2010年10月号
ケース
ケース
仏ノルベール・ダントレサングル 海外物流市場
OCTOBER 2010 44
世界同時不況でも増益を確保
ノルベール・ダントレサングル(Norbert
Dentressangle)が今年三月に発表した二〇
〇九年の通期決算は欧米物流業界に驚きをも
って迎えられた。
世界同時不況で同業他社が 軒並み減収減益に陥るなかで、同社は売上高 こそ落としながらも、営業利益を一〇%以上 伸ばしたからだ。
同社の〇九年の売上高は、二七億一九四 二万ユーロ(二九三六億九七三六万円)で 前年度比一四・三%減少したが、営業利益 は八七九一万ユーロで同一〇・三%増だった。
また税引・利払・償却前利益(EBITD A)は八〇三五万ユーロ(同二二・二%減)、 最終利益は八五七二万ユーロ(同五〇・五% 増)だった。
(EBITDAでは減益となり最終利益では 増益となっているのは、リストラ費用や買収 にかかった「のれん代」の処理、それに法人 税の払い戻しなどがあったためで、単純に前 年度と比較することは難しい) 〇九年の売上高に対する営業利益率は三・ 二%で、前年度に比べ〇・七ポイント高くな った(図1)。
同社のフランコ・バルトリュー CEOは、「当社は〇九年に健全な業績を残 すことができた」と胸を張る。
同社は減収の要因としては四つを挙げてい る。
一番大きな要因は輸送部門の物量減少で、 次がロジスティクス部門の物量減少だ。
その ほかは為替の変動と燃料価格の下落に伴う収 受運賃の減少だ。
その結果、新規荷主の獲得 もあったが、売上高全体としては大幅な減少 を余儀なくされた。
その一方で、厳しいコスト削減に取り組ん だ。
車両数を前年比で一四%減らして、傭車 の割合を増やすことで固定費の一部を変動費 化した。
また、従業員数を二〇〇〇人以上 削減し、給与も凍結した。
さらに下請け業者 との運賃の再交渉、管理費の削減などで、営 業経費を年間で三億ユーロ以上圧縮した。
また同社はキャッシュフローも大きく積み増 している。
〇九年期末のキャッシュフローは、 前年度から一億ユーロ以上増えて一億四〇〇 〇万ユーロを超えた。
その理由を同社のパト リック・バタイラー最高財務責任者(CFO) は「売掛金の回収を早め投資額を抑えた」と 説明する。
同社の事業部門は、大きく輸送部門とロジ 定温物流に強みを持つイギリスの有力3PL、ク リスチャン・サルベッセンを08年に買収するまで、 ノルベール・ダントレサングルはフランス国内のトラ ック輸送業者の一つにすぎなかった。
しかし買収に よって欧州全域にネットワークを拡大し、世界同時 不況も増益で乗り切ったことで、その実力が証明さ れたかたちとなった。
海外物流市場 仏ノルベール・ダントレサングル 英サルベッセン買収で欧州全域を網羅 国内陸運からグローバル3PLに飛躍 (注1)2009年12月期の数字 (注2)1ユーロ=108円 企業概要本社 オランダ ホーフドルプ 社名 ノルベール・ダントレサングル 本社 フランス ドローム 創業 1979年 役員会会長 ノルベール・ダントレサングル氏 経営者 フランコ・バルトリューCEO 売上高 27億1942万ユーロ(2936億9736万円) 最終損益 8572 万ユーロ(92億5776万円) 従業員数 2万6450人 ノルベール・ダントレサングルの略史 1979 年 85 〜 87年 88 〜 93 年 94 年 98 年 99 年 2002 〜 03 年 05 年 06 年 07年 08 年 ノルベール・ダントレサングル 氏が同社を創業 ヨーロッパで輸送ネットワークを 確立 輸送業者の買収を開始する パリ証券取引所に株式を上場 はじめてロジスティクス企業を買 収(フランスの「コンクフレック ス」とUTL社を買収) ヨーロッパでの“ 成長3戦略”を 打ち出す 買収によるロジスティクス業務 の強化 3カ年計画「チャレンジ2008」 を発表 買収で南・東ヨーロッパのネッ トワークを強化 英クリスチャン・サルベッセン の買収で売上高をほぼ二倍に 2カ年計画「パッション・ルー ジュ 2010」を発表 45 OCTOBER 2010 スティクス部門に分かれている。
