2010年10月号
SOLE
SOLE
原子力発電における保全業務革新安全規制改革で実現に道筋
我が国の原子力発電の最大の課題
は、先進国の中で最低レベルの稼働
率にある。
米国では一九八〇年代か ら官民が協力して原子力発電の保全 業務革新を進め、九〇%という高い 稼働率を実現している。
我が国では 昨年、米国を参考にした新検査制度 がようやく施行され、安全規制が見 直されたことによって保全業務革新、 ひいては稼働率向上に向けての道筋 が見えてきた。
国内の原子力発電の 保全業務革新の動向を報告する。
(ファンディール・菊池徹、山田憲吉) 原子力発電は国民共通の課題 原子力発電に対して、国民的レベ ルで関心が高まっている。
従来は専 門性の高い、特殊な事業領域と見做 される傾向が強かったが、最近では 地球温暖化対策の観点、更には原子 力プラントの海外輸出振興による国 家の経済成長戦略の観点でも注目さ れるようになっている。
一方、我が国の原子力発電には、 先進国の中で最低レベルの稼働率の 低さを如何に克服できるかという大 きな課題がある。
稼働率は原子力発 電の経済性に直結する問題であり、 国民生活および産業界活動全般に大 きく影響する国民共通の課題である。
課題の克服に向けては、筆者らは 保全業務革新こそが必要であり、そ の実現のためには次の四つの要素に 取り組む必要があると考える(図1)。
⑴ R C M(Reliability Centered Maintenance : 信頼性重視保 全)/CBM(Condition Based Maintenance:状態監視保全)を 導入した科学的かつ合理的な予防 保全方式 ⑵ S N P M(Standard Nuclear Performance Model:標準原子力 パフォーマンスモデル)などの標準 的業務プロセスの採用 ⑶ E A M(Enterprise Asset Management:設備資産管理)を 中核とした保修システムの統合 ⑷人材の育成および組織体制の見直 しを柱とする組織変革 このうち、⑴および⑶の技術的課 題にとどまらず、組織の見直しをと もなう⑵および⑷は、時間のかかる 困難な課題である。
特に組織変革に 関しては、電力の業務改革/組織変 革だけでなく、規制側の変革も必要 である。
稼働率低迷の要因 我が国の原子力発電における保全 業務革新は、規制の見直し(平成 二一年一月に新検査制度が施行)に 対応し、電力会社側の業務の見直し、 保修系の情報システムの統合化等が 進みつつある。
ただし、日米の原子 力発電所の稼働率の推移(図2)に 示す通り、米国が九〇%前後の高い 稼働率を維持しているのに対して、 我が国はこの数年、六〇%台に低迷 している状況に変わりはない。
日本の原子力発電所の稼働率の低 迷をもたらしている要因は三つある。
第一は、保安活動の不備や不祥事あ るいは地震等の外的事象に起因する 計画外停止であり、今世紀に入って から顕著である。
第二は、定検(定 期検査)期間に保全作業が集中して 停止期間が長くなるという構造的な 問題である(以上の影響は図3を参 照)。
第三は、運転サイクル期間の長 さである。
これらの要因それぞれを、 保全業務革新との関係で考察したい。
SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics OCTOBER 2010 72 原子力発電における保全業務革新 安全規制改革で実現に道筋 図1 保全業務革新の4要素 原子力の新検査制度(2009 年4 月より本格実施) RCM/CBM 導入 新業務プロセス 導入 SNPM 保修システムの 統合化 EAM 組織変革保全革新 図2 日本の原子力発電所の稼働率推移 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) (年) 日本 米国 73 OCTOBER 2010 図ることができた最も大きな要因と 伝えられている。
この国民的合意形 成を背景に、米国において原子力プ ラントの建設が再開され、かつ世界 に波及し、今日の原子力ルネサンス (復活)に結びついていることは周知 の通りである。
このように、原子力発電の稼働率 は経済性に深く結びついている。
繰 り返しになるが、稼働率を九〇%以 上に向上させるためには、業務や組 織の変革までを含めた保全業務革新 が必要である。
現行の保全組織文化 を温存しながら部分的に新しい保全 手法やツールを導入する方式では、 到底米国のような高稼働率は達成で きない。
