2010年10月号
特集

Interview 「海外展開を加速させる準備は整った」富士物流 小林道男 社長

OCTOBER 2010  22 「海外展開を加速させる準備は整った」  7月30日、三菱倉庫は富士物流の株式公開買付を発表した。
主要株主の富士電機ホールディングスと豊田自動織機がこれ に応じる。
親会社との資本関係が切れて純粋な物流専業者と なる富士物流は、三菱倉庫の持つインフラを活かして、3PL 事業のアジア展開を加速させる。
まったく予想はしていなかった ──親会社の富士電機ホールディングスと主要株主の 豊田自動織機から、昨年一〇月に持ち株の売却を伝 えられたそうですが、予想はしていましたか。
 「全く予想していません。
非常に意外だったという のが正直な感想です。
というのも我々はそれまで、当 社が買う側の買収戦略について親会社と話し合って いましたし、当社の戦略や今後の方向性については 親会社にも了解をいただいていたものですから、ま さか当社自身が売られる側の立場になるとは考えて もみなかった」 ──確かに富士電機ホールディングスの中期計画を見 ても、そうした要素には乏しい。
むしろ親会社の二 七・三八%に次いで二六%の株式を握る豊田自動織 機が売りたがったのでは。
 「それは私には分かりません。
トヨタさんには二〇 〇四年一月に当社に資本参加いただき、当社と合弁 で『TFロジスティクス』も発足させましたが、今の ところ胸を張れるほどの数字を残すことができていま せんでした。
またこれは富士電機も同じですが、現 在の経営環境を考えればメーカーとして本業への集中 が大事なことは明らかですので、当社の大株主とし て当社の業績を伸ばしていくことに今後どれだけの 貢献ができるのかを考えた時に、できることに限界 があると判断されたのだと理解しています」 ──やはりリーマンショック、トヨタショックの影響 が大きかったということになるのでは。
 「それも株主の問題であって、私には分かりません。
富士電機が大がかりな構造改革を推進したのは事実 ですが、それにしたってどこも同じです。
また今後 も国内の物量が大幅に拡大していくことは期待でき ないという状況にあって、両株主には当社のグロー バル展開が不十分だという意識もあった。
当社のグ ローバル展開を加速させるには、グローバルな視点か らパートナーを探すべきだという点で両株主は合意し た。
そのため株式の売却に当たっては入札形式をと り、広く海外企業も含めたロングリストを作成し、そ こから絞り込んでいった。
その結果として三菱倉庫 さんに決定したという経緯です」 ──三菱倉庫の買付金額は一株当たり四五〇円です。
買収前の株価は一九〇円代でしたから、二倍以上の プレミアムが付いたことになります。
 「当社は地味な存在ではありますが、良質な経営体 質を維持していると自負しています。
良質な物流会 社がM&A市場に出てくることは稀であることも一 因かも知れません。
しかしPBR(株価純資産倍率) で見ても今回の買収金額がそれほど高いとは思いま せん。
高い評価をいただくのはありがたいことです が、むしろ個人的にはこれまでの市場の評価が低過 ぎたと思っています。
これは他の物流会社にも言え ることではないでしょうか」 ──今回のM&Aが富士物流の経営に与える影響を どう判断していますか。
 「TOBの発表以降、既存顧客に説明に回っていま すが、どこもポジティブに受け止めてくれています。
マイナスの影響はほとんどありません。
あるとすれ ば富士電機との関係ですが、これにしても当面は継 続することで協議が済んでいます」 ──しかし、富士電機ホールディングスは、手元に残 した富士物流の五%の株式を最長で二年しか保有し ない計画です。
 「株の保有と業務委託契約の期間はイコールではあ りません。
業務委託契約はそれよりも少し長い。
も 富士物流 小林道男 社長 23  OCTOBER 2010 ちろん当社としては今後も富士電機から継続して仕 事を受託したいわけですが、それだけの価値のある サービスを提供できていないのであれば、しがみつ いてはいられない。
