2010年10月号
道場
道場
メーカー物流編 ♦ 第13回 「愚かなコストの発生を抑えることで利益貢献ができると同時に不要な資産の圧縮も可能になるんだ」
湯浅和夫の
湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表
《第66回》
OCTOBER 2010 64
「いや、たしかに、喜ぶべき結果ではない
けど、予期したとおりの結果というのは、何
かほっとするな。
そうだろ?」 物流部長が、分析資料を持って来て、そ のまま机の前に立っている業務課の若手課員 に同意を求める。
若手課員が、首をすくめる。
「それで、今日の午後、先生がいらっしゃ るんだったよな?」 「はい、そうです。
午後一番からです。
会 議室は確保してあります」 若手課員と一緒にデータ分析をやった企画 課の女性課員が自席から言葉を挟む。
それを 聞きながら、業務課長が部長席に近づく。
つ られるように女性課員、それに企画課長も部 長席に近づいた。
みんなが集まるのを待って、 業務課長が話し出す。
「先生たちも、当然この結果はお見通しで、 特にご指導いただいたお二人の先生はこの結 67「愚かなコストの発生を抑えることで 利益貢献ができると同時に不要な 資産の圧縮も可能になるんだ」 《第102 予期どおりの分析結果が出た 「なるほど、思ったとおりの結果が出たな。
うん、見事な結果だ」 物流部の若手課員が出した東京物流センタ ーの在庫分析結果を見て、物流部長が嬉し そうな声を出した。
部長が見ているのは、集 約した結果表で、そこには、個々の在庫アイ テムごとに出荷対応月数が小さい順に並んで いる。
物流センターに置いてある個々の在庫 アイテムの直近一カ月の出荷実績を出し、そ の平均値で直近の在庫量を割ったものである。
適正な在庫配置ができているかどうかを判断 する、簡単だが実態を率直に表す指標である。
「そんなー。
平然と感心してる場合じゃな いでしょ」 同じ資料を見ていた業務課長が自分の席か ら部長に向かって文句を付けた。
メーカー物流編 ♦ 第 13 回 物流センターにある在庫の「アイテ ム別出荷対応月数」の一覧表を作るよ うに、大先生はプロジェクトチームにア ドバイスした。
簡単な計算で在庫実態 を表すことができる。
その分析結果を 見てメンバーたちは奮い立った。
ロジス ティクス導入が会社に何をもたらすの か、実感することができたからだ。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長 営業畑出身で数カ月前に物流部に異動。
「物流 はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
業務課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。
畑違 いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの導入 にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話を聞 いて態度が一変。
経営企画主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
65 OCTOBER 2010 果をご存知なわけだよな?」 「はい、もちろんです。
わかりやすい結果 だことっておっしゃってました」 「そうなると、この結果を見て、先生は、 さっきの部長と同じように嬉しそうな顔をす るんでしょうね」 部長が頷き、業務課長にプレッシャーを掛 ける。
「そうだろうな。
ただ、きっと先生は、こ の結果を見て、『さて、それでどうする?』 って聞いてくるぞ。
その答えは業務課長に任 せるから、よろしく頼むよ」 「えっ、は、はい。
いいですよ。
任せてく ださい‥‥」 そう言って、業務課長が「ちょっといい?」 と企画課長を誘って、部屋を出て行った。
ど うやら二人で作戦を練るようだ。
それを見て、 部長が「それじゃ、またあとで」と若手課員 に声を掛け、たばこでも吸いに行くのか、席 を立った。
売り上げと無縁のコストの発生 大先生一行が到着し、会議が始った。
まず、 部長が口火を切った。
「先生方のご指導のおかげで、在庫分析の 結果がまとまりました。
ありがとうございま した。
当然といえば当然ですが、思ったとお りの結果が出ました。
トップや社内の関係す る者たちには、この結果を詳細に説明し、事 態を正確に把握してもらうつもりでいます。
当然、この結果を受けて、これからどうする かという計画を提示するつもりでいます。