両部門合わ せて欧州一六カ国に三五〇を超す拠点を持つ が、両部門とも売上高の八〇%前後をフラン スとイギリスであげている。
部門別の〇九年の業績は次の通り(図2)。
輸送部門の売上高は一五億三三一七万ユー ロ(同一六・五%減)、営業利益は三九五二 万ユーロ(同八・三%増)。
ロジスティクス部 門は売上高が一二億三七二〇万ユーロ(同十 一・一%減)、営業利益が四八六七万ユーロ (十二・三%増)だった。
営業利益率でみると、輸送部門の二・五% に対して、ロジスティクス部門は三・九%と 一ポイント以上高くなっている。
輸送部門 の売り上げは、 〇八年十二月 から減少がは じまった。
落 ち込みが大 きかったのは、 石油化学関連 の貨物や、公 共投資関連の 貨物だ。
主力 とするフラン スとイギリス 間の輸出入貨 物も減少した。
輸送部門の 物量減少は〇九年の第2四半期に底を打った。
第3四半期の〇九年七月に入ってからは物量 は安定した。
新規契約の件数は、前年度と 比べて一五%増えており、契約の更新率は九 七%を確保した。
輸送部門が力を入れたのは、同社が「Ke yPL(Key Partner in Logistics)」と呼ぶ サービスの販売だ。
単に輸送業務を請け負う だけでなく、荷主企業とノルベール・ダント レサングルの情報システムをリンクさせて、急 な変更などにもスムースに対応できるように したパッケージ商品だ。
荷主に対して、需要予測に基づいた「事前 インボイス」を送った後で、貨物を引き取り、 実際の運送業務を行う。
荷主の要望に応じて、 週単位で「KPI(主要業績評価指標)」を 使った業務報告も行う。
さらに同社は、レッド・ヨーロッパ戦略 と呼ぶパレット単位の個建て輸送の強化にも 取り組んだ。
(同社のプロジェクト名にはしば しばレッドやルージュなどが用いら れる。
これは同社の車両が赤であり、それが トレードマークとなっていることに由来する) それまで同社の得意分野であったパレット単 位の混載輸送に関して、ヨーロッパに専用の ハブ拠点を作って、西ヨーロッパやイギリス、 東ヨーロッパを結ぶネットワークを強化した。
3PL事業は不況に強い 一方、ロジスティクス部門は不況の影響が 図1 2009 年通期決算 売上高 27 億1942 万ユーロ -14.3% 輸送部門 15 億3317 万ユーロ -16.5% ロジスティクス部門 12 億3720 万ユーロ -11.1% 営業経費 26 億3151 万ユーロ -15.1% 購入費や外部委託費 15 億4367 万ユーロ -20.5% 人件費 9 億2570 万ユーロ -9.3% 税金など 4959 万ユーロ -9.6% 資産売却による損益 24 万ユーロ ―― その他の支出 ▲72 万ユーロ ―― 減価償却 1 億1510 万ユーロ -6.5% 法人税等充当額 207 万ユーロ -530.5% 営業利益 8791 万ユーロ 10.3% 輸送部門 3952 万ユーロ 8.3% ロジスティクス部門 4867 万ユーロ 12.3% リストラコスト 1268 万ユーロ 11.7% 不動産のキャピタルゲイン 357 万ユーロ -487.8% 一回だけの特別収支 1 万ユーロ -9715.8% 一回だけの特別な法人税充当額 157 万ユーロ -383.9% EBITDA 8035 万ユーロ -22.2% 輸送部門 2831 万ユーロ -5.7% ロジスティクス部門 5231 万ユーロ -30.4% のれん代等 365 万ユーロ -10.3% EBIT 7669 万ユーロ -22.7% 受取利息 383 万ユーロ -153.0% 支払利息 2960 万ユーロ -49.0% 税引き前利益 5093 万ユーロ -17.3% 法人税 ▲3618 万ユーロ ―― M&Aから発生した支出 139 万ユーロ ―― 最終利益 8572 万ユーロ 50.5% 潜在株式調整後一株当たりの利益 8・73ユーロ 49.8% (注)売上高と、営業利益、EBITDAの部門別の数字には重複部分あり 前年比図2 輸送部門とロジスティクス部門の陣容 輸送部門とロジ部門 輸送部門のみ ロジ部門のみ ■売上高 15 億3317 万ユーロ (そのうち32%がフランス国外) ■従業員数 1 万4289 人 (そのうち33%がフランス国外) ■車両 トラクター 6900 台 トレーラー 8600 台 輸送部門 ■売上高 12 億3720 万ユーロ (そのうち58%がフランス国外) ■従業員数 1 万3836 人 (そのうち64%がフランス国外) ■物流センター数 常温センター 530 万? 