ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年9号
現場改善
第92回 化学品商社Z社の最適化プロジェクト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

75  SEPTEMBER 2010 「最適化」とはいうものの…  化学品の輸入販売をメーンとするZ社は東 京に本社を置く年商五〇〇億円の中堅商社だ。
Z社のS社長とは、筆者が日本ロジファクトリ ー(NLF)を創業した一四年前からの付き 合いである。
といっても、時候の挨拶を交わ す程度で、直接コンタクトをとる機会はしば らく途絶えていた。
 そんなS氏から連絡が入った。
物流コンサ ルティングの相談だという。
筆者が知り合った 当時、S氏は常務の肩書きであったが、その 後社長に昇進したとは聞いていた。
社名もそ の頃とは変わって、旧社名の前にもう一つ別 の社名がくっついていた。
三年前に同業他社 を買収したことによる社名変更だった。
 久しぶりにお会いするS社長は、額の生え 際もすっかり後退し、既に初老の趣となって いた。
しかし、物流に対する意識は昔と変わ っていなかった。
むしろ経営トップに上りつ めたことで、Z社が卸として生き残っていく ためには物流の高度化が不可欠だという意識 を以前にも増して強めているようだった。
 この一四年間でZ社は三度のM&Aを実施 していた。
同業他社との経営統合による規模 拡大は、中間流通の再編という荒波を乗り切 るうえでは正攻法とも言える施策だろう。
し かし、M&A後の物流管理体制の統合や物流 拠点の再編は後回しになっていた。
そこにメ スを入れて、「物流を最適化したい」というの が、S社長の依頼の主旨だった。
 (物流の最適化か‥‥)  正直なところ筆者は、S社長の口から「最 適化」という三文字が出てきた時点で、一つ の予断を持った。
具体的に何をしたいのか、最 適化を測る基準は何か、ベンチマークとなる企 業はあるのか、それをいつまでに実現させた いのか等々、プロジェクトの目的や目指す先が 明確になっていないのだろうと予測したので ある。
 というのも、これまでの筆者のコンサルティ ング経験を振り返ると、「最適化」をテーマに 挙げたクライアントには、どこもそうした傾向 があったからだ。
 プロジェクトの成果が明確でないというの は、実は我々コンサルタントにとっては都合の 良い?潰しの利く?案件である。
またプロジ ェクトに参加する社内のメンバーたちにとって 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  買収を重ね、規模を拡大することで中間流通の再編を生き抜 いてきた。
しかし物流の統合が後回しになっていた。
各拠点で それぞれに日々の運営を処理しているだけで、物流管理に責任 を持つ部署はなく、専門知識を持った人材もいなかった。
経営 者は強い危機感を持って「物流最適化」に乗り出した。
化学品商社Z社の最適化プロジェクト 第92 回 SEPTEMBER 2010  76 も、逃げが利くので気が楽だ。
しかし、当社 にコンサルティングを依頼したことがムダにな ってしまえば、筆者はS社長に顔向けできな いことになる。
NLFの名折れでもある。
 そんなことから今回の案件は、プロジェク トに着手する準備段階に多くの時間を費やす ことになった。
S社長の求める最適化の具体 的な最終像を明らかにし、それを実現するた めの体制作りや方法を検討し、さらにはプロ ジェクトを開始することに対する社内合意を 形成することに、約七カ月の時間を割いたの である。
 現在のような不況期の物流プロジェクトと なると、通常はコストダウンをゴールに置いて、 そこから必要な改革や改善ポイントを検討し ていくのであるが、S社長の要望は必ずしも コストダウンだけではなかった。
 本社スタッフ部門としての在庫管理部門の 設置、受注センター設立による業務の集約と 効率化など、?守り?を固める施策と並行して、 納品リードタイムの短縮による顧客サービス向 上、そのために必要な新センター設立などの ?攻め?も視野に入れていた。
 
喙卍垢函■攫劼離淵鵐弌治欧任△襭拈賁魁 そして我々NLFの三者でこれらのテーマを検 討し、プロジェクトの大枠を固めていった。
そ の話し合いのなかでZ社がM&A後の統合作 業に難渋し、組織内の役割分担の整理や必要 な権限委譲などが進んでいないことを知るこ とになった。
 長い準備期間を経た後に、満を持してプロ ジェクトのキックオフミーティングをZ社の基 幹センターで開催した。
このミーティングには もちろんS社長も同席した。
今回のプロジェ クトをトップダウンで進めていくという意思表 明である。
 しかし、プロジェクトはそのスタートから大 きな壁にぶつかった。
ミーティング参加者の口 から出てくる言葉は「ウチの物流は特殊なん です」「荷姿や納入方法が顧客によってバラバ ラなんです」といった言い訳ばかりであった。
それは変化に対する防波堤であった。
 物流改革に生き残りを賭けるS社長やY専 務と、現場との間には大きな温度差があった。
しかもセンター長の一名を除き、他のプロジェ クトメンバーは全員が物流専任ではなく、他の 業務との掛け持ちで物流管理を担当させられ ていた。
現状認識、改善意識、物流知識とい う三つの?不識?は明らかであった。
 
