが、加工食品メーカーに限れば、ある程度 の推測はできる。
 まず、グループ3からグループ2への移行に ついては、概ね二六日あたりに「月次生産計 画と生産部門側での自主的な生産直前までの 計画見直し」という方法では乗り越えられな 梶田ひかる(かじた・ひかる) 1981年、南カリフォルニア大学OR理学修士 取得。
同年、日本アイ・ビー・エム入社。
91 年、日通総合研究所入社。
2001年、デロイト トーマツコンサルティング入社(現アビームコ ンサルティング)。
現在に至る。
電気通信大 学大学院情報システム学科学術博士。
中央職 業能率開発協会「ロジスティクス管理2級・3 級」のテキスト共同監修のほかSCM関連の著 書多数。
アビームコンサルティングHP http:// jp.abeam.com 図3 各グループと需給計画プロセスの特徴 グループ1 15日未満 グループ2 20 〜 26 日未満 グループ3 30日以上 c 2010 ABeam Consulting ●生産部門が生産計画を立案 ●生産計画バケットは月単位の 企業が多い ●生産計画バケットは週単位 ●生産計画バケットは週(旬・ 日)単位 ●SCM 部門以外が生産計画を 立案し、生産直前まで生産計 画の見直しを行なっている ●各種計画、在庫および出荷実 態は、関連部門間で可視化さ れている

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