2010年12月号
特集

第7部 ベトナム物流の拡大が止まらない

DECEMBER 2010  38 ベトナム物流の拡大が止まらない  日系企業のベトナム進出が再び加速している。
その地理的 条件と政治的安定からチャイナリスクのヘッジ先として評価さ れていること加え、内需拡大と規制緩和で市場としての価値 を増している。
これに伴い物流サービスに対するニーズも輸出 入管理から国内の販売物流へとシフトしている。
(大矢昌浩)  「今期の売上見込みは約四五億円。
前期の二五億円 から大幅に伸びる。
来期は予算としては一五%増程 度だが、スタッフたちには三〇%増という目標を提 示している。
それぐらいやらないと今のベトナムでは 成功とは言えない」。
ベトナム日本通運の白井正和社 長はそうぶち上げる。
 日通がベトナム物流に本格参入したのは二〇〇〇 年で他の日系物流会社と比べれば後発だ。
それでも 進出後は年率二〇%増ペースで売り上げを伸ばして いる。
当初は現地の日系工場の輸出入業務がメーン だったが、現在は国内の3PL事業に徐々に軸足を シフトさせている。
 二〇〇七年にベトナムでは初となる本格的なVM I(ベンダー・マネージド・インベントリー:在庫主 導型在庫管理)倉庫をホーチミンに稼働させた。
「R EWARDS」と呼ぶ倉庫管理システムを日本から 持ち込み、組み立てメーカーの生産ラインに一日三回 のJIT納品を行っている。
これまでミスは一度も 起きていないという。
 その実績を評価され、今年二月には資生堂ベトナ ムから工場内物流の委託を受けた。
REWARDS を導入し、約三〇人のスタッフを工場に投入して資材 管理および国際物流のオペレーションを行っている。
今後は資生堂のベトナム国内販売の物流も担っていき たい考えで、その準備を進めている。
 来年七月には冷蔵倉庫を併設する延べ床約一万二 〇〇〇平方メートルの新倉庫がホーチミン市郊外に稼 働する予定だ。
ベトナム日通にとって四番目の倉庫で 最大の規模になる。
その建設費には約八〇〇万ドル を投じる。
「先行投資にはなるが、スペースを遊ばせ ることはない。
昨年以降、日系メーカーによる現地 販社の設立ラッシュが続いており、引き合いが次々に 舞い込んでいる」と白井社長は自信を持っている。
 もっともベトナムの国内物流では、一九九四年に日 系物流会社として初めて現地に参入したロジテムベト ナム No. 2に一日の長がある。
現在の事業規模は月間 約二〇〇万ドル。
その八割以上を国内物流で稼いで いる。
ベトナム国内に延べ約九万平方メートルの倉庫 を構え、一〇〇〇人超の従業員を抱えている。
 そのうち約四〇〇人がドライバーだ。
車両二七〇 台を自社で所有し運用している。
この他に四〇台の 専属車両を協力会社として組織している。
ベトナム で日系荷主の求める輸送サービスを提供するために、 ドライバーの教育システムと労務管理の仕組みを時間 をかけて作り上げてきた。
 日系企業による内販物流の拡大は、同社がこれま で蓄積してきたノウハウの成果を刈り取るチャンス。
同社の千葉尚道副社長兼ホーチミン支店長は「内販 物流が本格化すればコスト面での要請も大きくなって くる。
サービスレベルを維持しながら専属車両の傭車 を増やしていくことで、そうしたニーズにも応えてい きたい。
教育が必要なだけに、そう簡単に他社には 真似できないはずだ」とアピールする。
 同社は外資系物流会社として他社に先駆けてベト ナムに参入しただけでなく、当初から利ザヤのとり やすいフォワーディング事業よりも収益化の難しい国 内物流をメーンに据えてきた。
中堅物流企業が海外 事業で大手に伍していくには差別化が必要という経 営判断によるものだ。
親会社の日本ロジテムはジャス ダック上場の株式公開企業ながら、全日本トラック協 会の中西英一郎会長をはじめとする創業者一族が経 営を指揮するオーナー系企業。
そのことが長期的な視 野に立った意志決定とリスクテイクを可能にしたのだ ろう。
