2011年2月号
SOLE
SOLE
国際会計基準と物流・ロジスティクス〜IFRSのキーワードと物流対策〜
SOLE 日本支部フォーラムの報告
The International Society of Logistics
FEBRUARY 2011 88
二〇一〇年十二月のフォーラムで
は、イーソーコ総合研究所の花房陵
主席コンサルタントをお招きして「国
際会計基準と物流・ロジスティク
ス」というタイトルでご講演いただ
いた。
国際会計基準「IFRS」は 二〇一五年〜一六年にも上場企業の 決算に強制適用される見込みとなっ ており、物流・ロジスティクス活動 に甚大な影響を与えることが予想さ れている。
IFRSの本質について 紐解いてもらった。
(SOLE日本支部幹事 曽我部旭 弘) 花房氏は経営・物流コンサルタン トとして二五年、二八業種・二〇〇 カ所以上の物流現場の新規開設支 援・改善指導をされており、さまざ まな業界・商材での物流改善施策を 次々と展開、定着させている。
最近 はコンプライアンスや国際会計基準 と物流との関わりをテーマに物流・ ロジスティクスの枠組み・条件作り などの研究・提案活動を展開されて いる。
以下、講演の要旨を報告する。
IFRSはIASB(国際会計基 準審議会)が策定した会計基準で、 欧州を中心として世界各国で採用が 進んでいる。
日本でも二〇一〇年三 月期から任意適用が認められており、 一五年〜一六年にも上場企業の決算 に強制適用される見込みである。
IFRSの導入は資本のグローバ ル化、事業の多角化とグループ化、 M&Aの促進とそれによる事業拡大 など、近年の経済環境に応じた財務 会計面での国際標準化であるが、従 来の日本方式とは全く異なる概念、 独特の定義や認識方法に基づいてお り、その根底には企業のリスクマネ ジメントやコンプライアンス(法令順 守)の透明性確保が大目的としてあ る。
企業活動の安定性・安全性証明 の一環であるわけだ。
IFRSへの対応は物流の管理業 務や委託契約の条件まで含めて考慮 しなくてはならない。
例えばIFR Sでは決算書に現れる企業の売上計 上のタイミングや従来売り上げと見 なされていた仮勘定が変わり、委託 取引や代理業務の定義が厳格化され る。
売り上げの計上方式が変われば 物流コストの比較も影響を受ける。
これまで物流コストは売上高比率で しか評価されて来なかった現実があ り、そのために物流予算の立案や物 流コストの業種比較の意味自体が失 われることになる。
IFRSではまた、企業決算の金 融収支や資産の時価評価に基づく「包 括利益」という概念を導入すること となる。
棚卸資産や物流施設に対す る時価評価の流れが加速するといえ る。
収益認識では 配送伝票が重要になる IFRSの特徴は次の三点に集約 される。
?原則主義:企業グループの決算時 期や勘定科目の統一を行うために、 会計規則は企業独自に定めること ができる。
?利益の概念が事業・営業利益から、 時価を背景にした資本の純増とい う包括利益に代わる。
?商品や設備などの資産評価方法が、 日本基準の取得簿価から公正価値 (時価)に代わる。
従来の会計原則は教条主義的で枝 葉末節までもが定められていたが、 これが企業独自の主張を認める原則 主義に変わる。
とはいえ、企業側に はいっそうの説明責任が求められる ことになり、従来以上に他社比較や 同業者比較において、企業に対する 動向監視が強まるのは確実だ。
図1はIFRSで規定される収益 認識と資産の公正価値の解釈をまと めたものである。
消費財であれば、 販売時のポイント割引制度や無償返 品条件などは実態としての値引き額 を合算した売り上げとして認められ なくなる。
値引き相当額を控除しな くてはならない。
生産財については価格交渉権や遡 及価格決定制度(定期的な事後商談 により、さかのぼって価格決定を行 う)なども、時価評価主義からは仮 売り上げとしか認められない。
また、 百貨店への委託販売や書籍・音楽製 品などの委託販売は手数料売り上げ となり、販売伝票の大幅な変更が求 められることになる。
さらに、従来の売り上げの計上基 準であった倉庫出荷時点、販売伝票 日付はすべて着荷基準、検収基準に 国際会計基準と物流・ロジスティクス 〜IFRSのキーワードと物流対策〜 1 89 FEBRUARY 2011 なる。