定温センター 330 万? ロジスティクス部門 OCTOBER 2010 46 輸送部門に比べて小さい、と同社は言う。
そ の理由として、同社の輸送部門では長期契約 の割合が全体の四〇%程度であるのに対して、 ロジスティクス部門はすべてが長期契約だと いう点を挙げる。
加えてロジスティクス部門は〇九年に、比 較的不況に強いといわれる小売りと日用雑貨 品の取り込みに動いた。
同社が「シェアード・ サプライチェーン・マネジメント」と呼ぶサー ビスの販売にとくに力を入れた。
これは日本 の百貨店納品で行われている「納品代行」や 「一括物流」にあたる。
同じ小売りチェーンに納入する複数のベン ダー企業からロジスティクス業務を受注して、 共同物流センターを設置、各ベンダーが入荷 した荷物を店舗ごとに仕分けて、小売りのセ ンターに一括して納品する。
「小売り各社が在 庫を絞って、売れ筋商品だけを少量多頻度で 配送したいというニーズにこたえるため広が ってきたサービスだ」と同社は説明する。
また同社のロジスティクス部門が不況に強 いもう一つの理由として、荷主企業の産業が 分散されていることが挙げられる。
同社の主 要な荷主は売上高に占める割合の大きい順か ら、アパレル業界が一四%、自動車が十二%、 日用雑貨品が十二%となっており、他にも石 油化学製品など売り上げの一%以上を占める 産業だけでも十二産業を数える。
二〇一〇年上期の決算(フランス企業は、 アメリカ企業などとは異なり、四半期ごとの カントンなどが取りざたされた。
しかし、ふ たを開けてみると、それまで国際的にはほと んど無名だったダントレサングルが二億五〇 〇〇万ポンドを超す価格で買収することで決 着した。
サルベッセンは一八七〇年代に創業した老 舗の3PL企業で、一九八〇年代には株式を 公開している。
食品を中心にした定温商品の 3PL業務を中心に据えた優良企業として知 られていたが、買収前の売上高は日本円にし て一〇〇〇億円台と小粒だった。
細かい数字は公表していない)でも、同社は 依然として好調を維持している。
売上高は一 四億ユーロ(前年同期比三・九%増)、EB ITDAは九九〇〇万ユーロ(同二八%増)、 最終利益は一九五〇万ユーロ(同九%増)で 増収増益を果たした。
英サルベッセンの買収を転機に ノルベール・ダントレサングルは一九七九 年に、ヨーロッパで「グルーページ」と呼ばれ る日本の特別積み合わせ貨物輸送に相当する トラックの混載輸送業者として南フランスの ドロームという田舎町で創業した。
社名は創業者の名前をそのままとっている。
ノルベール・ダントレサングル氏は現在も同 社の役員会の会長を務めて、一族で株式の六 〇%以上を所有する大株主でもある。
八〇年代に同社はフランス南部やスペイン を中心としたヨーロッパの南側に輸送ネット ワークを築いた。
そして八〇年代後半からは、 同業他社の買収をテコに事業を拡大していく。
九四年に株式を上場。
それと相前後して、物 流センター事業を核とするロジスティクス業務 にも業容を拡大した(図3)。
もっとも〇八年にイギリスの有力3PL、 クリスチャン・サルベッセンを買収するまで、 同社はフランスのドメスチックなトラック輸送 業者にすぎなかった。
