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2011年2月号
現場改善

第97回 青果仲卸P社の物流改善プロジェクト

85  FEBRUARY 2011 青果物流は熟練者の聖域  青果物仲卸のP社は、地盤とするエリアの五 カ所に営業所兼物流拠点を展開している。
現 在の年商は約一五〇億円。
衰退著しい他の仲 卸業者を尻目に、この五年間で三割近くも売 上規模を伸ばしている。
 理由の一つは事業領域の拡大である。
市場 からの調達に加え、農家からの直接調達や輸 入にまで手を広げ、二次卸のほか食品スーパー、 量販店、外食チェーンなどに得意先を拡げた。
 もう一つの理由は在庫戦略である。
一般に 青果物の仲卸は在庫を持たず、市場外流通を 扱う場合でもTC(通過型)センターとして物 流機能だけを請け負っている場合が多い。
それ に対してP社は冷蔵施設を所有し、冬場には二 日分の在庫を持って得意先の安定供給のニーズ に応えている。
 年商二〇〇億円の達成を当面の目標に掲げ ている。
しかし、それには物流の整備が必要 であった。
また親会社向け業務に売上高を一〇 〇%依存する物流子会社が赤字に陥ったこと から、外部の専門家の支援が必要との判断が 下り、弊社日本ロジファクトリー(NLF)に コンサルティングの依頼が入った。
 P社側の窓口となったのは常務のK氏であ る。
P社の営業総責任者であると同時に物流 子会社L社の担当役員も務めている。
現社長 の長男であり、いずれはP社を背負うことに なる人物であった。
 K常務はまだ三〇歳代半ばということもあ って、エネルギッシュかつ強いリーダーシップ を有していた。
そして父親の現社長は決済案 件以外のすべての判断をK常務に一任してい た。
現社長はK常務の祖父に当たる先代から 特別な帝王学を受けることもないまま、若く して社長を継ぎ、それ以降は何事も自分で判断 し、実行してきたという。
息子のK常務にも 同様の道を歩ませようという考えであった。
 このことは今回のプロジェクトおよび、それ を支援する立場にある我々NLFにとって好都 合であった。
営業と物流の意見は往々にして相 容れない。
調整に多大な労力を必要とするこ とが多いのだが、P社の場合はいずれも総責 任者がK常務であるため、プロジェクトの進行 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  地方の青果仲卸が物流改善に着手した。
同業他社の苦境をよ そに市場外流通や輸入果物の増加を逆手にとって急成長を成し 遂げた。
しかし、物流体制の整備は後回しで、物流子会社は赤 字に陥っていた。
オーナー一族の次期経営者がリーダーとなっ て、トップダウンのプロジェクトがスタートした。
青果仲卸P社の物流改善プロジェクト 第97 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp FEBRUARY 2011  86 がスムーズになる。
実際、今回のプロジェクト では改善実施までの時間を相当に短縮すること ができたのであった。
 我々はまず現場の実態調査に入った。
物流オ ペレーションは、主に夜一九時から翌朝七時ま での夜間に行われる。
セリで落とした商品のほ かに、近隣の市場から入荷した商品を、P社 および物流子会社のL社のスタッフが荷受けし て方面別に仕分ける。
その仕分けられた品物 を得意先の引き取り物流事業者がトラックに積 み込む。
 各産地から持ち込まれた青果物がセリにかけ られ、商品と人、トラックとフォークリフトが 激しく出入りする夜の青果物市場は活気に溢 れ、荷捌き場はさながら?戦場?である。
 現場は乱雑としていて傍目には、どこに何 が置かれているのか分からない。
それを数十 台ものフォークリフトを使って、P社側のスタ ッフと引き取り物流事業者が阿吽の呼吸で秒単 位で処理している。
 フォークリフトの通行には、?優先??譲る? など、仲間内のサインがあるようだ。
トラック の待機場所やリフトの貸し借りも、引き取り物 流事業者を含めた仲間内で柔軟に調整されて いる。
明文化されたルールやマニュアルはなく とも、このやり方でトラブルや事故はほとんど 発生していないという。
 現場は熟練者のみが立ち入りを許される?聖 域?であった。
新人や経験の浅い作業者ではと ても対応できないであろう。
その運営スタイル はパート・アルバイトを主力として、誰もがわ かる現場づくりを目指す通常の物流現場とは対 照的であった。
 それでも、現状のP社のオペレーションが最 適化の一つのかたちであることは窺い知れた。
熟練者ばかりのため現場管理がほとんど必要な い。
そのことをK常務にも伝えたところ、彼 は大きく頷いた。
 しかし、このことはP社の物流改善におい ては、ロケーション管理やレイバーコントロール などの一般的な手法を使って現場をあるべき姿 に落とし込むというアプローチが使えないこと を意味していた。
正攻法を採ることで、かえ ってコストアップと現場の混乱を招く恐れがあ った。
P社の業態に適応した改善テーマの選定 と改善手法を検討する必要があった。
物流子会社はなぜ赤字に陥ったのか  K常務は当初、以下のような改善テーマを挙 げ、それを解決するように我々に依頼していた。
?物流子会社L社の運賃の妥当性検証と改善 ?L社の仕分け、ピッキング作業料金の妥当性 検証と改善 ?適正人員の設定と役割分担の決定 ?作業生産性の向上 ?目標管理の設定 ?評価システムの導入  しかし、これらのテーマは実態と乖離したK 常務のいわば?願望?であった。
願望を実現 する前にやるべきことが多く残されているのは 明らかだった。