新検査制度施行後の状況 保全業務革新による原子力発電の 経済的優位性実現を、平成二一年か らの新検査制度施行以後の状況との 関連でとらえてみたい。
■オンラインメンテナンス (運転中保全) 定検期間に保全作業が集中して停 止期間が長くなるという構造的な問 題が、稼働率が上がらない要因の一 つであることを指摘した。
すなわち、 電気事業者の立場からは、オンライ ンメンテナンスの実施/拡大は、現在 革新の推進が期待される。
米国は国民的合意を形成 上述のように、原子力発電の推進 に関しては、地球温暖化対策のため のCO2削減の切札的位置づけとし て、その目標設定の検討が継続的に 実施されるとともに、最近では国家 経済成長戦略の一環として原子力プ ラントの海外輸出が注目されている。
地球温暖化対策のためのCO2削 減に関しては、二〇二〇年度までに 九基の新規プラントの建設、八〇% 以上の稼働率の達成という目標に加 えて、三〇年度までに一四基の新規 プラントの建設、九〇%以上の稼働 率の達成の目標が検討されている。
注目すべきは、九〇% 以上の稼 働率を達成することは、一八カ月、 二四カ月等の長期運転サイクルやオ ンラインメンテナンスによる定検期間 の短縮等、保全革新を実施しなけれ ば不可能な高い目標である点にある。
換言すれば、三〇年度までに保全革 新を実現することが必須ということ である。
保全業務革新による稼働率 達成の見通しの試算を表1に示す。
米国では二〇〇〇年代以降の高稼 働率の達成により、原子力が石炭を 抜いて最も安い電源となった(図4)。
このことが米国において原子力発電 の推進に関して、国民的合意形成を 米国は一九八〇年代から二〇〇〇 年代にかけて保全業務の変革を実現 し、合理的に標準化された業務プロ セスと高度な情報管理に支えられて、 これらの要因を克服し安全性と経済 性を両立させている。
我が国の新検 査制度では、これまで一律十三カ月 毎に運転を止めて実施してきた定期 検査を十八カ月まで延長できる。
米 国の原子力規制を参考に国内の規制 を改革することに より、米国と同様 な電力側の保全業 務革新の推進を促 すものである。
規制側に関して は、オンラインメン テナンス(運転中保 全)や原子力発電 所における保安活 動総合評価等のルー ルの見直しが継続 的に検討されてお り、更にはより透 明性の高い規制の あり方も論議されて いる。
これら国内 の規制の見直しが実 施されれば、原子 力の規制の面ではほ ぼ米国並みとなり、 電力側の保全業務 図3 日米の原子力発電所の停止期間(定検日数)の推移 250 200 150 100 50 0 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 日本 米国 (日) 図4 米国の発電単価の推移 100 95 90 85 80 75 70 65 60 55 50 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (%) (セント/キロワット時) 発電単価(原子力):右軸 稼働率(原子力):左軸 発電単価(石炭):右軸 表1 保全業務革新による稼働率向上試算 ?運転期間 (月) ?定検期間 (日) ?定検期間 (月) 概算稼働率 =? /( ?+?) 備 考 13 100 3.3 80% 18 60 2.0 90% 18 40 1.3 93% 運転サイクルの延長と、オンライン メンテナンス実施による定検短縮 2000年前後の実績 保全高度化が米国並みに成熟 運転中の作業量が増加し、保全に 必要な専門技術者の競合を緩和 ・定検時の現場作業輻輳の回避によ るヒューマンエラー防止、工程調整 の余裕確保 国内においては、前提となる保安 規定の整備を含め、オンラインメンテ ナンスの実施に向けた課題の検討が 進められているところである。
■原子力発電所の 保安活動総合評価 先に述べた稼働率向上要因のうち、 保安活動の不備や不祥事に起因する 計画外停止を防ぐこと、運転サイク OCTOBER 2010 74 や安全上の重要性が異なるこ とがある。
例えば非常用ガス 処理系は、事故時に放出され るよう素や粒子状放射性物質 をフィルターを通して除去する ことが基本機能であるが、想 定する事故は運転時と停止時 とで異なる。
