2011年3月号
現場改善
現場改善
業務用卸Q社の新センター開発プロジェクト
MARCH 2011 76
業務用雑貨卸Q社は年商約六〇億円。
福岡 に本社を置き、九州の五カ所に支店を構えてい る。
最近、我々日本ロジファクトリー(NLF) のクライアントには、生き残りをかけて積極的 な?攻め?に転じる卸が目立つようになってい る。
Q社もその一つであった。
これまでQ社は本社のすぐそばに倉庫を賃 借し、自社でセンター運営を行ってきた。
しか し、営業エリアの拡大によって売り上げが増加 し、倉庫のキャパシティは限界に来ていた。
新 センターを手当てする必要があった。
Q社の取り扱いアイテム数は約三万。
出荷ロ ットは九八%がピース単位で、非常にきめ細か な作業が求められる。
受注締め切りは一五:〇 〇。
その日のうちに支店別・顧客別にピッキン グして検品・梱包のうえ、路線便で出荷する。
支店はどこも九州圏内であるため翌日午前中 には商品が届く。
各支店では営業マンが自分の 顧客の商品をピッキングして、そのまま車両に 積み込み、営業活動と共に納品を行う。
また顧 客先で売れ残った商材の返品や交換は基本的に 受け入れている。
今回のプロジェクトのリーダーはQ社の実務 総責任者のS常務であった。
現場叩き上げとあ って物流の中身にも精通していた。
S常務は既 に新センターのハード面については明確なイメー ジを持っていた。
我々NLFに対する期待はソ フト面、ロケーションや作業フロー、動線の設 計であった。
新センター開発の条件としては以下の三つが 挙げられた。
?現場運営は引き続き自社で行う。
既存の正社員三名の雇用は維持し、約二〇名の パート・アルバイトの適正化を行う。
?営業に よる現場確認、管理の効率化などの観点から立 地は本社周辺とする。
?土地は賃借、建物は自 社建設とする。
このうち?自社運営については、過去にS常 務が中心となってアウトソーシングを検討した ことがあるという。
パートナー候補の物流会社 三社と協議を重ねたが、結局は断念した。
アウ トソーシングによって、倉庫が本社から離れて しまう。
つまり?立地条件をクリアできなかっ たことが理由であった。
一般に本社からセンターまでの距離は、移動 時間が四〇分までなら理想的、一時間までが及 第点というところだろう。
しかし、Q社の場合 は、本社での展示会開催や、センターで欠品と なった場合に本社ショールームの商品を代用す 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 自社で運営する既存センターの狭隘化から新センターの建設に 乗り出した中堅卸のQ社。
土地は賃借だが、建物は自前で建設 するという。
初期投資が必要で物流資産を抱えることになるが、 他に選択肢はないと判断していた。
本当にそうだろうか。
別の スキームを検討することにした。
業務用卸Q社の新センター開発プロジェクト 第98 回 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 77 MARCH 2011 るといった対応を行っていたため、至近距離に センターを置いておく必要があった。
「?土地は賃借、建物は自社建設」という条 件については、我々NLFから別の選択肢もあ ることを提案した。
開発業者が借地に専用施設 を建て、それをQ社が賃借して運用する、いわ ゆるサブリースである。
従来から我々は自前でセンターを建てようと している中堅・中小企業に対しては次の三点を 必ず確認するようにしている。
?内部留保が一 〇億円以上あるか。
?建設費は銀行借入か否か。
銀行借入の場合、全投資額の何%を借り入れる のか。
またその金利は何%か。
?自前で建てた 場合に、自己資本比率が三〇%を下回ってしま うことはないか。
大手企業か、あるいはよほど資本が潤沢な場 合でない限り、中堅・中小企業が物流施設を所 有するのはリスクが大きい。
物流用地や建物は 不要になった場合、売却も含め、有効活用が極 めて難しい。
固定資産ではなく固定?負債?に なりかねない。
それだけの資金を物流施設に投 じるよりも、システム開発や人材教育、販売促 進など、他に使うべき所があるはずだ。
そのた め我々が対応するセンター開発案件の一〇社の うち九社が賃借を採っている。
S常務も賃借ベースのスキームを一度は考え たという。
不動産会社を通じて地主にQ社専 用施設の建設を打診したが答えはNOであった。
仲介に当たった不動産会社自身にも、センター 開発の力量はなかった。
その結果、実現は困難 と判断していた。
新センターの確保にサブリースを提案 そこで我々は、荷主専用施設を建設して賃貸 する長期契約型3PLの存在とその事例を紹介 した。
S常務は「それはおもしろい」とすぐに 興味を示した。
しかし課題もあった。
一つは物 件の規模である。
通常、3PLが特定荷主の専 用拠点を新設する場合には、投資利回りの点か ら延べ床三〇〇〇坪以上の大型物件が対象とな っている。
