ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年12号
道場
メーカー物流編 ♦ 第15回「それについては可視化されていないため、誰も問題として認識していないというのが実態ではないでしょうか?」

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湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 DECEMBER 2010  68 主任の担当だよね?」  主任が、気乗りしないような顔で頷く。
企 画課長が主任の気持ちをおもんばかるように 口を挟む。
 「経営戦略への貢献といっても、結構難し いよね。
いや、貢献が難しいという意味では なく、それをアピールすることが難しい、と 思うけど‥‥」  「それは、戦略によって貢献の仕方がいろ いろだからってこと?」  企画課長の言葉に業務課長が確認するよう に聞く。
その問いに企画課長が首を傾げ、「う ーん、ちょっと違うな。
戦略とロジスティク スとの関係というのは、わかりきってるとい えばそうなんだけど、なかなか一言では説明 できない‥‥」と煮え切らない風だ。
 その言葉を聞いて、業務課長が「何も一 言で説明しなくてもいいんじゃないの」と口 67「それについては可視化されていないため、 誰も問題として認識していないという のが実態ではないでしょうか?」 《第104  軍事では﹁戦略は兵站に従う﹂  大先生を囲む飲み屋での検討会がまだ続い ている。
主任と業務課長、企画課長がメンバ ーだ。
わいわいがやがやの検討の結果、「経 営幹部会にはロジスティクスによる具体的な 経営効果を『ROA』をベースにして提示す る」という結論に達した。
たとえば在庫に関 しては「いくら在庫を削減できるか」ではな く、「在庫削減によってどのような経営効果 がどれくらい出るか」を具体的に示そうとい うねらいだ。
 一つ結論が出て気をよくしたのか、業務課 長が焼酎の水割りのグラスを片手に主任に上 機嫌で聞く。
 「そうそう、経営効果といえば、たしか、 部長が、経営戦略への貢献も検討しろとか言 ってたように思うんだけど、それについても メーカー物流編 ♦ 第 15 回  戦略とロジスティクスは、果たして どのような関係にあるのだろう。
経営 においてロジスティクスは戦略に従う ことが当たり前とされている。
しかし 軍事の世界では必ずしもそうではない らしい。
酒の勢いも手伝って、メンバ ーたちの議論はいよいよ哲学味を帯び てきた。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
業務部課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。
畑 違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの導 入にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話を 聞いて態度が一変。
企画部課長 現場のことを除き、物流部の活動全般を取り 仕切っている何でも屋。
如才ない振る舞いから日和見主義 との陰口も。
経営企画室主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
69  DECEMBER 2010 を尖らす。
そして、突然何か思い出したよう な顔で、大先生に向き直って質問する。
 「あのー、いま話題になってる、戦略とロ ジスティクスとの関係なんですが、どっかで 小耳に挟んだ話では、軍事の世界では『戦略 はロジスティクスに従う』という有名な言葉 があるようですね?」  大先生が頷き、「へー、いい言葉を知って るね」とにこにこしながら言う。
業務課長が 続ける。
 「それってすごい言葉ですよね。
戦略よりも まずロジスティクスが大事だって言ってるわ けでしょ。
経営でもその考えを使って、ロジ スティクスの重要性を訴えればいいんじゃな いですか?」  大先生がちょっと首をひねって、解説する。
 「戦略よりもロジスティクスが重要だってい うわけではなく、もちろん戦略が重要なんだ けど、ロジスティクスが追いつかない戦略で は、その戦略は実行不能だから机上の空論に すぎない、つまりロジスティクスが可能な範 囲で戦略は意味を持つってことかな・・・」  「なるほど、それは経営ではどうなんです か?」  「業務課長はどう思う?」  業務課長の問い掛けに大先生が逆に質問す る。
業務課長が「うーん」と唸り、主任や 企画課長の様子を窺いながら、自分の考えを 述べる。