運転中に想定す る原子炉冷却材喪失事故より も、燃料交換停止中に想定す る燃料落下事故のほうが、被 ばく線量の観点からの影響が 大きく、非常用ガス処理系は オンラインメンテナンスに適し た代表的な系統である。
原子炉系やタービン系の運 転に直接関与する機器の保全は、も ちろん運転中には実施できない。
ま た、上記の許容待機除外時間の制約 外で実施したい作業や改良工事も停 止時保全の対象となる。
米国では運 転時と停止時、それぞれの保全実施 条件をリスク情報の活用などによっ て定量的に評価して、合理的な判断 の上にオンラインメンテナンスを実施 していると云うことができる。
電気事業者の立場からは、保全作 業のリソースの平準化にともなう作 業品質の向上効果も期待できる(図 5)。
・プラント停止中の作業量が減少/ 次のような考えで管理されている。
●時間による制約 技術仕様書は日本の保安規定に 相当するが、安全系各設備につい て、必要な最小限度の要求事項(運 転制限条件: L C O、Limiting Conditions for Operation)と、LC Oを満足できない場合にその完了ま でに許される時間(許容待機除外時 間、あるいは完了時間とも)を規定 している。
この時間制限を順守する。
●リスク評価値による制約 保全の実施にともない、利用で きる機器構成が時間とともに変動す る。
確率論的安全解析(PSA: Probabilistic Safety Assessment) の考えにもとづいて保全にともな うリスク増分値を評価し、その値に よって保全活動に制約を課す。
例え ば、炉心損傷頻度(CDF: Core Damage Frequency)の増分が年間 一〇のマイナス六乗(一〇〇万分の 一)以下であれば通常の作業管理の ままでよく、年間一〇のマイナス三 乗(一〇〇〇分の一)以上ならば許 容されない、等である。
一般に安全系統は、運転時も停止 時も機能を果たすことが求められる が、運転時と停止時とで果たす機能 定検期間に集中している予防保全の 一部をプラント運転期間に移すこと によって定検期間を短縮し、稼働率 向上に結びつけることが期待される。
米国原子力発電業界の標準業務モ デルであるSNPMの作業管理プロ セス(AP928)では、オンライ ンメンテナンスを「主発電機を送電 網に接続して実施する保全」と定義 している。
しかしオンラインメンテナ ンスは、日本では「運転中保全」と 訳されることが多いために、『オンラ インメンテナンスは状態監視保全と ほぼ同義である』という誤った見方、 更には、『運転中の設備に保全の手を 加える』乱暴なイメージを与えてい る傾向すらある。
米国の原子力発電所では、近年オ ンラインメンテナンスの導入が進んで おり、停止期間の短縮に大きく寄与 し、運転サイクル期間の長期化、稼 働率向上の推進要因となっている。
日本でのオンラインメンテナンスの実 施を考える参考として、米国のオン ラインメンテナンスの状況を概観する。
議論の対象となるのは、主に通常 稼働しない安全系統の機器へのオン ラインメンテナンスである。
安全系統 は、一般に多重性や多様性を確保し た設計となっている。
米国では安全 系統の機器へのオンラインメンテナン スの実施にともなう安全性の確保が、 図5 保全リソースの平準化 定検時保全 ●予防保全 ●改良工事 供用期間中検査/試験 事後保全 日常保守 運転時停止時 定検時保全 ●予防保全 ●改良工事 供用期間中検査/試験 予防保全(オンライン保守) 事後保全 日常保守 運転時停止時 保全作業の種類と量のイメージ(現状) ・定検時に保全が集中 保全作業の種類と量の将来イメージ ・オンラインメンテナンス実施 ・運転期間延長 ル期間を延長することは、新検査制 度の主旨に直接関係する。
本年七月九日、「原子力発電所の 保安活動総合評価」の試行最終結 果が公表された。
評価は「安全実績 指標評価(PI評価:Performance Indicator)」および「安全重要度 評価( S D P 評価: Signifi cance Determination Process)」の二つ の柱からなっており、米国原子炉 監督プロセス( R O P : Reactor Oversight Process)を参考にしたも のである。
保安活動総合評価結果が 良好なプラント は基本検査のみ で足り、一八カ 月あるいは二四 カ月の運転期間 延長に道が開け るが、総合評価 で問題があると されたプラント は追加検査に対 応しなければな らない。