サルベッセンの買収劇では当初、買収側の 企業名としてドイツポストDHLや英ウィン 図3 主な買収企業と業績の伸び 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 仏トランスポート ・ベルマ 131 179 246 265 285 332 378 425 486 646.5 743.3 838.2 971.91,053.2 1,222 1,303 1,399 1,608 3,082 3,107 2,719 英ACH 株式公開仏UTF 英シェディック 伊スロジィオン ・ロジスティア 仏サバソ オランダ・ヴァンシエーロ 仏ストック アライアンス 英クリスチャン・ サルベッセン TNTロジの フランス部門 (単位:100 万ドル) 年平均成長率:14% 47 OCTOBER 2010 代後半にはじめて小規模な買収をして以来、 これまで三〇社以上を傘下に収めている。
同 社は「売上高の伸びのうちの五〇%までは買 収による効果だ」という。
買収後に発生する統合業務にも長けている。
全ての買収企業を「ノルベール・ダントレサ ングル」というブランドに統一することから はじめ、業務プロセスや情報システムを迅速 に統合し、シェアード・サービスと呼ばれる 手法で本部機能を効率化するノウハウなどを 持っている。
〇八年十二月に買収が完了したサルベッセ ンの業務統合もほぼ半年で済ませた。
統合を 迅速に行ったことが、〇九年決算の増益につ ながった、と同社はいう(図4)。
同社は今年八月にも新たな買収を行った。
アメリカの未上場のトラック輸送業者、シュ ナイダー・ナショナル傘下のシュナイダー・ ロジスティクスから、そのフォワーディング部 門を買収した。
ノルベール・ダントレサングルは一〇年に 入ってから新たにフォワーディング部門を立ち 上げている。
フォワーディング機能を加える ことで、これまでヨーロッパとイギリスの間で 完結していたネットワークを、まずはアメリカ に広げて、さらにはアジアにまで伸ばそうと いう計画だ。
そのためにヨーロッパ─アメリカ間輸送の ベースとなる買収案件を探していた。
買収し たシュナイダー・ロジスティクスのフォワーデ ィング部門は、航空貨物と海上貨物のフォワ ーディングおよび通関業務を主業とする。
直 近の売上高は二九〇万ドル(二億四六五〇万 円)と小規模ながらアメリカの七都市と、中 国の二都市に事務所を構え、従業員五六人を 抱えている。
ノルベール・ダントレサングルにとって今 回の買収は、アメリカ市場に参入する足掛か りに過ぎない。
今後はアメリカ国内に同社の トラックを走らせて、物流センターも立ち上 げ、ホームグランドであるヨーロッパ発の貨物 を取り込む考えだ。
その先には、中国や日本 を含めたアジア市場への参入を視野に置いて いる。
(ジャーナリスト 横田増生) 物流業の規制緩和で先行し、ロジスティ クス市場の先進国とされるイギリスでは、二 〇〇〇年代に入ってロジスティクス企業の合 従連衡が進んだ。
イギリス最大のロジスティ クス企業だったエクセルが同業他社のチベッ ト&ブリテンを買収し、さらにそのエクセルを DHLが買収した。
また有力3PLのヘイズが、赤字が続いて いたロジスティクス部門のヘイズ・トランスポ ーテンションをプライベート・ファンドに売り 払うなど、グローバル化の急速な進展を背景 に業界再編が活発化した。
そうした中で、サルベッセンは事業規模の 小さいことが不利に働きはじめた。
〇四年に は、同業のTDGとの合併計画も浮上したが、 結局、両者の話し合いはまとまらなかった。
それをノルベール・ダントレサングルが買 収した狙いは、ヨーロッパにおけるロジスティ クス部門の大幅な強化にあった。
買収によっ て、ロジスティクス部門は、輸送部門に匹敵 する売上高を挙げるようになった。
事業規模をほぼ二倍に増やしたことで、ロ ジスティクス市場における存在感も大きくな った。
売上高でみると、ヨーロッパの同業他 社である英ウィンカントンやデンマークのDS Vなどと肩を並べるまでになった。
買収後の統合業務に豊富な経験 それ以前からノルベール・ダントレサング ルは頻繁にM&Aを繰り返してきた。