前期、前四半期との比較作業 が重要な意味を持ち、在庫削減活動 に拍車が掛かる。
以上をまとめるとIFRS概念図 は次のようになる(図2)。
物流資産の資産除去費用は どのように予算化されるか IFRSでは、資本の純増(資本 金ではない)を企業利益とみなす包 括利益方式が採用される。
土地建物 などの資産価値は時価で評価され、 特に改廃が多く行われる営業店舗や 五年程度での移管が多い物流施設で は、原状回復費用が資産価値に大き く影響を与える。
そこで資産除去費用、つまりは現 状回復費用の見積もりと負債への計 上が必要になる。
資産除去債務とい う科目が与えられるのだ。
これは販 売時のポイント額を負債に計上した り、有給休暇の未消化部分を債務に 上げて労働債務としたりするのと同 じ扱いである。
賃貸倉庫や3PL事業者へのアウ トソーシングでは、設備投資を避け るために相手方整備負担による施設 利用料を物流契約に織り込むことが あり、契約解除条項には設備投資部 分の原状回復義務が明示されている。
しかしながら、実際の原状回復工事 費用の見積もりまで言及している契 慣行として当然とされている業界で は、販売伝票そのものの設計変更が 必要だ。
通信販売やサービス付随の 商品販売では、代金とサービス料金 の分離が求められ、ポイント制度で は値引き額を控除した売上計上が必 須となる。
公正価値では 商品在庫棚卸評価はどうなる 通常の製品、商品の資産評価は低 価法に一律化され、現場運営では先 入れ先出しが標準業務となる。
消費 財の場合には、力技では到底対応で きない。
システムサポートが必要で あり、商品の日付管理、ロット管理 などのシステム改良が必須となるだ ろう。
棚卸し作業では預け在庫などの認 識評価が重視されるので、グループ 各社の棚卸し方式の統一と一時的な 在庫移動や統合も求められることに なる。
昨今の金融相場の変動状況から、 為替変動への対応を目的とした原材 料資源の調達は投機取引と見なされ る場合もあり、その場合には為替時 価に応じた原価の評価作業が必要に なる。
商品棚卸資産の増加は、IFRS で用いる財政状態計算書に反映され るので、在庫評価は大きな注目点と 管理の延長線上に配送伝票の確実な 回収、保管、データバックアップと 検索の仕組みを整備しておく必要が あり、現場担当者への負荷が増大す るだろう。
また、返品や販促費用の提供が商 改められる。
これは販売管理システ ムで日付けだけを先延ばしすればよ いというものではなく、所有権が確 実に移転していることを証憑で確認 するための業務監査やシステム監査 を求められる。
現場レベルでは配送 2 3 図1 IFRS の特徴 IFRS での基準 収益・売上の 認識要件 資産の 公正価値 取得原価の 認定 1 2 1 2 1 2 3 3 4 5 収益の額を信頼性を持って測定できること 取得原価が信頼性を持って測定できること 解体、撤去及び原状回復費用の当初見積額 物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値 が買い手に移転していること 販売した物品に対し、継続的な管理や有効な 支配を保持していないこと 取引に関連する経済的便益が企業に流入する 可能性が高いこと 取引に関連する原価を信頼性を持って測定で きること 当該資産に関連する将来の経済的便益が企業 に流入する可能性が高いこと 値引き及び割戻控除後の購入価格(関税及び 還付されない取得税を含む) 設置費用及び経営者が意図した方法で稼働で きるようにするために必要な直接付随費用 物流上の課題システムの対応 検収基準○ 配送伝票管理 売上伝票の変更 売上伝票の変更 売上伝票の変更 販売期日の変更 先入先出し運用 棚卸原価は低価法 減価償却は定額法 原状回復経費の計上 委託取引× 返品条件× 手数料○ 時価評価○ ─ ─ ─ ─ 資産除去費用○ クーリングオフ○ FEBRUARY 2011 90 保にある。
このため、荷主が物流の アウトソーシングに伴うリスクに対し て慎重になることも考えられる。
物流の失敗は事業活動の停止や信 用失墜、評価の低下につながりかね ない。
物流がまさに命取りになる場 面は従来から多くあった。
