2011年1月号
現場改善

第96回 新興SPAの最適化プロジェクト

JANUARY 2011  70 ローコストではあるものの…  K社は国内七大都市を中心に展開する直営 店で自社企画の雑貨・アパレル品を販売するS PA(製造小売り)である。
東京に本社を置 き、年商は約一二〇億円。
ターゲットとする顧 客年齢層別に三つのブランドを展開し、約四三 〇〇アイテムを取り扱っている。
 K社の顧問を任されている人物から、物流体 制を整備したいとの相談を受けた。
それを受け て後日、筆者はK社の物流改善の担当メンバー と会うことになった。
その席には顧問の姿は見 当たらなかったが副社長のA氏と物流全般の実 務責任者であるY氏が我々を迎えてくれた。
 約二時間強は要したであろうか、様々なヒア リングを行なった。
K社はこれまでも自分達で 委託配送会社の見直しや運賃の抑制などを行 ってきたが、次の一手が見えず、改革が行き 詰まっているとのことであった。
 事前に簡単なミーティング用の資料を準備し てくれていたが、物流の問題点を炙り出すま での情報レベルには至っていなかったため、ほ ぼ白紙の状態からの情報収集作業となった。
 K社の商品の生産地は八〇%が中国および 東南アジア、残り二〇%が国内という構成だっ た。
物流拠点は関東圏内に二カ所。
一カ所は自 社運営、一カ所は外部委託となっていた。
拠 点はブランド別に分かれており、複数拠点の場 合によくある?横持ち?は、ほとんど発生し ていない。
 支払物流費は売上高の二%にも満たなかっ た。
雑貨・アパレル業界および類似業種の平均 的な水準と比較して、非常にローコストといえ る。
 現状の二カ所の物流センターはいずれも小規 模だった。
手狭なスペースで恐らく現場は相当 に混乱しているはずだが、それでも保管料と人 件費を抑えて回すことはできているのであろう。
 そこまで説明を聞いた限りでは、K社の物流 に決定的な問題があるとは感じなかった。
しか し、実務責任者のY氏曰く「返品コストが高く かかっている」という。
そこで返品の発生原 因を尋ねたところ、次の順で多いという。
?売れ残りによる返品 ?サンプル品の返品 ?不良品の返品 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  雑貨・アパレル品の製造小売り(SPA)として急成長を遂 げたK社が、プロジェクトチームを組んで、物流改善に乗りだ した。
オペレーションの実態を調べ、仮説を検証していくうち に、問題は物流よりもむしろ受発注の仕組みや未成熟な組織に あることが分かってきた。
新興SPAの最適化プロジェクト 第96 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 71  JANUARY 2011  これを改善するには、物流オペレーションの 見直しや支払物流費のコストダウンではなく、 最適化が必要である。
 今さらではあるが、筆者は物流コンサルタン トである。
しかし、このところ筆者が相談を受 ける案件は、どれも最適化をテーマとしている。
これは偶然ではないのかも知れない。
個別最 適や経営の歪みが物流にしわ寄せされる傾向が 強くなっているのではないか。
Y氏の説明を聞 いていて、そんな考えがふと頭をよぎった。
 ともあれ、テーマがはっきりしたので、次の ステップは改革・改善の仮説の提示である。
 売れ残りを原因とした返品の抑制には通常、 発注点の見直し、需要予測の精度向上、店頭 およびバックヤード在庫の管理方法の見直しと いった手法をとる。
その点に関して現状を尋ね たところ、何とK社には店舗発注の仕組み自体 がないという。
各店舗への商品の配分は、す べて本部が割当てていた。
 それを聞いて先ほどの物流センターの件も合 点がいった。
手狭なスペースでの作業を強いら れている現場では誤出荷(品違い、数量違い、 店舗違い)が少なくないはずだ。
しかし、K 社では本部配分のため、店舗側では到着した 商品をすべて?売りなさい?のサインだと受け 取る。
つまり誤出荷という概念がない。
 いくら商品回転率の高い商品を扱っていると はいえ、そのままでは売れ残りを減らすのは困 難であった。
 このようなK社特有の物流環境を把握した うえで、最適化に向けて以下の五つの仮説を提 示して、さらに協議を行った。
?物流拠点二カ所の統合による作業の集約と 一元管理の実施 ?自社運営センターの外注化による本業への特 化 ?今後の規模拡大をサポートできる物流パート ナーの選定 ?作業効率を上げ、品質の悪化を防ぐのに最 低限必要な三五〇坪以上の倉庫スペースの 確保 ?出荷頻度の見直し  以上の仮説のうち?出荷頻度の見直しを除 いた四つの項目は、実施に伴い新規投資もしく は新たな支払い費用の発生が避けられない。
