2011年4月号
ケース

トーハン 物流拠点

APRIL 2011  72 最新技術で書籍流通を効率化  「桶川SCMセンター」は取次大手のトー ハンが三〇〇億円を投じて建設した出版業界 で最大規模の書籍の流通基地だ。
同社は近年、 出版社・書店と情報の共有や物流機能の連携 を進めることによって需給のアンバランスを 解消し、売り上げ拡大と返品の減少をめざす SCMプロジェクトに取り組んでいる。
その 中核拠点として桶川SCMセンターを整備し、 二〇〇七年一〇月に全面稼働させた。
 首都圏および地方の三一カ所に分散してい た注文品の保管・送品・返品処理機能を一カ 所に集約し、最新のITを駆使してオペレー ションを効率化した。
また出版社の返品受け 入れ・保管・再出荷基地や、客注サービス専 用フロア、情報の収集・発信基地など、?売 れる本を売れるところへタイムリーに供給す る?ために必要な機能をすべてセンター内に 集めた。
 センターは五階建てで延べ床面積は七万六 〇〇〇平方メートル。
注文品のオペレーショ ンは一〜三階で行う。
書店から注文が入ると 三階の在庫センターでハンディターミナルによ るトータルピッキングを行いコンベアで一階へ 搬送する。
 立体自動倉庫に一時入庫後、送品作業計 画に基づいて出庫し、一冊ずつ送品用の高速 自動仕分け機に投入して書店別に仕分ける。
送品用ソーターは三基あり、シュート数は合 わせて一二〇〇。
一日に四バッチで四〇〇〇 〜五〇〇〇軒分を処理する。
 仕分ける際に書籍のバーコードまたはIS BNコードを読んで書店別の送品データを取 得する。
これをもとに梱包単位で商品明細を 作成して書店へ送り、梱包ラベルのバーコー ドに明細情報を紐付けておく。
 機械化によって送品ミスはほとんどなくな り、書店の検品レスが可能になった。
リーダ ーライターなどが整った書店ならば、梱包ラ ベルのバーコードを活用して入荷・検品・在 庫更新まで一度に処理することもできる。
 返品処理は二階のソーターで行う。
返品さ れた書籍のコードを読んで入帳データを取得 し出版社別に仕分ける。
書店は返品伝票を作 成する必要がなくなり、出版社も返品を受け 入れる際の検品を省略できるようになった。
 返品処理の済んだ書籍の一部は出版社へ戻 さず、センターの五階へ入庫する。
五階には、 返品された書籍を改装して再出荷するための 基地が設けられている。
〇五年七月にトーハ ンが三八社の出版社と共同で設立した「出版 QRセンター」が運営にあたり、現在、四五 の出版社が利用している。
 一般に新刊で売れ行き好調なものは出版社 の取り置き在庫がすぐになくなる。
このため 書店が追加発注をしても入手が難しく販売機 会のロスにつながるケースが多い。
 ただし地域性などの違いから同じ商品でも 書店によって需要にはバラツキがある。
品切  07年に全面稼働した書籍の大型流通基地「桶川 SCMセンター」で出版社・書店と情報を共有して需 給のギャップを解消する仕組みをつくり、返品の減 少に成果を上げた。
80万点の在庫を用意し客注への 充足率も高めた。
さらに今年度はICタグを活用して オリコン配送を出荷量の8割まで拡大する計画だ。
物流拠点 トーハン 出版社・書店と情報を共有しSCM推進 返品率の削減と客注の充足率向上に成果 73  APRIL 2011 れを起こす書店がある一方で売れ残って返品 する書店もある。
返品された商品を改装して 売れる店へタイムリーに送品すれば、需給ギ ャップを埋めることができる。
 だが返品商品をいちいち出版社へ戻してい ては再出荷までに日数がかかり、売れるタイ ミングを逃してしまう恐れがある。
無駄な費 用も発生する。