PI評価は、 電力会社が提出 する十一種類の パフォーマンス 指標値による数 値評価である。
SDP評価は、 発電所において発生した事故故障や 検査指摘事項を、安全機能、放射線 影響、品質保証の三つの観点から評 価する。
PI評価とSDP評価の結 果を組み合わせて総合評価とするが、 その総合評価結果を表2に示す。
評 価区分?の二プラントは、保守管理 体制と品質保証システムが十分機能 せず、保安規定の要求に違反したと の評価である。
■規制組織の役割 新検査制度の実施状況を代表する 例として、オンラインメンテナンスを めぐる状況、保安活動総合評価の二 つを取り上げた。
いずれも産業界だ けでなく、規制組織が大きな役割を 果たす。
稼働率の推移に代表される 米国原子力発電の好調は、八〇年代 からの規制側と産業界との間の、真 摯な検討にもとづく合意形成による ところが大きい。
日米の原子炉一基あたりの規制組 織職員数を比較すると、日本は米国 の半分である。
加えて日本の規制組 織は、原子力・安全保安院、原子力 安全委員会、原子力安全基盤機構 (JNES)の三つに分かれているこ ともあって、国民的合意形成に向け た原子力規制情報の公開は十分でな いと思われる。
一例として、上記の保安活動総合 評価(PI・SDP評価)の公開が ある。
この評価結果は、経済産業省 のホームページの「トップページ ∨ 報道発表∨過去の報道発表」の中で、 まず時系列的に開示された。
約一カ 月後にはJNESホームページの「技 術情報」にも掲載されるようになった。
一方米国においては、原子力規 制に関する情報はN R C(Nuclear Regulatory Commission:米国原子 力規制委員会)のページに一元管理 されている。
我が国の「原子力発電 所の保安活動総合評価」と同等の内 容は、「Home∨Nuclear Reactors∨ Operating Reactors∨Oversight ∨ Reactor Oversight Process」にて、 常に最新状況および過去の評価結果 を確認することができる。
情報開示 の姿勢と方法に大きな違いがある。
おわりに 昨年の新検査制度以降の国内の規 制の見直しを中心に、原子力発電の 保全業務革新の動向を報告した。
現 在検討が行なわれている規制の見直 しが実施されれば、原子力発電の稼 働率の引き上げに向けた道筋が開か れる。
電力側でも見直しを受けて保 全業務革新を推進しつつあり、一部 の電力ではその成果も出始めている。
これに対して保全活動の不備による 計画外停止の電力もあり、その推進 状況に関しては電力毎に大きな開き があると考えられる。
米国の成功要因の一つに電力側の 業務とシステムの標準化があると云 われている。
業務やシステムの大幅 な変革を乗り越え、今日の原子力発 電の高稼働率を達成した背景には、 多くの原子力発電所が参加した相互 のベンチマーク評価とベストプラク ティスの共有による業務とシステムの 標準化がある。
我が国においても、電力側の保全 業務革新に向けては、電力相互の緊 密な協力関係と電力業界レベルの標 準化が重要である。
75 OCTOBER 2010 次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは10月8日 (金)「SOLE日本支部の年度総 会・懇親会」を予定している。
こ のフォーラムは年間計画に基づい て運営しているが、単月のみの参 加も可能。
一回の参加費は6,000 円。
ご希望の方は事務局(sole-joffi ce@cpost.plala.or.jp)まで お問い合わせください。
※ S O L E(The International Society of Logistics)は一九六〇年代に設立されたロジ スティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五 一カ国・三〇〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本 支部では毎月﹁フォーラム﹂を開催し、講演、 研究発表、現場見学などを通じてロジスティク ス・マネジメントに関する活発な意見交換、議 論を行っている。
表2 原子力発電所の保安活動総合評価結果 ? 課題は見出されなかった 10 ? 軽微な課題が見出された 19 ? 課題が見出された 2 ? 重要な課題が見出された 21 ? 許容できない課題が見出された 2 評価区分プラント数平成22年度検査方針への反映 基本検査のみで足りる 追加検査が必要