現 状と比べれば売上高物流費比率もアップするこ とになるだろう。
 いくらそれが最適化やサービス向上につなが るとしても、プロジェクトの最高責任者である JANUARY 2011  72 副社長のA氏は首を縦に振ることはできなかっ た。
 こうなると改善に向けた一歩が踏み出せない。
他のプロジェクトメンバーは戸惑いを見せた。
し かし、我々コンサルタントにとっては、副社長 の経営判断が下されたことは必ずしもマイナス ではなかった。
テーマを絞り込めた。
?投資な し、コストアップもない最適化?である。
センター業務を中国に移管  その方針の下に再度、仮説を洗い直し、当 初は第二ステップのテーマと考えていた項目を、 第一ステップに引き摺り下ろした。
以下の三つ である。
?物流センター業務の中国移管 ?フォワーダーの見直し ?店舗スタッフの物流業務の軽減による販売へ の集中  ?物流センター業務の中国移管ついて、K社 では海外生産分のうち九割を中国で行っていた ため、検針、店別仕分けなどの作業を可能な 限り現地で行い、人件費の高い日本国内のハン ドリングを避けて店舗に納品するプランを作成 した。
 K社と同業の大手Y社は既に数年前からそ れを具現化していた。
そのことを知るプロジェ クトメンバーたちも物流業務の海外移管という アイデアには一定の手応えを感じていたようだ った。
しかし、いざ実行に移すとなると壁は高 かった。
 センター機能の現地移管には、現地パートナ ーの発掘と、そのパートナーを日本流のきめ細 かな作業に対応させる教育・訓練が不可欠で あった。
しかし、K社には、その仕事を任せ られる人材がいなかった。
 そのため?フォワーダーを見直して、商社と その系列の物流会社との共同プロジェクトで移 管を進める形をとることになった。
 ?店舗スタッフの物流業務の軽減による販売 への集中は、かなり深刻な問題であった。
K 社の店舗スタッフは物流センターおよび海外か ら直接納品される商品の荷受け、検品、陳列、 そして返品のための物流業務に多くの時間を割 かれていた。
 ランダムに三つの店舗を選んで、その負荷を 実地調査したところ、作業負荷の軽い店舗で 一日一人当たり平均二時間、多い店舗では三 時間強を物流業務に費やしていた。
一日一〇 時間勤務としても、その二、三割を物流業務 に割いていることになる。
 我々が視察した店舗では平日のスタッフは一 名、金土日祝はアルバイトを使って二名で対応 していたが、営業時間中も物流業務に追われ て販売・接客まで十分に手が回らない状態だっ た。
さらに閉店後には物流センターへの返品作 業(集荷依頼、梱包、店舗内移動)にかなり の時間がかかっていた。
 これらのことをA副社長と実務責任者のY 氏をはじめとするPJメンバーに報告し、店舗 発注の仕組み自体を再検討して、その効果を検 証するよう提案した。
これを受けて、A副社 長とY氏はようやく?本音?をもらし始めた。
 実はA副社長そしてY氏とも、中途採用で K社に入社してから、まだ二年も経っていなか った。
そのため現場の実態がよく分からず、店 舗での物流作業負担が大きく、販売の足かせ になっていると聞いても具体的にイメージでき ないという。
 この二人だけではなかった。
K社は事業の急 成長にともない、時間的余裕のない状態で人 材を手当てし、組織を拡大してきた。
そのた めに経営の問題点を検証し、改善、実行する といったスキームを回すこと自体が困難であっ た。
 さらには、現在の三つのブランドのうち、順 調なのは一ブランドだけで、他の二つのブラン ドは売り上げが伸びず、出店計画が停滞してい る状態にあるという。
 筆者がこの話を聞いた時には、既にプロジェ クトを開始してから二カ月が過ぎていた。
遅す ぎる?真実?に直面したことでプロジェクトは 仕切り直しを余儀なくされた。
K社を我々につ ないだ紹介者でもあり、K社のビジネスをよく 理解している顧問に参加してもらい、改めてプ ロジェクトに取り組むことになったのであった。
 こうしてK社のプロジェクトは消化不良のま ま後戻りしてしまった。
しかし、新たな体制を 組んだことで、物流センター業務の現地化の検 討が本格的に動き出した。
そのサポート役とな る我々の責務は重い。
我々もまた捲土重来を期 さねばなるまい。

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