2011年3月号
ケース
ケース
エレクトロラックス SCM
MARCH 2011 50
情報共有が進まず在庫問題が顕在化
私はエレクトロラックスのデマンド・フロ
ー・ディレクターという立場で、イギリスと
アイルランドにおいて、当社のサプライチェー
ン、需要予測、販売計画、eビジネスの四分
野の責任者を務めています。
当社は二〇〇七年から〇八年にかけて、イ ギリスの大手小売業者(相手との約束により、 企業名は公表できないため、このプレゼンテ ーションでは「パートナー企業」と呼ばせて もらいます)と、VMI(Vendor Managed Inventory :ベンダー主導型在庫管理)の導 入に取り組み、一定の成果を上げることがで きました。
本日はこれから、そのVMIの取り組みの 詳細についてお話しするのですが、その前に エレクトロラックスという会社について簡単に 説明させていただきます。
当社は一九一九年に掃除機メーカーとして スウェーデンのストックホルムで創業しました。
その後、冷蔵庫や洗濯機、食器洗浄機などの 製造を順次開始しました。
一九六〇年代以降 は、多くの同業他社を買収することで、製品 のラインアップを充実させ、また販売チャン ネルを海外にも広げていきました。
代表的な買収事例としては、八四年に買収 した英家電メーカーの「ザヌッシ(ZANU SSI)」や、八六年の米ミシンメーカー「ホ ワイト・コンソリデイティッド」、九四年の独 家電メーカー「AEG」などが挙げられます。
株式は八七年にストックホルム株式市場に上 場しています。
当社の〇九年度の売上高は一〇九一億スウ ェーデンクローナ=SEK(一兆二二二八億 円)で、営業利益は三七億SEKでした。
現 在、世界六〇カ国に五万人を超す従業員を 抱えています。
主な商品は家庭用の調理コン ロや冷蔵庫、掃除機、食洗機、業務用製品 などです。
地域別売上高は、ヨーロッパが全 体の四三%、北米が三一%、南米が一〇%、 アジアが九%──となります。
当社のサプライチェーンの概要としては、 ヨーロッパの一八カ所に自社工場を持ち、そ れ以外に中国やトルコ、ポーランド、アメリ カなど計二五カ所にOEM(相手先ブランド 製造)があります。
今回、VMIのプロジェ クトを行ったイギリスには、大規模倉庫と物 流センターを構えています(図1)。
私がエレクトロラックスに入社したのは六年 前のことで、これからお話しするイギリスの 大手小売業者とのVMIのプロジェクトが始 まったのは〇七年のことでした。
その当時、エレクトロラックスと?パートナ ー企業?との間のSCMには、多くの問題が 山積していました。
一番大きな問題は、エレクトロラックス側 でパートナー企業の需要予測を正確に把握で きていなかったことです。
そのために、在庫 に過不足が生じて、適正な在庫水準を保つこ スウェーデンの家電メーカー大手、エレクトロラッ クスはイギリスの大手小売業者から“白物家電”の 調達にVMIを導入したいとの要請を受ける。
3カ月の 準備期間を経て、両社の取り組みが始まった。
エレ クトロラックスのデマンド・フロー・ディレクターと してその責任者を務めたクロエ・ゼン氏が報告する。
SCM エレクトロラックス イギリスの大手小売りとVMIに取り組む 情報共有を進めてトータル在庫を適正化 51 MARCH 2011 とができずにいました。
売れ筋商品を切らし て機会損失を起こしたり、逆に死に筋商品を 多く抱えてしまい値引きをして在庫処分を行 ったりすることで、売上高と利益が思うよう に上がらない状境に陥っていました。
もう一つの問題は可視性(ビジビリティ)に ありました。
サプライチェーンのどこに、ど れだけの在庫があるのか、情報が不確かなた めに関係者が疑心暗鬼になり、在庫を不必要 に積み増したり、必要以上に削ったりするこ とが頻繁に起きていました。
VMIのプロジェクトが始まる前まで、エ レクトロラックス側では、パートナー企業がい つ白物家電の販促プロモーションを打つのか といったことさえ、正確に把握していない状 態でした。