米国では一九八〇年代か ら官民が協力して原子力発電の保全 業務革新を進め、九〇%という高い 稼働率を実現している。
我が国では 昨年、米国を参考にした新検査制度 がようやく施行され、安全規制が見 直されたことによって保全業務革新、 ひいては稼働率向上に向けての道筋 が見えてきた。
国内の原子力発電の 保全業務革新の動向を報告する。
(ファンディール・菊池徹、山田憲吉) 原子力発電は国民共通の課題 原子力発電に対して、国民的レベ ルで関心が高まっている。
従来は専 門性の高い、特殊な事業領域と見做 される傾向が強かったが、最近では 地球温暖化対策の観点、更には原子 力プラントの海外輸出振興による国 家の経済成長戦略の観点でも注目さ れるようになっている。
一方、我が国の原子力発電には、 先進国の中で最低レベルの稼働率の 低さを如何に克服できるかという大 きな課題がある。
稼働率は原子力発 電の経済性に直結する問題であり、 国民生活および産業界活動全般に大 きく影響する国民共通の課題である。
課題の克服に向けては、筆者らは 保全業務革新こそが必要であり、そ の実現のためには次の四つの要素に 取り組む必要があると考える(図1)。
⑴ R C M(Reliability Centered Maintenance : 信頼性重視保 全)/CBM(Condition Based Maintenance:状態監視保全)を 導入した科学的かつ合理的な予防 保全方式 ⑵ S N P M(Standard Nuclear Performance Model:標準原子力 パフォーマンスモデル)などの標準 的業務プロセスの採用 ⑶ E A M(Enterprise Asset Management:設備資産管理)を 中核とした保修システムの統合 ⑷人材の育成および組織体制の見直 しを柱とする組織変革 このうち、⑴および⑶の技術的課 題にとどまらず、組織の見直しをと もなう⑵および⑷は、時間のかかる 困難な課題である。
特に組織変革に 関しては、電力の業務改革/組織変 革だけでなく、規制側の変革も必要 である。
稼働率低迷の要因 我が国の原子力発電における保全 業務革新は、規制の見直し(平成 二一年一月に新検査制度が施行)に 対応し、電力会社側の業務の見直し、 保修系の情報システムの統合化等が 進みつつある。
ただし、日米の原子 力発電所の稼働率の推移(図2)に 示す通り、米国が九〇%前後の高い 稼働率を維持しているのに対して、 我が国はこの数年、六〇%台に低迷 している状況に変わりはない。
日本の原子力発電所の稼働率の低 迷をもたらしている要因は三つある。
第一は、保安活動の不備や不祥事あ るいは地震等の外的事象に起因する 計画外停止であり、今世紀に入って から顕著である。
第二は、定検(定 期検査)期間に保全作業が集中して 停止期間が長くなるという構造的な 問題である(以上の影響は図3を参 照)。
第三は、運転サイクル期間の長 さである。
これらの要因それぞれを、 保全業務革新との関係で考察したい。
SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics OCTOBER 2010 72 原子力発電における保全業務革新 安全規制改革で実現に道筋 図1 保全業務革新の4要素 原子力の新検査制度(2009 年4 月より本格実施) RCM/CBM 導入 新業務プロセス 導入 SNPM 保修システムの 統合化 EAM 組織変革保全革新 図2 日本の原子力発電所の稼働率推移 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) (年) 日本 米国 73 OCTOBER 2010 図ることができた最も大きな要因と 伝えられている。
この国民的合意形 成を背景に、米国において原子力プ ラントの建設が再開され、かつ世界 に波及し、今日の原子力ルネサンス (復活)に結びついていることは周知 の通りである。
このように、原子力発電の稼働率 は経済性に深く結びついている。
繰 り返しになるが、稼働率を九〇%以 上に向上させるためには、業務や組 織の変革までを含めた保全業務革新 が必要である。
現行の保全組織文化 を温存しながら部分的に新しい保全 手法やツールを導入する方式では、 到底米国のような高稼働率は達成で きない。
