2010年11月号
ケース

全日本空輸 部品物流

NOVEMBER 2010  40 無償の自社便にこだわる物流の盲点  全日本空輸(ANA)の整備部門が扱って いる部品物流は、以下の三タイプに大別でき る。
?運航便の部品交換のための「運航支援 物流」、?使用した部品の基地への「補充/ 返送物流」、そして?修理が必要な部品を国 内外のベンダーに輸送する「部品修理物流」 である。
物流業務ごとにスピードやコストな ど重視すべき項目は異なる。
 このうち?運航支援物流とは、運航中の飛 行機が部品のトラブルで離陸できなくなった ときの対応で、航空業界で「AOG(エアク ラフト・オン・ザ・グラウンド)」と呼ばれる 緊急事態を指す。
この状態に陥った航空会社 は、たとえライバル企業同士でも、必要な部 品を融通しあう。
専門の「AOGサポートチ ーム」がスピード第一で処理するため日常的 な物流管理とは異なる。
 ?基地への補充/返送物流は、各地の部 品基地で備蓄している在庫にかかわる物流だ。
飛行機の運航には直接影響しないため、スピ ードよりも確実性やコスト効率が求められる。
このためANAは、自社便の貨物スペースを 無償で使う「Co-mat(Company Material)」 をフル活用することで、この物流におけるコ ストを抑制している。
 ?部品修理物流にも二〇〇六年までは全面 的に「Co-mat」を使っていた。
不具合などで 飛行機から取り外した部品をいったん羽田空 港の部品基地に集め、成田を経由し「Co-mat」 で世界各地の部品ベンダーに送る。
修理が済 めば、「Co-mat」で羽田に戻して保管し、必 要に応じて再び機体に取り付ける。
 しかし、航空会社としては、当然ながら無 償の「Co-mat」より有償貨物を優先する。
そ のため修理部品には待ち時間が避けられなか った。
加えて、ANA便が就航している空港  全日本空輸の整備部門が飛行機の修理部品の物流 改革を進めている。
従来は修理部品を羽田から海外 ベンダーに送って戻ってくるまでの輸送リードタイム に20日近くを要していた。
米UPSによる一貫サービ スを導入して、このプロセスを全面的に見直すこと で、所要日数を半分以下に短縮した。
部品物流 全日本空輸 修理部品の国際物流プロセスを刷新し 約19日かかっていた所要日数を半減 整備部門の部品物流は3 種類に大別される 1. 運航支援物流 2. 基地補充/   返送物流 3. 部品修理物流 ?早く?確実に?低コスト 同日〜2 日 1 日〜3 日 国内:2〜3 日 海外:9〜20 日 運航便に直接影響するが 頻度わずか 恒常的に発生するが、 Co-mat 主体で低コスト 恒常的に発生し、 予備在庫数に影響 物流パフォーマンス プロセスタイム 物流のミッション→ ↓ 費用や在庫額(BS)への影響は!! 費用(PL) プロセスタイム(PT):送付〜納品迄にかかる物流プロセス時間 Co-mat:Company Material の意味で、自社便の貨物スペースを活用した無償物流 ※2007年時点の実績 41  NOVEMBER 2010 から部品ベンダーまでの輸送業務も別に手配 する必要があり、その管理は外部の物流事業 者に委ねていた。
このこともまた輸送リード タイムの長期化につながっていた。
 そもそも従来のANAの整備部門には、物 流を高度化しようとする意識自体が希薄だっ た。
「正直なところ、修理部品の物流に時間 がかかっても気にしていなかった。
従来の取り 組みは、いかに低価格で部品を購入し、ベン ダーに修理代を安くしてもらい、修理期間を 短くするといったことが中心だった。
物流に 興味を持つ人間もあまりいなかった」と、整 備本部部品計画部部品統制チームの久富克 紀リーダーは率直に振り返る。
 ANAは部品の修理業務やそのための物流 管理をグループの全日空商事に委託しており、 同社が元請けになって物流事業者などと契約 を交わしている。
こうした体制も物流に目を 向けない一因になっていた。
この姿勢を〇七 年度から三カ年の中期経営計画のなかで改め た。
中計の策定にあたり整備部門は、部品の 物流と在庫に焦点を当てることを決めた。
米UPSの一貫物流の利用にシフト  〇六年当時のANAの部品在庫は約一二〇 〇億円分あり、在庫が多いことは認識してい た。
だが、これを管理する戦略は皆無に等し かった。
そこで着目したのが、在庫増を招い ていた輸送リードタイムだった。
 従来のやり方では、修理部品の国際物流の リードタイム(実際の修理に要する日数を除 く)は、米国向けで十三〜一七日(着地によ って差異あり)、ヨーロッパで約一九日、アジ アで約十一日かかっていた。
修理済み部品が 国内に着いてから、羽田の部品倉庫に納入す るのにも約二日を費やしていた。
 この状態を是正するにあたって、在庫を持 つことによるコストを試算した。
そして移動 中の修理部品の在庫だけでも約一七〇億円分 あり、仮に輸送リードタイムを一日短縮すれ ば三億円分の在庫が不要になるという試算値 を弾き出した。