物流活動 をアウトソーシングしている場合に は、委託業者の交代で済む場合もあ るが、IFRSを見据えた自社物流 への回帰という動きも確実に存在し ている。
ただ、リスクはビジネスの必然で あり、チャンス獲得の条件でもある。
リスクを認識して、抑制、排除、軽 減、代替、受容するためには、委託 契約の原点にある平等性の検証から 始めなくてはならない。
業務委託の開始と終了の範囲を明 確にし、代償としての料金の妥当性、 システムの保全と安定性の確保、同 時に上位管理会計との連動性の担保、 それらを通じてのサービス購買の原 理である検証と清算の手段の確立が 求められる。
物流契約書の精査が重 要な作業になってくる。
またアウトソーシングに当たって は、物流委託契約の条文と物流活動 の文書化=ISO文書および内部統 制評価資料(業務監査証明および業 務規定、フローチャート、リスクコ ントロール・マトリクスの文書三点 約書はないといっていい。
契約解除 段階で特別経費、場合によっては特 別損失として扱うことがほとんどで ある。
今後は事前に負債勘定として計上 しなくてはならず、その意味でも設 備投資には慎重にならざるを得ない。
さらに自社リース契約として物流施 設を整備する場合にも、リース資産 として計上し、同時に原状回復工事 費用も積算しなくてはならなくなる。
物流業務委託契約の 条文も変更必須に 売り上げの計上基準の変更に伴い、 物流事業者の収益・売上基準も様変 わりすることになる。
例えば3PL事業者でいえば、実 運送免許を保有しながらも実際には 利用運送免許事業としての売り上げ が含まれる場合がある。
通信販売の 物流を受託していれば、郵便や宅配 業者を利用しての配送業務で郵送料、 宅配会社への運賃などを合算して売 り上げに計上している企業が少なく ない。
収益・売上認識基準からすれ ば、手数料売り上げに一本化される ことは必至であり、売り上げの計上 方式の大幅な変更が考えられる。
前述の通り、IFRSの大目的は 企業活動のリスクマネジメント、コン プライアンスの順守状況の透明性確 事業 財務 廃止事業 包括利益 営業 投資 事業収支 財務収支 廃止事業収支 法人所得税 所有者持分 営業収支 投資収支 資産−負債=純資産 資産変動=固定資産の時価影響 PL よりもBS 重視 IFRS 概念 公正価値(フェアバリュー) 包括利益 主導機関 財政状態計算書 包括利益計算書 資産の株式時価 在庫の時価評価 不動産の時価流通額 薄価×、時価○ 企業資産の時価評価 資産除去債務を計上する IASB:国際会計基準審議会 FASB:米国財務会計基準審議会 コンバージェンス 収斂決議 2015 年有力説 2011 年決議予定 enron 事件背景 訴訟に耐える 原則主義 2007 年 東京合意 2009 年 強制適用決議 2010年 米適用延期発表 歴史背景 図2 IFRSの概念 4 91 FEBRUARY 2011 をどうやって描くことができるのだ ろうか。
二一世紀の物流環境は厳しく、か つ制度対応にも追われるようになっ てきた。
適者生存の理は、新たな流 れを素早くつかむことにありそうだ。
もはや効率化、合理化、標準化のか け声だけでは競争力とは言えまい。
荷主企業の戸惑いを先んじてリード する物流パートナーの登場が期待さ れている。
■花房 陵 イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 電話:〇三│五四四一│一二三七 Eメール:hanabusa@dream.com にも入れられていなかった。
しかし、 自動更新の延長線上ではIFRSに 適応できない。
今後はコンプライア ンス対応といえば、まず最初に委託 契約の義務と責任、委託のリスクマ ネジメントという視点から監査人の 評価作業が始まる。
その意味では、IFRSの本格的 導入に際しては、準備段階の初期か ら部外者である業務監査人や会計監 査人などの物流現場への立ち入りと 視察が必要になるだろう。
物流業にとって IFRSはチャンスか 以上のような社会背景や環境の変 化に対する荷主の物流部門や物流業 者の認識はどうであろうか。
IFR Sという財務報告の書式変更が、な ぜ物流部門への負荷となり、重大な 課題となるかを理解していただけた だろうか。