新検査制度施行後の状況 保全業務革新による原子力発電の 経済的優位性実現を、平成二一年か らの新検査制度施行以後の状況との 関連でとらえてみたい。
■オンラインメンテナンス (運転中保全) 定検期間に保全作業が集中して停 止期間が長くなるという構造的な問 題が、稼働率が上がらない要因の一 つであることを指摘した。
すなわち、 電気事業者の立場からは、オンライ ンメンテナンスの実施/拡大は、現在 革新の推進が期待される。
米国は国民的合意を形成 上述のように、原子力発電の推進 に関しては、地球温暖化対策のため のCO2削減の切札的位置づけとし て、その目標設定の検討が継続的に 実施されるとともに、最近では国家 経済成長戦略の一環として原子力プ ラントの海外輸出が注目されている。
地球温暖化対策のためのCO2削 減に関しては、二〇二〇年度までに 九基の新規プラントの建設、八〇% 以上の稼働率の達成という目標に加 えて、三〇年度までに一四基の新規 プラントの建設、九〇%以上の稼働 率の達成の目標が検討されている。
注目すべきは、九〇% 以上の稼 働率を達成することは、一八カ月、 二四カ月等の長期運転サイクルやオ ンラインメンテナンスによる定検期間 の短縮等、保全革新を実施しなけれ ば不可能な高い目標である点にある。
換言すれば、三〇年度までに保全革 新を実現することが必須ということ である。
保全業務革新による稼働率 達成の見通しの試算を表1に示す。
米国では二〇〇〇年代以降の高稼 働率の達成により、原子力が石炭を 抜いて最も安い電源となった(図4)。
このことが米国において原子力発電 の推進に関して、国民的合意形成を 米国は一九八〇年代から二〇〇〇 年代にかけて保全業務の変革を実現 し、合理的に標準化された業務プロ セスと高度な情報管理に支えられて、 これらの要因を克服し安全性と経済 性を両立させている。
我が国の新検 査制度では、これまで一律十三カ月 毎に運転を止めて実施してきた定期 検査を十八カ月まで延長できる。
米 国の原子力規制を参考に国内の規制 を改革することに より、米国と同様 な電力側の保全業 務革新の推進を促 すものである。
規制側に関して は、オンラインメン テナンス(運転中保 全)や原子力発電 所における保安活 動総合評価等のルー ルの見直しが継続 的に検討されてお り、更にはより透 明性の高い規制の あり方も論議されて いる。
これら国内 の規制の見直しが実 施されれば、原子 力の規制の面ではほ ぼ米国並みとなり、 電力側の保全業務 図3 日米の原子力発電所の停止期間(定検日数)の推移 250 200 150 100 50 0 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 日本 米国 (日) 図4 米国の発電単価の推移 100 95 90 85 80 75 70 65 60 55 50 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (%) (セント/キロワット時) 発電単価(原子力):右軸 稼働率(原子力):左軸 発電単価(石炭):右軸 表1 保全業務革新による稼働率向上試算 ?運転期間 (月) ?定検期間 (日) ?定検期間 (月) 概算稼働率 =? /( ?+?) 備 考 13 100 3.3 80% 18 60 2.0 90% 18 40 1.3 93% 運転サイクルの延長と、オンライン メンテナンス実施による定検短縮 2000年前後の実績 保全高度化が米国並みに成熟 運転中の作業量が増加し、保全に 必要な専門技術者の競合を緩和 ・定検時の現場作業輻輳の回避によ るヒューマンエラー防止、工程調整 の余裕確保 国内においては、前提となる保安 規定の整備を含め、オンラインメンテ ナンスの実施に向けた課題の検討が 進められているところである。
■原子力発電所の 保安活動総合評価 先に述べた稼働率向上要因のうち、 保安活動の不備や不祥事に起因する 計画外停止を防ぐこと、運転サイク OCTOBER 2010 74 や安全上の重要性が異なるこ とがある。
例えば非常用ガス 処理系は、事故時に放出され るよう素や粒子状放射性物質 をフィルターを通して除去する ことが基本機能であるが、想 定する事故は運転時と停止時 とで異なる。
運転中に想定す る原子炉冷却材喪失事故より も、燃料交換停止中に想定す る燃料落下事故のほうが、被 ばく線量の観点からの影響が 大きく、非常用ガス処理系は オンラインメンテナンスに適し た代表的な系統である。