本 日は、そのあたりを含めてご指導いただけれ ばと思います。
はじめに、念のためという程 度で、結果について説明することから始めた いと思いますが、よろしいでしょうか?」 物流部長の言葉に大先生が「どうぞ」と 頷く。
「それでは簡単に」と部長から指示され、 若手課員が立ち上がり、分析結果を説明し 始めた。
「皆さまには説明の必要はないと思います が、確認のため総括表をご覧ください。
直近 の在庫アイテム別の出荷対応月数を示してい ます。
日数ではなく、月数というところがみ そです。
約千アイテムを月数の小さい順に並 べてあります。
右端にアイテムの累積構成比 を示してありますが、たとえば対応月数が一 カ月以下あたりをご覧いただくと明らかです が、一カ月以下のアイテムは全体の二割強程 度しかありません。
そしてですね‥‥」 「いや、もう表の説明はいいんじゃない。
出荷対応月数が何カ月にもなってしまう在庫 アイテムがごっちゃりとあるってことだ。
結 論として、出荷動向に同期化させた在庫保持 になっていないという、そのみっともない状 況が一目瞭然だということだよ。
大体、おま え、そんなこと説明するのって恥ずかしいこ とだぞ。
呂律が回らなくなるかもしれないか ら、やめたほうがいいぞ」 自分の部下の若手課員が説明を始めようと した途端、業務課長がそれを制し、「そうで すよね?」と大先生に投げ掛ける。
「はい、わかりやすい、なかなかいい結果 が出ましたね。
課長がおっしゃるように一目 瞭然ですから、とくに数字についての説明は いりません」 「はー、やっぱりだ。
先生のコメントも予 想したとおりだ。
たしかに、よきにつけ悪し きにつけ、思ったとおりの結果になるという のは気分的に高揚しますね、部長?」 大先生の返事に業務課長が楽しそうに部長 に声を掛ける。
部長が呆れたような顔をする。
二人のやりとりを怪訝そうな顔で見ていた 大先生が誰にともなく質問する。
「市場動向に同期化していない在庫が、え ーと、課長の言葉を借りれば、そうそう、ご っちゃり物流センターに置かれているという 実態がわかったとして、なぜ、それがいけな いことなのか、それでは、どうしたらいいの かという点では、どうお考えになりますか?」 「はい、先生。
それについては業務課長が 一家言あるようですので、彼に答えてもらい ます。
いいね、課長?」 大先生の質問に、今度は部長が、「わが意 を得たり」といった顔で頷き、楽しそうに業 務課長に振る。
業務課長が、ちょっとしかめ っ面をし、それでも、自信ありげに説明を始 める。
「なぜいけないかという点では、先生のお言 葉を借りれば、それが売り上げと無縁のコス OCTOBER 2010 66 トを発生させることになるからです」 業務課長の言葉を聞き、部長が「ほー、 そうきたか」と小さく呟く。
大先生が笑みを 浮かべる。
それを見て、業務課長がさらに勢 い込んだ様子で続ける。
「この分析結果でも明らかなように、使う かどうかわからない在庫が事前にどっさりと 物流センターに配置されていますが、もしそ れらを使わなかった場合、つまり、ずっと物 流センターに置かれ続けた場合、それらの輸 送費やセンターのスペース費、あるいは製造 原価そのものもそうですし、さらには売れ残 って最後に処分や廃棄をした場合の費用など、 いろいろな形でコストが発生しますが、これ らはすべて『売り上げと無縁のコスト』とい うことになります」 ここまで一気に話して、業務課長が一息つ く。
みんなが、頷きながら業務課長の顔を見 る。
それに気をよくした感じで、さらに楽し そうに業務課長が続ける。
「言うまでもないことですが、コストは常に 売り上げで回収するというのが企業の鉄則で すよね。
大常識です。
この鉄則に反したコス トの発生は、回収する売り上げがないわけで すから、結局利益を食うことになってしまい ます。
利益を食うだけのコストの発生は、企 業における最大の罪です。
そうは思いません か?」 業務課長が乗ってきた。
鼻が膨らんでいる。
やや興奮気味の証だ。
業務課長の質問にみん 「あれ、それだけ? 何か鋭い指摘はない の? ずばっという‥‥」 部長が主任に発破を掛ける。
主任が苦笑いを し、座り直す。
何か言おうとする態勢だ。
「えーと、私としては、こういう視点も入 れたらと思います‥‥」 「何? 遠慮なく言いなさいな」 部長に促され、主任がつぶやくように話し 出す。
「私としては、これは前にも出ていたかとも 思いますが、『ROA(Return On Asset : 総資産利益率)」を悪化させているという問 題もあるのはないかと、そう思います」 「あるある」 部長が即座に相槌を打つ。