第7部 特 集 アジア内需の物流 39  DECEMBER 2010  ロジテムと同様に佐川急便もベトナムの国内物流で は、パイオニアの一つに数えられている。
九七年に合 弁で現地法人を設立。
現地に工場を構える日系メー カーの日本向けのフォワーディング業務や国際宅配便 をメーンに事業を拡大させてきた。
 佐川急便ベトナムの売上規模は〇九年十二月期が 約一五億円。
今期は約二〇億円を見込み、来期はさ らに三〇%増を目標に据えている。
売上高の九〇% を占める日本向けのフォワーディングや関連業務が好 調なのに加え、やはり国内物流が伸びている。
 ベトナムは北部の首都ハノイ周辺に自動車関連産 業、南部のホーチミンに電機産業が集積している。
両 都市間の距離は約一八〇〇キロ。
それを北部から完 成車やサービスパーツ、南部から家電製品や電子部品 を運ぶかたちで長距離便を毎日走らせている。
 来年の春にはハノイ─ダナン─ホーチミン間を結ぶ 週二便の定期混載輸送も開始する計画だ。
これまで ベトナムのトラック輸送は実質的にチャーターに限ら れていた。
九〇年代から混載輸送も始まっているが、 運行は不定期で料金も割高だった。
これを改め定期 運行によって荷主の計画出荷を可能にし、料金もで きる限り抑えることで需要を喚起する。
宅配便のノウハウで内販支援  佐川急便ベトナムの島順二社長は「これからベ トナムでは日系メーカーの内販に加え、日系流通業 の進出が一気に加速する。
現地に本格的な流通セン ターも必要になってくる。
その足回りを含めて当社 がカバーしたい。
今後三年から五年が勝負と見てい る。
そのために来年度から日本の佐川急便と同じス キームのビジネスを段階的にベトナムに根付かせてい く」という。
 具体的にはハノイ、ハイフォン、ダナン、ホーチミ ン、カントーの主要五都市で、それぞれ域内配送網 を構築する。
そのうえで各都市を幹線輸送でつなぐ。
事実上、ベトナム全土を網羅する配送ネットワークを 敷くことになる。
混載用の情報システムも整備する。
貨物追跡や運賃計算に加え、代引きやカード決済機 能も視野に入れている。
既に国際宅配便事業では個 人客向けのカード決済も一部開始している。
 ベトナム政府は〇九年一月に外資系企業に対して 国内販売を解禁した。
これに伴い従来は代理店経由 で販売していた日系メーカーが現地法人による直接販 売に切り替える動きが進んでいる。
日系の大手コンビ ニの進出も始まり、量販店や百貨店の進出計画も伝 えられている。
今後は通販ビジネスの成長も必至で、 現地ではヤマト運輸が宅急便の事業化調査に本格的 に乗り出しているとの噂も聞かれる。
 外資系企業によるベトナム投資は九〇年代中頃に 第一次ブームが起きている。
しかし、九七年のアジア 通貨危機で失速。
その後も中国を始めとするBRI Csの成長に隠れ、比較的注目度は低かった。
それ でもベトナム経済の安定的な成長は続いている。
〇八 年のリーマンショックからもいち早く回復し国内は活 気に溢れている。
現地の人件費は現在、毎年一〇% 以上のペースで上昇している。
現状ではまだ中国と 比較して安いが、いずれ変わらない水準になる。
低 賃金を求めて進出しても一時的な効果しか得られな いだろう。
しかし中国のカントリーリスクが顕在化し た今、多くの企業がリスクヘッジ先となる「チャイナ プラスワン」の整備に本腰を入れ始めている。
中国や 日本に近いという地理的な優位性に加え、社会情勢 が安定し、さらには市場としての価値も上がってき たベトナムが、その最有力候補の一つとなる。
ベトナム日本通運の 白井正和社長 ロジテムベトナム No. 2の千葉尚道副社 長兼ホーチミン支店長 佐川急便ベトナムの 島順二社長 ロジテムベトナムNo.2は 売り上げの8割を国内物流 で稼ぐ 佐川急便ベトナムの拠点に は提携先の検品・検針施設 が併設されている

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