原子炉系やタービン系の運 転に直接関与する機器の保全は、も ちろん運転中には実施できない。
ま た、上記の許容待機除外時間の制約 外で実施したい作業や改良工事も停 止時保全の対象となる。
米国では運 転時と停止時、それぞれの保全実施 条件をリスク情報の活用などによっ て定量的に評価して、合理的な判断 の上にオンラインメンテナンスを実施 していると云うことができる。
電気事業者の立場からは、保全作 業のリソースの平準化にともなう作 業品質の向上効果も期待できる(図 5)。
・プラント停止中の作業量が減少/ 次のような考えで管理されている。
●時間による制約 技術仕様書は日本の保安規定に 相当するが、安全系各設備につい て、必要な最小限度の要求事項(運 転制限条件: L C O、Limiting Conditions for Operation)と、LC Oを満足できない場合にその完了ま でに許される時間(許容待機除外時 間、あるいは完了時間とも)を規定 している。
この時間制限を順守する。
●リスク評価値による制約 保全の実施にともない、利用で きる機器構成が時間とともに変動す る。
確率論的安全解析(PSA: Probabilistic Safety Assessment) の考えにもとづいて保全にともな うリスク増分値を評価し、その値に よって保全活動に制約を課す。
例え ば、炉心損傷頻度(CDF: Core Damage Frequency)の増分が年間 一〇のマイナス六乗(一〇〇万分の 一)以下であれば通常の作業管理の ままでよく、年間一〇のマイナス三 乗(一〇〇〇分の一)以上ならば許 容されない、等である。
一般に安全系統は、運転時も停止 時も機能を果たすことが求められる が、運転時と停止時とで果たす機能 定検期間に集中している予防保全の 一部をプラント運転期間に移すこと によって定検期間を短縮し、稼働率 向上に結びつけることが期待される。
米国原子力発電業界の標準業務モ デルであるSNPMの作業管理プロ セス(AP928)では、オンライ ンメンテナンスを「主発電機を送電 網に接続して実施する保全」と定義 している。
しかしオンラインメンテナ ンスは、日本では「運転中保全」と 訳されることが多いために、『オンラ インメンテナンスは状態監視保全と ほぼ同義である』という誤った見方、 更には、『運転中の設備に保全の手を 加える』乱暴なイメージを与えてい る傾向すらある。
米国の原子力発電所では、近年オ ンラインメンテナンスの導入が進んで おり、停止期間の短縮に大きく寄与 し、運転サイクル期間の長期化、稼 働率向上の推進要因となっている。
日本でのオンラインメンテナンスの実 施を考える参考として、米国のオン ラインメンテナンスの状況を概観する。
議論の対象となるのは、主に通常 稼働しない安全系統の機器へのオン ラインメンテナンスである。
安全系統 は、一般に多重性や多様性を確保し た設計となっている。
米国では安全 系統の機器へのオンラインメンテナン スの実施にともなう安全性の確保が、 図5 保全リソースの平準化 定検時保全 ●予防保全 ●改良工事 供用期間中検査/試験 事後保全 日常保守 運転時停止時 定検時保全 ●予防保全 ●改良工事 供用期間中検査/試験 予防保全(オンライン保守) 事後保全 日常保守 運転時停止時 保全作業の種類と量のイメージ(現状) ・定検時に保全が集中 保全作業の種類と量の将来イメージ ・オンラインメンテナンス実施 ・運転期間延長 ル期間を延長することは、新検査制 度の主旨に直接関係する。
本年七月九日、「原子力発電所の 保安活動総合評価」の試行最終結 果が公表された。
評価は「安全実績 指標評価(PI評価:Performance Indicator)」および「安全重要度 評価( S D P 評価: Signifi cance Determination Process)」の二つ の柱からなっており、米国原子炉 監督プロセス( R O P : Reactor Oversight Process)を参考にしたも のである。
保安活動総合評価結果が 良好なプラント は基本検査のみ で足り、一八カ 月あるいは二四 カ月の運転期間 延長に道が開け るが、総合評価 で問題があると されたプラント は追加検査に対 応しなければな らない。
PI評価は、 電力会社が提出 する十一種類の パフォーマンス 指標値による数 値評価である。