業務課長が大 きく頷き、意見を述べる。
「それはいえる。
結局同じことになるかもし れないけど、いろんな視点から問題を指摘す ることは重要だ」 「へー、いいこと言うね」 業務課長の言葉に部長が茶化すような口調 で感心する。
主任が続ける。
「財務諸表を見ても明らかなんですが、棚 卸資産は間違いなく多いです。
その回転日数 を出すと、五〇日くらいになってます。
資金 の回収に五〇日も掛かるという実態です。
棚 卸資産の圧縮だけでなく、在庫を減らせば物 流センターのスペースも減りますよね?」 「減る減る」 業務課長が即座に同意する。
その軽妙な答 なが一斉に頷く。
「そうですよね、罪です。
そんな罪深いこ とやってはいけません。
つまり、売上と無縁 のコストが発生しないように、誰かが管理す べきです。
なぜいけないのかという先生のご 質問については、以上が私どもの回答です。
いかがでしょうか?」 「はい、それで結構だと思います。
大変わ かりやすい答えでした」 大先生の言葉に業務課長が嬉しそうに頷き、 企画課長を見る。
企画課長と相談した答えな のか、ちょっと小難しいが、肝心要の指摘で はある。
企画課長が頷く。
ROAへの貢献も大事 それまで総括表を見ながら、業務課長の話 を聞いていた経営企画室の主任が、「ちょっ とよろしいでしょうか?」と手を上げる。
部 長が、「おっ」という顔で、興味深そうに「ど うぞ」と発言を促す。
これまでもそうだが、 主任の発言は会議の進行にとって有効な働き をしてきたとの思いが部長には強い。
部長に とって主任の発言は大歓迎なのだ。
「えーと、ただいまのお話しですが、大変 よくわかりました。
たしかに、言われてみれ ばご指摘のとおりです。
普段余り気がつかな かったというか、気にしていないことをずば りと指摘され、私にとって目からウロコとい う感じでした」 こう言って、主任が業務課長を見て、頷く。
湯浅和夫の 67 OCTOBER 2010 を広げてそれらの在庫もこれくらい減らすこ とができるということも示したい。
それから、 無駄な生産をしないということで、生産の人 員の削減も可能になるはずだ。
それについて も検討していこう。
このあたりは生産出身の センター長に任せるので、よろしく頼むよ」 黙って議論の推移を見守っていた東京の物 流センター長が、突然名指しされ、慌てて「わ かりました。
何とかやってみます」と返事を する。
大先生が総括するように話し出す。
「そうですね。
これからどうするかの第一歩 としては、そのような方向でいいと思います。
それをすべて数字で表すことが必要なことは 言うまでもないですね。
ところで、これは新 聞情報程度の話ですが、御社は、いま、不 採算事業の撤退売却、コアとなる事業の生産 の増強、それも海外生産拠点の設置などを進 めていますよね? あっ、それから多角化の 一環でM&Aにも取り組んでいますね。
それ らをロジスティクスとしてどう支援するかと いう視点からの検討も必要だと思います」 「そうですね。
たしかに先生のおっしゃる とおりです。
その社内の検討にロジスティク スも加わるべきです。
うん、たしかにそうで す。
経営戦略とロジスティクスということだ。
これについては企画課長と、戦略はお手の物 の主任に検討を頼みたいと思うけど、いいか な?」 「はい」と二人が同時に返事をし、企画課 長が嬉しそうに答える。
「そのテーマは、私にとっても大変興味あ るものです。
頑張ってやらせていただきます」 企画課長の言葉を受けて、主任が「私も 同感です」と言う。
業務課長が遅れを取って はいけないといった感じで続ける。
「そのテーマについては、おれも興味あるの で参加させてほしいな。
もちろん、コストを 中心にした実態の解明は彼らと一緒におれが やるけど、そっちもやりたい」 「うん、みんな前向きで結構だ。
もちろん、 一応担当を分けたけど、担当だけで答を出す というものではない。
担当中心にみんなで議 論していこうと思ってる。
よろしく頼むよ」 部長の言葉にみんなが「はい」と元気よく 返事をする。
こうして、ロジスティクス導入 のステップが一歩進んだ。
えに主任が苦笑し、続ける。
「つまり、ロジスティクスを導入すれば、先 ほど課長がおっしゃったような愚かなコスト の発生を抑えることで利益貢献ができると同 時に不要な資産の圧縮も可能になるんだとい うことを実際の数字で示すことが有効なので はないかと思いますが、いかがでしょう?」 主任の問い掛けに部長が答える。
「もちろん異論はない。
