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2011年2月号
グローバルSCM

第9回 日本型SCMの方向性1販売計画と生産計画の融合

FEBRUARY 2011  72  販売計画の精度を高め、生産や物流のオペ レーションをそれに連動させる「S&OP」 と呼ばれるSCMの取り組みが欧米市場で進 められている。
日本でもスナック菓子最大手 のカルビーは同様の取り組みを実行に移し、 大きな成果を挙げている。
同社の事例に学ぶ べきことは多い。
販売計画の精度を上げる  日本のCPG(Consumer Packaged Goods :加工食品・日用雑貨品などの消費財)メー カーのSCMは今後どのような方向に進むの であろうか。
在庫を今よりもさらに削減する には、どのような方法があるのであろうか。
 受注した後で受注した分だけ作れば在庫は ゼロになる。
それが何らかの理由でできない ことから在庫問題は発生する。
受注してから 作っていたのでは間に合わない、一回に作る ロットが受注量より大きいなどの理由により、 見込み生産を行わなければならなくなる。
そ してそのために需要予測が必要となる。
 需要予測の手法としては既に様々な技術が 開発されている。
しかしながら、その対象 となるのは定常的な販売に限られる。
特売、 キャンペーンなどの販売数量や時期の予測は、 営業の能力、つまり小売店から情報を聞き出 す力と、過去の経験からくる?読み?に頼る しかない。
 そして、その読みを営業にきちんと報告さ せることが、多くの企業のSCM部門にとっ て目下の関心事であり、そのために各社が様々 な工夫を行っている。
 販売計画の精度を高め、それを生産計画に 繋げることで、在庫はより少なくできる。
こ の取り組みを「S&OP(Sales & Operation Planning)」という。
S&OPは一九八〇年 代末に米国で提唱されたコンセプトだが、今 になって改めてその重要性がクローズアップ されている。
 最近の海外の関連資料・文献の中には、「需 要予測精度」をSCMの主要管理指標に挙げ ているものが散見される。
ここでいう需要と は、定常的な販売だけでなく特売やキャンペー ンなどの特需まで含めたものであり、海外で もやはり?読み?の精度向上が重要視される ようになってきている。
 アイテム別の販売計画が、その通りに達成 されるのであれば、生産は販売計画どおりに 作ればよい。
さらに一歩進めて、生産のキャ パシティまで考慮した販売促進方法を企画し、 それに基づいた販売計画を立案して、それが 達成されるのであれば、在庫はいっそう削減 される。
そればかりではなく、業績予測の精 度も高まる。
 とはいえ、高い精度の販売計画を実現する のは容易ではない。
手間もかかる。
営業には、 きめ細かな販売先とのコミュニケーションが 要求される。
また営業にアイテム別販売計画 の達成を過度に強いれば、押し込み販売や販 第回 次世代を拓く 日本型SCM が アビームコンサルティング 経営戦略研究センター 梶田ひかる 日本型SCMの方向性1 販売計画と生産計画の融合 9 日本型SCMが次世代を拓く 73  FEBRUARY 2011 促費の多用、値引きなどを招く恐れもある。
 これらのことから現状では、日本のCPG メーカーの大半が、過去の販売実績をベース にSCM部門でアイテム別の需要予測を行い、 それに特売の計画数値を加味して生産計画に 繋げる体制を採っている。
そして営業の評価 指標としては売上金額目標を重視し、特売に 限定してアイテム別の販売数量を予測させる ことで、押し込み販売や販促費多用、値引き を防止する策をとっている。
 日本でも過去には、アイテム別の販売計画 精度の向上に正面から取り組んだ時期があっ た。
販社制を採っているあるメーカーでは 二十年ほど前に、トータルの販売量から算出 したアイテム別の需要予測値と、個々の営業 の数字を積み上げたアイテム別販売計画を調 整し、生産部門と販売部門の双方が合意した 上で、それぞれ生産、販売を行うというやり 方を採用した。
 しかしながら、そのような取り組みはいつ の間にか消えていった。
スーパーやドラッグ ストア、コンビニなどの組織型小売業の台頭 がその一因となっている。
 組織型小売業の商談は基本的に本部で行う。
ところが個々の店舗は必ずしも本部の指示ど おりに品揃えやキャンペーンを行わない。
日 本は南北に長いという地理的条件も影響し、 地域によって嗜好にかなりの違いがある。
そ の地域独自の祭事も多い。
そのため個々の店 舗ではその地域に適した品揃えを行わなけれ ば売り上げが落ちてしまう。
 しかし、個店レベルで品揃えを調整するこ とで、本部で決めた数値と実際に売れた数値 には相当な乖離が生じてしまう。