クリスマス商戦前の繁忙期には、パートナ ー企業側の倉庫が満杯になって商品をさばく ことができず、売れ筋の商品であっても、倉 庫スペースに空きができるまで入庫できない 状態になることもありました。
こうした事態は、エレクトロラックスとパ ートナー企業の双方にとって大きなマイナスを 意味していました。
またそれに加えて、パー トナー企業は、インターネットを使って、家 電商品の宅配サービス事業を開始することを 検討していました。
需要予測システムを自社開発 こうした多くの複雑で困難な問題を解決す るために、当社とパートナー企業で話し合い を持ちました。
双方の利害は、?売上高を 増やすこと、?サービスレベルを上げること、 ?コストを下げること──の三つの点で一致 していることを確認することができました。
その最初の話し合いの席で、パートナー企 業の白物家電の担当者が、「これから三カ月で VMIに移行するので準備にかかってほしい」 と切り出してきました。
三カ月と聞いて、は じめ私は冗談だろうと思っていましたが、相 手は本気でした。
しかし、相手が当社にとって大手の取引先 であること、そしてこれまで双方の取引形態 に多くの問題を抱えていたことを勘案し、役 員会の了解を取り付けたうえで、パートナー 企業の要請を受け入れることを決めました。
私が責任者となり、両社のサプライチェー ンに関係する人たちにプロジェクトチームに 参加してもらいました。
主なメンバーは、当 社の需要予測担当者、当社のセールス担当者、 当社の工場担当者、パートナー企業から、バ イヤーと倉庫担当者、ロジスティクス担当者 ──などです。
プロジェクトの目的は三つありました。
一 つは、両社の売り上げを増加させること。
こ れは生産したものを消費者に押しつける?プ ッシュ型?から、消費者の需要を基点とした ?プル型?にサプライチェーンを変えることで、 達成可能だと考えました。
二つ目は、適正な在庫水準を保つこと。
パ ートナー企業の在庫を、エレクトロラックス が肩代わりして抱えるというやり方ではなく、 製品の情報を共有して、需要予測の精度を高 めることで、両社双方が在庫を減らすことを 目指しました。
目的の三つ目は、両社のサプライチェーン を、出来るだけ一つのサプライチェーンのよう に機能させることです。
そうすることで、パ ートナー企業と最終消費者の両方の顧客満足 図1 エレクトロラックスのイギリスにおけるサプライチェーン 海外自社工場 OEM 工場 完成品の輸入 部品輸入 自社倉庫 パートナー企業の 倉庫 自社物流 センター 店舗 店舗 消費者への 配送 MARCH 2011 52 度を上げることを狙いました。
プロジェクトは〇七年四月に始まりました。
当初三カ月間の準備期間中には、双方のデー タを出し合って、確認作業を行いました(図 2)。
次の三カ月で、両社で共有する需要予 測システムを開発しました。
これは当社が独 自に開発したものです。
通常この手のソフト に入力することなどです。
その数値を基に我々は、十二カ月後、六カ 月後、三カ月後、一カ月後、一週間後といっ た時点での需要予測数値をそれぞれ修正して いきます。
需要予測のデータは、エレクトロラックス の工場やOEM工場、下請けの部品工場、倉 庫、物流センターなどの関係部署のすべてが ウェブ上で閲覧できるようにしました。
各部 署は、そのデータを基にそれぞれの作業の進 捗を調整します。
また、需要予測の精度を高めるために、各 部署で毎週何曜日に何をするのかというスケ ジュールを作成しました(図3)。
在庫を適正な水準に保つということは、リ アルな「在庫」を需要予測の「情報」に置 き換えるということでもあります。
そのため、 需要予測のデータが正確であるという信頼を 得られるようになるまでは、摩擦が生じるこ ともありました。
なかでもパートナー企業の購買担当者は、 プロジェクトを始めた当初、需要予測のデー タをそれほど信頼していませんでした。
その ため会議の席で、「掃除機の在庫は今の計画 の二割増し、冷蔵庫の在庫は三割増しで持っ てほしい」と発言したことがありました。