しょせん大手の上場企業の問題と 考えるなら、物流事業者にとっての 事業拡大とアジア進出は不可能であ り、「株式など公開しない」と漫然 としている荷主ならグローバルな資 本の強化やM&Aを通じた事業の世 界展開・拡大も夢となる。
日本市場 が相対的に縮小していくことが明ら かな中で、爆発するアジアの成長シ ナリオを目の前に、自社の事業計画 ばならない。
これまで物流業務委託の事業開始 後は、委託契約が省みられることは ほとんどなく、業務監査の評価項目 セット)の提出も求められることに なる。
図3は物流委託契約に必須の 一〇カ条である。
これからのビジネ スではすべてを網羅しておかなけれ 次回フォーラムのお知らせ 2月度のフォーラムは、2月15日 (火)構造計画研究所の相澤りえ子技 術担当部長による講演「ロジスティク ス戦略をサポートする最適化ソリュー ション」を予定している。
このフォー ラムは年間計画に基づいて運用してい るが、単月のみの参加も可能。
1回の 参加費は6,000円。
ご希望の方は事 務局(s-sogabe@mbb.nifty.ne.jp) までお問い合わせ下さい。
※ S O L E︵The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会︶ は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇 〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎 月「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、 現場見学などを通じてロジスティクス・マネ ジメントに関する活発な意見交換、議論を行 っている。
業務監査 検収と精算 報告と検収 定期監査 解除、更新、終了義務 商品管理責任 外部監査項目 明細照合 弁済条件 帳簿責任 作業報告 データバックアップ 過失範囲 再委託先 委託側 料金設定 請求精算方法 設備投資 減価償却期間 解約回復条項 契約期間 指示書 伝票 指示データ 情報システム操作 標準作業手順書 場所の指定 保管方法 業務定義 保存年限 再委託条件 免責と賠償 在庫管理・補償 損害保険付保 義務と責任 事故報告と予防処置 機密の種類 個人情報保護 機密保持 物流基本 契約条項 図3 物流業務の委託契約に必須の10カ条 5
国際会計基準「IFRS」は 二〇一五年〜一六年にも上場企業の 決算に強制適用される見込みとなっ ており、物流・ロジスティクス活動 に甚大な影響を与えることが予想さ れている。
IFRSの本質について 紐解いてもらった。
(SOLE日本支部幹事 曽我部旭 弘) 花房氏は経営・物流コンサルタン トとして二五年、二八業種・二〇〇 カ所以上の物流現場の新規開設支 援・改善指導をされており、さまざ まな業界・商材での物流改善施策を 次々と展開、定着させている。
最近 はコンプライアンスや国際会計基準 と物流との関わりをテーマに物流・ ロジスティクスの枠組み・条件作り などの研究・提案活動を展開されて いる。
以下、講演の要旨を報告する。
IFRSはIASB(国際会計基 準審議会)が策定した会計基準で、 欧州を中心として世界各国で採用が 進んでいる。
日本でも二〇一〇年三 月期から任意適用が認められており、 一五年〜一六年にも上場企業の決算 に強制適用される見込みである。
IFRSの導入は資本のグローバ ル化、事業の多角化とグループ化、 M&Aの促進とそれによる事業拡大 など、近年の経済環境に応じた財務 会計面での国際標準化であるが、従 来の日本方式とは全く異なる概念、 独特の定義や認識方法に基づいてお り、その根底には企業のリスクマネ ジメントやコンプライアンス(法令順 守)の透明性確保が大目的としてあ る。
企業活動の安定性・安全性証明 の一環であるわけだ。
IFRSへの対応は物流の管理業 務や委託契約の条件まで含めて考慮 しなくてはならない。
例えばIFR Sでは決算書に現れる企業の売上計 上のタイミングや従来売り上げと見 なされていた仮勘定が変わり、委託 取引や代理業務の定義が厳格化され る。
売り上げの計上方式が変われば 物流コストの比較も影響を受ける。
