2010年12月号
特集
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第2部 コマツは“見える化” で何を見たか
DECEMBER 2010 18
コマツは“見える化” で何を見たか
市場動向のさらに先、販売後の稼働状況までリアル
タイムで把握するグローバルな情報インフラを構築した。
すべてを“見える化”したことが効率化によるコスト削 減のみならず、ビジネスモデルの変革をもたらした。
(梶原幸絵) 究極のSCMシステム コマツの業績が急回復を見せている。
二〇一一年 三月期上期の連結売上高は前年同期比三三・一%増 の八五九七億円、営業利益は約五・三倍の一〇三九 億円に拡大した。
中国、アジア、中南米など新興国 での販売が堅調に推移した。
日米欧の需要も持ち直 してきた。
景気の回復に加え、SCMが差別化の武 器になっている。
コマツは現在、日本で最も“見える化”の進んだ メーカーのひとつにあげられる。
一九九〇年代後半 から二〇〇〇年代初めにかけてERPを全面的に導 入し、業務プロセスの標準化を徹底した。
そのうえ で各拠点からのデータをリアルタイムに把握する情報 インフラを構築した。
二〇〇〇年には「e─KOMATSU推進本部」を 設置し、ICTによる新たなビジネスモデルの創出を 打ち出した。
メーカーとして新車を販売するだけに留 まらず、それに付帯するソリューション全体を事業と する業態革新を目指している。
そのビジネスモデルを下支えするのが、建設機械・ 鉱山機械を販売した後の稼働状況を把握する「KOM TRAX(コムトラックス)」と呼ばれるシステムだ。
車両に搭載したGPSやセンサーなどによって車両の 位置情報、稼働時間、燃料残量などをリアルタイムに 管理する。
九九年の試験導入から搭載を開始し、今 年九月末時点の搭載実績は世界六〇カ国・約一九万 台に達している。
末端の市場動向だけでなく「一台一台の稼働状況 まで見るという発想は大きな転換だった」と、コマ ツの斎藤尋彦プロダクトサポート本部部品業革推進 部企画グループグループマネージャーは振り返る。
その結果としてサプライチェーンの効率化を超えて、 新たなビジネスが生まれた。
それまで建機販売の顧 客を繋ぎ止めておくためのアフターサービスに過ぎな かった補給部品の販売・サービス事業が、収益の柱 の一つに変わった。
部品事業の売上高は現在、コマ ツの建機事業の総売上高の二〇%を占める。
〇六年 度は一四%だった比率が年々上昇している(図)。
当 面は二五%程度にまで高める計画だ。
茂住均プロダクトサポート本部副本部長兼部品業 革推進部部長は「以前の我々は顧客からの部品の注 文を待っているだけ、壊れたときに部品を交換する だけだった。
しかし今はまったく逆だ。
部品を交換 すべき時期を当社が特定し、代理店が顧客に交換を 提案できるようになっている」と説明する。
コムトラックスがそれを可能にしている。
顧客が所 有する建機の稼働状況から部品の交換期間を弾き出 している。
それによって適切な提案が可能になるだ けでなく、需要を正確に予測できるため、ムダな在 庫を持つ必要がなくなる。
まさに究極のSCMだ。
〇一年〜〇二年にかけて最悪の事態を経験したこ とが、今日の業態革新に至る契機となった。
バブル崩 壊以降の建機需要の縮小に米同時多発テロやIT不 況が加わって、〇二年三月期に八〇〇億円もの最終 赤字に陥った。
子会社の売却や人員の削減、組織のス リム化を余儀なくされた。
生産能力も大幅に絞った。
ところが〇三年後半から俄に中国をはじめとする 新興国ブームが起きる。
生産投資を抑えた状態のま ま〇四年度を迎えるかたちになり、今度は補給部品 が不足する事態を招いてしまった。
部品の種類も変 化した。
需要の中心が新興国に移ったことで、鉱山 機械の比率が著しく高まった。