八〇年 図4 クリスチャン・サルベッセンとの業務統合 ノルベール・ダントレサングル 輸送部門ロジスティクス部門 フランス輸送 イギリス輸送 スペイン・ ポルトガル輸送 スペイン・ ポルトガルロジ フランス・ 冷凍ロジ イギリス・ロジ ベルギー・ロジ オランダ・ロジ クリスチャン・サルベッセン
世界同時不況で同業他社が 軒並み減収減益に陥るなかで、同社は売上高 こそ落としながらも、営業利益を一〇%以上 伸ばしたからだ。
同社の〇九年の売上高は、二七億一九四 二万ユーロ(二九三六億九七三六万円)で 前年度比一四・三%減少したが、営業利益 は八七九一万ユーロで同一〇・三%増だった。
また税引・利払・償却前利益(EBITD A)は八〇三五万ユーロ(同二二・二%減)、 最終利益は八五七二万ユーロ(同五〇・五% 増)だった。
(EBITDAでは減益となり最終利益では 増益となっているのは、リストラ費用や買収 にかかった「のれん代」の処理、それに法人 税の払い戻しなどがあったためで、単純に前 年度と比較することは難しい) 〇九年の売上高に対する営業利益率は三・ 二%で、前年度に比べ〇・七ポイント高くな った(図1)。
同社のフランコ・バルトリュー CEOは、「当社は〇九年に健全な業績を残 すことができた」と胸を張る。
同社は減収の要因としては四つを挙げてい る。
一番大きな要因は輸送部門の物量減少で、 次がロジスティクス部門の物量減少だ。
その ほかは為替の変動と燃料価格の下落に伴う収 受運賃の減少だ。
その結果、新規荷主の獲得 もあったが、売上高全体としては大幅な減少 を余儀なくされた。
その一方で、厳しいコスト削減に取り組ん だ。
車両数を前年比で一四%減らして、傭車 の割合を増やすことで固定費の一部を変動費 化した。
また、従業員数を二〇〇〇人以上 削減し、給与も凍結した。
さらに下請け業者 との運賃の再交渉、管理費の削減などで、営 業経費を年間で三億ユーロ以上圧縮した。
また同社はキャッシュフローも大きく積み増 している。
〇九年期末のキャッシュフローは、 前年度から一億ユーロ以上増えて一億四〇〇 〇万ユーロを超えた。
その理由を同社のパト リック・バタイラー最高財務責任者(CFO) は「売掛金の回収を早め投資額を抑えた」と 説明する。
同社の事業部門は、大きく輸送部門とロジ 定温物流に強みを持つイギリスの有力3PL、ク リスチャン・サルベッセンを08年に買収するまで、 ノルベール・ダントレサングルはフランス国内のトラ ック輸送業者の一つにすぎなかった。
しかし買収に よって欧州全域にネットワークを拡大し、世界同時 不況も増益で乗り切ったことで、その実力が証明さ れたかたちとなった。
海外物流市場 仏ノルベール・ダントレサングル 英サルベッセン買収で欧州全域を網羅 国内陸運からグローバル3PLに飛躍 (注1)2009年12月期の数字 (注2)1ユーロ=108円 企業概要本社 オランダ ホーフドルプ 社名 ノルベール・ダントレサングル 本社 フランス ドローム 創業 1979年 役員会会長 ノルベール・ダントレサングル氏 経営者 フランコ・バルトリューCEO 売上高 27億1942万ユーロ(2936億9736万円) 最終損益 8572 万ユーロ(92億5776万円) 従業員数 2万6450人 ノルベール・ダントレサングルの略史 1979 年 85 〜 87年 88 〜 93 年 94 年 98 年 99 年 2002 〜 03 年 05 年 06 年 07年 08 年 ノルベール・ダントレサングル 氏が同社を創業 ヨーロッパで輸送ネットワークを 確立 輸送業者の買収を開始する パリ証券取引所に株式を上場 はじめてロジスティクス企業を買 収(フランスの「コンクフレック ス」とUTL社を買収) ヨーロッパでの“ 成長3戦略”を 打ち出す 買収によるロジスティクス業務 の強化 3カ年計画「チャレンジ2008」 を発表 買収で南・東ヨーロッパのネッ トワークを強化 英クリスチャン・サルベッセン の買収で売上高をほぼ二倍に 2カ年計画「パッション・ルー ジュ 2010」を発表 45 OCTOBER 2010 スティクス部門に分かれている。
両部門合わ せて欧州一六カ国に三五〇を超す拠点を持つ が、両部門とも売上高の八〇%前後をフラン スとイギリスであげている。