ロジスティクスをわ かっている者にとっては当たり前なことだが、 社内全般にはそのあたりについての理解がな い。
原材料や部品、半製品の調達にまで管理 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan
そうだろ?」 物流部長が、分析資料を持って来て、そ のまま机の前に立っている業務課の若手課員 に同意を求める。
若手課員が、首をすくめる。
「それで、今日の午後、先生がいらっしゃ るんだったよな?」 「はい、そうです。
午後一番からです。
会 議室は確保してあります」 若手課員と一緒にデータ分析をやった企画 課の女性課員が自席から言葉を挟む。
それを 聞きながら、業務課長が部長席に近づく。
つ られるように女性課員、それに企画課長も部 長席に近づいた。
みんなが集まるのを待って、 業務課長が話し出す。
「先生たちも、当然この結果はお見通しで、 特にご指導いただいたお二人の先生はこの結 67「愚かなコストの発生を抑えることで 利益貢献ができると同時に不要な 資産の圧縮も可能になるんだ」 《第102 予期どおりの分析結果が出た 「なるほど、思ったとおりの結果が出たな。
うん、見事な結果だ」 物流部の若手課員が出した東京物流センタ ーの在庫分析結果を見て、物流部長が嬉し そうな声を出した。
部長が見ているのは、集 約した結果表で、そこには、個々の在庫アイ テムごとに出荷対応月数が小さい順に並んで いる。
物流センターに置いてある個々の在庫 アイテムの直近一カ月の出荷実績を出し、そ の平均値で直近の在庫量を割ったものである。
適正な在庫配置ができているかどうかを判断 する、簡単だが実態を率直に表す指標である。
「そんなー。
平然と感心してる場合じゃな いでしょ」 同じ資料を見ていた業務課長が自分の席か ら部長に向かって文句を付けた。
メーカー物流編 ♦ 第 13 回 物流センターにある在庫の「アイテ ム別出荷対応月数」の一覧表を作るよ うに、大先生はプロジェクトチームにア ドバイスした。
簡単な計算で在庫実態 を表すことができる。
その分析結果を 見てメンバーたちは奮い立った。
ロジス ティクス導入が会社に何をもたらすの か、実感することができたからだ。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長 営業畑出身で数カ月前に物流部に異動。
「物流 はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
業務課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。
畑違 いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの導入 にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話を聞 いて態度が一変。
経営企画主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
65 OCTOBER 2010 果をご存知なわけだよな?」 「はい、もちろんです。
わかりやすい結果 だことっておっしゃってました」 「そうなると、この結果を見て、先生は、 さっきの部長と同じように嬉しそうな顔をす るんでしょうね」 部長が頷き、業務課長にプレッシャーを掛 ける。
「そうだろうな。
ただ、きっと先生は、こ の結果を見て、『さて、それでどうする?』 って聞いてくるぞ。
その答えは業務課長に任 せるから、よろしく頼むよ」 「えっ、は、はい。
いいですよ。
任せてく ださい‥‥」 そう言って、業務課長が「ちょっといい?」 と企画課長を誘って、部屋を出て行った。
ど うやら二人で作戦を練るようだ。
それを見て、 部長が「それじゃ、またあとで」と若手課員 に声を掛け、たばこでも吸いに行くのか、席 を立った。
売り上げと無縁のコストの発生 大先生一行が到着し、会議が始った。
まず、 部長が口火を切った。
「先生方のご指導のおかげで、在庫分析の 結果がまとまりました。
ありがとうございま した。
当然といえば当然ですが、思ったとお りの結果が出ました。
トップや社内の関係す る者たちには、この結果を詳細に説明し、事 態を正確に把握してもらうつもりでいます。
当然、この結果を受けて、これからどうする かという計画を提示するつもりでいます。
本 日は、そのあたりを含めてご指導いただけれ ばと思います。
はじめに、念のためという程 度で、結果について説明することから始めた いと思いますが、よろしいでしょうか?」 物流部長の言葉に大先生が「どうぞ」と 頷く。