それに対してエレクトロラックスの担当者 は、商品カテゴリーごとに各アイテムを、最 も売れ筋の商品、売れ筋商品、売れ行きが遅 い商品に分類して、それぞれの適正在庫量を は専門業者からパッケージを購入することが 多いわけですが、そうしてしまうと、ソフト を開発した会社が作ったルールに従って動か なければならない場面が多くなると考え、自 社開発に踏み切りました。
稼働当初の一、二カ月はシステムの完成度 も低く、手作業で処理しなければならない部 分もありましたが、結果的には、外部から購 入したソフトではなく、両社が納得して作っ たソフトを使ったことが、このプロジェクトを 成功に導いた要因の一つになったと考えてい ます。
在庫を情報に置き換える KPI(重要業績評価指標)も定めました。
といっても込み入った指標を作ったわけでは ありません。
重要な指標を三つに絞り込みま した。
一つは、在庫と販売実績がどれだけ一 致しているかを一週間単位で見たときの数値、 もう一つは需要予測がどれだけ正確であった のか、三つ目がオンタイム配送の割合です。
毎週一回、担当者が顔を合わせて会議を開 くようにして、問題があればその席で話し合 うようにしました。
需要予測の精度を高めるには、パートナー 企業側でも多くの作業を行う必要があります。
販促のプロモーション期間や特徴などを、前 もって正確に知らせることや、前年の売上実 績や現在の店舗と倉庫にある在庫の状況など を正確にカウントして、我々が作ったシステム 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 図 2 VMI のスケジュール 2007年 2008年 VMI プロジェクト開始 需要予測のモデル作り マニュアルの VMI システム立ち上げ 週単位のKPI を設定 自動化した VMI システム稼働 週ごとの会議を開始 自動化したVMI システム を実践で使用 VMI についての条件を 契約として結ぶ 月 1 2 3 4 5 6 7 8 1. プロジェクト開始。
両社が情報を提出し分析する 2. 需要予測を共有するためのモデルを作る 3. 手動ながらもシステムを立ち上げる 4.KPI について合意する 5. 担当者全員が毎週顔を合わせて会議を開く 7. 需要予測のデータに基づき製品を小売り業者に納入する 8. エレクトロラックスと小売り業者の間で定期的に プロジェクトについて話し合う VMI の正式な条件についての契約を交わす 6. 手動のシステムを自動のVMI システムに切り換える。
ヨーロッパの工場と結ぶ 53 MARCH 2011 を、サプライチェーンの一部に取り込むこと で、エレクトロラックスとパートナー企業の売 上高の増加に貢献することができました。
我々の取り組みから学ぶことのできる教訓 とは何でしょうか。
一つは、外部のコンサルタントやITベン ダーの力を借りなくても、VMIを構築する ことは可能だということです。
自分たちだけ ですべてを行うことが常にベストの手法であ るとは限りませんが、少なくとも我々のプロ ジェクトにおいては有効でした。
もう一つは、このプロジェクトに取り組む ことで、それまでバラバラだった二つのサプ ライチェーンが、協調して動くことができる ようになったということです。
現在では、需要予測の数字はもちろん、パ ートナー企業が行う販促プロモーションについ ても、その期間や性質、前年度の売り上げ実 績などの数字について、エレクトロラックスの 各部門が正確に把握できるようになりました。
もしどこかで不都合なことが起きれば、すぐ に関係者による話し合いが持たれて、解決策 を見つけられるようにもなりました。
今後当社はこうしたVMIの対象を、白物 家電からエレクトロラックスの商品群全体に 拡大し、また特定の大手小売りとだけではな く、他の多くの顧客とも同様の取り組みを広 げていきたいと考えています。
