2010年10月号
値段

第62回 上組

OCTOBER 2010  48 航空・港湾行政が大きく転換  上組の中期的な企業行動を考える上では、国 土交通省の施策が鍵になるだろう。
現在、航空 行政や港湾行政は大きな転換点を迎えている。
航 空行政では国内線のみに課税され、且つJAL の経営悪化の一因ともなった高額な航空燃料税 の軽減が進む可能性があり、港湾行政では全国 に乱立する港湾の予算規模縮小と選別投資の動 きが本格化している。
 これまでのインフラ整備を見直す議論が進んで いる点は、資本市場からも好感を持たれている と言える。
過去、日本のインフラ整備において は、政府の目線は港湾・空港の運用者の側にあ り、利用者の経済合理性などの視点が欠けてい たと言わざるを得ない。
資本市場では日本株に 対する投資魅力の低下が言われて久しいが、そ の要因の一つには日本特有の非効率なインフラ 投資があると考えられる。
 ここにきて政府が国際競争力を叫び始めたの は、企業の海外進出や海外企業の世界的な地位 上昇など、あらゆる分野で日本の相対的な地位 低下が鮮明になったからだろうが、競争力の強 化を本気で考えるのであれば、従来以上にスピ ードと経済合理性のある施策、業界に対して専 門性のある人材による運営能力が必要になろう。
 港湾行政において、国交省は“選択と集中” の観点から、重点港湾を現在の一〇〇港湾から 四三港湾に絞り込む方針を打ち出した。
一国家 の運営と民間企業の経営は異なるとはいえ、“選 択と集中”は国際競争に晒されてきた民間企業 では一〇年以上も前から実施されている施策で ある。
それでもマクロの舵取り、複雑な利害調 整などが必要な中で、港湾運営で効率性が重視 されるようになった点は大きな前進と考えたい。
 さらに国交省は、二〇〇二年頃から始まった 「スーパー中枢港湾構想」をより具体化し、アジ アのハブ港を目指して集中的に投資する「国際 コンテナ戦略港湾」として八月、「京浜港(東 京港、川崎港、横浜港)」と「阪神港(大阪港、 神戸港)」の二大港湾を選定した。
 前原大臣は「税制面や予算面で国際コンテナ 戦略港湾としての特別措置を実施し、港湾法も 改正して選定された両港をバックアップしていき たい」としている。
これら港湾においては、隣 接港湾同士の一体的な経営促進や民間の視点を 生かした港湾経営主体の確立に向けた取り組み も進められる見込みだ。
第1四半期は予想以上の好業績  三年後をめどに運営状況の中間報告を行うと しており、際立った効果がなければ選定港湾の 取り消しといった選択肢もあり得るという。
た だ、資本市場からみれば、現段階では港湾経営 の定量的な目標、達成時期、それに対する具体 策が不明瞭なため、何を物差しとして効果を測 定するのか疑問が残る。
上組 「国際コンテナ戦略港湾」決定で 戦略的な設備投資上積みに期待  業績は堅調に推移しているが、設備投資が低迷し ている。
港湾行政があいまいだったために投資を抑 制していた可能性がある。
しかし、政府は日本港湾 の“選択と集中”を明確に打ち出し、今年八月には 「国際コンテナ戦略港湾」を決定した。
持続的な利益 成長には戦略的な投資が欠かせない。
今後の設備投 資の増額に期待している。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第62回 49  OCTOBER 2010  また、三年後に効果を測定するよりも、年度 毎に施策の実施状況とその効果を定量的に開示 すべきだと考える。
例えば、従来から懸念事項 の一つに挙げられている日本港湾のパッシング、 韓国・釜山港などへのコンテナ貨物需要の流出 への対策として、西日本地区の貨物を阪神港に 集約するといった施策がある。
 具体的には内航フィーダー(北米、欧州など の基幹航路が寄港しない国内各港と主要港を接 続するための海上輸送サービス)を利用して瀬 戸内などの貨物を誘致することが想定されるが、 そのためには利用者に対して阪神港を利用する 経済合理性を示す必要があるだろう。
釜山港を 経由するよりもト ータルコストが安 価であれば、円高 で苦しむ日本企業 には最も効果的と いうことだ。
尤も、 港湾予算が限定的 な中では今以上に メリハリをつけた 港湾予算の配分が 必要になることは 言うまでもないだ ろう。
 港湾運送業界最 大手の上組の業績 は、自助努力によ るコスト抑制、営業 力の強化などが相 まって、予想以上に堅調に推移している。
二〇 一一年三月期第1四半期の営業利益は前年同期 比二一%増の五五億円となり、バンクオブアメ リカ・メリルリンチ(BofAML)予想の四 八億円を一五%超過した。
営業利益率は一ポイ ント改善し一〇・四%となった。
 売上高がBofAML予想(三%増)を上回 り、十一%増加したのに加え、人件費をほぼ前 年並みに抑制し、施設使用料を減少させるなど のコストコントロールが寄与したと考えられる。
輸入貨物取扱量は三五%増、輸出貨物取扱量は 一〇%増と、円高の影響から輸入量の回復が目 立った。
品目別では飼料や鉄鉱石、石炭コーク ス、港湾別では低迷していた阪神港の取扱量の 増加がみられた。
 短期業績に大きな課題は見られない。
しかし、 上組が持続的に成長するためには戦略的な成長 投資が必要だと考える。
来期の投資額は三割増の予想  上組の過去五年間の設備投資額の推移をみる と、〇五年三月期の一八八億円をピークに一〇 年三月期は八〇億円に低下し、今期一一年三月 期はBofAML予想では一〇〇億円と低水準 にとどまる見通しだ。
今期の一〇〇億円には自 社保有の遊休地の不動産開発など非港湾事業も 含まれるため、コア事業に対する投資水準は前 年同様に低水準と推定される。
 BofAMLでは、上組の設備投資が低迷し ている要因の一つには、港湾行政の問題が影響 していた可能性があると考えている。
重点港湾 の絞り込みという政策が明確になり、国際コン テナ戦略港湾が選定されるまでは闇雲に投資を 増やすことはできない。
合理的な企業行動とし ては、政府による支援の期待できる港湾とその 周辺の倉庫などに対して投資を行う方が、そう でない場合よりも投資リターンが大きいと考え るのは当然だ。
 上組のROI(投資収益率:純利益÷〈借入金 +純資産〉)は概ね株主資本コストを超過する五% 以上の水準を維持しており、戦略的に投資を上 積みすることによって将来的な利益成長を期待で きる。
BofAMLでは戦略港湾の定量的な効 果は未知数と考えるが、同社にとっては選定港 湾が確定したことで中期的な投資基準が定まる ため、設備投資は緩やかに増加するとみている。
 BofAMLでは、上組の設備投資額は一二 年三月期以降、一三〇億円程度で推移すると予 想している。
過去五年間の設備投資が低迷した 結果、同社の現金および現金同等物の残高は〇 五年三月期の七二億円をボトムに一〇年三月期 実績は二八〇億円となっており、今期は三七〇 億円程度まで増加すると考える。
中期的な成長 投資以外にも、短期的には株式市場が低迷する 中での自社株買いなど株主還元の余地も大きい といえるだろう。
《出来高》 上組の過去10年間の株価推移 つちや やすひと 一九九七年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券 などを経て、二〇〇五年一〇月にメ リルリンチ日本証券に入社。
運輸セ クター担当アナリストとして活躍し ている。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから