2010年12月号
特集

第5部 低温物流のノウハウを現地に移植

DECEMBER 2010  30 低温物流のノウハウを現地に移植  日系の外食チェーンやコンビニが中国事業を拡大させ るのに伴って、現地で低温物流のニーズが拡大してい る。
しかし現地の物流会社にはそのノウハウがない。
ビ ジネスチャンスを察知した日系低温物流会社がインフラ の構築に本腰を入れ始めた。
       (石鍋圭) ニチレイロジグループ ──リスクを厭わず中国系荷主を取り込む  中国の経済成長ぶりを世界に示した上海万博。
交 通規制がかかるその会場内を、ニチレイロジグループ 本社のシンボルマーク「レイちゃんとロジロジ君」を ペイントしたトラックが駆け抜けていた。
上海鮮冷儲 運の低温対応車両だ。
同社は万博のために計四台の トラックを用意し、会場内のローソン八店舗のほか、 日本館、日本産業館、料理店などに商品を納めた。
 上海鮮冷の北野隆志董事長兼総経理は「中国政府 から万博会場内での配送指定業者に選ばれたのは日 系物流企業では我々が唯一。
これまでの低温物流業 務の実績が評価された結果だと思う」と胸を張る。
 上海鮮冷は〇四年の設立。
ニチレイロジグループ本 社が五一%、三菱商事が二八%、中国企業の上海交 通日紅国際物流が二一%を出資して誕生した。
メー ン事業はニチレイグループのオペレーションノウハウ をベースとする低温物流事業だ。
 同社の現在の車両運行台数は協力配送会社を含め ると一日五〇〜六〇台。
そのうち低温対応の自社車両 は三一台で、八トン車、五トン車、一トン以下の貨物 タクシー車がラインナップされている。
このうち貨物 タクシー車は四台だが、その全てが上海市内の中心に 入ることができる「BHナンバー」を取得している。
 旗艦倉庫は上海にある「虹梅南路センター」で、延 べ床面積は二三〇〇平米。
このうち一七〇〇平米が 冷蔵品用、残りの六〇〇平米が冷凍品用となってい る。
来年中の稼働を目処に、同等の規模を持つ第二 センターの開設も検討しているという。
 これらの設備を使い、上海市内のローソン三三〇 店舗の低温配送業務およびセンター運営を手掛ける ほか、日系問屋やスーパー、日本料理店をはじめと する外食チェーンなどに向けて三温度帯対応の保管・ 配送業務などを展開している。
現在は上海市内での 業務が中心だが、蘇州や杭州に向けた混載定期便も 走らせている。
また、顧客の要望によっては成都な どに向けた長距離便も不定期で実施している。
 上海鮮冷の低温物流品質には定評がある。
センター からの出荷はピース単位が基本になっているほか、 ローソン向けの配送では一日二便体制を実施してい る。
日付管理や温度管理も徹底している。
高層ビル への配送や劣悪な道路状況など上海特有の難しさも あるが、日本と変わらないサービスレベルを実現して いると自負している。
 北野董事兼総経理は「この数年で、中国人の食文 化は大きく変化してきている。
鮮度が高く、安全で おいしいものを志向するようになってきた。
それを 消費者に届けるためには、低温物流サービスが不可 欠。
中国で徹底した温度管理を行える物流企業はま だ少ない。
このことが我々にビジネスチャンスをもた らそうとしている」と説明する。
 スーパーやデパートを中心に、地元の中国系荷主が 増加していることが、その言葉を裏付けている。
し かし、手放しで喜ぶことはできない。
中国系荷主は 日系や欧米系の荷主よりもコストに対する要求が厳し い。
安易に受託すれば赤字案件にもなりかねない。
 それでも、上海鮮冷は現地荷主の物流を積極的に 引き受けていく方針だ。
 「郷に入れば郷に従えではないが、もらえるお金で どれだけやれるかを考えなければ中国で成功するこ とはできない。
現在のトラック一台当たりの稼働時間 は一七時間〜一八時間程度。
倉庫も同様だ。
トラッ ク、保管、流通加工、この三つを組み合わせて、さ 第5部 特 集 アジア内需の物流 31  DECEMBER 2010 らに稼働時間を上げていく。
中国系荷主が相手でも、 利益を出す方法はあるはずだ」と北野董事長兼総経 理は意欲を燃やしている。
キユーソー流通システム ──国内同様の共同物流システムを目指す  キユーソー流通システムは、中国で日本国内と同様 の共同物流システムの構築を目指している。
