2011年3月号
値段
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第66回 ヤマトホールディングス
MARCH 2011 54
国内宅配市場は安定成長局面に
ヤマトホールディングス(以下、ヤマト)の
短期業績が好調だ。
二〇一〇年四〜十二月 (一一年三月期第3四半期累計)業績は株式 市場の期待を上回り、売上高で前年同期比 三・四%増の九五三〇億円、営業利益は三・ 五%増の六四〇億円を達成した。
過剰コストで営業減益となった一〇年四〜 六月期を底に、業績動向は上向きで推移して いる。
特に繁忙期の同一〇〜十二月期は売上 高が四・〇%増の三五五二億円、営業利益 は十二・三%増の四三九億円と大幅な増益を 達成した。
背景には「宅急便」の取扱個数が 七・〇%増と伸び、単価下落率も緩やかに縮 小したことがあるだろう。
宅急便取扱個数の伸びについては、輸送品 質に対する顧客からの信頼度の向上に加え、通 販商品を受注から最短四時間で届ける「Today Shopping Service」、故障品を修理し最短三日 でユーザーに返送する「メンテナンスサポート」 といった利便性の高い商品が顧客獲得に繋がっ たとみられる。
通販市場の拡大などを背景に宅配需要が増加 し、業者間の価格競争が緩和してきたことも業 界にとっては大きな前進であったと考えていい だろう。
宅配便という寡占市場においては、一 社の単価値下げが業界全体の価格下落を誘引す ることがある。
市場の拡大局面においては数量 の増加でカバーできたとしても、拡大ペースの 鈍化局面での値下げは業界全体を低迷させるリ スクがある。
しかし、ヤマトの短期業績から判断する限り、 宅配市場は安定的な成長局面に入った可能性が あると考えることができる。
我々のような資 本市場に携わる調査担当者からみれば、宅配 市場は価格だけではなく輸送品質で差別化を 図る段階に入ったことと期待したい。
好決算の主因は増収だけではなく、生産性 改善施策の効果が徐々に顕在化してきたこと も挙げられる。
最も大きなコストである人件 費と下払いの合計費用の売上高に対する比率 は、一〇年一〇〜十二月期は〇七年一〇月〜 十二月期決算以来、12四半期ぶりに八三% を下回る八二・八%となった。
四〜九月の上期決算時の九一・二%と比較 すると、大幅に低下している。
経営陣による 適正な人員ポートフォリオ・マネジメント、午 前配達率の増加をはじめとする配達効率の改 善などの施策が奏功し始めた可能性があるだ ろう。
ヤマトホールディングス 「宅急便」で得た資源を他事業に再投入 早期収益化にはM&Aが有効な選択肢に 一月に発表した経営計画からは、「宅急 便」などのデリバリー事業をさらに強化し、 そこで得た経営資源をノンデリバリー事業 に再投入する戦略が窺える。
国内外の宅配 便や小口貨物分野には潜在市場が十分にあ り、両事業ともに成長の余地は大きい。
た だしノンデリバリー事業を早期に収益の柱 とするためには、M&Aも必要だろう。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第66回 55 MARCH 2011 一四年三月期まで年率五%成長 同社は今年一月、二〇一九年に創業一〇 〇周年を迎えることを念頭に策定した長期経 営計画「DAN─TOTSU経営計画 201 9」を発表した。
九年間の経営計画を主軸に 置き、基本戦略を?アジア・ネットワークの 完成、?宅急便機能の高度化、?地域社会に 密着した生涯生活支援プラットフォームの確 立、としている。
バンクオブアメリカ・メリルリンチ(B of AML)では、日本企業のキャッシュの使い 道が国内から海外へ向かいつつあると考えて おり、実際、日本の対外直接投資額は〇三年 から〇九年にかけて倍増するなど増加傾向を 辿っている。
海外展開を加速させる日本企業、特に中小 企業にとっては、現地では賄いきれない部品 の調達などを決済機能や通関業務を含めてヤ マトが支援するサービスの利便性は高く、顧 客の囲い込みに繋がる可能性があろう。
また、 一部の通販会社はアジアでの通販事業の拡大 を検討しており、ヤマトが先行的に整備を進 めているアジアでの宅急便ネットワークが貢献 する可能性もある。
他方、国内では人口の減少や労働力の都心 部への流入から、過疎地などの地域社会の消 費行動は店舗不足や配達手段の少なさといっ た制約を受ける可能性が高い。
そういった意 味で、同社が国内外の輸送網を活用すること によって潜在的な市場を開拓する余地は大き いと判断される。