部門別の〇九年の業績は次の通り(図2)。
輸送部門の売上高は一五億三三一七万ユー ロ(同一六・五%減)、営業利益は三九五二 万ユーロ(同八・三%増)。
ロジスティクス部 門は売上高が一二億三七二〇万ユーロ(同十 一・一%減)、営業利益が四八六七万ユーロ (十二・三%増)だった。
営業利益率でみると、輸送部門の二・五% に対して、ロジスティクス部門は三・九%と 一ポイント以上高くなっている。
輸送部門 の売り上げは、 〇八年十二月 から減少がは じまった。
落 ち込みが大 きかったのは、 石油化学関連 の貨物や、公 共投資関連の 貨物だ。
主力 とするフラン スとイギリス 間の輸出入貨 物も減少した。
輸送部門の 物量減少は〇九年の第2四半期に底を打った。
第3四半期の〇九年七月に入ってからは物量 は安定した。
新規契約の件数は、前年度と 比べて一五%増えており、契約の更新率は九 七%を確保した。
輸送部門が力を入れたのは、同社が「Ke yPL(Key Partner in Logistics)」と呼ぶ サービスの販売だ。
単に輸送業務を請け負う だけでなく、荷主企業とノルベール・ダント レサングルの情報システムをリンクさせて、急 な変更などにもスムースに対応できるように したパッケージ商品だ。
荷主に対して、需要予測に基づいた「事前 インボイス」を送った後で、貨物を引き取り、 実際の運送業務を行う。
荷主の要望に応じて、 週単位で「KPI(主要業績評価指標)」を 使った業務報告も行う。
さらに同社は、レッド・ヨーロッパ戦略 と呼ぶパレット単位の個建て輸送の強化にも 取り組んだ。
(同社のプロジェクト名にはしば しばレッドやルージュなどが用いら れる。
これは同社の車両が赤であり、それが トレードマークとなっていることに由来する) それまで同社の得意分野であったパレット単 位の混載輸送に関して、ヨーロッパに専用の ハブ拠点を作って、西ヨーロッパやイギリス、 東ヨーロッパを結ぶネットワークを強化した。
3PL事業は不況に強い 一方、ロジスティクス部門は不況の影響が 図1 2009 年通期決算 売上高 27 億1942 万ユーロ -14.3% 輸送部門 15 億3317 万ユーロ -16.5% ロジスティクス部門 12 億3720 万ユーロ -11.1% 営業経費 26 億3151 万ユーロ -15.1% 購入費や外部委託費 15 億4367 万ユーロ -20.5% 人件費 9 億2570 万ユーロ -9.3% 税金など 4959 万ユーロ -9.6% 資産売却による損益 24 万ユーロ ―― その他の支出 ▲72 万ユーロ ―― 減価償却 1 億1510 万ユーロ -6.5% 法人税等充当額 207 万ユーロ -530.5% 営業利益 8791 万ユーロ 10.3% 輸送部門 3952 万ユーロ 8.3% ロジスティクス部門 4867 万ユーロ 12.3% リストラコスト 1268 万ユーロ 11.7% 不動産のキャピタルゲイン 357 万ユーロ -487.8% 一回だけの特別収支 1 万ユーロ -9715.8% 一回だけの特別な法人税充当額 157 万ユーロ -383.9% EBITDA 8035 万ユーロ -22.2% 輸送部門 2831 万ユーロ -5.7% ロジスティクス部門 5231 万ユーロ -30.4% のれん代等 365 万ユーロ -10.3% EBIT 7669 万ユーロ -22.7% 受取利息 383 万ユーロ -153.0% 支払利息 2960 万ユーロ -49.0% 税引き前利益 5093 万ユーロ -17.3% 法人税 ▲3618 万ユーロ ―― M&Aから発生した支出 139 万ユーロ ―― 最終利益 8572 万ユーロ 50.5% 潜在株式調整後一株当たりの利益 8・73ユーロ 49.8% (注)売上高と、営業利益、EBITDAの部門別の数字には重複部分あり 前年比図2 輸送部門とロジスティクス部門の陣容 輸送部門とロジ部門 輸送部門のみ ロジ部門のみ ■売上高 15 億3317 万ユーロ (そのうち32%がフランス国外) ■従業員数 1 万4289 人 (そのうち33%がフランス国外) ■車両 トラクター 6900 台 トレーラー 8600 台 輸送部門 ■売上高 12 億3720 万ユーロ (そのうち58%がフランス国外) ■従業員数 1 万3836 人 (そのうち64%がフランス国外) ■物流センター数 常温センター 530 万? 定温センター 330 万? ロジスティクス部門 OCTOBER 2010 46 輸送部門に比べて小さい、と同社は言う。