今年七 月、上海市内での共同配送をスタートした。
現在、日 系外食チェーンの店舗配送をベースカーゴにして五〜 六社の荷物を混載し、週六日・一日当たり二便を運 行している。
 同社の上海現地法人、上海丘寿儲運(以下、上海 キユーソー)が本格的に営業を開始したのは〇七年 秋。
当初はキユーピーの原料輸送、製品の保管・輸 配送を中心としていたが、並行して外販の開拓を進 めた。
現在の外販比率はおよそ五割に達している。
 本稼働から一〜二年の間は中国における低温物流 事業の可能性を探るため、さまざまな業務を受託し た。
その経験を通して、地元上海に根ざし、川下か ら市場を開拓する方針を固めた。
 具体的なターゲットは外食チェーンに設定。
昨年十 一月、市内共同配送のベースとなる日系外食チェーン の食材保管・店舗配送の受注に成功した。
 現在、上海にはさまざまな外食チェーンが進出し ている。
そうした外食チェーンは店舗数が少ない間は 商社・卸の物流機能を利用するが、店舗が増えれば 専用のセンター・配送機能が必要になってくる。
 キユーソー流通システムの延川和治海外事業部部 長によると、「店舗数が一〇店舗を超えると商物の分 離が必要になるという印象だ」という。
そのレベルに 達したチェーンを対象に、今後は複数チェーンの食材 を保管、配送するエリア共配を提案していく方針だ。
 エリア共配の次のステップは都市間の幹線輸送だ。
外食チェーンのセンターを共配化できれば、その調達 物流で幹線輸送のニーズが出てくる。
実績を積み上 げれば受託範囲がメーカーなどからの調達物流にも広 がる可能性が見えてくる。
各地から上海に集まる食 品の幹線輸送の受託を見据え、産地の地場物流業者 との提携によって幹線のネットワークを広げていく。
既に提携交渉も進めているという。
 現状、上海では倉庫・車両ともに日本国内と変わ らないアセットを自社で整備している。
低温物流セン ターの保管面積は二九九〇平方メートル。
冷蔵、チ ルド、冷凍の温度帯に対応している。
常温センター 七〇〇平方メートルと合わせ、保管能力は三六九〇 平方メートルとなる。
 自社車両は常温車五台、冷凍・冷蔵の二室式の低 温車八台、タンクローリー車五台の計一八台を保有 し、二室式の車両にはすべてGPSとデジタルタコグ ラフを搭載した。
また、昼間でも上海市内に乗り入 れ可能な通行免許を取得している。
 日本でキユーソーは協力物流会社のネットワーク 「キユーソー会」を組織し、輸送に関してはノンアセッ トのモデルをとっている。
キユーソー会を通じた全国 の共同幹線輸送は同社の成長エンジンともなってい る。
今後は同様のビジネスモデルを中国にも持ち込む 考えだ。
 延川部長は「上海万博をきっかけに、低温物流に 対する意識、ニーズが高まっている。
中央政府も重点 施策の一つとしてコールドチェーンの整備を打ち出し ている。
中国の物流業者の品質水準もいずれ向上し、 強力なパートナーシップを組む候補になるような、意 識の高い企業が増えるだろう」と期待している。
上海鮮冷儲運の北野隆 志董事長兼総経理 キユーソー流通システムの 延川和治海外事業部部長 上海万博では日本館にも 食品を納めた BHナンバーの貨物タクシー 車で市内へ配送 上海誠亮物流 ──低温路線便網の構築に挑む  「中国全土をカバーする低温物流の幹線便網を築き たい。
上海、広州、青島、天津、成都、長沙といっ た主要都市を、コールドチェーンで縦横無尽に結びつ ける」こうブチ上げるのは上海誠亮物流の相川亮董 事長だ。
 同社は設立三年目、売上高二億円そこそこの零細 ベンチャーだ。
それが低温という概念すら根付 いていない中国の物流企業はもちろん、ニチレイや キユーソーといった日本の低温物流大手でさえ、上 海市内のエリア配送の域を大きく出ていない現状で、 遠大な構想を描いている。
 その第一歩は既に踏み出されている。
〇八年末に上 海─広州を結ぶ定期路線を週一便でスタートさせた。
これを皮切りに、上海─青島(週二便)、青島─天津 (週二便)、上海─長沙─広州(週一便)といった主 要都市間の路線便を矢継ぎ早に開設している。
 一社からスタートした荷主の数も年々増えており、 今では三〇社を数えるまでになっている。