今回の長期経営計画では、九年後に目指す 姿とともにそこに至るまでの第一段階として 《出来高》 ヤマトホールディングスの過去10年間の株価推移 2010年版 カサイ式 トラック実勢運賃調査 ■媒体名 「2010 年版 カサイ式トラック実勢運賃調査」 ■体裁 A4 判 無線綴じ 153 頁(CD-ROM 付) ■発行 2010 年9月13 日 ■監修 月刊ロジスティクス・ビジネス編集部 ■編集協力 ロジスティクス・サポート&パートナーズ ■発行元 ライノス・パブリケーションズ ■定価 1万500 円(税・送料込み) 業種別トラック運賃の実勢価格が分かる! 1985年以降の実勢運賃の推移が分かる! トラック運賃の仕組みと実態が分かる! MARCH 2011 56 一二年三月期〜一四年三月期の中期経営計 画も詳細に開示された。
最終年度には売上高 を一兆四四〇〇億円、営業利益を八八〇億 円、営業利益率を六・一%、ROE(自己 資本利益率)を八・五%に引き上げる計画だ (上表)。
売上面では年率五%成長を狙っている。
前 提となる国内宅急便取扱個数も年率五%の増 加を計画しているため、宅急便の単価は安定 的に推移するとの想定のようだ。
海外の宅急 便取扱個数は一億二〇〇〇万個を目標として おり、数量増で固定費をカバーして赤字縮小 を図る考えとみられる。
設備投資額を上積み ヤマトの業績目標を考えるうえでは、目標 達成のためのツールをみておく必要があるだ ろう。
同社は今後三年間の投資総額を二八〇 〇億円としている。
過去の投資実績では年平 均の投資額は五〇〇〜六〇〇億円だったのに 対し、今後三年間は年平均九〇〇億円以上を 予定していることになる。
そのうち最も大きなウェートを占めるのが、 来年に稼働予定の羽田物流ターミナルへの投 資だ。
同ターミナルは従来の輸入業務に加え、 荷主の輸出業務支援にも活用すると考えられ るが、輸出業務支援は海運・航空フォワーダ ーなどの他社も既に実施しているサービスで あり、ヤマトの差別化がどの程度の顧客獲得 に繋がるのか注目される。
加えて、二八〇〇億円にはハード・ソフト 両面のIT関連投資も二〇〜三〇%含まれて いる。
現段階で定量的な投資リターンは見通 しにくいが、ヤマトは営業支援、顧客の利便 性向上、生産性改善といった効果を見込んで いるようだ。
同社はこれまで他社に先駆けてIT関連投 資を進めてきており、携帯電話による受取指 定サービスやWeb出荷システムなどで差別 化を図っている。
他社の追随を許さない付加 価値サービスの構築の可否について今後も注 目される。
また、今回の中長期経営計画では株主還元 に対する前向きな姿勢も確認できたと言えよ う。
具体的には連結配当性向三〇%のほか、 資金状況に応じた機動的な自社株買いのポテ ンシャルがあることが確認できたことをポジ ティブに評価している。
経営計画には盛り込まれなかったが、B of AMLでは潤沢な資金を活用した積極的な M&Aにも期待したい。
同計画からは宅急便 を中心としたデリバリー事業を更に強化・安 定化させ、そのうえで企業間物流などのノン デリバリー事業に経営資源を再投入する戦略 が窺える。
時間価値を考えれば、ノンデリバ リー部門の強化に繋がる企業買収も一つの選 択肢になりうると考えられる。
ヤマトは四月以降、木川新社長の下、本中期 経営計画を実行に移す。
資本市場からみた木 川社長の評価は現瀬戸社長に劣らず高い。
今 後のスピード感のある経営に期待したい。
つちや やすひと 一九九七年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券 などを経て、二〇〇五年一〇月にメ リルリンチ日本証券に入社。
運輸セ クター担当アナリストとして活躍し ている。
11 年3月期予想 1 兆2280 億円 640 億円 5.2% 6.5% 13 億4700 万個 14 年3月期目標 1 兆4400 億円 880 億円 6.1% 8.5% 15 億6000 万個 売上高 営業利益 営業利益率 中期経営計画「DAN-TOTSU 3カ年計画 HOP」の目標数値と2011年3月期予想 【連結目標】 【事業別目標】 (単位:億円) 宅急便取扱個数 ROE (国内) その他 14 年3月期 目標 売上高 営業利益 デリバリー 事業 BIZ−ロジ 事業 ホームコンビ ニエンス事業 e‐ビジネス 事業 トラックメンテ ナンス事業 フィナンシャル 事業 11 年3月期 予想 売上高(消去前) 営業利益 9,930 810 465 325 535 170 45 400 32 3 62 100 21 207 12,180 1,350 660 880 850 700 470 510 53 20 90 145 40 22