(ジャーナリスト 横田増生) (注)この原稿は、二〇一〇年六月にチェコで行われた「ヨーロ ッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミナーの講義 内容をセミナーの主催者であるWTGイベントから掲載に ついての承諾を得た上で、該当企業のホームページの情報 などを加えて再編集したものです。
決めていることを説明しました。
この売れ行き別の商品分類をシステムにも 反映させて、商品の在庫が十分な場合はコン ピューター画面上で緑色で表示し、在庫が足 りない商品は赤色で表示することにしました。
このうち問題のある商品に限って会議で対策 を話し合う方向に変えていったのです。
需要予測の数字が、これまでよりも販売実 績に近いことが十分に理解されるようになる と、パートナー企業の購買担当者も需要予測 に基づいて業務を進めることに協力的になり ました。
メーカーと小売りの双方で在庫を削減 この〇七年から〇八年の取り組みによって 結局、何が変わったのでしょうか。
需要予測の精度は、プロジェクト後に二五 ポイント改善しました。
それによって、パー トナー企業の倉庫における在庫を二〇ポイン ト減らすことができました。
加えて、エレク トロラックスの倉庫と物流センターにおける在 庫も一〇ポイント減らすことができました。
主力商品についての在庫引当率 (availability)は九八〜一〇〇%となり、主 力商品以外の商品でも在庫保有率は九五〜九 七%となりました。
いずれも約五ポイントの 改善となっています。
オンタイム配送率は九七%で、事前に両社 が決めた合格ラインを上回ることができまし た。
加えて、インターネット販売の宅配業務 図3 VMIのための週間スケジュール パートナー 企業側 エレクトロ ラックス 日曜日月曜日火曜日水曜日木曜日金曜日 EDIを使って売 上実績と在庫 のデータを送信 する 注文確認書を 送る エレクトロラック ス側の需要予測 と売上予測、在 庫の数字を最新 のものにする 注文情報をダウ ンロードする VMIのサマリー をアップデートす る パートナー企業 に在庫の過不 足ついての提 案を送信する 受け取った注文 を工場に流す 工場向けに需要 予測を最新のも のにする トラックが満載 になるようにロッ トを調整する 注文情報をパー トナー企業に送 信する 在庫数量の過 不足について再 検討を加える
当社は二〇〇七年から〇八年にかけて、イ ギリスの大手小売業者(相手との約束により、 企業名は公表できないため、このプレゼンテ ーションでは「パートナー企業」と呼ばせて もらいます)と、VMI(Vendor Managed Inventory :ベンダー主導型在庫管理)の導 入に取り組み、一定の成果を上げることがで きました。
本日はこれから、そのVMIの取り組みの 詳細についてお話しするのですが、その前に エレクトロラックスという会社について簡単に 説明させていただきます。
当社は一九一九年に掃除機メーカーとして スウェーデンのストックホルムで創業しました。
その後、冷蔵庫や洗濯機、食器洗浄機などの 製造を順次開始しました。
一九六〇年代以降 は、多くの同業他社を買収することで、製品 のラインアップを充実させ、また販売チャン ネルを海外にも広げていきました。
代表的な買収事例としては、八四年に買収 した英家電メーカーの「ザヌッシ(ZANU SSI)」や、八六年の米ミシンメーカー「ホ ワイト・コンソリデイティッド」、九四年の独 家電メーカー「AEG」などが挙げられます。
株式は八七年にストックホルム株式市場に上 場しています。
当社の〇九年度の売上高は一〇九一億スウ ェーデンクローナ=SEK(一兆二二二八億 円)で、営業利益は三七億SEKでした。
現 在、世界六〇カ国に五万人を超す従業員を 抱えています。
主な商品は家庭用の調理コン ロや冷蔵庫、掃除機、食洗機、業務用製品 などです。
地域別売上高は、ヨーロッパが全 体の四三%、北米が三一%、南米が一〇%、 アジアが九%──となります。
当社のサプライチェーンの概要としては、 ヨーロッパの一八カ所に自社工場を持ち、そ れ以外に中国やトルコ、ポーランド、アメリ カなど計二五カ所にOEM(相手先ブランド 製造)があります。
