2011年2月号
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「SCMの業務設計にはコツがある」石川和幸 サステナビリティ・コンサルティング 代表
FEBRUARY 2011 4
「そう言わざるを得ません。
そも そもSCPを使って意味があるのは、 消耗品やコモディティ化している日用 品など、安定的に消費される商品に 限られます。
それ以外の商品はマーケ ティング次第で需要が大きく変化する。
価格戦略を変えたり、オプションやイ ンセンティブをつけるといった施策を 打つことで売れ行きがまったく変わ ってしまうため過去の実績は参考に ならない。
実際、自動車メーカーにし ても精密機械メーカーにしても、なか にはSCPを購入したところもあり ますが、誰も使っていない」 ──SCPなど廃棄して昔のやり方 に戻れということですか。
「それが一つの現実解です。
百歩譲 って計画を立案するための参考値を 得るのにSCPを使うという話なら 分からないでもないけれど、予測して、 それを後から直すというのでは手間 が増えるだけです。
最後は人の意志 を働かせるのなら、最初からそうし たほうが早い。
予測はどうせ外れる のだから、外れた時にどう対応する かということに力点を置いたほうが いい」 ──具体的には何をやればいいので すか。
「グローバルに需給をコントロール するプロセスを作るんです。
これまで IT投資はムダだった ──SCMをやり直す必要があると 指摘されていますね。
「かなり以前からそう指摘してきた のですが、今まさにそれが現実のこ とになってきています。
二〇一〇年 の秋頃から、多くのメーカーがグロー バルSCMをその構想レベルから改め て練り直し始めています」 ──なぜ、そのタイミングだったので しょうか。
「これまでグローバルサプライチェー ンをまともに管理できていなかった ことが、リーマンショックを経験した ことで、はっきりしたからです。
リー マンショックの発生は〇八年九月でし た。
しかし、メーカーが生産にブレー キをかけたのは年末から翌年の一月 にかけてのことです。
それまで販売 が急落しているにもかかわらず、作 り続けていた。
販売が落ちているこ とは情報としては把握していた。
し かし行動できなかった」 「理由の一つは生産にブレーキを踏 むインセンティブが社内のどこにもな かったからです。
工場は生産を止め てしまうと生産高の予算を達成でき ない。
製品に原価を配賦しなければ 赤字になってしまう。
販売部門も海 外に出荷すれば終わり。
海外販社か ら確定オーダーを受けているので自 分たちに引き取り責任はない。
結局、 本社側には誰にも在庫責任がない」 「その結果として、海外の港や拠点 に山のように在庫が積み上がってし まった。
その光景を目の当たりにし て初めて本社は生産を止めようとい う判断を下した。
船便で海外に出荷 すれば米国で一カ月、欧州だと二カ 月近くかかることもあるので、それ だけ判断が遅れてしまいました」 ──SCMシステムは機能しなかった のでしょうか。
「残念ながら機能しませんでした。
ERPを導入してシステムを統合し、 さらにマニュジスティックスやi2テ クノロジーズなどのSCP(サプライ チェーン計画ソフト) に大金を投じた ものの使える仕組みにはなっていな かった」 「システムはある。
データも入って いる。
しかし、そこから弾き出され る数字は意思決定に使えるものでは なかったんです。
この場所で、この 製品が、これだけ売れそうだという 予測だけがあっても、制約が何なのか、 どのようなトレードオフがあるのか分 からなければ意思決定は下せません」 ──システム投資はムダだった? 石川和幸 サステナビリティ・コンサルティング 代表 「SCMの業務設計にはコツがある」 システムは構築した。
データも入っている。
しかし、SCM が機能しない。
その原因は業務プロセスの設計にある。
グローバ ルに需給を調整する仕組みを欠いたままでは、どんな投資もム ダになる。
現状のサプライチェーンを紐解いて、改めて編み上げ る必要がある。
(聞き手・大矢昌浩) 5 FEBRUARY 2011 は、それがなかった。
例えばあるメ ーカーでは、海外販社で予算をどう やって作っているのか、それに対し てどのように在庫を積もうとしてい るか、つまり日本に発注をかけてい るのかを調べるところから始めてい ます。