「それでは簡単に」と部長から指示され、 若手課員が立ち上がり、分析結果を説明し 始めた。
「皆さまには説明の必要はないと思います が、確認のため総括表をご覧ください。
直近 の在庫アイテム別の出荷対応月数を示してい ます。
日数ではなく、月数というところがみ そです。
約千アイテムを月数の小さい順に並 べてあります。
右端にアイテムの累積構成比 を示してありますが、たとえば対応月数が一 カ月以下あたりをご覧いただくと明らかです が、一カ月以下のアイテムは全体の二割強程 度しかありません。
そしてですね‥‥」 「いや、もう表の説明はいいんじゃない。
出荷対応月数が何カ月にもなってしまう在庫 アイテムがごっちゃりとあるってことだ。
結 論として、出荷動向に同期化させた在庫保持 になっていないという、そのみっともない状 況が一目瞭然だということだよ。
大体、おま え、そんなこと説明するのって恥ずかしいこ とだぞ。
呂律が回らなくなるかもしれないか ら、やめたほうがいいぞ」 自分の部下の若手課員が説明を始めようと した途端、業務課長がそれを制し、「そうで すよね?」と大先生に投げ掛ける。
「はい、わかりやすい、なかなかいい結果 が出ましたね。
課長がおっしゃるように一目 瞭然ですから、とくに数字についての説明は いりません」 「はー、やっぱりだ。
先生のコメントも予 想したとおりだ。
たしかに、よきにつけ悪し きにつけ、思ったとおりの結果になるという のは気分的に高揚しますね、部長?」 大先生の返事に業務課長が楽しそうに部長 に声を掛ける。
部長が呆れたような顔をする。
二人のやりとりを怪訝そうな顔で見ていた 大先生が誰にともなく質問する。
「市場動向に同期化していない在庫が、え ーと、課長の言葉を借りれば、そうそう、ご っちゃり物流センターに置かれているという 実態がわかったとして、なぜ、それがいけな いことなのか、それでは、どうしたらいいの かという点では、どうお考えになりますか?」 「はい、先生。
それについては業務課長が 一家言あるようですので、彼に答えてもらい ます。
いいね、課長?」 大先生の質問に、今度は部長が、「わが意 を得たり」といった顔で頷き、楽しそうに業 務課長に振る。
業務課長が、ちょっとしかめ っ面をし、それでも、自信ありげに説明を始 める。
「なぜいけないかという点では、先生のお言 葉を借りれば、それが売り上げと無縁のコス OCTOBER 2010 66 トを発生させることになるからです」 業務課長の言葉を聞き、部長が「ほー、 そうきたか」と小さく呟く。
大先生が笑みを 浮かべる。
それを見て、業務課長がさらに勢 い込んだ様子で続ける。
「この分析結果でも明らかなように、使う かどうかわからない在庫が事前にどっさりと 物流センターに配置されていますが、もしそ れらを使わなかった場合、つまり、ずっと物 流センターに置かれ続けた場合、それらの輸 送費やセンターのスペース費、あるいは製造 原価そのものもそうですし、さらには売れ残 って最後に処分や廃棄をした場合の費用など、 いろいろな形でコストが発生しますが、これ らはすべて『売り上げと無縁のコスト』とい うことになります」 ここまで一気に話して、業務課長が一息つ く。
みんなが、頷きながら業務課長の顔を見 る。
それに気をよくした感じで、さらに楽し そうに業務課長が続ける。
「言うまでもないことですが、コストは常に 売り上げで回収するというのが企業の鉄則で すよね。
大常識です。
この鉄則に反したコス トの発生は、回収する売り上げがないわけで すから、結局利益を食うことになってしまい ます。
利益を食うだけのコストの発生は、企 業における最大の罪です。
そうは思いません か?」 業務課長が乗ってきた。
鼻が膨らんでいる。
やや興奮気味の証だ。
業務課長の質問にみん 「あれ、それだけ? 何か鋭い指摘はない の? ずばっという‥‥」 部長が主任に発破を掛ける。
主任が苦笑いを し、座り直す。
何か言おうとする態勢だ。
「えーと、私としては、こういう視点も入 れたらと思います‥‥」 「何? 遠慮なく言いなさいな」 部長に促され、主任がつぶやくように話し 出す。
「私としては、これは前にも出ていたかとも 思いますが、『ROA(Return On Asset : 総資産利益率)」を悪化させているという問 題もあるのはないかと、そう思います」 「あるある」 部長が即座に相槌を打つ。
業務課長が大 きく頷き、意見を述べる。
「それはいえる。
結局同じことになるかもし れないけど、いろんな視点から問題を指摘す ることは重要だ」 「へー、いいこと言うね」 業務課長の言葉に部長が茶化すような口調 で感心する。