二〇一〇年四〜十二月 (一一年三月期第3四半期累計)業績は株式 市場の期待を上回り、売上高で前年同期比 三・四%増の九五三〇億円、営業利益は三・ 五%増の六四〇億円を達成した。
過剰コストで営業減益となった一〇年四〜 六月期を底に、業績動向は上向きで推移して いる。
特に繁忙期の同一〇〜十二月期は売上 高が四・〇%増の三五五二億円、営業利益 は十二・三%増の四三九億円と大幅な増益を 達成した。
背景には「宅急便」の取扱個数が 七・〇%増と伸び、単価下落率も緩やかに縮 小したことがあるだろう。
宅急便取扱個数の伸びについては、輸送品 質に対する顧客からの信頼度の向上に加え、通 販商品を受注から最短四時間で届ける「Today Shopping Service」、故障品を修理し最短三日 でユーザーに返送する「メンテナンスサポート」 といった利便性の高い商品が顧客獲得に繋がっ たとみられる。
通販市場の拡大などを背景に宅配需要が増加 し、業者間の価格競争が緩和してきたことも業 界にとっては大きな前進であったと考えていい だろう。
宅配便という寡占市場においては、一 社の単価値下げが業界全体の価格下落を誘引す ることがある。
市場の拡大局面においては数量 の増加でカバーできたとしても、拡大ペースの 鈍化局面での値下げは業界全体を低迷させるリ スクがある。
しかし、ヤマトの短期業績から判断する限り、 宅配市場は安定的な成長局面に入った可能性が あると考えることができる。
我々のような資 本市場に携わる調査担当者からみれば、宅配 市場は価格だけではなく輸送品質で差別化を 図る段階に入ったことと期待したい。
好決算の主因は増収だけではなく、生産性 改善施策の効果が徐々に顕在化してきたこと も挙げられる。
最も大きなコストである人件 費と下払いの合計費用の売上高に対する比率 は、一〇年一〇〜十二月期は〇七年一〇月〜 十二月期決算以来、12四半期ぶりに八三% を下回る八二・八%となった。
四〜九月の上期決算時の九一・二%と比較 すると、大幅に低下している。
経営陣による 適正な人員ポートフォリオ・マネジメント、午 前配達率の増加をはじめとする配達効率の改 善などの施策が奏功し始めた可能性があるだ ろう。
ヤマトホールディングス 「宅急便」で得た資源を他事業に再投入 早期収益化にはM&Aが有効な選択肢に 一月に発表した経営計画からは、「宅急 便」などのデリバリー事業をさらに強化し、 そこで得た経営資源をノンデリバリー事業 に再投入する戦略が窺える。
国内外の宅配 便や小口貨物分野には潜在市場が十分にあ り、両事業ともに成長の余地は大きい。
た だしノンデリバリー事業を早期に収益の柱 とするためには、M&Aも必要だろう。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第66回 55 MARCH 2011 一四年三月期まで年率五%成長 同社は今年一月、二〇一九年に創業一〇 〇周年を迎えることを念頭に策定した長期経 営計画「DAN─TOTSU経営計画 201 9」を発表した。
九年間の経営計画を主軸に 置き、基本戦略を?アジア・ネットワークの 完成、?宅急便機能の高度化、?地域社会に 密着した生涯生活支援プラットフォームの確 立、としている。
バンクオブアメリカ・メリルリンチ(B of AML)では、日本企業のキャッシュの使い 道が国内から海外へ向かいつつあると考えて おり、実際、日本の対外直接投資額は〇三年 から〇九年にかけて倍増するなど増加傾向を 辿っている。
海外展開を加速させる日本企業、特に中小 企業にとっては、現地では賄いきれない部品 の調達などを決済機能や通関業務を含めてヤ マトが支援するサービスの利便性は高く、顧 客の囲い込みに繋がる可能性があろう。
また、 一部の通販会社はアジアでの通販事業の拡大 を検討しており、ヤマトが先行的に整備を進 めているアジアでの宅急便ネットワークが貢献 する可能性もある。
他方、国内では人口の減少や労働力の都心 部への流入から、過疎地などの地域社会の消 費行動は店舗不足や配達手段の少なさといっ た制約を受ける可能性が高い。
そういった意 味で、同社が国内外の輸送網を活用すること によって潜在的な市場を開拓する余地は大き いと判断される。