SDP評価は、 発電所において発生した事故故障や 検査指摘事項を、安全機能、放射線 影響、品質保証の三つの観点から評 価する。
PI評価とSDP評価の結 果を組み合わせて総合評価とするが、 その総合評価結果を表2に示す。
評 価区分?の二プラントは、保守管理 体制と品質保証システムが十分機能 せず、保安規定の要求に違反したと の評価である。
■規制組織の役割 新検査制度の実施状況を代表する 例として、オンラインメンテナンスを めぐる状況、保安活動総合評価の二 つを取り上げた。
いずれも産業界だ けでなく、規制組織が大きな役割を 果たす。
稼働率の推移に代表される 米国原子力発電の好調は、八〇年代 からの規制側と産業界との間の、真 摯な検討にもとづく合意形成による ところが大きい。
日米の原子炉一基あたりの規制組 織職員数を比較すると、日本は米国 の半分である。
加えて日本の規制組 織は、原子力・安全保安院、原子力 安全委員会、原子力安全基盤機構 (JNES)の三つに分かれているこ ともあって、国民的合意形成に向け た原子力規制情報の公開は十分でな いと思われる。
一例として、上記の保安活動総合 評価(PI・SDP評価)の公開が ある。
この評価結果は、経済産業省 のホームページの「トップページ ∨ 報道発表∨過去の報道発表」の中で、 まず時系列的に開示された。
約一カ 月後にはJNESホームページの「技 術情報」にも掲載されるようになった。
一方米国においては、原子力規 制に関する情報はN R C(Nuclear Regulatory Commission:米国原子 力規制委員会)のページに一元管理 されている。
我が国の「原子力発電 所の保安活動総合評価」と同等の内 容は、「Home∨Nuclear Reactors∨ Operating Reactors∨Oversight ∨ Reactor Oversight Process」にて、 常に最新状況および過去の評価結果 を確認することができる。
情報開示 の姿勢と方法に大きな違いがある。
おわりに 昨年の新検査制度以降の国内の規 制の見直しを中心に、原子力発電の 保全業務革新の動向を報告した。
現 在検討が行なわれている規制の見直 しが実施されれば、原子力発電の稼 働率の引き上げに向けた道筋が開か れる。
電力側でも見直しを受けて保 全業務革新を推進しつつあり、一部 の電力ではその成果も出始めている。
これに対して保全活動の不備による 計画外停止の電力もあり、その推進 状況に関しては電力毎に大きな開き があると考えられる。
米国の成功要因の一つに電力側の 業務とシステムの標準化があると云 われている。
業務やシステムの大幅 な変革を乗り越え、今日の原子力発 電の高稼働率を達成した背景には、 多くの原子力発電所が参加した相互 のベンチマーク評価とベストプラク ティスの共有による業務とシステムの 標準化がある。
我が国においても、電力側の保全 業務革新に向けては、電力相互の緊 密な協力関係と電力業界レベルの標 準化が重要である。
75 OCTOBER 2010 次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは10月8日 (金)「SOLE日本支部の年度総 会・懇親会」を予定している。
こ のフォーラムは年間計画に基づい て運営しているが、単月のみの参 加も可能。
一回の参加費は6,000 円。
ご希望の方は事務局(sole-joffi ce@cpost.plala.or.jp)まで お問い合わせください。
※ S O L E(The International Society of Logistics)は一九六〇年代に設立されたロジ スティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五 一カ国・三〇〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本 支部では毎月﹁フォーラム﹂を開催し、講演、 研究発表、現場見学などを通じてロジスティク ス・マネジメントに関する活発な意見交換、議 論を行っている。
表2 原子力発電所の保安活動総合評価結果 ? 課題は見出されなかった 10 ? 軽微な課題が見出された 19 ? 課題が見出された 2 ? 重要な課題が見出された 21 ? 許容できない課題が見出された 2 評価区分プラント数平成22年度検査方針への反映 基本検査のみで足りる 追加検査が必要
