2010年11月号
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第63回 山九

NOVEMBER 2010  48 機工事業が成長を牽引  本連載で山九が取り上げられるのは、二〇 〇一年一〇月以来のことだという。
時価総 額一〇〇〇億円超の会社でありながら、物 流事業より機工事業(プラント保守・修繕 やプラント据付工事などを請け負う業務)の 利益構成が高く、同社を一口で「物流会社」 と言い切れないことが背景にあるのかもしれ ない。
 確かにここ数年、同社全体の営業利益成長 を牽引してきたのは機工事業であるが、同事 業は景気変動に伴う顧客の生産調整の影響が 物流事業よりも大きい。
このため、物流事業 は機工事業をカバーするという意味で、事業 ポートフォリオ上重要な位置づけになってい る。
また、今後の利益拡大に向けても欠かせ ない事業として三菱UFJモルガン・スタン レー証券(MUMSS)では捉えている。
 二〇一〇年三月期の売上高構成比は、物流 事業と機工事業でほぼ半々なのに対し、営業 利益構成比では機工事業が八五%と大半を占 める。
〇八年秋のリーマンショック以降、物 流量の減少が響いて物流事業の営業利益が急 減した結果、機工事業の構成比が一層高くな っている格好だ。
リーマンショック前、〇八 年三月期の営業利益構成比は、機工事業が 約六〇%、物流事業が約四〇%である。
 機工事業の営業利益構成比は〇六年三月 期に物流事業に並んで以降、年々上昇してい る。
同事業の拡大の背景には、?SDM(シ ャット・ダウン・メンテナンス:すべての装 置を止めて実施する大型定期修理工事)の増 加、?設備工事量が増加したこと、がある。
 〇七年三月期の同事業営業利益は、前期 比三七%増の一〇八億円に拡大した。
理由の 一つとして、この年が、SDMの規制緩和に よって従来の二年サイクルが四年に一度まで 伸ばせることになった最初の年であり、SD Mの規模が大きくなった(「大メジャー」)こ とがある。
 数年に一度のメンテナンスに備えてメーカ ーが設備保全部隊を内部に抱えるのは非効率 であり、その結果、アウトソーシングのニー ズが強まった。
また、顧客メーカーの生産・ 山九 機工事業の収益変動を物流が補完 独自の事業構造の強みに期待  物流事業と機工事業を両輪として展開し、過去 数年間は機工事業を牽引役に成長を続けてきた。
リ ーマンショック以降を境に連結業績は悪化している が、山九の強みは収益変動が相対的に大きい機工 事業を物流事業がカバーする事業構造にある。
今 期からは物流事業が回復し、本来の強みを取り戻 すことができそうだ。
姫野良太 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 エクイティリサーチ部エクイティリサーチ課 シニアアナリスト 第63回 49  NOVEMBER 2010 販売が高水準で推移する一方で、設備の老朽 化が進み、安定操業を維持するためのメンテ ナンスニーズが高まったことも背景にあろう。
 メンテナンスや設備更新による改修の際に 能力増強の工事を行うなど、工事量が全般的 に増えたということもある。
機工事業のコス トは固定費的な要素が大きいため、工事量増 加は収益性の向上に繋がりやすい。
更に、追 加工事が発生し当初の工事範囲が拡大するこ ともある。
追加工事は、要員や機材を当初工 事のために既に送り込んでいるので、追加的 なコストがあまり発生せず、利益率が高い傾 向がある。
物流事業は二年間で急縮小  一方、物流事業はリーマンショック以降の 荷動きの急減により、〇八年三月期に九二億 円あった同事業営業利益は一〇年三期には二 六億円にまで縮小した。
同事業では?港湾・ 国際物流、?構内物流、?3PL・一般物 流、を行っているが、このうち?港湾・国際 物流、?構内物流、の利益減少が大きかった とMUMSSでは見ている。
 3PL・一般物流事業の売上規模は物流 事業全体売上の約二割と小さい上、山九によ ると、3PL事業の営業利益率は他社に比 べて相対的に低いもようで、同事業の営業利 益は全体利益の変動要素としては小さいとい える。
 港湾・国際物流事業は、取扱量の減少に 加えて、最もコンテナの取扱量が多かった中 国の船会社(SYMS社)が中国における国 有企業の経営再編に伴いサービス停止となっ たことがあり、減益額も大きかったのではな いかと推察している。
 前述の通り、本来、物流事業には景気変動 に伴う顧客の生産調整の影響を受けやすい機 工事業をカバーする、という役割が期待でき る。
ところがリーマンショックによる物流量 減少は想定以上で、一〇年三月期は機工事業 の利益モメンタム低下を補うには至らず、連 結営業利益は前期比一四%減の二一七億円 に低下した。
