2011年1月号
特集
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Interview 「アジア市場に覇者はまだいない」栂尾武幸 Seven LCS 代表
JANUARY 2011 16
「アジア市場に覇者はまだいない」
国際物流市場は現状では米国がインテグレーター、欧
州ではフォワーダーが覇権を握っている。
しかしアジア市 場はまだ混沌としている。
決着はついていない。
オープ ンスカイ政策を進める日本の国際物流会社は否応なくそ の波にもまれることになる。
日本発運賃はもう上がらない ──国際貨物運賃が二〇〇九年の夏以降、一本調子 で上昇しています。
「運賃の高騰は一〇年秋で一段落だと見ています。
短期的にもそうですが、長期的にも、とりわけ日本 発の運賃は今後は上がる要素がない。
海外シフトが 進んだことで、日本から輸出されているものといえ ば今や電子部品や小型の精密機械などの小さなモノ に限られてしまっている。
これから貨物量が増えて いくとは考えられません。
これまでは景気による多 少の浮き沈みはあっても長期的に見れば日本の国際 貨物輸送量は伸びてきたわけですが、それも転換点 に来たと見ています」 「しかも今後はオープンスカイ政策で日本に割安な ローコストキャリア(LCC)が入って来る。
今のと ころLCCは近距離の旅客を対象としていますが、 いずれ貨物版LCCも入ってくるでしょう。
日本の フォワーダーが貨物専用機をチャーターするフォワー ダーチャーターも始まった。
フォワーダーの選択肢が 増えてキャリアに対する発言力が強くなることも運賃 の上昇を抑制する要因になります」 ──欧米の物流市場ではキャリアとしての国際インテ グレーターがフォワーダーを吸収して行きました。
日 本にもその波が来るのでは? 「確かに米国市場はそうです。
フェデラルエクスプレ スとUPSがフォワーダーを傘下に収めた。
しかし、 これはアメリカ大陸が物理的に飛行機によるハブ・ア ンド・スポークスに適していたことが大きい。
フェ デックスがハブ空港を置くメンフィスは実際、米国の 中心にあります。
そこに国際貨物を集めて方面別に 積み替えて国内全土にばら巻く。
スポークに当たる 国内航空輸送は一日何回もピストン輸送できるので 効率がいい」 「そのビジネスモデルを世界に展開するために米国 政府は一九七八年からオープンスカイ政策を進めてき ました。
しかし、日本の国内輸送であればトラック 輸送で済んでしまう。
飛行機を使っても採算が合い ません。
実はヨーロッパも同じで、現地のエクスプレ スは飛行機によるきれいなハブ・アンド・スポークス にはなっていない」 「欧州では伝統的にフォワーダーが強く、今もメー ンプレーヤーとして生き残っている。
ただし、単なる フォワーディングではなく事業領域を総合物流に拡大 している。
ドイツポスト傘下のDHLにしても一時 は米国の大手プレーヤーを買収してハブ・アンド・ス ポークス型のネットワークを目指しましたが、結局そ れに失敗しました。
DHLは現在もエクスプレスを手 がけるインテグレーターではありますが、米系の二社 とはビジネスモデルが違って実態としては海運も含む フォワーディング事業を核とした総合物流業者です」 ──米系インテグレーターは欧州やアジアにも手を伸 ばしています。
「しかし、世界ネットワークを完成させたわけでは ありません。
インテグレーターとは言っても国際輸送 を他社に委託しなければならないためにフォワーディ ング機能を必要としている」 「既存のキャリアやフォワーダーにしてもインテグ レーターに飲み込まれるのを指をくわえて待ってい たわけではありません。
IATA(国際航空運送協 会、大手航空会社を中心とした業界団体)は九六年 に世界の主だったフォワーダーを集めてインテグレー ターへの対抗策を練りました」 「それまで航空会社はフォワーダーを『エージェン 栂尾武幸 Seven LCS 代表 Interview 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」 17 JANUARY 2011 ト(代理店)﹄と呼び、自分たちの下に見ているとこ ろがあった。
しかしキャリアは荷主とのパイプを持っ ているわけではありませんから、インテグレーターの 台頭に対抗するにはフォワーダーの力を借りる必要が あったんです」 「その会合を機に翌九七年には、世界の主要エアラ インと主要フォワーダーが『カーゴ二〇〇〇﹄という 団体を設立した。