今回、VMIのプロジェ クトを行ったイギリスには、大規模倉庫と物 流センターを構えています(図1)。
私がエレクトロラックスに入社したのは六年 前のことで、これからお話しするイギリスの 大手小売業者とのVMIのプロジェクトが始 まったのは〇七年のことでした。
その当時、エレクトロラックスと?パートナ ー企業?との間のSCMには、多くの問題が 山積していました。
一番大きな問題は、エレクトロラックス側 でパートナー企業の需要予測を正確に把握で きていなかったことです。
そのために、在庫 に過不足が生じて、適正な在庫水準を保つこ スウェーデンの家電メーカー大手、エレクトロラッ クスはイギリスの大手小売業者から“白物家電”の 調達にVMIを導入したいとの要請を受ける。
3カ月の 準備期間を経て、両社の取り組みが始まった。
エレ クトロラックスのデマンド・フロー・ディレクターと してその責任者を務めたクロエ・ゼン氏が報告する。
SCM エレクトロラックス イギリスの大手小売りとVMIに取り組む 情報共有を進めてトータル在庫を適正化 51 MARCH 2011 とができずにいました。
売れ筋商品を切らし て機会損失を起こしたり、逆に死に筋商品を 多く抱えてしまい値引きをして在庫処分を行 ったりすることで、売上高と利益が思うよう に上がらない状境に陥っていました。
もう一つの問題は可視性(ビジビリティ)に ありました。
サプライチェーンのどこに、ど れだけの在庫があるのか、情報が不確かなた めに関係者が疑心暗鬼になり、在庫を不必要 に積み増したり、必要以上に削ったりするこ とが頻繁に起きていました。
VMIのプロジェクトが始まる前まで、エ レクトロラックス側では、パートナー企業がい つ白物家電の販促プロモーションを打つのか といったことさえ、正確に把握していない状 態でした。
クリスマス商戦前の繁忙期には、パートナ ー企業側の倉庫が満杯になって商品をさばく ことができず、売れ筋の商品であっても、倉 庫スペースに空きができるまで入庫できない 状態になることもありました。
こうした事態は、エレクトロラックスとパ ートナー企業の双方にとって大きなマイナスを 意味していました。
またそれに加えて、パー トナー企業は、インターネットを使って、家 電商品の宅配サービス事業を開始することを 検討していました。
需要予測システムを自社開発 こうした多くの複雑で困難な問題を解決す るために、当社とパートナー企業で話し合い を持ちました。
双方の利害は、?売上高を 増やすこと、?サービスレベルを上げること、 ?コストを下げること──の三つの点で一致 していることを確認することができました。
その最初の話し合いの席で、パートナー企 業の白物家電の担当者が、「これから三カ月で VMIに移行するので準備にかかってほしい」 と切り出してきました。
三カ月と聞いて、は じめ私は冗談だろうと思っていましたが、相 手は本気でした。
しかし、相手が当社にとって大手の取引先 であること、そしてこれまで双方の取引形態 に多くの問題を抱えていたことを勘案し、役 員会の了解を取り付けたうえで、パートナー 企業の要請を受け入れることを決めました。
私が責任者となり、両社のサプライチェー ンに関係する人たちにプロジェクトチームに 参加してもらいました。
主なメンバーは、当 社の需要予測担当者、当社のセールス担当者、 当社の工場担当者、パートナー企業から、バ イヤーと倉庫担当者、ロジスティクス担当者 ──などです。
プロジェクトの目的は三つありました。
一 つは、両社の売り上げを増加させること。
こ れは生産したものを消費者に押しつける?プ ッシュ型?から、消費者の需要を基点とした ?プル型?にサプライチェーンを変えることで、 達成可能だと考えました。
二つ目は、適正な在庫水準を保つこと。
パ ートナー企業の在庫を、エレクトロラックス が肩代わりして抱えるというやり方ではなく、 製品の情報を共有して、需要予測の精度を高 めることで、両社双方が在庫を減らすことを 目指しました。
目的の三つ目は、両社のサプライチェーン を、出来るだけ一つのサプライチェーンのよう に機能させることです。