 現場の実態を見ずに願望を我々にぶつけてく るクライアントはP社だけに限らない。
その気 持ちは我々も理解できる。
しかし、土台のな いところに家は建てられない。
K常務も我々と 共に改めて現場を視察したことで、そのことを 理解してくれたのであった。
 この現場視察に基づいて我々は調査レポート をまとめ、延べ四四項目にわたる改善課題を 設定した。
これらは大きく以下の三つのテーマ に分けることができた。
(1) 受注票、発送明細書などの帳票の統一とフ ォームの改善 (2) 勤務スケジュールの見直し (3) P社と物流子会社L社との業務の線引きの 明確化  このうち「 (1) 受注票、発送明細書などの帳 票の統一とフォームの改善」は、基本的に営業 の問題であった。
P社の出荷現場では正式な受 注票以外に三パターンものイレギュラー伝票が 使用されていた。
 これは時間外受注や追加注文の処理がずさ んで、営業マンが正式な受注伝票を起票せず原 票のまま現場に送ってしまうことが原因だった。
この問題については、営業の総責任者でもあ るK常務がすぐさま朝礼で業務部と営業部に 受注入力を徹底するよう指示を出した。
 また注文の入力ミスによる誤出荷やクレーム も多発していた。
これについてはいわゆる「赤 87  FEBRUARY 2011 伝」の一覧表を作成して、一つひとつ原因を 探り、それぞれ解決策を見出して問題を潰して いくことになった。
 「 (2) 勤務スケジュールの見直し」はP社にと って最も大きな変化を強いる課題であった。
先 代社長の時代まで、P社の得意先は大半が二 次卸であった。
二次卸向けは出荷のピークが早 朝四時頃となる。
そのため、主だった管理職 や現場スタッフ、事務スタッフのシフトもそれ に合わせて、「早朝」に厚く、「夜間」に薄い 配分となっていた。
 一方、市場外流通の青果物をスーパーや量販 店、外食チェーンに納品する出荷作業は前日の 「夜間」にピークを迎える。
P社の事業内容の 変化と共に、時間帯別の作業量は従来とは変 わってきていた。
そのことはK常務を始めプロ ジェクトメンバーたちも漠然とは分かっていた が、正確には把握できていなかった。
そこで 「早朝」「夜間」の時間帯別売上比率を概算で 算出してみた。
すると三対七の比率で夜間の ボリュームのほうが多いことが分かった。
いつ のまにか主客が逆転していたのである。
 この勤務シフトの問題は受注入力ミスの原因 にもなっていた。
ボリュームの大きな夜間作業 で生産性や品質の低下が目立っていたのだ。
「早 朝」をメーン、「夜間」をサブと位置付けてい たことから、夜間の作業量が増加するのに伴 い管理レベルが悪化していた。
夜間は受注スタ ッフの入力をチェックする機能も設けられてい なかった。
 主要管理者やスタッフを夜間シフトに配置換 えして体制を立て直し、同時に早朝のシフトに は出来る限り派遣スタッフや事務パートを充て るかたちで勤務シフトを見直していく必要があ った。
 「 (3) P社と物流子会社L社の業務の線引きの 明確化」は、L社が赤字に陥った原因に関わる 問題であった。
L社は受注入力や在庫管理(棚 卸し)を無償で行っていた。
また親会社への課 金は、作業原価と協力物流会社に支払う運賃 にわずか一%のマージンを乗せたレベルであり、 仕分け・ピッキング作業のキログラム当たり四 円という単価設定にも検証が必要であった。
在庫問題の原因は発注にあり  K常務の物流における?願望?を実現する には、これら三つの課題をクリアする必要があ った。
それに加えてP社には在庫管理面にも 課題があった。
 得意先のメーンが二次卸であった時代には、 P社は在庫を持たない方針をとっていた。
その 方針を大きく転換したのはK常務であった。
社 内の反対を押し切って、輸入品や政策仕入れ (値が安いときに多量に買う)を断行した。
 結果としてチェーンストアや外食産業との取 引が拡大したことで、K常務の戦略の妥当性 は証明されていた。
しかし、在庫商品の中に は在庫過多となっている品目や頻繁に廃棄ロス となる品目もあった。
その原因を分析したとこ ろ担当バイヤーの発注スキルに問題のあること がわかった。
 対象となる二名のバイヤーは、単純に営業か らの注文を集約して、それに定量の在庫を加算 し発注を行うという処理をルーティンとして行 っていた。
営業からの注文量の内容確認や季 節ごとに鮮度維持ラインを考慮した適正在庫量 の算出、廃棄ロス量からの在庫量の見直しなど の業務は行われていなかった。
業務ではなく作 業になっていたのだ。
 そこで二名のうち年輩のバイヤーを他の部署 に異動させ、残る一名の若手バイヤーを担当役 員の隣の席に貼り付けさせて、直接指導を行う ことにした。
 こうして我々は三カ月のプロジェクトを終了 した。
といっても現段階は当初予定していな かった?事前テーマ?の設定を済ませたに過ぎ ない。
本来はここからがプロジェクトの本番で ある。
 今後の進め方について、K常務とじっくりと 話し合った。
この三カ月間の取り組みでは、P 社の物流と営業の責任者が同一人物であるこ と、キーパーソンのK常務が強いリーダーシッ プを持っていることが、プロジェクトを推進さ せる大きな原動力になった。
 その反面、K常務と他のプロジェクトメンバ ーの意識に温度差を感じさせる場面もあった。
強過ぎるリーダーシップによって、K常務が周 囲の意見に耳を塞いでしまうようでは取り組み は空回りしてしまうだろう。
 そこで次のステップでは、K常務はそのパワ ーと願望を少し抑制し、スタッフを活かすこと に注力したほうが良いと我々はアドバイスした のであった。

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