そこでエアウェイビル(航空運送 状)の標準化や業務プロセスの改善、IT化が進め られたことで、ドア・ツー・ドアのトレーシングを始 めインテグレーターの一貫輸送に対抗できるサービス やハンドリングの仕組み作りが進みました」 インテグレーターV S フォワーダー ──現状で米国がインテグレーター、欧州ではフォ ワーダーが主流だとして、日本およびアジアはどう なっていくのでしょうか。
欧米と比較すると日本は 陸運業、トラック運送業がこれまで物流市場のメーン プレーヤーでした。
その陸運業が現在は国際物流に本 腰を入れ始めた。
陸運業主導になる可能性は。
「アジア市場はまだ混沌としています。
大手各社の 読みも違うようです。
日本の陸運業の強みは現場の オペレーションと緻密なコスト管理能力にあると思い ます。
実際、フォワーダーとは比較にならないほどコ スト管理には優れている。
しかし国際物流の実務は 効率だけでは通用しない。
海外のキャリアや各国の 通関をスムーズに進めるには、駆け引きの技術や遊 びも必要なんです」 ──日本ではANAがアジアのインテグレーターに名 乗りを上げました。
「この一〇年で日本は対米貿易から中国を中心とす るアジア経済に軸足を移しましたから、アジアの成長 に乗ろうという狙いは理解できます。
日本の荷主には キャリアに対しても日本流を求めるところがあるし、 コスト効率も従来のJALに比べればずっといい。
そ れでも海外のエアラインと比べれば、まだまだ高い。
そこをどう合理化していくかが問われていると思い ます」 ──沖縄を貨物ハブにするというアイデアは? 「スポークの数が一〇本程度では、まだハブとは言 えません。
シンガポールや香港、仁川が競争相手に なるわけですから今のところは勝負にならない。
そ もそも日本はこれまでゲートウェイ型のインフラしか 作ってこなかった。
ゲートウェイとハブでは似ている ようでその機能が全く違います」 「ゲートウェイというのは長距離航路の経由地です。
それに対してハブはネットワークの起点です。
ところ が日本のこれまでの運輸行政は物流をネットワークと して取り扱ってこなかった。
海外との単純往復しか 考えてこなかったんです。
九〇年代まで日本の空港・ 港湾が何とか航路網を維持できていたのは、太平洋 側のゲートウェイとして利用されていたからです」 「しかし輸送機材が大型化し、長距離運航が可能に なったことで日本に立ち寄る必要はなくなっている。
海上輸送では一万二〇〇〇個もの二〇フィートコン テナを一度に搭載することのできる船が出来ている。
様々な仕向地の荷物が大型船でまとめて幹線輸送さ れ、その積み降ろしをする港の設備も当然、大型化 しています。
そうなるとゲートウェイ型の港では対応 できない」 「日本は国家としての物流戦略に欠けていました。
その結果として日本はハブではなく、スポークの一つ になってしまった。
残念ながら海外の大手キャリアは もはや日本に魅力を感じなくなっています」 とがお・たけゆき 1962年、郵船航空 サービス入社。
92年、JAFA(航空貨物 運送協会)国際部会長代行に就任。
カー ゴ・コミュニティ・システム・ジャパン (CCSJ)の設立準備委員長を経て、 99年に同社社長に就任。
2006年、国際 物流業界の実務経験者7人でセブンロジ スティシャンズコンサルティングアンドソ リューションジャパン(Seven LCS)を 設立。
代表に就任。
現在に至る。
順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 IATA 加盟航空会社の国際航空貨物輸送トンキロ上位10 社の変遷 インテグレーター ※国土交通省資料より 日系航空会社 日本航空 ルフトハンザ航空 エアフランス フライングタイガー KLMオランダ航空 英国航空 大韓航空 シンガポール航空 ノースウエスト航空 アリタリア航空 1985 事業者名輸送量 2,402 2,391 2,256 1,871 1,396 1,137 1,055 981 742 732 1995 事業者名輸送量 2007 事業者名輸送量 5,812 4,363 4,233 3,666 3,612 3,509 3,196 2,790 2,589 1,850 ルフトハンザ航空 エアフランス 大韓航空 シンガポール航空 KLMオランダ航空 日本航空 英国航空 キャセイパシフィック航空 フェデラルエクスプレス ノースウエスト航空 9,498 8,336 8,225 7,945 6,470 6,301 6,123 5,497 5,482 5,077 大韓航空 ルフトハンザ航空 キャセイパシフィック航空 シンガポール航空 フェデラルエクスプレス 中華航空 エアフランス エミレーツ航空 カーゴルクス UPS 27 日本貨物航空 190 13 日本貨物航空 1,556 28 全日本空輸 589 14 日本航空 4,269 25 日本貨物航空 1,836 28 全日本空輸 1,477 PROFILE