実際に調べていくと、おかし なところがたくさん見つかる」 「これまで計画プロセスは現地に ?お任せ?でした。
計画の立て方や 発注の仕方など自由にやらせていた。
海外販社は最終的に売り上げと利益 の目標さえ達成できれば文句は言わ れないので、予算策定では適当に製 品を組み合わせて数字の辻褄を合わ せていた。
その結果、計画と実績が 合わなくなってくる。
そこにグローバ ル企業としての枠を嵌めるんです」 ──計画プロセスをグローバルに標準 化するわけですね。
「計画プロセスの標準化という作 業は、ほとんどの日本企業にとって 恐らく初めての取り組みになります。
工場には従来からルールがある。
標 準があり、指示書があって、世界の どの工場でもルールを順守することが 当たり前になっている。
しかし、計 画プロセスには決まりがない。
そのま まではサプライチェーンをデザインで きません」 「今や世界最適地生産が本格的に 「製品本体とサプライ品と補修部品 では当然ながら必要なリードタイムは 違います。
それを満たすことができて、 なおかつ在庫やコストを最小化できる プロセスを、それぞれの製品のデカッ プリングポイントに定める。
そこから 細部を詰めて落とし込んでいったサ プライチェーンの設計図がSCMの構 想であり、?To be?(あるべき姿) です。
それを現状の?As is?と 対比させて、As isをTo beに 変革していく」 「リードタイムを始めとするサービス レベルから話はスタートするわけです から、構想段階から物流の知識が不 可欠です。
これもまた素人の手に負 える問題ではありません。
そのため プロジェクトには物流部門のスタッフ はもちろん、場合によっては協力物 流会社にも最初から加わってもらう 必要があります」 始まっています。
従来のように、グ ローバル化といっても基幹部品をす べて日本から輸出して現地工場では 組み立てるだけといった時代とは違 います。
どこで何を作るのか、どこ まで作るのか、製品ごとに決めてい く必要がある。
それを判断するには 比較ができないといけません。
そし て比較するには、業務プロセスと管 理会計を標準化して比較のベースと なる原単位をそろえなければならな い」 SCMの正しい手順 ──標準化の進め方には決まった手 順があるのでしょうか。
「まず構想を作り、それに基づいて 業務設計するというステップは従来の 改革と変わりません。
ただし、具体 的に何を判断材料として、どんな軸 で意志決定するのかといった業務設 計の詳細を決めていくのには、ちょ っとした?コツ?が要ります」 「例えば需要予測一つとっても、ど の単位で予測すれば良いのか。
製品 コードごとなのか、シリーズで括るの か、あるいはカテゴリーレベルなのか。
組織の単位は国別か部門別か、それ とも課別や店舗別なのか。
計画のメ ッシュとなる時間や数量は何を一単 位としてとるのか。
一つひとつ適切 な単位を決めていかなくてはなりま せん」 「そのためにサプライチェーンを紐 解いて、それぞれの要素がどう関連 しているのかを整理したうえで、そ の?紐?を改めて編み上げていくと いう地道な作業を積み重ねていくこ とになります。
特定業務の専門家や 業務の詳細を知らないゼネラリストに は、とても務まらない仕事です」 「そもそも既存の社内組織には業務 プロセスの設計や標準化を担当する部 署など存在しません。
部門間の意見 のぶつかり合いの調整もしなければ ならないため、通常はプロジェクトチ ームやクロス・ファンクショナル・チ ームを作って対応することになります。
そのメンバーの人選やコツを分かって いるコンサルタントを選ぶことが大事 になってきます」 ──標準化によって“見える化”を 実現した後は? 「誰に何を売るのかという、その会 社のビジネスモデルをベースにしてサ プライチェーンのモデルを切り出しま す。
顧客の注文をサプライチェーンの どのプロセスに引き当てるのか。
受注 生産か見込み生産か。
半製品ならど のレベルか。
完成品ならどこにある在 庫かといった?デカップリングポイン ト?を決めるわけです」 石川和幸(いしかわ・かずゆき) 早稲田大学卒。
筑波大学経 営学修士。