 「えーとですね、いままでのところ、ロジス ティクスが追い付かない事態というのは、実 際のところ経験していないです。
なぁ?」  業務課長に同意を求められた企画課長が頷 き、同意する。
 「たしかに、ロジスティクスが追い付かず、 経営戦略が不可能になったということはない と思います」  主任が続ける。
 「はい、同感です。
もちろん、経営戦略が 思い通り行かなかったということはあります が、ロジスティクスが原因ということはない です。
計画がお粗末だったとか、担当者の能 力が不足していたとかいう理由です」  経営においてロジスティクスは?  大先生が頷き、一つの結論を出す。
 「そうでしょうね。
御社に限らず、経営に おいては、戦略とロジスティクスとの関係は、 言うまでもなく『ロジスティクスは戦略に従う』 ということになります。
もっと言えば、ロジ スティクスは戦略を支え続けて当たり前とい うのが企業の常識と言っていいんでしょうね」  「ロジスティクスが戦略の足を引っ張る事 態など想定できないということですね」  業務課長の相槌に企画課長が「でもね」 と異論を挟む。
 「いま、そこで言ってるロジスティクスとい うのは、実際は物流のことですよね‥‥」  企画課長の言葉に大先生が「ご明察」と 親指を立てる。
業務課長と主任が「たしかに、 そうだ」と頷く。
主任が考えを整理するよう にゆっくりと話す。
 「企画課長がおっしゃるように、たとえば 海外に工場を新設したりした場合、物流とい う点ではそう大きな支障なく運営されていま すが、それでは海外工場で適時適量の生産が できているか、在庫配置が市場の動きに合わ せる形でできているかとなると、大いに疑問 があるのではないでしょうか」  企画課長が主任の言葉を受けて、続ける。
 「そういう意味では、軍事のロジスティクス でも、物流ができるかということと適品が適 時に適量送り込まれているかということとは 区別しなければならないということなんでし ょうね。
米軍が『戦場のカンバン方式』なん て言ってるのも、物流という点では問題はな いけれども、必要なものを必要なだけ必要と する場所に送り込むということはまだまだの 状態にあるということではないでしょうか?」  その話を業務課長が引き取った。
一気に座 が盛り上がってきた。
大先生は静観モードだ。
 「そうそう、おれも聞きかじった程度だけど、 軍事のロジスティクスにおける最大の課題が それだって聞いたことがある。
軍事の場合は、 生死にかかわるので、とにかく欠品を出せな い。
そこで、最前線の使用状況を軍事衛星 でつかんで、その情報をメーカーとも共有し て、途絶えることのない供給体制を構築しよ うとしているらしい。
欠品もそうだけど、必 要のないものを作ったり、動かしたりする無 DECEMBER 2010  70 駄は徹底的に排除することも大きな目的だそ うだ」  「へー、すいぶんいろいろとご存知なんです ね。
勉強になります。
そういう意味では、企 業もまったく同じですね」  業務課長の話に主任が感心したように感想 を述べる。
それを企画課長が受ける。
 「そういう意味では、グローバル展開を柱 とする戦略においては、物流ではなく、市 場への同期化をねらいとするロジスティクス の役立ちはかなり大きいと思う。
間違いなく、 これまでうちでは、それができていなかった。
在庫にかかわる無駄はグローバルでは相当な ものじゃないかな?」  主任が頷く。
 「その無駄は、数字では取れていませんが、 間違いなくあります。
ただ、可視化されてい ませんので、誰も問題として認識していない というのが実態じゃないでしょうか」  静観していた大先生が、新たな問題提起を する。
 「M&Aや選択と集中がらみでは、ロジス ティクスの役立ちはどうですか?」  「それなんですが、これまでの経験ではあま りうまく対応できていません」  企画課長が、そう言って、業務課長を見る。
業務課長がちょっとしかめ面をして頷く。
 「それはどうしてですか?」  大先生の問いに企画課長が考えを整理する ように頷き、答える。
 業務課長の言葉に頷きながら、企画課長が 何か思い出したように言う。
 「そう言えば、この前、部長と話していて、 うちの物流を全面的に見直して、物流のプラ ットフォーム作りをしたらどうかと言われた」  「へー、プラットフォームですか?」  主任が興味深そうな顔で呟く。
 「なに、部長がそんなこと言ってた? お れは聞いてない」  業務課長がちょっと不満げな顔をする。
企 画課長がフォローする。
 「正式な打ち合わせではなく、この前、た またま喫煙室の前を通ったとき、中から部長 に呼ばれて、そんな話が出た。