しかし、Q社が必要とする施設は一 〇〇〇坪に満たなかった。
また庫内作業はQ社 の自社運営であるため、3PLは物流事業収入 を得ることができない。
それでも、まずは?本命?と目されたA社 に打診した。
このタイプのスキームには実績が ある。
ところが、A社はリーマンショック以降、 有利子負債の削減に動いており、当面は投資の 伴う案件には対応しない方針だという。
仕方なく他に数社当たってみたところ、ほと んど期待していなかったB社が対応できるとい う。
B社は「たとえ純粋な不動産賃貸からスタ ートしても、その会社に物流が発生している以 上、我々の営業努力次第では将来的に物流業務 も受託できるはずだ」と言い放った。
ただし、条件があるという。
契約期間である。
場所と建物のスペックにもよるが最低でも一五 年以上の契約になるとのことであった。
これを 聞いて我々は、密かに胸を撫で下ろした。
とい うのもS常務をはじめQ社の経営陣は二五年契 約を覚悟していたからであった。
こうして困難と思われた開発スキームが現実 味を帯びてきた。
あとはB社が提示する賃料 である。
我々の試算ではセンター建設費は約二 億五〇〇〇万円であった。
サブリースによって、 Q社は初期投資の負担を回避できるが、肝心の 賃料が割高であれば話は振り出しに戻ってしま う。
しかし、これも杞憂に終わった。
B社から提 示された賃料は我々が試算した金額より一割以 上も安かった。
B社の幹部によると、空調設備、 断熱機能、床荷重一トンといったスペックを確 保しながらも、シンプルな設計にすることでコ ストを抑制できるという。
その方針に基づいて、レイアウトイメージや 柱の位置、休憩室の位置、トラックの入・出庫 スペース、バースの確保、従業員の駐車スペー ス、建ペイ率を考慮した雨避けの大きさの決定 など、設計士と詳細な打合せを行い、四回の協 議のうえ、図面が完成した。
この作業を通じて 我々NLFは本題であった運営改善の布石を打 つことができた。
現在、施工開始から五カ月が経ち、あと一月 もすれば新センターが完成する。
初期投資を回 避できたことはQ社の経営陣から喜んでもらえ たが、我々にとってはむしろこれからが勝負で ある。
キャパオーバーとなった既存センターの現場は 商品が通路を埋め尽くし、身動きが取れない状 態だ。
返品処理のスペースと保管スペースの境 目すら判別がつかない。
電球もあちらこちらで 切れたままになっている。
さて、気を引き締め て取りかかることにしよう。
福岡 に本社を置き、九州の五カ所に支店を構えてい る。
最近、我々日本ロジファクトリー(NLF) のクライアントには、生き残りをかけて積極的 な?攻め?に転じる卸が目立つようになってい る。
Q社もその一つであった。
これまでQ社は本社のすぐそばに倉庫を賃 借し、自社でセンター運営を行ってきた。
しか し、営業エリアの拡大によって売り上げが増加 し、倉庫のキャパシティは限界に来ていた。
新 センターを手当てする必要があった。
Q社の取り扱いアイテム数は約三万。
出荷ロ ットは九八%がピース単位で、非常にきめ細か な作業が求められる。
受注締め切りは一五:〇 〇。
その日のうちに支店別・顧客別にピッキン グして検品・梱包のうえ、路線便で出荷する。
支店はどこも九州圏内であるため翌日午前中 には商品が届く。
各支店では営業マンが自分の 顧客の商品をピッキングして、そのまま車両に 積み込み、営業活動と共に納品を行う。
また顧 客先で売れ残った商材の返品や交換は基本的に 受け入れている。
今回のプロジェクトのリーダーはQ社の実務 総責任者のS常務であった。
現場叩き上げとあ って物流の中身にも精通していた。
S常務は既 に新センターのハード面については明確なイメー ジを持っていた。
我々NLFに対する期待はソ フト面、ロケーションや作業フロー、動線の設 計であった。
新センター開発の条件としては以下の三つが 挙げられた。
?現場運営は引き続き自社で行う。
既存の正社員三名の雇用は維持し、約二〇名の パート・アルバイトの適正化を行う。
?営業に よる現場確認、管理の効率化などの観点から立 地は本社周辺とする。
?土地は賃借、建物は自 社建設とする。
このうち?自社運営については、過去にS常 務が中心となってアウトソーシングを検討した ことがあるという。
パートナー候補の物流会社 三社と協議を重ねたが、結局は断念した。
アウ トソーシングによって、倉庫が本社から離れて しまう。
つまり?立地条件をクリアできなかっ たことが理由であった。
一般に本社からセンターまでの距離は、移動 時間が四〇分までなら理想的、一時間までが及 第点というところだろう。
しかし、Q社の場合 は、本社での展示会開催や、センターで欠品と なった場合に本社ショールームの商品を代用す 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 自社で運営する既存センターの狭隘化から新センターの建設に 乗り出した中堅卸のQ社。