その大半 が日系の食品メーカーだ。
 「弊社がこれだけ早い展開ができたのは、コールド チェーンが無くて困っている荷主がそれだけ多かった ことの証。
初めから低温物流網を築こうとしていた のではなく、荷主の要望に必死に応えているうちに 自然と今の形になってきた」と相川董事長は語る。
 上海誠亮物流は富山県の地場中堅物流会社アイカ ワの中国現地法人だ。
アイカワが上海に事務所を開 設したのが九九年。
中国で既に一〇年以上の歴史が あるが、当初から低温物流を展開していたわけでは ない。
ミネラルウォーターや米、洗車機の販売やレス トラン経営など、物流とはまったく無縁の商売をし ていたという。
 しかしどの事業も思うような成果は得られず、〇 二年に相川藤董事長が赴任すると、それまでのビジ ネスのほとんどを閉鎖し、改めてスタートを切ること になった。
 はじめは貿易業を目指したが、声をかける企業の ニーズを聞くと物流の問題ばかり。
そこで、なかば 当てずっぽうで普通トラックとチルド対応の四トン車 をそれぞれ一台ずつ購入。
物流業に参入し、〇七年 に今の上海誠亮物流を立ち上げた。
 物流業を開始してしばらくは、ニーズがあるのは 普通トラックばかりだった。
ところが〇八年初頭に毒 入り餃子事件が起きると、安全面への配慮から徐々 にチルド車へのニーズが出てきた。
 上海市内でのエリア配送がメーンだったが、ある 時、広州の日系食品メーカーから声がかかった。
週 に一度、上海の得意先に商品を運んで欲しいという 要請だった。
 「普通だったら絶対にやらない。
荷主が一社だけの 片荷輸送なんて赤字に決まってますから。
なんでやっ たかって? うーん、荷主が困っていたからとしか ︰︰」(相川董事長)  三カ月間赤字を垂れ流しながら定期便を運行して いると、噂を聞きつけた他の広州の日系食品メーカー からも配送を依頼されるようになった。
それまでは チルド商品を運ぶ足が無かったため上海地域への販売 を諦めていたが、安全に運べるのなら拡販したいと いうニーズが隠れていたのだ。
 それからは雪だるま式に荷主が増え、一社当たり の荷量も増えていった。
同様に、上海地域にも広州 に向けて売りたいという荷主が存在した。
その荷物 DECEMBER 2010  32 台湾 山西 西安 ●夏回族 自治区 河南 湖北安徽 浙江 福建 江西 貴州 湖南 四川 雲南広西チワン 自治区 広東 青島 江蘇 北京 天津 上海 済南 太原 陝西 石家庄 河北 成都 昆明 台北市 西宁 長沙 武漢 合肥 南昌 福州 杭州 甘粛 南宁 呼和浩特 広州 南京 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 華北A便 ■華北A便  天津⇔青島(週2回定期便) ■華北中B便  青島⇔上海(週2回定期便) ■華中南C便  上海⇔広州(週1回定期便) ■華中南D便  上海⇔長沙⇔広州(週1回定期便) ■青長E便  青島⇔長沙(週1回定期便)  2011年1月からスタート ■長成F便  長沙⇔成都(週1回定期便)  2010年11月から不定期便でスタート  2011年1月から定期便化に 上海誠亮物流の低温物流マップ 華北中B便 華中南D便 華中南D便 長成F便 青長E便 華中南C便 特 集 アジア内需の物流 を受託することで、往路・復路ともに満載で運べる ようになった。
 さらに荷主の要望は多様化していく。
広州の荷主 が上海の先の南京や青島まで運んで欲しいと言い出し た。
その要望に応えて運ぶと、今度は降ろし地の食 品メーカーから上海や広州に運んで欲しいというニー ズが出てきた。
特に青島は中国有数の食品産地なの で、低温物流事業者への需要は高い。
 こうして、徐々に現在の幹線網が出来上がった。
さ らに年内中には長沙─成都(週一便)、来年一月から は青島─長沙(週一便)の運行も予定している。
成 都では現地で攻勢を強めるイトーヨーカドーへの納入 も予定している。
幹線便網の構築と並行して、主要 都市周辺のエリア配送にまで手を広げている。
 もっとも、上海誠亮物流はその全ての輸送を自社 で行っているわけではない。
ビジネスが拡大するにつ れ低温車両を随時投入しているが、リースの利かない 中国では一台一〇〇〇万円近いトラックをキャッシュ で買うしかない。