過去の実績が需要予測の役に立たない。
そこで、 第2部 特 集 アジア内需の物流 19 DECEMBER 2010 コムトラックスで収集した稼働指標を需要予測に利用 することにした。
補給部品を四つのカテゴリーに分けた。
一つの軸 は、鉱山機械と建設機械。
鉱山機械はハイエンドな 製品で台数も多くはない。
それだけに高いサービス水 準を要求される。
これに対して建機は顧客数が膨大 な数に上るマスマーケットだ。
もう一つの軸は機械の稼働に直結するエンジンやト ランスミッションなどの機能部品と消耗品だ。
機能部 品の供給には重い責任が伴う。
一方、消耗品はコマ ツ以外にも汎用品のメーカーが多くある。
この四つのカテゴリーの中で、まずは鉱山機械の機 能部品を中心に一台一台の稼働指標からそれぞれに 必要なメンテナンスの時期を予測し、部品の必要量を 確定した。
顧客に適切なタイミングでメンテナンスを 提案し、さらに定期保守サービス契約を結べば部品 売上の拡大が見込める。
顧客にとっては定期保守に よって費用を平準化できるというメリットがある。
それ以外のカテゴリー、特に建機については、車両 の稼働台数と稼働時間から各アイテムごとに需要予測 を行うことにした。
そこで重要なのは、代理店・顧 客へのサービスレベルを上げながら、在庫を持たない ようにすることだ。
実需に基づく正確な需要予測を行うには代理店在 庫の削減が必要になる。
それによって代理店も金利 負担を軽減できる。
しかし、代理店にとっては在庫 はサービス維持の“安心料”という側面もある。
そ の削減を納得してもらうには、コマツが必要なとき に即座に補給部品を供給できなくてはならない。
その指標となるのが納品リードタイムだ。
それま で受注から二四時間以内の着荷を基準にしていたが、 受注翌朝配達に基準を上げた。
現在、代理店の持つ 在庫引き当てを含めると、主要市場におけるコマツ の翌朝配達率は概ね九五%に達している。
建機業界 では補給部品のサービスレベルは二四時間以内が一般 的だ。
結果として翌朝配達は在庫削減だけでなく、 販売面でも大きな武器になった。
在庫回転率を上げ売り上げは二倍に ただし現状では主要市場とそれ以外では達成率に 差があることから、翌朝配達率を引き上げるために 部品倉庫の増設を進めている。
コマツは部品供給のための組織として日本や海外の 現地法人に「マスターパーツセンター」と「地域パー ツセンター」を設置している。
工場で生産した部品を マスターパーツセンターから地域パーツセンターに出 荷する。
地域パーツセンターでは各地から集めた部品 を域内のデポに供給し、デポから代理店に出荷する。
マスターパーツセンターと地域パーツセンターは世 界約一五カ所、デポを含めた物理的な部品在庫拠点 は主要なものだけで三〇数カ所を配置している。
今 後は中南米やアフリカなどで拠点を増やす考えだ。
これまでの改革により、コマツの補給部品の在庫 回転月数は約三割改善した。
これに対して売り上げ はおよそ二倍に拡大している。
それでも改革は終わらない。
顧客から代理店への 発注データの収集の強化が現在の課題だ。
需要予測 の精度を向上するには真水のデータが必要だ。
その ために在庫管理システムの機能強化を進めている。
茂住副本部長は「翌朝供給とスリムな在庫の両立 は難しい。
そしていくら情報システムを整備しても、 システム任せにしていては実績はついてこない。
在 庫拠点が広がるのに合わせてそれだけの人材を育成 していく必要がある」と考えている。
茂住均プロダクトサポート 本部副本部長兼部品業革 推進部部長 斎藤尋彦プロダクトサポート 本部部品業革推進部企画グ ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 ‘10(見通し) ループグループマネージャー 4,000 3,000 2,000 1,000 0 部品売上高(部品別) 14% 14% 17% 21% 19% (年度) (億円)
すべてを“見える化”したことが効率化によるコスト削 減のみならず、ビジネスモデルの変革をもたらした。
(梶原幸絵) 究極のSCMシステム コマツの業績が急回復を見せている。
二〇一一年 三月期上期の連結売上高は前年同期比三三・一%増 の八五九七億円、営業利益は約五・三倍の一〇三九 億円に拡大した。
中国、アジア、中南米など新興国 での販売が堅調に推移した。
日米欧の需要も持ち直 してきた。
景気の回復に加え、SCMが差別化の武 器になっている。
コマツは現在、日本で最も“見える化”の進んだ メーカーのひとつにあげられる。
一九九〇年代後半 から二〇〇〇年代初めにかけてERPを全面的に導 入し、業務プロセスの標準化を徹底した。
そのうえ で各拠点からのデータをリアルタイムに把握する情報 インフラを構築した。
二〇〇〇年には「e─KOMATSU推進本部」を 設置し、ICTによる新たなビジネスモデルの創出を 打ち出した。
メーカーとして新車を販売するだけに留 まらず、それに付帯するソリューション全体を事業と する業態革新を目指している。
そのビジネスモデルを下支えするのが、建設機械・ 鉱山機械を販売した後の稼働状況を把握する「KOM TRAX(コムトラックス)」と呼ばれるシステムだ。
車両に搭載したGPSやセンサーなどによって車両の 位置情報、稼働時間、燃料残量などをリアルタイムに 管理する。
九九年の試験導入から搭載を開始し、今 年九月末時点の搭載実績は世界六〇カ国・約一九万 台に達している。
末端の市場動向だけでなく「一台一台の稼働状況 まで見るという発想は大きな転換だった」と、コマ ツの斎藤尋彦プロダクトサポート本部部品業革推進 部企画グループグループマネージャーは振り返る。
その結果としてサプライチェーンの効率化を超えて、 新たなビジネスが生まれた。
それまで建機販売の顧 客を繋ぎ止めておくためのアフターサービスに過ぎな かった補給部品の販売・サービス事業が、収益の柱 の一つに変わった。
部品事業の売上高は現在、コマ ツの建機事業の総売上高の二〇%を占める。
〇六年 度は一四%だった比率が年々上昇している(図)。
当 面は二五%程度にまで高める計画だ。
茂住均プロダクトサポート本部副本部長兼部品業 革推進部部長は「以前の我々は顧客からの部品の注 文を待っているだけ、壊れたときに部品を交換する だけだった。
しかし今はまったく逆だ。
部品を交換 すべき時期を当社が特定し、代理店が顧客に交換を 提案できるようになっている」と説明する。
コムトラックスがそれを可能にしている。
顧客が所 有する建機の稼働状況から部品の交換期間を弾き出 している。
それによって適切な提案が可能になるだ けでなく、需要を正確に予測できるため、ムダな在 庫を持つ必要がなくなる。
まさに究極のSCMだ。
〇一年〜〇二年にかけて最悪の事態を経験したこ とが、今日の業態革新に至る契機となった。
バブル崩 壊以降の建機需要の縮小に米同時多発テロやIT不 況が加わって、〇二年三月期に八〇〇億円もの最終 赤字に陥った。
子会社の売却や人員の削減、組織のス リム化を余儀なくされた。
生産能力も大幅に絞った。
ところが〇三年後半から俄に中国をはじめとする 新興国ブームが起きる。
生産投資を抑えた状態のま ま〇四年度を迎えるかたちになり、今度は補給部品 が不足する事態を招いてしまった。
部品の種類も変 化した。
需要の中心が新興国に移ったことで、鉱山 機械の比率が著しく高まった。
過去の実績が需要予測の役に立たない。
そこで、 第2部 特 集 アジア内需の物流 19 DECEMBER 2010 コムトラックスで収集した稼働指標を需要予測に利用 することにした。
補給部品を四つのカテゴリーに分けた。
一つの軸 は、鉱山機械と建設機械。
鉱山機械はハイエンドな 製品で台数も多くはない。
それだけに高いサービス水 準を要求される。
これに対して建機は顧客数が膨大 な数に上るマスマーケットだ。
もう一つの軸は機械の稼働に直結するエンジンやト ランスミッションなどの機能部品と消耗品だ。
機能部 品の供給には重い責任が伴う。
一方、消耗品はコマ ツ以外にも汎用品のメーカーが多くある。
この四つのカテゴリーの中で、まずは鉱山機械の機 能部品を中心に一台一台の稼働指標からそれぞれに 必要なメンテナンスの時期を予測し、部品の必要量を 確定した。
顧客に適切なタイミングでメンテナンスを 提案し、さらに定期保守サービス契約を結べば部品 売上の拡大が見込める。
顧客にとっては定期保守に よって費用を平準化できるというメリットがある。
それ以外のカテゴリー、特に建機については、車両 の稼働台数と稼働時間から各アイテムごとに需要予測 を行うことにした。
そこで重要なのは、代理店・顧 客へのサービスレベルを上げながら、在庫を持たない ようにすることだ。
実需に基づく正確な需要予測を行うには代理店在 庫の削減が必要になる。
それによって代理店も金利 負担を軽減できる。
しかし、代理店にとっては在庫 はサービス維持の“安心料”という側面もある。
そ の削減を納得してもらうには、コマツが必要なとき に即座に補給部品を供給できなくてはならない。
その指標となるのが納品リードタイムだ。
それま で受注から二四時間以内の着荷を基準にしていたが、 受注翌朝配達に基準を上げた。
現在、代理店の持つ 在庫引き当てを含めると、主要市場におけるコマツ の翌朝配達率は概ね九五%に達している。
建機業界 では補給部品のサービスレベルは二四時間以内が一般 的だ。
結果として翌朝配達は在庫削減だけでなく、 販売面でも大きな武器になった。
在庫回転率を上げ売り上げは二倍に ただし現状では主要市場とそれ以外では達成率に 差があることから、翌朝配達率を引き上げるために 部品倉庫の増設を進めている。
コマツは部品供給のための組織として日本や海外の 現地法人に「マスターパーツセンター」と「地域パー ツセンター」を設置している。
工場で生産した部品を マスターパーツセンターから地域パーツセンターに出 荷する。
地域パーツセンターでは各地から集めた部品 を域内のデポに供給し、デポから代理店に出荷する。
マスターパーツセンターと地域パーツセンターは世 界約一五カ所、デポを含めた物理的な部品在庫拠点 は主要なものだけで三〇数カ所を配置している。
今 後は中南米やアフリカなどで拠点を増やす考えだ。
これまでの改革により、コマツの補給部品の在庫 回転月数は約三割改善した。
これに対して売り上げ はおよそ二倍に拡大している。
それでも改革は終わらない。
顧客から代理店への 発注データの収集の強化が現在の課題だ。
需要予測 の精度を向上するには真水のデータが必要だ。
その ために在庫管理システムの機能強化を進めている。
茂住副本部長は「翌朝供給とスリムな在庫の両立 は難しい。
そしていくら情報システムを整備しても、 システム任せにしていては実績はついてこない。
在 庫拠点が広がるのに合わせてそれだけの人材を育成 していく必要がある」と考えている。
茂住均プロダクトサポート 本部副本部長兼部品業革 推進部部長 斎藤尋彦プロダクトサポート 本部部品業革推進部企画グ ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 ‘10(見通し) ループグループマネージャー 4,000 3,000 2,000 1,000 0 部品売上高(部品別) 14% 14% 17% 21% 19% (年度) (億円)