 しかし、グローバル景気が緩やかながらも 回復していく中で、今後は物流量の回復が期 待され、MUMSSでは今期十一年三月期 の物流事業は増収増益を予想している。
新興 国向けを中心に港湾・国際物流分野、構内物 流分野での取扱量が回復する見通しだ。
 これに対して機工事業は減収減益を予想。
メンテナンス分野ではSDMがメジャー年と なるが、一般メンテナンスは顧客の予算削減 が継続すると見ている。
設備工事分野では主 要顧客の投資圧縮や案件延期の影響があり、 具体的な新規投資は織り込んでいない。
 十二年三月期は機工、物流ともに増益を予 想している。
物流はトップラインの回復、機 工は高炉改修工事(新日鉄・君津製鉄所)の 受注を織り込んでいる。
基本的に機工事業の 受注は、主要顧客の設備投資動向の影響を大 きく受ける。
今後、メンテナンス需要などを 中心に、安定的に設備投資が継続するとMU 2006 年 3月期 2007 年 3月期 2008 年 3月期 2009 年 3月期 2010 年 3月期 2011 年 3月期※ ※会社予想、10月13日時点 300 250 200 150 100 50 0 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 169.24 207.31 258.10 253.46 217.28 202 過去5 年間の売上高、営業利益とその内訳 連結売上高(左軸) 物流事業の営業利益(右軸) 機工事業の営業利益(右軸) その他事業の営業利益(右軸) 11 年3月期連結営業利益予想(右軸) (単位:億円) 3,873.64 3,800 4,307.93 4,163.58 4,073.70 3,641.18 MSSでは見ている。
 例えば、新日鉄は一〇年四月、総額一〇 〇〇億円を投じて上工程の生産能力を増強す ると発表した。
その一環として、君津製鉄所 では十二年に約四〇〇億円をかけて第二高炉 を拡大改修し、出銑能力を引き上げる。
同年 年初にも設備を休止して改修工事に入り、四 〜六月頃に再稼働させる予定となっている。
海外ネットワークを活用  物流事業の営業利益は金額としては機工 事業に及ばないものの、今後の増益率は物流 事業の方が大きくなるとMUMSSでは考え ている。
 同事業の営業利益を過去最高となった〇 八年三月期の水準にまで引き上げるために は、取扱量の回復が必須になろう。
港湾物流 は、海外では基本的に外資に開放されないた め、利益額の確保には日本国内での港湾通過 輸出入貨物を伸ばすことが重要であり、京浜 港、阪神港といった国内のメインポートでの 競争力が不可欠である。
山九は国内外のネッ トワークによってグローバルな集荷営業体制 を構築するなど、主要船社との協力関係を高 めていく方針だ。
 国際物流事業については、中国・東南アジ ア・日本のトライアングルネットワーク、イン ド・ブラジル・中近東といった地域でのビジ ネス展開に重点を置く。
同時に、エンジニア リング会社による海外プロジェクト案件のプ ラント輸送受注に注力する。
 3PL・一般物流では、既存顧客の取扱 量の減少傾向が顕著になった。
しかし一方で、 コスト競争力を高めるためのロジスティクス のトータルアウトソーシングニーズは更に高ま ると考えられる。
今後は取扱量の拡大に伴い、 これまでの物流センターの投資(自社化)効 果が現れ、利益率は好転していくとMUMS Sでは見ている。
 構内物流では、景気後退による生産量の急 減が収益低迷をもたらした。
よって、既存事 業所における生産回復に伴う取扱量増加を期 待したい。
 財務面では利益拡大に伴い、フリーキャッ シュフローも増加傾向が続く見通しだが、注 目すべきはその使途である。
山九のD/Eレ シオ(負債資本倍率)は一〇年三月期で〇・ 五七倍、会社目標は〇・五倍であり、同社と しては債務返済を引き続き進めたいところで あろう。
 投資については、現状、大きな案件は予定 されていない。
一〇年三月期の設備投資額 は一八四億円と大きいが、二万六〇〇〇坪 の大型センター「首都圏物流センター」の七 七億円が含まれる。
今後は減価償却の範囲内 での設備投資が続くとMUMSSでは予想し ている。
 配当政策は、安定配当の継続を基本としな がらも、業績に応じて検討する方針を示して いる。
債務返済、成長投資、株主還元のバラ ンスに注目していきたい。
NOVEMBER 2010  50 ひめの・りょうた 二〇〇四年慶應義塾大学経済学 部卒業、同年三菱証券(現三菱U FJモルガン・スタンレー証券)入 社。
〇五年から明治ドレスナー・ アセットマネジメントで建設、不動 産、運輸、公益セクターのアナリ ストを務め、〇八年二月より現職。
《出来高》 山九の過去10年間の株価推移

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