荷量の増加に設備投資が追いつか ない。
そのため、日系物流企業に協力を仰ぎ、山東 省エリアの配送などを委託している。
 相川董事長は「全て自社で賄わなくても良い。
弊 社のような小さい会社は無理をして失敗し、信頼を 失ったらそこで終わり。
荷主、物流会社、商社や問 屋が協力し合い、オールジャパンの体制で日本の食品 を中国全土に届けたい」と語る。
 低温物流の路線便事業を始めて二年。
規模こそま だ小さいが、売り上げは急速に伸びている。
直近の 月商ベースから換算すると、来期の年商は五億円を 越える可能性もある。
大手日系商社や物流業者との アライアンスも水面下で進んでいる。
大化けの可能性 は、十分にある。
33  DECEMBER 2010  労務問題への対応が日系企業の急務である。
大半の日 系企業は一貫して直接対応せずに避けてきた課題だが、 20代以降の現地雇用者はいわゆる「80後」と呼ばれる 一人っ子政策で生まれた世代だ。
配給制度知らずの豊か な時代で育てられ、高学歴であるゆえ、40代、50代の 労働者より自己主張が強く、ネットをコミュニケーショ ンツールとして使いこなしている特徴を持つ。
 こうした世帯の台頭で労務問題があった場合、従来日 系企業が頼ってきた工会(政府公認の組合)も無策だと 思う。
現状はこうした問題がストライキとして徐々に頻 度が増していく傾向にある。
日系企業は一層の現地化を 検討しなければならない。
 人件費が高騰することにより、一部企業の内陸移動 や第三国へのシフトは避けられない。
ただし、国内市場 としての魅力は大きいだけに、FTAを積極的に推進しな がら、国内交通インフラ、周辺国との交通インフラ整備 にも力をいれ、中国をベースとするヒト・モノの流れが 一層加速するであろう。
日系企業も、今後は中国をベー スに第三国とのサプライチェーンを構築することがより 重要になる。
 中国市場を開拓する上で重要なのが、現地の良い下 請事業者を見つけ、活用 することである。
中国に は400万以上のトラック 事業者(2008年)が存 在する。
現地の優良な中 小物流企業を束ね、効率 的なSCMを構築すること こそ、厳しい競争環境の なかにおける優位性を保 つ条件である。
  (談)  直近の悩みは賃金の急上昇だ。
2年前に比べると最低 賃金が主要都市平均で2割前後上がっている。
高いとこ ろでは上げ幅は3割に達している。
当然、現地法人では 待遇を上げざるを得ない。
当社の中国事業は堅調だが、 賃金相場の上昇ペースには追いつかない。
付加価値の高 い仕事をすることがますます重要になっている。
 もともと物流サービスの対価は抑えられてきたので、 収益はますます厳しくなっている。
むろんコスト削減は 徹底しているが、並行してお客さまにも価格の引き上げ をお願いしている。
合理的にきちんと説明することで、 厳しいながらも認めていただいている。
 労働争議についても懸念している。
お客さまの工場で 労働争議が起きると、われわれの車も押さえられたり仕 事が止まったり、さまざまなトラブルが起きる。
また、 今後は当社で労働争議が起こることもないとはいえない が、幸い当社はこれまでそうしたことに見舞われずに 済んでいる。
業績連動の考え方を給与体系に取り入れ、 各現法では従業員とのコミュニケーションを密にしてい るなど対応をとっている。
 種々の懸念はあるものの、中国のマーケットはまだま だ開拓の余地がある。
内需の拡大はもちろんだが、生産 拠点としても中国が主力であり続けるという基本的な部 分については変わらない だろう。
ただし、これま で日本から持ってきてい た部材を現地調達、ある いは東南アジアなどからの 調達に切り替えることが 考えられる。
今後はFTA などの仕組みを利用した グローバル調達が進むので はないか。
    (談) 「日系企業は一層の現地化を」 「最低賃金が2割上昇し人件費が増加」 日通総合研究所 町田一兵 経済研究部研究員 山九 姫田正規 中国総代表 Interview 中国スペシャリストに聞く Interview 中国スペシャリストに聞く

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