しかしアジア市 場はまだ混沌としている。
決着はついていない。
オープ ンスカイ政策を進める日本の国際物流会社は否応なくそ の波にもまれることになる。
日本発運賃はもう上がらない ──国際貨物運賃が二〇〇九年の夏以降、一本調子 で上昇しています。
「運賃の高騰は一〇年秋で一段落だと見ています。
短期的にもそうですが、長期的にも、とりわけ日本 発の運賃は今後は上がる要素がない。
海外シフトが 進んだことで、日本から輸出されているものといえ ば今や電子部品や小型の精密機械などの小さなモノ に限られてしまっている。
これから貨物量が増えて いくとは考えられません。
これまでは景気による多 少の浮き沈みはあっても長期的に見れば日本の国際 貨物輸送量は伸びてきたわけですが、それも転換点 に来たと見ています」 「しかも今後はオープンスカイ政策で日本に割安な ローコストキャリア(LCC)が入って来る。
今のと ころLCCは近距離の旅客を対象としていますが、 いずれ貨物版LCCも入ってくるでしょう。
日本の フォワーダーが貨物専用機をチャーターするフォワー ダーチャーターも始まった。
フォワーダーの選択肢が 増えてキャリアに対する発言力が強くなることも運賃 の上昇を抑制する要因になります」 ──欧米の物流市場ではキャリアとしての国際インテ グレーターがフォワーダーを吸収して行きました。
日 本にもその波が来るのでは? 「確かに米国市場はそうです。
フェデラルエクスプレ スとUPSがフォワーダーを傘下に収めた。
しかし、 これはアメリカ大陸が物理的に飛行機によるハブ・ア ンド・スポークスに適していたことが大きい。
フェ デックスがハブ空港を置くメンフィスは実際、米国の 中心にあります。
そこに国際貨物を集めて方面別に 積み替えて国内全土にばら巻く。
スポークに当たる 国内航空輸送は一日何回もピストン輸送できるので 効率がいい」 「そのビジネスモデルを世界に展開するために米国 政府は一九七八年からオープンスカイ政策を進めてき ました。
しかし、日本の国内輸送であればトラック 輸送で済んでしまう。
飛行機を使っても採算が合い ません。
実はヨーロッパも同じで、現地のエクスプレ スは飛行機によるきれいなハブ・アンド・スポークス にはなっていない」 「欧州では伝統的にフォワーダーが強く、今もメー ンプレーヤーとして生き残っている。
ただし、単なる フォワーディングではなく事業領域を総合物流に拡大 している。
ドイツポスト傘下のDHLにしても一時 は米国の大手プレーヤーを買収してハブ・アンド・ス ポークス型のネットワークを目指しましたが、結局そ れに失敗しました。
DHLは現在もエクスプレスを手 がけるインテグレーターではありますが、米系の二社 とはビジネスモデルが違って実態としては海運も含む フォワーディング事業を核とした総合物流業者です」 ──米系インテグレーターは欧州やアジアにも手を伸 ばしています。
「しかし、世界ネットワークを完成させたわけでは ありません。
インテグレーターとは言っても国際輸送 を他社に委託しなければならないためにフォワーディ ング機能を必要としている」 「既存のキャリアやフォワーダーにしてもインテグ レーターに飲み込まれるのを指をくわえて待ってい たわけではありません。
IATA(国際航空運送協 会、大手航空会社を中心とした業界団体)は九六年 に世界の主だったフォワーダーを集めてインテグレー ターへの対抗策を練りました」 「それまで航空会社はフォワーダーを『エージェン 栂尾武幸 Seven LCS 代表 Interview 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」 17 JANUARY 2011 ト(代理店)﹄と呼び、自分たちの下に見ているとこ ろがあった。
しかしキャリアは荷主とのパイプを持っ ているわけではありませんから、インテグレーターの 台頭に対抗するにはフォワーダーの力を借りる必要が あったんです」 「その会合を機に翌九七年には、世界の主要エアラ インと主要フォワーダーが『カーゴ二〇〇〇﹄という 団体を設立した。
そこでエアウェイビル(航空運送 状)の標準化や業務プロセスの改善、IT化が進め られたことで、ドア・ツー・ドアのトレーシングを始 めインテグレーターの一貫輸送に対抗できるサービス やハンドリングの仕組み作りが進みました」 インテグレーターV S フォワーダー ──現状で米国がインテグレーター、欧州ではフォ ワーダーが主流だとして、日本およびアジアはどう なっていくのでしょうか。