これまで物流コストは売上高比率で しか評価されて来なかった現実があ り、そのために物流予算の立案や物 流コストの業種比較の意味自体が失 われることになる。
IFRSではまた、企業決算の金 融収支や資産の時価評価に基づく「包 括利益」という概念を導入すること となる。
棚卸資産や物流施設に対す る時価評価の流れが加速するといえ る。
収益認識では 配送伝票が重要になる IFRSの特徴は次の三点に集約 される。
?原則主義:企業グループの決算時 期や勘定科目の統一を行うために、 会計規則は企業独自に定めること ができる。
?利益の概念が事業・営業利益から、 時価を背景にした資本の純増とい う包括利益に代わる。
?商品や設備などの資産評価方法が、 日本基準の取得簿価から公正価値 (時価)に代わる。
従来の会計原則は教条主義的で枝 葉末節までもが定められていたが、 これが企業独自の主張を認める原則 主義に変わる。
とはいえ、企業側に はいっそうの説明責任が求められる ことになり、従来以上に他社比較や 同業者比較において、企業に対する 動向監視が強まるのは確実だ。
図1はIFRSで規定される収益 認識と資産の公正価値の解釈をまと めたものである。
消費財であれば、 販売時のポイント割引制度や無償返 品条件などは実態としての値引き額 を合算した売り上げとして認められ なくなる。
値引き相当額を控除しな くてはならない。
生産財については価格交渉権や遡 及価格決定制度(定期的な事後商談 により、さかのぼって価格決定を行 う)なども、時価評価主義からは仮 売り上げとしか認められない。
また、 百貨店への委託販売や書籍・音楽製 品などの委託販売は手数料売り上げ となり、販売伝票の大幅な変更が求 められることになる。
さらに、従来の売り上げの計上基 準であった倉庫出荷時点、販売伝票 日付はすべて着荷基準、検収基準に 国際会計基準と物流・ロジスティクス 〜IFRSのキーワードと物流対策〜 1 89 FEBRUARY 2011 なる。
前期、前四半期との比較作業 が重要な意味を持ち、在庫削減活動 に拍車が掛かる。
以上をまとめるとIFRS概念図 は次のようになる(図2)。
物流資産の資産除去費用は どのように予算化されるか IFRSでは、資本の純増(資本 金ではない)を企業利益とみなす包 括利益方式が採用される。
土地建物 などの資産価値は時価で評価され、 特に改廃が多く行われる営業店舗や 五年程度での移管が多い物流施設で は、原状回復費用が資産価値に大き く影響を与える。
そこで資産除去費用、つまりは現 状回復費用の見積もりと負債への計 上が必要になる。
資産除去債務とい う科目が与えられるのだ。
これは販 売時のポイント額を負債に計上した り、有給休暇の未消化部分を債務に 上げて労働債務としたりするのと同 じ扱いである。
賃貸倉庫や3PL事業者へのアウ トソーシングでは、設備投資を避け るために相手方整備負担による施設 利用料を物流契約に織り込むことが あり、契約解除条項には設備投資部 分の原状回復義務が明示されている。
しかしながら、実際の原状回復工事 費用の見積もりまで言及している契 慣行として当然とされている業界で は、販売伝票そのものの設計変更が 必要だ。
通信販売やサービス付随の 商品販売では、代金とサービス料金 の分離が求められ、ポイント制度で は値引き額を控除した売上計上が必 須となる。
公正価値では 商品在庫棚卸評価はどうなる 通常の製品、商品の資産評価は低 価法に一律化され、現場運営では先 入れ先出しが標準業務となる。
消費 財の場合には、力技では到底対応で きない。
システムサポートが必要で あり、商品の日付管理、ロット管理 などのシステム改良が必須となるだ ろう。
棚卸し作業では預け在庫などの認 識評価が重視されるので、グループ 各社の棚卸し方式の統一と一時的な 在庫移動や統合も求められることに なる。
昨今の金融相場の変動状況から、 為替変動への対応を目的とした原材 料資源の調達は投機取引と見なされ る場合もあり、その場合には為替時 価に応じた原価の評価作業が必要に なる。
商品棚卸資産の増加は、IFRS で用いる財政状態計算書に反映され るので、在庫評価は大きな注目点と 管理の延長線上に配送伝票の確実な 回収、保管、データバックアップと 検索の仕組みを整備しておく必要が あり、現場担当者への負荷が増大す るだろう。