そのためメー カーは本部との契約に基づいてアイテム別の 需要計画を立てることができないのである。
 それでは組織型小売業の売上比率の大き い海外ではどうやって計画を立てているの か。
その答えが「CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment: 協働による計画、需要予測、補充)」である。
 小売りの特売計画とメーカーの生産計画を 調整し、双方が合意した数値で特売を行う。
日々の販売量も、個店別のPOSデータを定 番か特売かの区分け付きの形で共有する。
同 じデータを見ながら需要予測を行うのである から、メーカーの販売計画は小売りの実際の 販売量とほぼ同じになる。
 現状ではCPFRは理想であって、その実 現に向けて解決しなければならない課題は山 積している。
海外のCPGメーカーの在庫が 日本のメーカーと比較して多いのも、CPF Rがいまだ十分に機能していないことの現れ であろう。
しかしながら、理想の実現に向け た取り組みは今も着々と進められている。
 対する日本では、CPFRはまだ遠い未来 の話である。
これまで本連載で述べてきたよ うに、日本では大手とされる組織型小売業で あっても、その規模やシェアは欧米のそれと 比較すれば小さく、情報連携も十分には進ん でいない。
そのような状況下で、日本の大半 のCPGメーカーは、販売計画と需要予測を 切り離すという道を選んでいるのである。
カルビーにおける需給管理  日本においても販売計画を生産計画にダイ レクトに繋げている企業はある。
スナック菓 子最大手のカルビーでは、販売計画の精度を 高めることによって、全製品の在庫を十日以 下に抑えることに成功している。
そればかり か、卸、小売りまで含めた流通在庫の製造日 を賞味期限の三分の二以内に抑えるという目 需要計画策定 カルビーにおける販売計画〜生産計画策定フロー 特売情報など 商談情報需要予測 需要予測 販売計画策定 販売計画策定需要計画策定生産計画策定 生産計画策定 特需情報のみを SCM 部門に伝達 月次で策定 予算─実績管理に使用 販売計画策定時に需要予測、 生産キャパも併せて検討 日本のCPG メーカーの一般的な販売計画〜生産計画策定フロー 図1 日本のCPGメーカーにおける販売計画 〜生産計画策定フロー FEBRUARY 2011  74 標を掲げ、それを実現している。
 同社の需給の特徴は、実需をベースとし、 業務平準化を意識した販売計画に基づいて生 産を行っていることである。
営業担当者は、 アイテム別の統計解析に基づく需要予測値と、 各店舗から集められた販売実態やキャンペー ン等の情報をもとに、週単位の販売計画を ローリングしながら、その精度を高めている (図1)。
 本社SCMグループでは、直近十三週の販 売計画をベースに全国に七つある各ブロック (地域事業部)の需要計画を立案する。
その 際、販売計画をほとんど修正することなく需 要計画に繋げている。
そしてローリングで精 度を高めていく販売計画と連携させて翌週生 産分を確定する。
その時点で需給調整は各ブ ロックに移る。
 最終的な生産量は、生産の前日まで、ブ ロック内の購買、生産、物流で、場合によっ ては他ブロックとの間でも需給調整を行なっ たうえで確定する。
現場に近いところで協議 し、合意を得ることで、関連部門すべてが納 得した生産量となる。
 この決定について本社が口を挟むことはほ とんどない。
どういう決定が下され、その結 果、在庫がどのように変化したのかを見える 仕組みが備えられていて、チェックは常に行 うことができる。
そのことが現場での勝手な 在庫の積み増しを未然に防いでいる。
 こうして生産された在庫はかなりの精度で そのまま販売されるが、計画と実績に差が生 じた場合には、その原因を分析して精度向上 のための対策を取る。
 販売計画の精度は各マネージャーの個人評 価項目の一つにもなっている。
マネージャー は仮に一部の店舗で計画通りに販売が進まな くても、他店舗の販売量を増やすといった対 応を行なう。
マネージャーレベルで計画を達 成できなければ、その上の階層で達成するよ うに対応する。
 これが押し込み販売にならないのは、店頭 の製造年月日が常にチェックされているため だ。
無理に押し込めば即時に評価指標が悪化 するので自然と営業も自重する。
 最終的には各地域のトップ自らが計画と実 績の差から対応策を検討し、それをアクショ ンにつなげる。
PDCAを常に廻し続けてい るのである。
流通在庫適正化への取り組み  カルビーが在庫適正化の対象にしているの は自社内のみではない。
製造した時点から消 費者が購入するまでのすべての在庫である。
そのキーワードに「鮮度」というわかりやす い言葉を用いて、それを評価指標の一つにも 位置付けている。