主任が続ける。
「財務諸表を見ても明らかなんですが、棚 卸資産は間違いなく多いです。
その回転日数 を出すと、五〇日くらいになってます。
資金 の回収に五〇日も掛かるという実態です。
棚 卸資産の圧縮だけでなく、在庫を減らせば物 流センターのスペースも減りますよね?」 「減る減る」 業務課長が即座に同意する。
その軽妙な答 なが一斉に頷く。
「そうですよね、罪です。
そんな罪深いこ とやってはいけません。
つまり、売上と無縁 のコストが発生しないように、誰かが管理す べきです。
なぜいけないのかという先生のご 質問については、以上が私どもの回答です。
いかがでしょうか?」 「はい、それで結構だと思います。
大変わ かりやすい答えでした」 大先生の言葉に業務課長が嬉しそうに頷き、 企画課長を見る。
企画課長と相談した答えな のか、ちょっと小難しいが、肝心要の指摘で はある。
企画課長が頷く。
ROAへの貢献も大事 それまで総括表を見ながら、業務課長の話 を聞いていた経営企画室の主任が、「ちょっ とよろしいでしょうか?」と手を上げる。
部 長が、「おっ」という顔で、興味深そうに「ど うぞ」と発言を促す。
これまでもそうだが、 主任の発言は会議の進行にとって有効な働き をしてきたとの思いが部長には強い。
部長に とって主任の発言は大歓迎なのだ。
「えーと、ただいまのお話しですが、大変 よくわかりました。
たしかに、言われてみれ ばご指摘のとおりです。
普段余り気がつかな かったというか、気にしていないことをずば りと指摘され、私にとって目からウロコとい う感じでした」 こう言って、主任が業務課長を見て、頷く。
湯浅和夫の 67 OCTOBER 2010 を広げてそれらの在庫もこれくらい減らすこ とができるということも示したい。
それから、 無駄な生産をしないということで、生産の人 員の削減も可能になるはずだ。
それについて も検討していこう。
このあたりは生産出身の センター長に任せるので、よろしく頼むよ」 黙って議論の推移を見守っていた東京の物 流センター長が、突然名指しされ、慌てて「わ かりました。
何とかやってみます」と返事を する。
大先生が総括するように話し出す。
「そうですね。
これからどうするかの第一歩 としては、そのような方向でいいと思います。
それをすべて数字で表すことが必要なことは 言うまでもないですね。
ところで、これは新 聞情報程度の話ですが、御社は、いま、不 採算事業の撤退売却、コアとなる事業の生産 の増強、それも海外生産拠点の設置などを進 めていますよね? あっ、それから多角化の 一環でM&Aにも取り組んでいますね。
それ らをロジスティクスとしてどう支援するかと いう視点からの検討も必要だと思います」 「そうですね。
たしかに先生のおっしゃる とおりです。
その社内の検討にロジスティク スも加わるべきです。
うん、たしかにそうで す。
経営戦略とロジスティクスということだ。
これについては企画課長と、戦略はお手の物 の主任に検討を頼みたいと思うけど、いいか な?」 「はい」と二人が同時に返事をし、企画課 長が嬉しそうに答える。
「そのテーマは、私にとっても大変興味あ るものです。
頑張ってやらせていただきます」 企画課長の言葉を受けて、主任が「私も 同感です」と言う。
業務課長が遅れを取って はいけないといった感じで続ける。
「そのテーマについては、おれも興味あるの で参加させてほしいな。
もちろん、コストを 中心にした実態の解明は彼らと一緒におれが やるけど、そっちもやりたい」 「うん、みんな前向きで結構だ。
もちろん、 一応担当を分けたけど、担当だけで答を出す というものではない。
担当中心にみんなで議 論していこうと思ってる。
よろしく頼むよ」 部長の言葉にみんなが「はい」と元気よく 返事をする。
こうして、ロジスティクス導入 のステップが一歩進んだ。
えに主任が苦笑し、続ける。
「つまり、ロジスティクスを導入すれば、先 ほど課長がおっしゃったような愚かなコスト の発生を抑えることで利益貢献ができると同 時に不要な資産の圧縮も可能になるんだとい うことを実際の数字で示すことが有効なので はないかと思いますが、いかがでしょう?」 主任の問い掛けに部長が答える。
「もちろん異論はない。
ロジスティクスをわ かっている者にとっては当たり前なことだが、 社内全般にはそのあたりについての理解がな い。
原材料や部品、半製品の調達にまで管理 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan
