2010年12月号
特集
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解説 グローバル・ロジスティクスの実務
DECEMBER 2010 14
グローバル・ロジスティクスの実務
新興国のボリュームゾーンをターゲットに、大量生産方式が
復活している。
ただし、そのサプライチェーンは国境を超え て複雑に分散している。
多様なニーズへの対応と在庫のムダ を抑えるためにはリードタイムの短縮も不可欠だ。
グローバ ル・ロジスティクスの管理とは何をすることなのか。
次第に 明らかになってきた。
(大矢昌浩) 「見える化」で「未来在庫」を管理する 日本の国内市場が成長のピークを過ぎ、明らかな 縮小トレンドに入ったことを受けて、アジアの新興国 に事業領域を拡大する動きが加速している。
それも 当初の現地富裕層向けのニッチ市場から、ボリューム ゾーンの汎用品へと対象が広がっている。
これに伴い 大量生産・大量販売が復活している。
ただし、高度経済成長時代の単純なモデルとは異 なり、今日の大量生産には、サプライチェーンを構成 する各プロセスごとに、世界で最も競争力のあるサイ トを選び、それを情報と物流で結び、全体の活動の 足並みを揃える高度な管理が求められる。
サイトの競争力は、為替や規制・税制の変更、イ ンフラ整備の進捗、人件費の高騰などの社会環境に よって常に変化する。
グローバルに伸びたロジスティ クスは気象変動や政情不安などの影響を避けられな い。
リスクヘッジのためにサイトの分散を検討する必 要もある。
国内で完結していた従来のロジスティクス管理は、 調達先や工場、消費地の場所があらかじめ決まってい た。
それを前提条件として需給計画を調整すること がロジスティクス部門の役割であり、また在庫ロケー ションを最適化し、物流サービスレベルの向上とオペ レーションの効率化によるコスト削減を進めることが 物流部門の役割だった。
しかし、グローバル化した今日のサプライチェーン は市場環境の変化に合わせて、前提条件自体までも 柔軟にコントロールすることを求めている。
どんなに 物流のオペレーションに優れていても、ロジスティク スの構造自体に決定的な違いがあれば、トータルな パフォーマンスの差は解消できない。
新興国だけでなく、足下の国内事業も今や輸入な しには成り立たなくなっている。
多くの日本企業に とっていまだメーンであり続けている国内市場で勝ち 抜くためにも、SCMそしてロジスティクス管理のグ ローバル化は待ったなしだ。
ムダな在庫の発生を抑え、多様なニーズに対応する ために、リードタイムを短縮する。
受注生産が通用し ない商品であれば、設計のモジュール化やオプション を活用することで、最終的な仕様を決定するプロセ スをできる限り後工程に移し、それを処理する場所 を消費地に近づける。
特性の異なる商品を扱っている場合には、各商品に マッチしたサプライチェーンをそれぞれデザインする。
そして設計の異なる複数のサプライチェーンを同時並 行で運用して統合管理する。
基本的な役割は国内と 変わらなくてもそれをすべてグローバルレベルでマネ ジメントしなければならない。
極端に複雑化したロジスティクス管理に不可欠な 機能が、輸送中の在庫ステータスまで含めたサプライ チェーンのすべての情報を把握できる仕組み、つまり 「見える化」だ。
その目的をパナソニックの増森毅本 社グローバルロジスティクス本部参事全社ロジIT構 築プロジェクトは次のように説明する。
「『見える化』の目的は、過去や現在を把握するこ とではなく、そこから未来が見えるようにすること だ。
現在の生産計画によって来週の在庫はどうなる のか。
海上輸送の遅れは、どこにどれだけの影響を もたらすのか。
何をすればその影響を回避できるか。
在庫の過不足が実際に発生する前に手を打つ。
つま り『未来在庫』の管理を、見える化で可能にする」 全国翌日納品が当たり前の国内輸送とは違って、 海上輸送のリードタイムは長いだけでなく著しく不安 解 説 特 集 アジア内需の物流 15 DECEMBER 2010 定だ。
港湾の混雑状況や天候、治安情勢による遅れ が日常茶飯事で、リードタイムが本来の倍以上かかる ことも珍しくない。
しかし船会社やフォワーダーにク レームを付けても相手にはされない。
船会社はリード タイムをコミットしていない。
それでも異常の発生を即座に把握し、いち早く対 策を打てばサプライチェーンの安定運営は維持でき る。
輸送の遅れが発覚した時点で、納品先の将来の 在庫量をシミュレーションし、 欠品が発生するなら緊 急の航空輸送を検討する。
その輸送コストと欠品に よるダメージを天秤にかけて施策を判断し実行する。
コマツは販売後の建機の使用状況をリアルタイムに 把握する独自の見える化システムによって、未来在庫 どころか未来需要まで管理している。
GPSを使っ て建機の稼働を補捉するだけでなく、その燃料使用 量までつかむことで、建機およびパーツのライフサイ クルを把握して生産計画や販売計画に役立てている。
お手本は米IBMのサプライチェーン改革 グローバル・ロジスティクスの見える化にはITの 支援が不可欠だ。
その構築プロセスは米IBMの取 り組みがお手本になる。
同社は世界中の工場や物流 拠点からサプライチェーンに関連するデータを吸い上 げる大規模なシステムを一九九七年に構築し、そし て失敗した。
苦労して把握したデータは、使用して いるコードが国や拠点によってバラバラで、その精度 や鮮度、区分の仕方が違っているため分析のベースに 使用することができなかった。
そこで同社はその後の三年あまりをかけて管理会 計の勘定コードをグローバルに統一し、IT機能を 拡張した。
これによって、見える化を実現したうえ で、二〇〇二年にグローバルなサプライチェーンを統 合管理する組織として「ISC(Integrated Supply Chain)」を設立した。
世界五六カ国の約一万七〇〇 〇人のスタッフが所属する大部隊だった。
ISCはそれまで各拠点がバラバラに行っていた 機能や調達購買を統合し、組織や評価制度、責任権 限、業務基準、ルール、会計、そしてITなどの仕 組みまで抜本的に見直し統合して、グローバルなサプ ライチェーンを刷新した。
四年間にわたる一連の改革 によって同社は約二五〇億ドルのコストを削減し、一 五億ドルのキャッシュを生み出すことに成功した。
パナソニックの増森参事は「米IBMがパソコン 事業を売却する前の九〇年代後半から二〇〇〇年代 初頭にかけて、多方面にわたって実施したサプライ チェーン改革こそ日本メーカーがいま目指すべきグ ローバル・ロジスティクス改革の原型だ。
韓国のサム スンをはじめ世界企業はどこも同じアプローチを踏襲 している。
その必要性は日本のメーカーでもSCM担 当者であれば十分に理解しているはずだ」という。
しかし実際には日本のメーカーの多くはグローバル な統合管理どころか、見える化の手前の段階で足踏 みしているのが現状だ。
その前提となるコードの標準 化が進まない。
各拠点が使用しているコードは、その 業務プロセスと深く結びついている。
コードの標準化 は業務プロセスの修正を現場に強いることになる。
しかしプロジェクトチームやSCM部門は必要な権 限を与えられていない。
事業部長や工場長より上位 にいる経営トップもしくは副社長クラスを改革のリー ダーに据えて、トップダウンで断行しない限り個別最 適は打破できない。
ところが、その必要性を経営トッ プ層が理解していない。
勤勉な末端のスタッフが支え る現場力に安住している。
現状を放置すれば世界企 業との差は広がるばかりだ。
パナソニックの増森毅本社 グローバルロジスティクス 本部参事 統合前統合後 米IBMは2000年代前半の一連のサプライチェーン改革で 世界約40カ所の工場を約10カ所に集約した
ただし、そのサプライチェーンは国境を超え て複雑に分散している。
多様なニーズへの対応と在庫のムダ を抑えるためにはリードタイムの短縮も不可欠だ。
グローバ ル・ロジスティクスの管理とは何をすることなのか。
次第に 明らかになってきた。
(大矢昌浩) 「見える化」で「未来在庫」を管理する 日本の国内市場が成長のピークを過ぎ、明らかな 縮小トレンドに入ったことを受けて、アジアの新興国 に事業領域を拡大する動きが加速している。
それも 当初の現地富裕層向けのニッチ市場から、ボリューム ゾーンの汎用品へと対象が広がっている。
これに伴い 大量生産・大量販売が復活している。
ただし、高度経済成長時代の単純なモデルとは異 なり、今日の大量生産には、サプライチェーンを構成 する各プロセスごとに、世界で最も競争力のあるサイ トを選び、それを情報と物流で結び、全体の活動の 足並みを揃える高度な管理が求められる。
サイトの競争力は、為替や規制・税制の変更、イ ンフラ整備の進捗、人件費の高騰などの社会環境に よって常に変化する。
グローバルに伸びたロジスティ クスは気象変動や政情不安などの影響を避けられな い。
リスクヘッジのためにサイトの分散を検討する必 要もある。
国内で完結していた従来のロジスティクス管理は、 調達先や工場、消費地の場所があらかじめ決まってい た。
それを前提条件として需給計画を調整すること がロジスティクス部門の役割であり、また在庫ロケー ションを最適化し、物流サービスレベルの向上とオペ レーションの効率化によるコスト削減を進めることが 物流部門の役割だった。
しかし、グローバル化した今日のサプライチェーン は市場環境の変化に合わせて、前提条件自体までも 柔軟にコントロールすることを求めている。
どんなに 物流のオペレーションに優れていても、ロジスティク スの構造自体に決定的な違いがあれば、トータルな パフォーマンスの差は解消できない。
新興国だけでなく、足下の国内事業も今や輸入な しには成り立たなくなっている。
多くの日本企業に とっていまだメーンであり続けている国内市場で勝ち 抜くためにも、SCMそしてロジスティクス管理のグ ローバル化は待ったなしだ。
ムダな在庫の発生を抑え、多様なニーズに対応する ために、リードタイムを短縮する。
受注生産が通用し ない商品であれば、設計のモジュール化やオプション を活用することで、最終的な仕様を決定するプロセ スをできる限り後工程に移し、それを処理する場所 を消費地に近づける。
特性の異なる商品を扱っている場合には、各商品に マッチしたサプライチェーンをそれぞれデザインする。
そして設計の異なる複数のサプライチェーンを同時並 行で運用して統合管理する。
基本的な役割は国内と 変わらなくてもそれをすべてグローバルレベルでマネ ジメントしなければならない。
極端に複雑化したロジスティクス管理に不可欠な 機能が、輸送中の在庫ステータスまで含めたサプライ チェーンのすべての情報を把握できる仕組み、つまり 「見える化」だ。
その目的をパナソニックの増森毅本 社グローバルロジスティクス本部参事全社ロジIT構 築プロジェクトは次のように説明する。
「『見える化』の目的は、過去や現在を把握するこ とではなく、そこから未来が見えるようにすること だ。
現在の生産計画によって来週の在庫はどうなる のか。
海上輸送の遅れは、どこにどれだけの影響を もたらすのか。
何をすればその影響を回避できるか。
在庫の過不足が実際に発生する前に手を打つ。
つま り『未来在庫』の管理を、見える化で可能にする」 全国翌日納品が当たり前の国内輸送とは違って、 海上輸送のリードタイムは長いだけでなく著しく不安 解 説 特 集 アジア内需の物流 15 DECEMBER 2010 定だ。
港湾の混雑状況や天候、治安情勢による遅れ が日常茶飯事で、リードタイムが本来の倍以上かかる ことも珍しくない。
しかし船会社やフォワーダーにク レームを付けても相手にはされない。
船会社はリード タイムをコミットしていない。
それでも異常の発生を即座に把握し、いち早く対 策を打てばサプライチェーンの安定運営は維持でき る。
輸送の遅れが発覚した時点で、納品先の将来の 在庫量をシミュレーションし、 欠品が発生するなら緊 急の航空輸送を検討する。
その輸送コストと欠品に よるダメージを天秤にかけて施策を判断し実行する。
コマツは販売後の建機の使用状況をリアルタイムに 把握する独自の見える化システムによって、未来在庫 どころか未来需要まで管理している。
GPSを使っ て建機の稼働を補捉するだけでなく、その燃料使用 量までつかむことで、建機およびパーツのライフサイ クルを把握して生産計画や販売計画に役立てている。
お手本は米IBMのサプライチェーン改革 グローバル・ロジスティクスの見える化にはITの 支援が不可欠だ。
その構築プロセスは米IBMの取 り組みがお手本になる。
同社は世界中の工場や物流 拠点からサプライチェーンに関連するデータを吸い上 げる大規模なシステムを一九九七年に構築し、そし て失敗した。
苦労して把握したデータは、使用して いるコードが国や拠点によってバラバラで、その精度 や鮮度、区分の仕方が違っているため分析のベースに 使用することができなかった。
そこで同社はその後の三年あまりをかけて管理会 計の勘定コードをグローバルに統一し、IT機能を 拡張した。
これによって、見える化を実現したうえ で、二〇〇二年にグローバルなサプライチェーンを統 合管理する組織として「ISC(Integrated Supply Chain)」を設立した。
世界五六カ国の約一万七〇〇 〇人のスタッフが所属する大部隊だった。
ISCはそれまで各拠点がバラバラに行っていた 機能や調達購買を統合し、組織や評価制度、責任権 限、業務基準、ルール、会計、そしてITなどの仕 組みまで抜本的に見直し統合して、グローバルなサプ ライチェーンを刷新した。
四年間にわたる一連の改革 によって同社は約二五〇億ドルのコストを削減し、一 五億ドルのキャッシュを生み出すことに成功した。
パナソニックの増森参事は「米IBMがパソコン 事業を売却する前の九〇年代後半から二〇〇〇年代 初頭にかけて、多方面にわたって実施したサプライ チェーン改革こそ日本メーカーがいま目指すべきグ ローバル・ロジスティクス改革の原型だ。
韓国のサム スンをはじめ世界企業はどこも同じアプローチを踏襲 している。
その必要性は日本のメーカーでもSCM担 当者であれば十分に理解しているはずだ」という。
しかし実際には日本のメーカーの多くはグローバル な統合管理どころか、見える化の手前の段階で足踏 みしているのが現状だ。
その前提となるコードの標準 化が進まない。
各拠点が使用しているコードは、その 業務プロセスと深く結びついている。
コードの標準化 は業務プロセスの修正を現場に強いることになる。
しかしプロジェクトチームやSCM部門は必要な権 限を与えられていない。
事業部長や工場長より上位 にいる経営トップもしくは副社長クラスを改革のリー ダーに据えて、トップダウンで断行しない限り個別最 適は打破できない。
ところが、その必要性を経営トッ プ層が理解していない。
勤勉な末端のスタッフが支え る現場力に安住している。
現状を放置すれば世界企 業との差は広がるばかりだ。
パナソニックの増森毅本社 グローバルロジスティクス 本部参事 統合前統合後 米IBMは2000年代前半の一連のサプライチェーン改革で 世界約40カ所の工場を約10カ所に集約した