アクセンチュア、日 本総研等を経て、2005年 10月にサステナビリティ・コン サルティングを設立し、代表 に就任。
現在に至る。
SCM の構築支援に豊富な実績を持 つ。
関連著書も多数。
そも そもSCPを使って意味があるのは、 消耗品やコモディティ化している日用 品など、安定的に消費される商品に 限られます。
それ以外の商品はマーケ ティング次第で需要が大きく変化する。
価格戦略を変えたり、オプションやイ ンセンティブをつけるといった施策を 打つことで売れ行きがまったく変わ ってしまうため過去の実績は参考に ならない。
実際、自動車メーカーにし ても精密機械メーカーにしても、なか にはSCPを購入したところもあり ますが、誰も使っていない」 ──SCPなど廃棄して昔のやり方 に戻れということですか。
「それが一つの現実解です。
百歩譲 って計画を立案するための参考値を 得るのにSCPを使うという話なら 分からないでもないけれど、予測して、 それを後から直すというのでは手間 が増えるだけです。
最後は人の意志 を働かせるのなら、最初からそうし たほうが早い。
予測はどうせ外れる のだから、外れた時にどう対応する かということに力点を置いたほうが いい」 ──具体的には何をやればいいので すか。
「グローバルに需給をコントロール するプロセスを作るんです。
これまで IT投資はムダだった ──SCMをやり直す必要があると 指摘されていますね。
「かなり以前からそう指摘してきた のですが、今まさにそれが現実のこ とになってきています。
二〇一〇年 の秋頃から、多くのメーカーがグロー バルSCMをその構想レベルから改め て練り直し始めています」 ──なぜ、そのタイミングだったので しょうか。
「これまでグローバルサプライチェー ンをまともに管理できていなかった ことが、リーマンショックを経験した ことで、はっきりしたからです。
リー マンショックの発生は〇八年九月でし た。
しかし、メーカーが生産にブレー キをかけたのは年末から翌年の一月 にかけてのことです。
それまで販売 が急落しているにもかかわらず、作 り続けていた。
販売が落ちているこ とは情報としては把握していた。
し かし行動できなかった」 「理由の一つは生産にブレーキを踏 むインセンティブが社内のどこにもな かったからです。
工場は生産を止め てしまうと生産高の予算を達成でき ない。
製品に原価を配賦しなければ 赤字になってしまう。
販売部門も海 外に出荷すれば終わり。
海外販社か ら確定オーダーを受けているので自 分たちに引き取り責任はない。
結局、 本社側には誰にも在庫責任がない」 「その結果として、海外の港や拠点 に山のように在庫が積み上がってし まった。
その光景を目の当たりにし て初めて本社は生産を止めようとい う判断を下した。
船便で海外に出荷 すれば米国で一カ月、欧州だと二カ 月近くかかることもあるので、それ だけ判断が遅れてしまいました」 ──SCMシステムは機能しなかった のでしょうか。
「残念ながら機能しませんでした。
ERPを導入してシステムを統合し、 さらにマニュジスティックスやi2テ クノロジーズなどのSCP(サプライ チェーン計画ソフト) に大金を投じた ものの使える仕組みにはなっていな かった」 「システムはある。
データも入って いる。
しかし、そこから弾き出され る数字は意思決定に使えるものでは なかったんです。
この場所で、この 製品が、これだけ売れそうだという 予測だけがあっても、制約が何なのか、 どのようなトレードオフがあるのか分 からなければ意思決定は下せません」 ──システム投資はムダだった? 石川和幸 サステナビリティ・コンサルティング 代表 「SCMの業務設計にはコツがある」 システムは構築した。
データも入っている。
しかし、SCM が機能しない。
その原因は業務プロセスの設計にある。
グローバ ルに需給を調整する仕組みを欠いたままでは、どんな投資もム ダになる。
現状のサプライチェーンを紐解いて、改めて編み上げ る必要がある。
(聞き手・大矢昌浩) 5 FEBRUARY 2011 は、それがなかった。
例えばあるメ ーカーでは、海外販社で予算をどう やって作っているのか、それに対し てどのように在庫を積もうとしてい るか、つまり日本に発注をかけてい るのかを調べるところから始めてい ます。