ここから、部品物流の輸送リ ードタイムを二五%短縮し、在庫金額を一〇 〇〇億円に減らす目標を設定した。
 約二年かけて対策案を練り、〇九年四月 からまずは総物量の半分を占める北米向けで、 三段階に分けて改革案を実行に移した。
修理 部品の物流では、往路は羽田の部品基地から まとめて出荷できる。
だが復路は各地のベン ダーに分散した部品を集める必要がある。
そ こで第一段階として往路の改革を進めた。
 「最初に計画を策定したときは『Co-mat』 の活用を前提に物流事業者から提案を募った。
その中で一番良い提案をしてくれたのがUP Sだった。
彼らの『トレード・ダイレクト』と いうサービスを使えば、ANA便を使いなが らでも、往路だけで四日間短縮できることが わかった」(久富リーダー)  往路に新しいやり方を導入したのに続いて、 その後、復路でもUPSを使うように物流プ 07 年時点の海外修理部品の物流(米国西海岸向けで往復約19 日間) 不具合 部品 仮梱包 定期便陸送 定期便陸送 システム登録 輸出用本梱包 陸送 輸出通関 輸出通関 搭載待ち 自社無償航空便自社無償航空便 輸入通関 輸入通関 陸送 システム登録 システム登録 システム登録タグ貼り タグ貼り 陸送 陸送 陸送 陸送 仮梱包 陸送 仕分け仕分け 陸送 配達 配達 ANA 羽田 倉庫 ANA 羽田 倉庫 10 日 海外 修理 ベンダー 羽田空港地区 成田空港 周辺地区 梱包 会社 A 配送 会社 B 通関 会社 C ANA 貨物部門 通関& 物流会社 D 米国 物流会社 E 成田空港 貨物地区 ロサンゼルス 空港地区 ロサンゼルス 近郊 9 日 整備本部部品計画部部品統制 チームの久富克紀リーダー NOVEMBER 2010  42 務プロセスの展開を進めている最中だ。
アジアではOCSと物流改革  ANAの修理部品の物流は従来、無償の自 社便に固執するあまり、プロセスをトータル で統合し効率化するという発想を欠いていた。
だが国際インテグレーターであるUPSと組 むことで、考え方が大きく変わった。
 しかし、残されたアジア向けの物流につい ては、米国・欧州とは異なるアプローチを採 用した。
コンペは開催せず、ANAグループ の物流会社であるOCS(旧海外新聞普及) を物流パートナーに選んだ。
 アジアに軸足を置く「リージョナル・インテ グレーター」を標榜するOCSと共に、AN A便の「Co-mat」を使った新たな部品物流を 今年度中に展開しようとしている。
グループ の貨物事業が打ち出している「沖縄貨物ハブ 構想」とも連携していく方針だ。
 久富リーダーとしては、一連の物流改革で 培った経験をアジアで生かしたい気持ちが強 い。
「グループに選択肢を持つ意味は大きい。
すべてを外部に出してしまうと、どうしても 分からないことが出てくる。
OCSもいろい ろな面で体制を整えてくれている。
これから 値段などを他と比較しながらやっていくこと になるが、今後に期待している」  ところで肝心の部品在庫は、残念ながら減 っていない。
現状は一三〇〇億円程度。
新た に導入する機種の新規部品の影響などで、む ロセスを変更した。
結果として、往復で計六 日間の短縮を実現できた。
 次のステップでは日本国内の物流を見直し た。
従来は羽田での出荷準備や成田への横持 ち、部品が日本に戻ってからの開梱作業など に計五日間かかっていた。
ちょうど当時、羽 田空港付近に点在していたANAの整備施設 や部品倉庫を同一エリアに集約する動きが別 に進められていた。
この拠点集約にメドが立 ち、業務内容も見直したことで、所要日数を 二日間短縮することに成功した。
 第三段階では「Co-mat」の利用をやめ、U PSの一貫サービスを全面的に利用するとい う決断を下した。
「従来は荷物をまとめて運ん だ方が有利だと思っていたのだが、UPSは 小口でも安かった」と久富リーダー。
まずは 部品ベンダーからの集荷を必要とする復路か ら切り替え、次いで日本発の往路も変更した。
これによって、日本に到着した修理部品はす べてUPSの「新木場集配センター」経由で 羽田の倉庫に直納されるようになった。
これ で、さらに三日間の短縮が可能になった。
 一連の見直しで、北米向け部品物流の輸送 リードタイムは、従来の一九日から一〇日へ と劇的に縮まった。
その後も工夫を重ね、現 在では八日程度まで短縮が進んでいる。
 欧州向けの物流でも同様の物流改革をスタ ートした。
国際インテグレーターや大手航空 フォワーダーから提案を募って、ここでもU PSをパートナーに選んだ。
現在、新しい業 3 段階のプロセス改革で所要日数を半減させた 従来の プロセス Step-1 Step-2 Step-3 羽田 →成田成田→ベンダーベンダー→成田成田 →羽田 往路(10 日) 復路(9 日) プロセスタイム(PT) ※約19日(往復) (※)ロサンゼルス修理品の場合 ▲4 日 ▲2日 ▲4日 ▲3日 ▲2日 ▲4日 Step-1:米国ベンダーへの海外往路 米国ベンダーへのFreight 便をCo-mat あるいはフォ ワーダー混載便から、UPS 社のD2D物流へ変更。