喙卍垢筍拈賁海發海両況は重々理解して いた。
トップダウンの指令が現場まで届かな い。
業務に落とし込むところでストップして しまう。
しかしM&AでZ社と統合した会社 のスタッフにはベテラン社員が多く、単純な人 事異動だけでは社員の意識を改革するところ まで到底たどり着けないだろう。
 それが分かっていたからこそ、S社長は我々 NLFに改革支援を依頼したのである。
客 観的な立場から外部の専門家に将来のZ社の ?あるべき姿?を提示させることを契機として、 硬直化した組織を打破し、改革・改善のアク セルを踏みたいという狙いがあった。
 この状況を見て我々NLFは、メンバーを 集めて定期的にミーティングを行うという通常 のプロジェクトの進め方ではなく、節目節目で NLFが報告会を実施し、その場でメンバー たちからの質疑応答を行うことで、軌道修正 しながらプロジェクトを進めるという運営スタ イルをとることを提案した。
 我々NLFが各現場に出向いて現状に応じ たアドバイスをしても、それを現場が受け止め て自律的に改善活動を進めていくのは難しい と判断したのである。
まずは“守り”を固める  こうして筆者のセンター視察の旅が始まっ た。
視察先は五カ所。
うち一カ所はM&Aで 吸収した卸の地方拠点だが、仕入先からも納 入先からも移動距離が長い。
これは明らかに 不要であった。
 残り四カ所は東西に二カ所ずつ配置されて いた。
キックオフミーティングでメンバーが説 明していた通り、各センターとも確かに荷姿が バラバラであった。
袋物、パック品、フレコン バック、段ボール、タンク、ドラム缶など、多 様な荷姿の製品が、パレット、オリコン、ケー ス、そのまま直置きなど、それぞれの状態で 保管されていた。
 見たところ段積みが不可能な製品も多かっ た。
庫内レイアウトや保管ロケーションの見直 しの際には、仮置き用のスペースを確保する必 要があった。
ただし、四カ所のセンターのうち 一カ所は備蓄型センターで、一年に五カ月程 77  SEPTEMBER 2010 度しか稼働していないという。
それが使える かも知れないとあたりをつけた。
 この視察ツアーのヒアリング対象者は七人で あった。
Z社ではセンター運営を各地の物流会 社に委託しており、センターにZ社の社員は 常駐していない。
その状態でどのような管理 を行っているのかに注目していたが、案の定 というべきか、担当者の業務内容は、支払物 流費とセンターの収支管理、トラブル・イレギ ュラー発生時の協力物流会社への指示にとど まっていた。
他の仕事と掛け持ちで物流管理 を任されている以上、これは仕方のないこと だろう。
 以上の視察とヒアリングを元に我々NLFは S社長とY専務に調査結果を報告した。
具体 的には、プロジェクトの第一段階として以下の 三つの項目を実施することを提案した。
?拠点集約  買収した地方卸に由来する一拠点は閉鎖。
残る四拠点を東西二拠点に集約する ?幹線輸送の共同化  各拠点がそれぞれに幹線輸送を手配する のを改め、統合管理することで効率化する ?物流専任担当者の設置  物流担当者の兼務体制を改める  ?拠点集約ではまず、仕入先や港からの距 離と時間、納入先へのリードタイムを考慮して 最適立地を選定する作業を行った。
その結果、 東日本、西日本とも、現有の一センターが理 想的なエリアに立地していることが判明し、そ のセンターをそれぞれ拡張することになった。
 問題は集約によって閉鎖することになる東 西の各一センターが、土地・建物ともZ社が 所有する自社物件であることだった。
集約後 の活用方法を見出さなければならない。
 売却するか、あるいは物流パートナー企業 への賃貸という手段をとるのが普通だが、現 在のような環境では売却といっても、よほど 価格を下げない限り、買い手を見つけるのは 困難だ。
 また物流パートナー企業への貸借は、コンペ 実施時における付帯要望事項として、「提案依 頼書(RFP)」にその旨を提示することがで きるが、今回のプロジェクトでは物流パートナ ーの選定を第二段階のテーマとしていた。
 協議の末、S社長から「自社物件の処分に ついては後回しで構わない」という指示が出 た。
これを受けて着手しやすいところから拠 点集約を具体的に進めていくことになった。
幹線輸送の管理を統合  ?幹線輸送の共同化について、従来は各セ ンターがそれぞれ幹線輸送を手配していたが、 効率が悪かった。
そこで次の施策を打つこと にした。
●大ロット輸送時には、港から東西のセンター に直送する ●割安な帰り便を利用する。
発点ベースで輸 送を手配するのを改め、着点エリアの地場 の運送会社を利用する ●船便やJRコンテナを利用する。
市況の安い 時期に資材を大量購入して保管しておくとい うZ社の購買パターンを活かして、在庫日数 に余裕のある製品は、輸送スピードは落ちる が料金を抑えられるトラック以外のモードを 使用する  ?物流専任担当者の設置については、プロジ ェクトメンバーの中から比較的実務スキルの高 い二人を選出した。
 
攫劼諒流コストは支払い物流費だけでも年 間約一五億円に上っている。
その管理に?かけ持 ち?ではなく専任者を投入しても、物流企画→ 実行→検証→改善を繰り返していくことで、コ ストや品質、リードタイムを向上できれば十分 お釣りが来る。
また今後、?攻め?に入る段階 では物流管理の専任者の存在が必須であった。
 こうしてZ社の?攻め?と?守り?の最適化 に向けたプロジェクトは第一段階を終了した。
現 在、このプロジェクトは第二段階を終え、効果 測定に入ろうとしている。
そして次の第三段階 からは、正念場とも言える?攻め?に入る。
そ こには物流パートナーの力を借りることなしに は超えられない大きな壁が待っている。
まだま だ難所が続くことを覚悟している。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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