実際に調べていくと、おかし なところがたくさん見つかる」 「これまで計画プロセスは現地に ?お任せ?でした。
計画の立て方や 発注の仕方など自由にやらせていた。
海外販社は最終的に売り上げと利益 の目標さえ達成できれば文句は言わ れないので、予算策定では適当に製 品を組み合わせて数字の辻褄を合わ せていた。
その結果、計画と実績が 合わなくなってくる。
そこにグローバ ル企業としての枠を嵌めるんです」 ──計画プロセスをグローバルに標準 化するわけですね。
「計画プロセスの標準化という作 業は、ほとんどの日本企業にとって 恐らく初めての取り組みになります。
工場には従来からルールがある。
標 準があり、指示書があって、世界の どの工場でもルールを順守することが 当たり前になっている。
しかし、計 画プロセスには決まりがない。
そのま まではサプライチェーンをデザインで きません」 「今や世界最適地生産が本格的に 「製品本体とサプライ品と補修部品 では当然ながら必要なリードタイムは 違います。
それを満たすことができて、 なおかつ在庫やコストを最小化できる プロセスを、それぞれの製品のデカッ プリングポイントに定める。
そこから 細部を詰めて落とし込んでいったサ プライチェーンの設計図がSCMの構 想であり、?To be?(あるべき姿) です。
それを現状の?As is?と 対比させて、As isをTo beに 変革していく」 「リードタイムを始めとするサービス レベルから話はスタートするわけです から、構想段階から物流の知識が不 可欠です。
これもまた素人の手に負 える問題ではありません。
そのため プロジェクトには物流部門のスタッフ はもちろん、場合によっては協力物 流会社にも最初から加わってもらう 必要があります」 始まっています。
従来のように、グ ローバル化といっても基幹部品をす べて日本から輸出して現地工場では 組み立てるだけといった時代とは違 います。
どこで何を作るのか、どこ まで作るのか、製品ごとに決めてい く必要がある。
それを判断するには 比較ができないといけません。
そし て比較するには、業務プロセスと管 理会計を標準化して比較のベースと なる原単位をそろえなければならな い」 SCMの正しい手順 ──標準化の進め方には決まった手 順があるのでしょうか。
「まず構想を作り、それに基づいて 業務設計するというステップは従来の 改革と変わりません。
ただし、具体 的に何を判断材料として、どんな軸 で意志決定するのかといった業務設 計の詳細を決めていくのには、ちょ っとした?コツ?が要ります」 「例えば需要予測一つとっても、ど の単位で予測すれば良いのか。
製品 コードごとなのか、シリーズで括るの か、あるいはカテゴリーレベルなのか。
組織の単位は国別か部門別か、それ とも課別や店舗別なのか。
計画のメ ッシュとなる時間や数量は何を一単 位としてとるのか。
一つひとつ適切 な単位を決めていかなくてはなりま せん」 「そのためにサプライチェーンを紐 解いて、それぞれの要素がどう関連 しているのかを整理したうえで、そ の?紐?を改めて編み上げていくと いう地道な作業を積み重ねていくこ とになります。
特定業務の専門家や 業務の詳細を知らないゼネラリストに は、とても務まらない仕事です」 「そもそも既存の社内組織には業務 プロセスの設計や標準化を担当する部 署など存在しません。
部門間の意見 のぶつかり合いの調整もしなければ ならないため、通常はプロジェクトチ ームやクロス・ファンクショナル・チ ームを作って対応することになります。
そのメンバーの人選やコツを分かって いるコンサルタントを選ぶことが大事 になってきます」 ──標準化によって“見える化”を 実現した後は? 「誰に何を売るのかという、その会 社のビジネスモデルをベースにしてサ プライチェーンのモデルを切り出しま す。
顧客の注文をサプライチェーンの どのプロセスに引き当てるのか。
受注 生産か見込み生産か。
半製品ならど のレベルか。
完成品ならどこにある在 庫かといった?デカップリングポイン ト?を決めるわけです」 石川和幸(いしかわ・かずゆき) 早稲田大学卒。
筑波大学経 営学修士。
アクセンチュア、日 本総研等を経て、2005年 10月にサステナビリティ・コン サルティングを設立し、代表 に就任。
現在に至る。
SCM の構築支援に豊富な実績を持 つ。
関連著書も多数。