そ の理由として、同社の輸送部門では長期契約 の割合が全体の四〇%程度であるのに対して、 ロジスティクス部門はすべてが長期契約だと いう点を挙げる。
加えてロジスティクス部門は〇九年に、比 較的不況に強いといわれる小売りと日用雑貨 品の取り込みに動いた。
同社が「シェアード・ サプライチェーン・マネジメント」と呼ぶサー ビスの販売にとくに力を入れた。
これは日本 の百貨店納品で行われている「納品代行」や 「一括物流」にあたる。
同じ小売りチェーンに納入する複数のベン ダー企業からロジスティクス業務を受注して、 共同物流センターを設置、各ベンダーが入荷 した荷物を店舗ごとに仕分けて、小売りのセ ンターに一括して納品する。
「小売り各社が在 庫を絞って、売れ筋商品だけを少量多頻度で 配送したいというニーズにこたえるため広が ってきたサービスだ」と同社は説明する。
また同社のロジスティクス部門が不況に強 いもう一つの理由として、荷主企業の産業が 分散されていることが挙げられる。
同社の主 要な荷主は売上高に占める割合の大きい順か ら、アパレル業界が一四%、自動車が十二%、 日用雑貨品が十二%となっており、他にも石 油化学製品など売り上げの一%以上を占める 産業だけでも十二産業を数える。
二〇一〇年上期の決算(フランス企業は、 アメリカ企業などとは異なり、四半期ごとの カントンなどが取りざたされた。
しかし、ふ たを開けてみると、それまで国際的にはほと んど無名だったダントレサングルが二億五〇 〇〇万ポンドを超す価格で買収することで決 着した。
サルベッセンは一八七〇年代に創業した老 舗の3PL企業で、一九八〇年代には株式を 公開している。
食品を中心にした定温商品の 3PL業務を中心に据えた優良企業として知 られていたが、買収前の売上高は日本円にし て一〇〇〇億円台と小粒だった。
細かい数字は公表していない)でも、同社は 依然として好調を維持している。
売上高は一 四億ユーロ(前年同期比三・九%増)、EB ITDAは九九〇〇万ユーロ(同二八%増)、 最終利益は一九五〇万ユーロ(同九%増)で 増収増益を果たした。
英サルベッセンの買収を転機に ノルベール・ダントレサングルは一九七九 年に、ヨーロッパで「グルーページ」と呼ばれ る日本の特別積み合わせ貨物輸送に相当する トラックの混載輸送業者として南フランスの ドロームという田舎町で創業した。
社名は創業者の名前をそのままとっている。
ノルベール・ダントレサングル氏は現在も同 社の役員会の会長を務めて、一族で株式の六 〇%以上を所有する大株主でもある。
八〇年代に同社はフランス南部やスペイン を中心としたヨーロッパの南側に輸送ネット ワークを築いた。
そして八〇年代後半からは、 同業他社の買収をテコに事業を拡大していく。
九四年に株式を上場。
それと相前後して、物 流センター事業を核とするロジスティクス業務 にも業容を拡大した(図3)。
もっとも〇八年にイギリスの有力3PL、 クリスチャン・サルベッセンを買収するまで、 同社はフランスのドメスチックなトラック輸送 業者にすぎなかった。