また、返品や販促費用の提供が商 改められる。
これは販売管理システ ムで日付けだけを先延ばしすればよ いというものではなく、所有権が確 実に移転していることを証憑で確認 するための業務監査やシステム監査 を求められる。
現場レベルでは配送 2 3 図1 IFRS の特徴 IFRS での基準 収益・売上の 認識要件 資産の 公正価値 取得原価の 認定 1 2 1 2 1 2 3 3 4 5 収益の額を信頼性を持って測定できること 取得原価が信頼性を持って測定できること 解体、撤去及び原状回復費用の当初見積額 物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値 が買い手に移転していること 販売した物品に対し、継続的な管理や有効な 支配を保持していないこと 取引に関連する経済的便益が企業に流入する 可能性が高いこと 取引に関連する原価を信頼性を持って測定で きること 当該資産に関連する将来の経済的便益が企業 に流入する可能性が高いこと 値引き及び割戻控除後の購入価格(関税及び 還付されない取得税を含む) 設置費用及び経営者が意図した方法で稼働で きるようにするために必要な直接付随費用 物流上の課題システムの対応 検収基準○ 配送伝票管理 売上伝票の変更 売上伝票の変更 売上伝票の変更 販売期日の変更 先入先出し運用 棚卸原価は低価法 減価償却は定額法 原状回復経費の計上 委託取引× 返品条件× 手数料○ 時価評価○ ─ ─ ─ ─ 資産除去費用○ クーリングオフ○ FEBRUARY 2011 90 保にある。
このため、荷主が物流の アウトソーシングに伴うリスクに対し て慎重になることも考えられる。
物流の失敗は事業活動の停止や信 用失墜、評価の低下につながりかね ない。
物流がまさに命取りになる場 面は従来から多くあった。
物流活動 をアウトソーシングしている場合に は、委託業者の交代で済む場合もあ るが、IFRSを見据えた自社物流 への回帰という動きも確実に存在し ている。
ただ、リスクはビジネスの必然で あり、チャンス獲得の条件でもある。
リスクを認識して、抑制、排除、軽 減、代替、受容するためには、委託 契約の原点にある平等性の検証から 始めなくてはならない。
業務委託の開始と終了の範囲を明 確にし、代償としての料金の妥当性、 システムの保全と安定性の確保、同 時に上位管理会計との連動性の担保、 それらを通じてのサービス購買の原 理である検証と清算の手段の確立が 求められる。
物流契約書の精査が重 要な作業になってくる。
またアウトソーシングに当たって は、物流委託契約の条文と物流活動 の文書化=ISO文書および内部統 制評価資料(業務監査証明および業 務規定、フローチャート、リスクコ ントロール・マトリクスの文書三点 約書はないといっていい。
契約解除 段階で特別経費、場合によっては特 別損失として扱うことがほとんどで ある。
今後は事前に負債勘定として計上 しなくてはならず、その意味でも設 備投資には慎重にならざるを得ない。
さらに自社リース契約として物流施 設を整備する場合にも、リース資産 として計上し、同時に原状回復工事 費用も積算しなくてはならなくなる。
物流業務委託契約の 条文も変更必須に 売り上げの計上基準の変更に伴い、 物流事業者の収益・売上基準も様変 わりすることになる。
例えば3PL事業者でいえば、実 運送免許を保有しながらも実際には 利用運送免許事業としての売り上げ が含まれる場合がある。
通信販売の 物流を受託していれば、郵便や宅配 業者を利用しての配送業務で郵送料、 宅配会社への運賃などを合算して売 り上げに計上している企業が少なく ない。
収益・売上認識基準からすれ ば、手数料売り上げに一本化される ことは必至であり、売り上げの計上 方式の大幅な変更が考えられる。