そうすることで、パ ートナー企業と最終消費者の両方の顧客満足 図1 エレクトロラックスのイギリスにおけるサプライチェーン 海外自社工場 OEM 工場 完成品の輸入 部品輸入 自社倉庫 パートナー企業の 倉庫 自社物流 センター 店舗 店舗 消費者への 配送 MARCH 2011 52 度を上げることを狙いました。
プロジェクトは〇七年四月に始まりました。
当初三カ月間の準備期間中には、双方のデー タを出し合って、確認作業を行いました(図 2)。
次の三カ月で、両社で共有する需要予 測システムを開発しました。
これは当社が独 自に開発したものです。
通常この手のソフト に入力することなどです。
その数値を基に我々は、十二カ月後、六カ 月後、三カ月後、一カ月後、一週間後といっ た時点での需要予測数値をそれぞれ修正して いきます。
需要予測のデータは、エレクトロラックス の工場やOEM工場、下請けの部品工場、倉 庫、物流センターなどの関係部署のすべてが ウェブ上で閲覧できるようにしました。
各部 署は、そのデータを基にそれぞれの作業の進 捗を調整します。
また、需要予測の精度を高めるために、各 部署で毎週何曜日に何をするのかというスケ ジュールを作成しました(図3)。
在庫を適正な水準に保つということは、リ アルな「在庫」を需要予測の「情報」に置 き換えるということでもあります。
そのため、 需要予測のデータが正確であるという信頼を 得られるようになるまでは、摩擦が生じるこ ともありました。
なかでもパートナー企業の購買担当者は、 プロジェクトを始めた当初、需要予測のデー タをそれほど信頼していませんでした。
その ため会議の席で、「掃除機の在庫は今の計画 の二割増し、冷蔵庫の在庫は三割増しで持っ てほしい」と発言したことがありました。
それに対してエレクトロラックスの担当者 は、商品カテゴリーごとに各アイテムを、最 も売れ筋の商品、売れ筋商品、売れ行きが遅 い商品に分類して、それぞれの適正在庫量を は専門業者からパッケージを購入することが 多いわけですが、そうしてしまうと、ソフト を開発した会社が作ったルールに従って動か なければならない場面が多くなると考え、自 社開発に踏み切りました。
稼働当初の一、二カ月はシステムの完成度 も低く、手作業で処理しなければならない部 分もありましたが、結果的には、外部から購 入したソフトではなく、両社が納得して作っ たソフトを使ったことが、このプロジェクトを 成功に導いた要因の一つになったと考えてい ます。
在庫を情報に置き換える KPI(重要業績評価指標)も定めました。
といっても込み入った指標を作ったわけでは ありません。
重要な指標を三つに絞り込みま した。
一つは、在庫と販売実績がどれだけ一 致しているかを一週間単位で見たときの数値、 もう一つは需要予測がどれだけ正確であった のか、三つ目がオンタイム配送の割合です。
毎週一回、担当者が顔を合わせて会議を開 くようにして、問題があればその席で話し合 うようにしました。
需要予測の精度を高めるには、パートナー 企業側でも多くの作業を行う必要があります。
販促のプロモーション期間や特徴などを、前 もって正確に知らせることや、前年の売上実 績や現在の店舗と倉庫にある在庫の状況など を正確にカウントして、我々が作ったシステム 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 図 2 VMI のスケジュール 2007年 2008年 VMI プロジェクト開始 需要予測のモデル作り マニュアルの VMI システム立ち上げ 週単位のKPI を設定 自動化した VMI システム稼働 週ごとの会議を開始 自動化したVMI システム を実践で使用 VMI についての条件を 契約として結ぶ 月 1 2 3 4 5 6 7 8 1. プロジェクト開始。