シー ムレス物流の効果で▲4 日程度のPTを削減 Step-2:国内物流基盤の再構築 羽田新整備場地区への施設集約に伴いHND〜NRT 貨物地区への直送、およびNRT〜HND検収への直 納スキームを構築し、往復で▲2 日程度のPTを削減 Step-3:米国ベンダーからの海外復路 郵便等の小口貨物サービスを活用してUPS社によるD 2D物流を導入。
新木場の該社配送センター経由HN Dへの直納スキームにより、▲3 日程度PTを削減 43  NOVEMBER 2010 しろ増えてしまっている。
既存品では新たな 在庫の発生を抑えるようになった。
だが全体 の在庫水準を引き下げるには、不要品を外部 に販売したり廃棄しなければならない。
これ には市況やANAの財務状況との調整が必要 で、整備部門の一存ではできない。
 もちろん部品在庫の抑制に向けた努力を怠 っているわけではない。
約五年前からボーイ ングと実施している「IMM」プログラムで は、同社のVMI(ベンダーによる在庫管理) サービスを活用している。
他の部品ベンダー とも同様の取り組みを拡大してきた。
ANA がローンチカスタマー(世界で最初の大口顧 客)となる「B787」では、部品管理にお いても有利な条件をボーイングから引き出す ことに成功している。
 〇七年からの中計では、在庫管理の高度化 も視野に入れながら、部品管理にICタグを 利用することも検討した。
当時、ボーイング とエアバスがICタグの導入を熱心に模索し ていたことが背景にあった。
ANAの整備部 門でも数十個のタグを試験的に購入し、用途 に頭をひねった。
だが読み取り精度などがネ ックになって導入には至らなかった。
 最近は日本でも、格安航空会社の動きが本 格化しつつある。
整備の分野でも、ローコス ト化の要請が高まっていくことは必至と目され ている。
ANAの整備部門としても、コスト 効率を自ら高めていくことが欠かせなくなっ ている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 整備ツールの管理にICタグを導入  本文中で述べたように、飛行機部品の物流管理 において、RFID(ICタグ)はまだ導入に至っ ていない。
しかしANAの整備本部は〇九年春、 ICタグを活用した飛行機の「整備用ツール管理 システム」を実用化した。
すでに欠かせない仕組 みとして現場に定着している。
 整備本部機体計画部施設設備チームの安藤潤二 主席部員は、システム開発の狙いを次のように説 明する。
「二つの目的があった。
一つは、整備ツー ルの取り忘れなどを防止して作業効率を高めるこ と。
もう一つは、ツール管理のための煩雑な作業 から整備士を解放して、本来の業務に集中できる 環境をつくること。
コスト効率というよりは、業 務の煩雑さを低減することを重視した」  整備士が共用で使っている整備ツール(ツール ボックスや無線機、懐中電灯、整備マニュアル、 車両のキーなど一六種類)にそれぞれUHF帯の ICタグを付けた。
整備士自身もICタグ付きの ネームプレートを身に付けている。
現場に出る前 の整備士がゲート型のリーダーの前に立つと、I Cタグが読み込まれて持参しているツールが眼前 のモニターに一覧で表示される。
 このシステムを導入する以前は、ホワイトボー ドとマグネッ トで整備ツー ルの出納を管 理していた。
ホワイトボー ド上に整備士 の名前を表示 し、その横に 持ち出すツールを示すマグネットを並べるという方 法だった。
手間がかかるうえ、この仕組みではツー ルの戻し忘れなどの初歩的なミスを防ぐ効果は弱 かった。
 ICタグを使った新システムでは、リーダー(タ グの読み取り機)の前に立つだけで持参している ツールがすべて表示される。
整備士にとっては、 これが出発前の忘れ物チェックや、帰任時のチェッ クに使える。
さらにシステム化によって、誰が、 いつ、何を持ち出し、いつ返却したかという詳細 な履歴も自動で記録できるようになった。
 システム開発はNECが担当した。
当初は、金 属だらけの現場でICタグの読み取り精度を確保 するために試行錯誤を繰り返さなければならなかっ た。
それでもタグの種類を変えたり、電波吸収体 を貼るなどの工夫を凝らすことで読み取り精度を 高めていった。
 ANAはこのシステムを、月払いのリース契約 で活用している。
このため開発の初期費用など目 立った先行投資は発生していない。
整備士がばら ばらに身につけている多数のツールを瞬時に読み 取ることはバーコードや二次元コードでは不可能 だ。
ICタグならではの強みを発揮できる仕組み といえる。
従来 導入後 整備本部機体計画部施設設備 チームの安藤潤二主席部員

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