煙もうもうだ ったから、適当に相槌打って逃げ出してきた」  「そう言えば、課長は、たばこは吸いませ んよね?」  主任の言葉に業務課長が「部長はそういう 人さ。
相手の都合など頓着しない。
この前な んか、物流センターに行きたいって言うんで、 車で連れて行ったら、センター長に話を聞い たら、あとは直帰するから、あんたは帰って いいよだって、おれは部長の運転手かっつー の」と苦虫をつぶしたような顔をする。
 企画課長が、笑いながら業務課長をかまう。
 「部内であんたが一番暇そうに見えたんじゃ ないの‥‥」  話が横道に逸れたのを引き戻すように、主 任が企画課長に質問する。
 「それはそれとして、プラットフォーム作り  「突き詰めれば、そのような戦略への対応 に誰が責任を負うのかということが明確にな っていなかったということになると思います。
M&Aの結果、いつまでも複数の物流が存 在したままですし、不採算事業を廃止しても、 物流拠点の再編は行われないままという実態 です。
廃止した事業の在庫もいまだに残って いるというお恥ずかしい事態です」  物流のプラットフォーム化  企画課長の言葉に主任が「へー、そうなん ですか」と不思議そうな顔をする。
それを見 て、業務課長が「そうなんです」と強調し、「物 流部は日々の業務に追われてるだけだったか ら」と付け足す。
 「部長が、経営戦略への対応を考えろと指 示されたのは、そういう実態を踏まえてのこ となんでしょうかね?」  大先生の質問に、業務課長が頷きながら答 える。
 「そうだと思います。
あの部長は、ああ見 えて結構見るところは見てますから」  「ああ見えて、ですか」  主任が苦笑するのを見て、業務課長が続け る。
 「会社に来ても、あまり席にいないし、席 にいると思えば、眠っているし‥‥まあ、営 業や生産の連中のところに行って、くだをま いているのは物流部長としていいことだけど ね」 湯浅和夫の 71  DECEMBER 2010 て、一つの仕組みに乗せてやれるような物流 の基盤を作れということだな。
話としては簡 単だけど、実際はいろいろ課題はある。
でも、 たしかに望ましい方向性ではあるので、これ も戦略への対応として考える必要がある」  拠点再編の機会を逃すな  主任が具体的なイメージが湧かないらしく、 「なるほど、なんとなくわかりますが、それに ついてはお二人にお任せします」と言い、さ らに二人の課長に聞く。
 「いま拠点の再編という話が出ましたが、 それに、そのプラットフォームとも関係する のかもしれませんが、うちの物流拠点の配置 はまだ再編の余地があるんですか?」  「あるある。
一応、東西二拠点にしてるけ ど、営業などの都合もあって、在庫を置いた デポが結構ある。
まあ、北海道と九州のデポ は仕方ないとして、それ以外のデポは必要な いと思う。
いままでは、営業がうるさいので、 放置しておいたけど、ロジスティクスという 視点から、この際見直しをするべきだろうな。
どう思う?」  業務課長が企画課長に尋ねる。
 「うん、私もそう思う。
この機会を逃す手 はない」  「営業対策は部長に任せよう。
それくらい やってもらわないと」  業務課長が、なぜか楽しそうに言う。
大先 生が笑いながら頷き、話を引き取る。
 「戦略とのかかわりでどう対応するかという 一つの結論が出たのではないですか。
プラッ トフォーム化をベースに物流の仕組みを考え、 そこに在庫をどう乗せていくかということを 今後詰めていきましょう」  三人が頷く。
主任がほっとしたような顔で  「おかげさまで、ロジスティクスの経営への 貢献という点で何とか方向性が見えてきまし た。
ありがとうございました」と大先生にお 礼を言う。
 「いや、とんでもない。
皆さんの活発な議 論は楽しかったです。
また呼んでください」 こうして、飲み屋での検討会が終わった。
とはどういうことなんですか?」  企画課長が、「それそれ」という顔で答える。
 「まあ、話としては簡単で、社内共同化み たいなものかな。
たとえば、M&Aで買収し た事業があったとすると、その工場で作られ たものを、うちの物流のネットワークに乗せ てしまえば、物流はそれで済むというように、 すべてをカバーできるような国内物流の基盤 を作れということだと思う」  業務課長が続ける。
 「まあ、たとえば五つの事業を買収したと したら、五つの物流を個別にやるんじゃなく ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan

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