店頭における製造年月日を 見れば、自社の商品力、プロモーション効果、 SCMの性能、人材能力の実態を把握できる。
どこに問題があるかを判断できるということ である。
 こうしたカルビーの店頭鮮度向上への取り 組みは、同社のポテトチップス販売開始とほ ぼ同時期にスタートしており、すでに三〇有 余年の歴史を持つ。
揚げ物であるため日がた つと味が劣化する同商品を、おいしいうち、 つまり鮮度の高いうちに消費者に食べてもら えるようにすることにより、同社は現在のシェ アを築いていった(図2)。
 鮮度向上のために、これまで多くの施策を 実行に移してきた。
一九八〇年代にはすでに、 原料から店頭までのすべてを視野に入れた各 種の取り組みを実施している。
 調達面では、原料であるジャガイモの契約 栽培の導入や、貯蔵管理、輸送体制を整備し 図2 カルビーの流通在庫適正化への取り組み ポテトチップス発売 鮮度管理取り組み開始 卸の機能評価導入 フィールドレディ部隊を創設 店頭鮮度チェック開始 営業にTPM を導入。
営業活動標準化を開始 製造年月日、賞味期限の個装への印字開始 ゾーンセールス導入 オープン価格制度・インセンティブ制度を導入 小売との直接取引開始 営業業務効率化の目的で沖縄バックオフィス導入 営業情報活用を強化 1975 1988 1992 1998 2001 2006 日本型SCMが次世代を拓く 75  FEBRUARY 2011 た。
営業面では、押し込み販売の禁止を始め、 流通全体での在庫削減に寄与する管理指標を 営業の評価項目に加えていった。
 卸に対しても、在庫削減を促すかたちで のリベート体系の見直しを行っている。
また 八八年には「フィールドレディ(現在のゾー ンセールス)」部隊を創設し、商品の店頭鮮 度チェックを開始した。
 これらのカルビーの一連の活動は「T P M(Total Productive Maintenance & Management)」のコンセプトに基づいている。
TPMは本来、製造における設備停止時間の 削減による生産性向上を目指すものである。
カルビーでは九〇年にこれを製造部門に導入 し、その対象を設備だけでなく人にも拡張し た。
そして九二年には営業へ展開し、営業活 動の標準化に着手した。
 この活動は現在も続けられており、同社の 高精度な販売計画の基礎となっている。
大手 組織型小売業別、後述のキーアカウントセー ルス/ゾーンセールス別に、それぞれ営業マ ニュアルを整備し、その内容を常に更新して いる。
 カルビーがTPMの全社展開を進めた時期 とほぼ並行して、日本ではスーパーやコンビ ニなど組織型小売業のシェアが急速に拡大し ていった。
小売りのバイイングパワー増大に 伴う値引き要求、多頻度小口・短納期納品 などに対応し、カルビーは取引条件にも積極 的にメスを入れた。
特約店制度とリベート制 の廃止、それに代わるインセンティブの導入、 小売りとの直接取引の開始、オープン価格制 への移行などの取引制度改革を、業界の先陣 を切って断行した。
 営業体制についても、フィールドレディ部 隊を「ゾーンセールス」と呼ぶ新組織に改め、 大手組織型小売業に対する営業を本部を担当 する「キーアカウントセールス」と、各店舗 を担当するゾーンセールスの二段構えとした。
二段構えのセールスアプローチ  カルビーのキーアカウントセールス、ゾーン セールスという二段階のセールスアプローチ は、これまでも各所で紹介されてきた。
そし てこの仕組みは同社の高い販売計画精度をも 支えている(図3)。
 組織型小売業の本部に対して営業を行うこ とが、キーアカウントセールスの役割である。
年間取引契約の締結、新製品やその展開方法 の説明を行い、その小売りにおける個々の製 品の販売方針を取り決める。
その際、キャン ペーンの時期を意図的に他の小売りとずらす ようにしている。
 意図した時期にキャンペーンを行ってもら うための仕掛けがマーケティングダイヤグラム である。
小売別に商談成立までの作業フロー とタイムチャートが作られている。
どの時期 にキャンペーンを行うために、いつまでに何 を行っていなければならないかが分かる。
こ うした商談の進捗 状況はシステムに 入力され、需給 計画立案に活か される。
 一方、ゾーン セールスは地域の 店舗を担当する 営業部隊である。
その役割は、個々 の店舗の売上増で あるといえるであ ろう。
店舗を訪 問し、どの自社 製品が陳列されて いるか、それはど の棚か、個々の製 品の製造年月日 はいつかをチェッ クし、自社製品 がおいしく見える ように陳列棚を整理する。
 さらにその店舗やその地域における販売動 向、その地域における催事や行事をチェック し、キャンペーン等の企画提案や、発注数量 のアドバイスを行う。