他に価値を持った会社があれば 切り替えられても仕方がありません」  「そのスタンスは従来から変わっていません。
当社 は一九九二年に株式を公開しましたが当初は親会社 が過半数の株を握る物流子会社であることに変わり はなかった。
しかし二〇〇四年にトヨタさんに出資い ただいて、親会社の持ち分が三〇%を切って以降は 子会社ではなくなっています。
外販比率、実はこの 言い方自体もやめたいと考えているのですが、外販 比率も既に六割に上っています」 ──トヨタとも資本が切れてしまいます。
 「それが大きな流れですから、自分の都合の良いと ころだけを残すわけにはいきません。
トヨタさんとの 関係で我々は三つを期待していました。
一つはTP S(トヨタ生産方式)のノウハウ、二つ目は資本力、 三つめがブランド力です。
このうちTPSについて 我々は既に多くのものを学びました。
未来永劫の取 り組みではありますが、自分たちでやっていけるメ ドは立っている。
二つ目の資本力は新たなパートナー を得ることができた。
そして三つ目のブランド力は、 これはもう割り切っています」 最大のシナジー効果は『時間』 ──逆にメリットとしては?  「我々が最も重視したのは経営の方向性です。
我々 は3PLをグローバルに展開していきたいと考えてい る。
その点で三菱倉庫さんと方向性はピッタリ一致 しています。
しかも三菱倉庫は既に海外に多くのア セットを保有している。
そのネットワークを我々も利 用させてもらうことで、何より『時間』というシナ ジー効果を得られることが大きい」  「一方で我々にはメーカーの懐に深く入り込んだか たちの3PLのノウハウがある。
コンピュータのサー ビスパーツをスピーディに供給するために国内三六〇 カ所に拠点を置いたネットワークも持っている。
そう した我々の優位性を三菱倉庫さんにも利用していた だけるはずです。
しかも当社と三菱倉庫は顧客層が ほとんど重なっていない。
理想的な組み合わせだと 思います」 ──日本の物流会社が海外の物流事業で利益を上げ るのは容易なことではありません。
 「確かにその通りです。
グローバル化に本当に成功し たと言える物流会社が今の日本にあるとは言えない。
しかし、海外はやらないという選択肢などもはやあ りません。
これからも国内物流だけで生きていける とは私には考えられない。
モノの流れはグローバル化 すると同時に加速度的に複雑化しています。
そのう ちの日本だけをやらせてください、運送だけ、倉庫 だけをくださいというやり方が通用するはずはない」  「一方で荷主もまたグローバルに拡大したモノの流 れの管理を持てあましている。
物流は労働集約型産 業でコストのほとんどは人件費だから、物価の安い 地域の物流など後回しにしても大したロスにはなら ないと軽視してきたツケが回ってきた。
グローバルな モノの動き全体のコーディネートや企画立案のできる 人材のいないことが大きな問題になっています。
そ れだけに我々のチャンスも大きい。
幸い三菱倉庫さん は当社の経営の自律性を尊重してくれています。
当 社は従来の中長期計画をそのまま継続させる。
単に 継続するだけではなくて、取り組みを加速できる環 境が整ったのだと理解しています」 富士物流の沿革 1975 年 1983 年 1992 年 2000 年 2004 年 2005 年 2009 年 2010 年 富士電機グループの物流部門を分離集約して設立 コンピュータ保守部品の24 時間365日サービスを開始 東京証券取引所第2 部に上場 JUKI の物流子会社を買収 富士電機ホールディングスが所有する富士物流の株式53%のうち 26%を豊田自動織機に譲渡。
富士物流と豊田自動織機の合弁会 社としてTFロジスティクスを設立 セイコーインスツルの物流子会社を買収 富士電機ホールディングスと豊田自動織機が持ち株の売却を決定 売却先の入札で三菱倉庫が落札。
同7月末にTOBを発表 特集さよなら物流子会社

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