土地は賃借だが、建物は自前で建設 するという。
初期投資が必要で物流資産を抱えることになるが、 他に選択肢はないと判断していた。
本当にそうだろうか。
別の スキームを検討することにした。
業務用卸Q社の新センター開発プロジェクト 第98 回 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 77 MARCH 2011 るといった対応を行っていたため、至近距離に センターを置いておく必要があった。
「?土地は賃借、建物は自社建設」という条 件については、我々NLFから別の選択肢もあ ることを提案した。
開発業者が借地に専用施設 を建て、それをQ社が賃借して運用する、いわ ゆるサブリースである。
従来から我々は自前でセンターを建てようと している中堅・中小企業に対しては次の三点を 必ず確認するようにしている。
?内部留保が一 〇億円以上あるか。
?建設費は銀行借入か否か。
銀行借入の場合、全投資額の何%を借り入れる のか。
またその金利は何%か。
?自前で建てた 場合に、自己資本比率が三〇%を下回ってしま うことはないか。
大手企業か、あるいはよほど資本が潤沢な場 合でない限り、中堅・中小企業が物流施設を所 有するのはリスクが大きい。
物流用地や建物は 不要になった場合、売却も含め、有効活用が極 めて難しい。
固定資産ではなく固定?負債?に なりかねない。
それだけの資金を物流施設に投 じるよりも、システム開発や人材教育、販売促 進など、他に使うべき所があるはずだ。
そのた め我々が対応するセンター開発案件の一〇社の うち九社が賃借を採っている。
S常務も賃借ベースのスキームを一度は考え たという。
不動産会社を通じて地主にQ社専 用施設の建設を打診したが答えはNOであった。
仲介に当たった不動産会社自身にも、センター 開発の力量はなかった。
その結果、実現は困難 と判断していた。
新センターの確保にサブリースを提案 そこで我々は、荷主専用施設を建設して賃貸 する長期契約型3PLの存在とその事例を紹介 した。
S常務は「それはおもしろい」とすぐに 興味を示した。
しかし課題もあった。
一つは物 件の規模である。
通常、3PLが特定荷主の専 用拠点を新設する場合には、投資利回りの点か ら延べ床三〇〇〇坪以上の大型物件が対象とな っている。
しかし、Q社が必要とする施設は一 〇〇〇坪に満たなかった。
また庫内作業はQ社 の自社運営であるため、3PLは物流事業収入 を得ることができない。
それでも、まずは?本命?と目されたA社 に打診した。
このタイプのスキームには実績が ある。
ところが、A社はリーマンショック以降、 有利子負債の削減に動いており、当面は投資の 伴う案件には対応しない方針だという。
仕方なく他に数社当たってみたところ、ほと んど期待していなかったB社が対応できるとい う。
B社は「たとえ純粋な不動産賃貸からスタ ートしても、その会社に物流が発生している以 上、我々の営業努力次第では将来的に物流業務 も受託できるはずだ」と言い放った。
ただし、条件があるという。
契約期間である。
場所と建物のスペックにもよるが最低でも一五 年以上の契約になるとのことであった。
これを 聞いて我々は、密かに胸を撫で下ろした。
とい うのもS常務をはじめQ社の経営陣は二五年契 約を覚悟していたからであった。
こうして困難と思われた開発スキームが現実 味を帯びてきた。
あとはB社が提示する賃料 である。
我々の試算ではセンター建設費は約二 億五〇〇〇万円であった。
サブリースによって、 Q社は初期投資の負担を回避できるが、肝心の 賃料が割高であれば話は振り出しに戻ってしま う。
しかし、これも杞憂に終わった。
B社から提 示された賃料は我々が試算した金額より一割以 上も安かった。
B社の幹部によると、空調設備、 断熱機能、床荷重一トンといったスペックを確 保しながらも、シンプルな設計にすることでコ ストを抑制できるという。
その方針に基づいて、レイアウトイメージや 柱の位置、休憩室の位置、トラックの入・出庫 スペース、バースの確保、従業員の駐車スペー ス、建ペイ率を考慮した雨避けの大きさの決定 など、設計士と詳細な打合せを行い、四回の協 議のうえ、図面が完成した。
この作業を通じて 我々NLFは本題であった運営改善の布石を打 つことができた。
現在、施工開始から五カ月が経ち、あと一月 もすれば新センターが完成する。
初期投資を回 避できたことはQ社の経営陣から喜んでもらえ たが、我々にとってはむしろこれからが勝負で ある。
キャパオーバーとなった既存センターの現場は 商品が通路を埋め尽くし、身動きが取れない状 態だ。
返品処理のスペースと保管スペースの境 目すら判別がつかない。
電球もあちらこちらで 切れたままになっている。
さて、気を引き締め て取りかかることにしよう。