発注数量の適性化を図 ることで、カルビー、店舗双方における欠品 と過剰在庫を防ぎ、双方の売上・利益の増加 を図っている。
 個々の店舗の状況をキーアカウントセールス 図3 カルビーの営業体制 本部キーアカウントセールス 店舗ゾーンセールス 本部商談 陳列支援 店舗鮮度チェック キャンペーン情報伝達 発注内容のアドバイス 大手組織型小売業向け営業体制 キーアカウントセールス 本部・店舗卸売業 その他小売向け営業体制 営業機能 評価 FEBRUARY 2011  76 りやすい目標を設定する。
これがセールス個々 人や卸の自律性を高め、会社の目標に向かっ て全体を動かす仕掛けとなっている。
日本におけるS&OPの実現可能性  カルビーの事例は、日本においても販売計 画の精度を向上することが可能であり、高精 度な販売計画を生産、物流に繋げることによ り、在庫の圧縮ができることを示している。
つまり日本においてもS&OPの実現は可能 なのである。
そしてそれは、すべての社員が 企業の目標に向かって自律的に動くことを促 す仕掛けを作ることにより実現される。
 カルビーの事例は、日本のメーカーがS& OPに取り組むための視座を与えてくれる。
?当たる販売計画?を実現するためには、トッ プ自らが実践して、全社員が自律的にPDC Aを回すことが必要である。
 そしてそのベースには、営業業務の標準化 と適切な指標の活用がある。
それらがあるか らこそ、カルビーは商慣行の改革も含め、聖 域を設けずに阻害要因を粘り強く一つずつ取 り除くことができたのである。
 S&OPは一朝一夕に実現できるものでは ない。
カルビーも流通内における情報連携に は多くの労力をかけてきた。
たとえばフィー ルドレディについて、他メーカーがコストに 見合わないという理由から基本的に陳列支援 にしか活用していないところを、カルビーで はそれをゾーンセールスとして位置付け、き め細かな営業活動を行うように変えている。
 そのように多くの手間とコストをかけたか らこそ、全社員がPDCAを回す体制ができ あがったのである。
そして現在もカルビーは 仕組みの効率化に取り組み、グローバル競争 を意識した営業利益率の向上を図っている。
 カルビーが販売計画精度の向上に挑戦を始 めた時点と比べると今日、ITは高度化かつ 低廉化し、流通内における情報連携も格段に 進歩した。
それだけS&OPに取り組みやす くなっている。
S&OPが改めて注目されて きている理由の一つだろう。
 SCMの次期テーマとして営業やマーケティ ングとの連携強化を検討している企業は多い。
本事例がそのような企業への一助となれば幸 いである。
(注)カルビーの事例については、二〇一〇年一月時点におけ る業務プロセスをベースに記述している。
に報告し、またキーアカウントセールスが本 部と決定した内容を、個店に適応させるのも ゾーンセールスの役割である。
 日本の組織型小売業は、本部の商談が各店 舗に伝わらない傾向があると指摘されている。
そのため本部にしかアプローチしないメーカー では、本部と取り決めたキャンペーンが一部 店舗で行われない、あるいは個店の発注数量 が本部決定数量を大幅に上回るなど、計画数 量と実売数量の乖離が大きいといった問題に 直面することになる。
ゾーンセールスはこの ような問題の解決にも寄与している。
 一般小売についてゾーンセールスの役割を 担っているのは卸である。
その卸を自社の期 待する方向に動機づける目的から、各種のイ ンセンティブ制度が設けられている。
例えば、 卸との間での受注オンライン化推進には「E DIインセンティブ」が、卸内の在庫圧縮に は「在庫品質インセンティブ」が設定されて いる。
 さらに個々の卸の実態をキーアカウントセー ルスが調査し、きめ細かくアドバイスを行っ ている。
こうした活動によって、卸はカルビー の求める定番と特売を分けた発注を行い、プ ロモーションの着実な実施、在庫鮮度の向上、 物流サービス品質の向上などを実現している。
 なお、セールス、卸の評価項目やインセン ティブの体系は毎年見直している。
現時点で 注力すべき課題は何かを常に検討し、その方 向にセールス、卸を向かわせるように、わか 日本型SCMが次世代を拓く 梶田ひかる(かじた・ひかる) 1981年、南カリフォルニア大学OR理学修 士取得。
同年、日本アイ・ビー・エム入 社。
91年、日通総合研究所入社。
2001年、 デロイトトーマツコンサルティング入社(現 アビームコンサルティング)。
現在に至る。
電気通信大学大学院情報システム学科学 術博士。
中央職業能率開発協会「ロジステ ィクス管理2級・3級」のテキスト共同監修 のほかSCM関連の著書多数。
アビームコ ンサルティングHP http://jp.abeam.com

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