両社が情報を提出し分析する 2. 需要予測を共有するためのモデルを作る 3. 手動ながらもシステムを立ち上げる 4.KPI について合意する 5. 担当者全員が毎週顔を合わせて会議を開く 7. 需要予測のデータに基づき製品を小売り業者に納入する 8. エレクトロラックスと小売り業者の間で定期的に プロジェクトについて話し合う VMI の正式な条件についての契約を交わす 6. 手動のシステムを自動のVMI システムに切り換える。
ヨーロッパの工場と結ぶ 53 MARCH 2011 を、サプライチェーンの一部に取り込むこと で、エレクトロラックスとパートナー企業の売 上高の増加に貢献することができました。
我々の取り組みから学ぶことのできる教訓 とは何でしょうか。
一つは、外部のコンサルタントやITベン ダーの力を借りなくても、VMIを構築する ことは可能だということです。
自分たちだけ ですべてを行うことが常にベストの手法であ るとは限りませんが、少なくとも我々のプロ ジェクトにおいては有効でした。
もう一つは、このプロジェクトに取り組む ことで、それまでバラバラだった二つのサプ ライチェーンが、協調して動くことができる ようになったということです。
現在では、需要予測の数字はもちろん、パ ートナー企業が行う販促プロモーションについ ても、その期間や性質、前年度の売り上げ実 績などの数字について、エレクトロラックスの 各部門が正確に把握できるようになりました。
もしどこかで不都合なことが起きれば、すぐ に関係者による話し合いが持たれて、解決策 を見つけられるようにもなりました。
今後当社はこうしたVMIの対象を、白物 家電からエレクトロラックスの商品群全体に 拡大し、また特定の大手小売りとだけではな く、他の多くの顧客とも同様の取り組みを広 げていきたいと考えています。
(ジャーナリスト 横田増生) (注)この原稿は、二〇一〇年六月にチェコで行われた「ヨーロ ッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミナーの講義 内容をセミナーの主催者であるWTGイベントから掲載に ついての承諾を得た上で、該当企業のホームページの情報 などを加えて再編集したものです。
決めていることを説明しました。
この売れ行き別の商品分類をシステムにも 反映させて、商品の在庫が十分な場合はコン ピューター画面上で緑色で表示し、在庫が足 りない商品は赤色で表示することにしました。
このうち問題のある商品に限って会議で対策 を話し合う方向に変えていったのです。
需要予測の数字が、これまでよりも販売実 績に近いことが十分に理解されるようになる と、パートナー企業の購買担当者も需要予測 に基づいて業務を進めることに協力的になり ました。
メーカーと小売りの双方で在庫を削減 この〇七年から〇八年の取り組みによって 結局、何が変わったのでしょうか。
需要予測の精度は、プロジェクト後に二五 ポイント改善しました。
それによって、パー トナー企業の倉庫における在庫を二〇ポイン ト減らすことができました。
加えて、エレク トロラックスの倉庫と物流センターにおける在 庫も一〇ポイント減らすことができました。
主力商品についての在庫引当率 (availability)は九八〜一〇〇%となり、主 力商品以外の商品でも在庫保有率は九五〜九 七%となりました。
いずれも約五ポイントの 改善となっています。
オンタイム配送率は九七%で、事前に両社 が決めた合格ラインを上回ることができまし た。
加えて、インターネット販売の宅配業務 図3 VMIのための週間スケジュール パートナー 企業側 エレクトロ ラックス 日曜日月曜日火曜日水曜日木曜日金曜日 EDIを使って売 上実績と在庫 のデータを送信 する 注文確認書を 送る エレクトロラック ス側の需要予測 と売上予測、在 庫の数字を最新 のものにする 注文情報をダウ ンロードする VMIのサマリー をアップデートす る パートナー企業 に在庫の過不 足ついての提 案を送信する 受け取った注文 を工場に流す 工場向けに需要 予測を最新のも のにする トラックが満載 になるようにロッ トを調整する 注文情報をパー トナー企業に送 信する 在庫数量の過 不足について再 検討を加える