前述の通り、IFRSの大目的は 企業活動のリスクマネジメント、コン プライアンスの順守状況の透明性確 事業 財務 廃止事業 包括利益 営業 投資 事業収支 財務収支 廃止事業収支 法人所得税 所有者持分 営業収支 投資収支 資産−負債=純資産 資産変動=固定資産の時価影響 PL よりもBS 重視 IFRS 概念 公正価値(フェアバリュー) 包括利益 主導機関 財政状態計算書 包括利益計算書 資産の株式時価 在庫の時価評価 不動産の時価流通額 薄価×、時価○ 企業資産の時価評価 資産除去債務を計上する IASB:国際会計基準審議会 FASB:米国財務会計基準審議会 コンバージェンス 収斂決議 2015 年有力説 2011 年決議予定 enron 事件背景 訴訟に耐える 原則主義 2007 年 東京合意 2009 年 強制適用決議 2010年 米適用延期発表 歴史背景 図2 IFRSの概念 4 91 FEBRUARY 2011 をどうやって描くことができるのだ ろうか。
二一世紀の物流環境は厳しく、か つ制度対応にも追われるようになっ てきた。
適者生存の理は、新たな流 れを素早くつかむことにありそうだ。
もはや効率化、合理化、標準化のか け声だけでは競争力とは言えまい。
荷主企業の戸惑いを先んじてリード する物流パートナーの登場が期待さ れている。
■花房 陵 イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 電話:〇三│五四四一│一二三七 Eメール:hanabusa@dream.com にも入れられていなかった。
しかし、 自動更新の延長線上ではIFRSに 適応できない。
今後はコンプライア ンス対応といえば、まず最初に委託 契約の義務と責任、委託のリスクマ ネジメントという視点から監査人の 評価作業が始まる。
その意味では、IFRSの本格的 導入に際しては、準備段階の初期か ら部外者である業務監査人や会計監 査人などの物流現場への立ち入りと 視察が必要になるだろう。
物流業にとって IFRSはチャンスか 以上のような社会背景や環境の変 化に対する荷主の物流部門や物流業 者の認識はどうであろうか。
IFR Sという財務報告の書式変更が、な ぜ物流部門への負荷となり、重大な 課題となるかを理解していただけた だろうか。
しょせん大手の上場企業の問題と 考えるなら、物流事業者にとっての 事業拡大とアジア進出は不可能であ り、「株式など公開しない」と漫然 としている荷主ならグローバルな資 本の強化やM&Aを通じた事業の世 界展開・拡大も夢となる。
日本市場 が相対的に縮小していくことが明ら かな中で、爆発するアジアの成長シ ナリオを目の前に、自社の事業計画 ばならない。
これまで物流業務委託の事業開始 後は、委託契約が省みられることは ほとんどなく、業務監査の評価項目 セット)の提出も求められることに なる。
図3は物流委託契約に必須の 一〇カ条である。
これからのビジネ スではすべてを網羅しておかなけれ 次回フォーラムのお知らせ 2月度のフォーラムは、2月15日 (火)構造計画研究所の相澤りえ子技 術担当部長による講演「ロジスティク ス戦略をサポートする最適化ソリュー ション」を予定している。
このフォー ラムは年間計画に基づいて運用してい るが、単月のみの参加も可能。
1回の 参加費は6,000円。
ご希望の方は事 務局(s-sogabe@mbb.nifty.ne.jp) までお問い合わせ下さい。
※ S O L E︵The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会︶ は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇 〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎 月「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、 現場見学などを通じてロジスティクス・マネ ジメントに関する活発な意見交換、議論を行 っている。
業務監査 検収と精算 報告と検収 定期監査 解除、更新、終了義務 商品管理責任 外部監査項目 明細照合 弁済条件 帳簿責任 作業報告 データバックアップ 過失範囲 再委託先 委託側 料金設定 請求精算方法 設備投資 減価償却期間 解約回復条項 契約期間 指示書 伝票 指示データ 情報システム操作 標準作業手順書 場所の指定 保管方法 業務定義 保存年限 再委託条件 免責と賠償 在庫管理・補償 損害保険付保 義務と責任 事故報告と予防処置 機密の種類 個人情報保護 機密保持 物流基本 契約条項 図3 物流業務の委託契約に必須の10カ条 5