今回の長期経営計画では、九年後に目指す 姿とともにそこに至るまでの第一段階として 《出来高》 ヤマトホールディングスの過去10年間の株価推移 2010年版 カサイ式 トラック実勢運賃調査 ■媒体名 「2010 年版 カサイ式トラック実勢運賃調査」 ■体裁 A4 判 無線綴じ 153 頁(CD-ROM 付) ■発行 2010 年9月13 日 ■監修 月刊ロジスティクス・ビジネス編集部 ■編集協力 ロジスティクス・サポート&パートナーズ ■発行元 ライノス・パブリケーションズ ■定価 1万500 円(税・送料込み) 業種別トラック運賃の実勢価格が分かる! 1985年以降の実勢運賃の推移が分かる! トラック運賃の仕組みと実態が分かる! MARCH 2011 56 一二年三月期〜一四年三月期の中期経営計 画も詳細に開示された。
最終年度には売上高 を一兆四四〇〇億円、営業利益を八八〇億 円、営業利益率を六・一%、ROE(自己 資本利益率)を八・五%に引き上げる計画だ (上表)。
売上面では年率五%成長を狙っている。
前 提となる国内宅急便取扱個数も年率五%の増 加を計画しているため、宅急便の単価は安定 的に推移するとの想定のようだ。
海外の宅急 便取扱個数は一億二〇〇〇万個を目標として おり、数量増で固定費をカバーして赤字縮小 を図る考えとみられる。
設備投資額を上積み ヤマトの業績目標を考えるうえでは、目標 達成のためのツールをみておく必要があるだ ろう。
同社は今後三年間の投資総額を二八〇 〇億円としている。
過去の投資実績では年平 均の投資額は五〇〇〜六〇〇億円だったのに 対し、今後三年間は年平均九〇〇億円以上を 予定していることになる。
そのうち最も大きなウェートを占めるのが、 来年に稼働予定の羽田物流ターミナルへの投 資だ。
同ターミナルは従来の輸入業務に加え、 荷主の輸出業務支援にも活用すると考えられ るが、輸出業務支援は海運・航空フォワーダ ーなどの他社も既に実施しているサービスで あり、ヤマトの差別化がどの程度の顧客獲得 に繋がるのか注目される。
加えて、二八〇〇億円にはハード・ソフト 両面のIT関連投資も二〇〜三〇%含まれて いる。
現段階で定量的な投資リターンは見通 しにくいが、ヤマトは営業支援、顧客の利便 性向上、生産性改善といった効果を見込んで いるようだ。
同社はこれまで他社に先駆けてIT関連投 資を進めてきており、携帯電話による受取指 定サービスやWeb出荷システムなどで差別 化を図っている。
他社の追随を許さない付加 価値サービスの構築の可否について今後も注 目される。
また、今回の中長期経営計画では株主還元 に対する前向きな姿勢も確認できたと言えよ う。
具体的には連結配当性向三〇%のほか、 資金状況に応じた機動的な自社株買いのポテ ンシャルがあることが確認できたことをポジ ティブに評価している。
経営計画には盛り込まれなかったが、B of AMLでは潤沢な資金を活用した積極的な M&Aにも期待したい。
同計画からは宅急便 を中心としたデリバリー事業を更に強化・安 定化させ、そのうえで企業間物流などのノン デリバリー事業に経営資源を再投入する戦略 が窺える。
時間価値を考えれば、ノンデリバ リー部門の強化に繋がる企業買収も一つの選 択肢になりうると考えられる。
ヤマトは四月以降、木川新社長の下、本中期 経営計画を実行に移す。
資本市場からみた木 川社長の評価は現瀬戸社長に劣らず高い。
今 後のスピード感のある経営に期待したい。
つちや やすひと 一九九七年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券 などを経て、二〇〇五年一〇月にメ リルリンチ日本証券に入社。
運輸セ クター担当アナリストとして活躍し ている。
11 年3月期予想 1 兆2280 億円 640 億円 5.2% 6.5% 13 億4700 万個 14 年3月期目標 1 兆4400 億円 880 億円 6.1% 8.5% 15 億6000 万個 売上高 営業利益 営業利益率 中期経営計画「DAN-TOTSU 3カ年計画 HOP」の目標数値と2011年3月期予想 【連結目標】 【事業別目標】 (単位:億円) 宅急便取扱個数 ROE (国内) その他 14 年3月期 目標 売上高 営業利益 デリバリー 事業 BIZ−ロジ 事業 ホームコンビ ニエンス事業 e‐ビジネス 事業 トラックメンテ ナンス事業 フィナンシャル 事業 11 年3月期 予想 売上高(消去前) 営業利益 9,930 810 465 325 535 170 45 400 32 3 62 100 21 207 12,180 1,350 660 880 850 700 470 510 53 20 90 145 40 22