欧米と比較すると日本は 陸運業、トラック運送業がこれまで物流市場のメーン プレーヤーでした。
その陸運業が現在は国際物流に本 腰を入れ始めた。
陸運業主導になる可能性は。
「アジア市場はまだ混沌としています。
大手各社の 読みも違うようです。
日本の陸運業の強みは現場の オペレーションと緻密なコスト管理能力にあると思い ます。
実際、フォワーダーとは比較にならないほどコ スト管理には優れている。
しかし国際物流の実務は 効率だけでは通用しない。
海外のキャリアや各国の 通関をスムーズに進めるには、駆け引きの技術や遊 びも必要なんです」 ──日本ではANAがアジアのインテグレーターに名 乗りを上げました。
「この一〇年で日本は対米貿易から中国を中心とす るアジア経済に軸足を移しましたから、アジアの成長 に乗ろうという狙いは理解できます。
日本の荷主には キャリアに対しても日本流を求めるところがあるし、 コスト効率も従来のJALに比べればずっといい。
そ れでも海外のエアラインと比べれば、まだまだ高い。
そこをどう合理化していくかが問われていると思い ます」 ──沖縄を貨物ハブにするというアイデアは? 「スポークの数が一〇本程度では、まだハブとは言 えません。
シンガポールや香港、仁川が競争相手に なるわけですから今のところは勝負にならない。
そ もそも日本はこれまでゲートウェイ型のインフラしか 作ってこなかった。
ゲートウェイとハブでは似ている ようでその機能が全く違います」 「ゲートウェイというのは長距離航路の経由地です。
それに対してハブはネットワークの起点です。
ところ が日本のこれまでの運輸行政は物流をネットワークと して取り扱ってこなかった。
海外との単純往復しか 考えてこなかったんです。
九〇年代まで日本の空港・ 港湾が何とか航路網を維持できていたのは、太平洋 側のゲートウェイとして利用されていたからです」 「しかし輸送機材が大型化し、長距離運航が可能に なったことで日本に立ち寄る必要はなくなっている。
海上輸送では一万二〇〇〇個もの二〇フィートコン テナを一度に搭載することのできる船が出来ている。
様々な仕向地の荷物が大型船でまとめて幹線輸送さ れ、その積み降ろしをする港の設備も当然、大型化 しています。
そうなるとゲートウェイ型の港では対応 できない」 「日本は国家としての物流戦略に欠けていました。
その結果として日本はハブではなく、スポークの一つ になってしまった。
残念ながら海外の大手キャリアは もはや日本に魅力を感じなくなっています」 とがお・たけゆき 1962年、郵船航空 サービス入社。
92年、JAFA(航空貨物 運送協会)国際部会長代行に就任。
カー ゴ・コミュニティ・システム・ジャパン (CCSJ)の設立準備委員長を経て、 99年に同社社長に就任。
2006年、国際 物流業界の実務経験者7人でセブンロジ スティシャンズコンサルティングアンドソ リューションジャパン(Seven LCS)を 設立。
代表に就任。
現在に至る。
順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 IATA 加盟航空会社の国際航空貨物輸送トンキロ上位10 社の変遷 インテグレーター ※国土交通省資料より 日系航空会社 日本航空 ルフトハンザ航空 エアフランス フライングタイガー KLMオランダ航空 英国航空 大韓航空 シンガポール航空 ノースウエスト航空 アリタリア航空 1985 事業者名輸送量 2,402 2,391 2,256 1,871 1,396 1,137 1,055 981 742 732 1995 事業者名輸送量 2007 事業者名輸送量 5,812 4,363 4,233 3,666 3,612 3,509 3,196 2,790 2,589 1,850 ルフトハンザ航空 エアフランス 大韓航空 シンガポール航空 KLMオランダ航空 日本航空 英国航空 キャセイパシフィック航空 フェデラルエクスプレス ノースウエスト航空 9,498 8,336 8,225 7,945 6,470 6,301 6,123 5,497 5,482 5,077 大韓航空 ルフトハンザ航空 キャセイパシフィック航空 シンガポール航空 フェデラルエクスプレス 中華航空 エアフランス エミレーツ航空 カーゴルクス UPS 27 日本貨物航空 190 13 日本貨物航空 1,556 28 全日本空輸 589 14 日本航空 4,269 25 日本貨物航空 1,836 28 全日本空輸 1,477 PROFILE