サルベッセンの買収劇では当初、買収側の 企業名としてドイツポストDHLや英ウィン 図3 主な買収企業と業績の伸び 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 仏トランスポート ・ベルマ 131 179 246 265 285 332 378 425 486 646.5 743.3 838.2 971.91,053.2 1,222 1,303 1,399 1,608 3,082 3,107 2,719 英ACH 株式公開仏UTF 英シェディック 伊スロジィオン ・ロジスティア 仏サバソ オランダ・ヴァンシエーロ 仏ストック アライアンス 英クリスチャン・ サルベッセン TNTロジの フランス部門 (単位:100 万ドル) 年平均成長率:14% 47 OCTOBER 2010 代後半にはじめて小規模な買収をして以来、 これまで三〇社以上を傘下に収めている。
同 社は「売上高の伸びのうちの五〇%までは買 収による効果だ」という。
買収後に発生する統合業務にも長けている。
全ての買収企業を「ノルベール・ダントレサ ングル」というブランドに統一することから はじめ、業務プロセスや情報システムを迅速 に統合し、シェアード・サービスと呼ばれる 手法で本部機能を効率化するノウハウなどを 持っている。
〇八年十二月に買収が完了したサルベッセ ンの業務統合もほぼ半年で済ませた。
統合を 迅速に行ったことが、〇九年決算の増益につ ながった、と同社はいう(図4)。
同社は今年八月にも新たな買収を行った。
アメリカの未上場のトラック輸送業者、シュ ナイダー・ナショナル傘下のシュナイダー・ ロジスティクスから、そのフォワーディング部 門を買収した。
ノルベール・ダントレサングルは一〇年に 入ってから新たにフォワーディング部門を立ち 上げている。
フォワーディング機能を加える ことで、これまでヨーロッパとイギリスの間で 完結していたネットワークを、まずはアメリカ に広げて、さらにはアジアにまで伸ばそうと いう計画だ。
そのためにヨーロッパ─アメリカ間輸送の ベースとなる買収案件を探していた。
買収し たシュナイダー・ロジスティクスのフォワーデ ィング部門は、航空貨物と海上貨物のフォワ ーディングおよび通関業務を主業とする。
直 近の売上高は二九〇万ドル(二億四六五〇万 円)と小規模ながらアメリカの七都市と、中 国の二都市に事務所を構え、従業員五六人を 抱えている。
ノルベール・ダントレサングルにとって今 回の買収は、アメリカ市場に参入する足掛か りに過ぎない。
今後はアメリカ国内に同社の トラックを走らせて、物流センターも立ち上 げ、ホームグランドであるヨーロッパ発の貨物 を取り込む考えだ。
その先には、中国や日本 を含めたアジア市場への参入を視野に置いて いる。
(ジャーナリスト 横田増生) 物流業の規制緩和で先行し、ロジスティ クス市場の先進国とされるイギリスでは、二 〇〇〇年代に入ってロジスティクス企業の合 従連衡が進んだ。
イギリス最大のロジスティ クス企業だったエクセルが同業他社のチベッ ト&ブリテンを買収し、さらにそのエクセルを DHLが買収した。
また有力3PLのヘイズが、赤字が続いて いたロジスティクス部門のヘイズ・トランスポ ーテンションをプライベート・ファンドに売り 払うなど、グローバル化の急速な進展を背景 に業界再編が活発化した。
そうした中で、サルベッセンは事業規模の 小さいことが不利に働きはじめた。
〇四年に は、同業のTDGとの合併計画も浮上したが、 結局、両者の話し合いはまとまらなかった。
それをノルベール・ダントレサングルが買 収した狙いは、ヨーロッパにおけるロジスティ クス部門の大幅な強化にあった。
買収によっ て、ロジスティクス部門は、輸送部門に匹敵 する売上高を挙げるようになった。
事業規模をほぼ二倍に増やしたことで、ロ ジスティクス市場における存在感も大きくな った。
売上高でみると、ヨーロッパの同業他 社である英ウィンカントンやデンマークのDS Vなどと肩を並べるまでになった。
買収後の統合業務に豊富な経験 それ以前からノルベール・ダントレサング ルは頻繁にM&Aを繰り返してきた。
八〇年 図4 クリスチャン・サルベッセンとの業務統合 ノルベール・ダントレサングル 輸送部門ロジスティクス部門 フランス輸送 イギリス輸送 スペイン・ ポルトガル輸送 スペイン・ ポルトガルロジ フランス・ 冷凍ロジ イギリス・ロジ ベルギー・ロジ オランダ・ロジ クリスチャン・サルベッセン