そこでトーハンの桶川SCM センター内に出版社が共同で改装・保管・再 出荷する基地を設けて業務を効率化し、返品 された商品をただちに改装して再出荷できる ようにした。
 QRセンターの業務は二階の返品処理と連 携して行う。
二階に商品が返品されると、Q Rセンターに業務を委託している四五社分に ついては返品処理後に五階のQRセンターに 入庫する。
 ただし新刊など出版社に取り置き在庫のな い銘柄が返品された場合には別の処理を行う。
取り置き在庫のない銘柄の注文が書店から入 った時点で銘柄を登録しておく。
登録銘柄が 返品されると出版社別仕分けをせずにライン から払い出し、発注データに引き当て、その まま二階で改装処理を施し再出荷する。
 出版社へ戻して改装・再出荷する方法と 比べて再出荷までの日数が一週間ほど短縮し、 書店の発注に対するクイックレスポンスを実現 した。
八〇万在庫で一〇〇%のヒット率  四階は、トーハンの一〇〇パーセント子会 社の「ブックライナー」が運営する客注サー ビス「本の特急便」の専用フロアだ。
書店で はほとんど在庫を持たない動きの鈍い商品を 扱う。
 書店の見込み発注で売れ残れば返品される 「注文品」と違い、「客注品」は売り先の決ま った確実に売れる商品だ。
客注の充足率向上 は売り上げの拡大に直結する。
そこでブック ライナーがこうした商品の在庫を用意し、「特 急便」加盟店への客注に対応している。
 従来は川口市内に一二〇〇坪の倉庫を設け、 四〇万点(タイトル)の在庫を持って「特急 便」サービスを行っていた。
桶川SCMセン ターの建設に伴い同施設の四階にその機能を 移管した。
保管スペースを三〇〇〇坪まで拡 大して在庫を六〇万点に増やした。
書籍のほ かに雑誌のバックナンバーやマルチメディア商 品なども新たに在庫に加えた。
 客注品は一タイトルあたりの注文総数が極 めて少なく、典型的な多品種少量型の物流形 態をとる。
保管効率を上げるために「特急便」 フロアでは六〇万タイトルの商品を本棚に縦 に並べ、すべてフリーロケーションにしている。
 ジャンルに関係なく空いている棚に商品を 入庫する。
コミックの隣に専門書が並ぶこと もあれば、同じタイトルの本が別の間口に分 れて入庫することもある。
ロケーションを固 定していないため短い動線で入庫作業を行う ことができる。
入庫の際にハンディターミナル で間口のロケーション番号と商品を紐付ける ことによって全商品の在庫を管理している。
 四階の客注専用フロアとトーハンが三階に 持つ在庫をあわせると、桶川SCMセンター 全体の在庫点数は八〇万点に上る。
これはト ーハンが年間に扱う書籍のアイテム数に相当 する。
流通中の全書籍をほぼカバーできると 書店 桶川SCM センターを核とした書籍流通の全体像 返品 読者 商品情報 の発信 情報の共有 トーハン 情報の共有 出版社 責任販売 責任販売 販売 POSレジ 検品レス起票レス 新商品情報 品揃え提案 (補充発注推奨) 桶川SCMセンター 提案 需要予測 市場の理論在庫 発注データ POSデータ 送品データ 返品データ データ管理室 送品 在庫・出庫 現品を単品・書店ごとに 全部読み取り、入帳 仕分け・出荷 新商品 情報 商品搬入 返品 ●市場在庫情報 ●物流在庫情報 タイムリーな 重版計画 出版QR センター 改装・出庫作業の協業化 予約 発注 (客注) APRIL 2011  74 同社では見ている。
 実際に桶川に移転後の客注品のヒット率は、 出版社にも在庫のない絶版本を除けば一〇 〇%近いという。
現在、四五〇〇の加盟店が 「特急便」のサービスを利用している。
 桶川SCMセンターの一階から五階までの 各フロアでオペレーションを通じ取得された情 報は、事務棟の「データセンター」にリアル タイムで蓄積される。
送品データ(新刊を含 む)が一日一六〇万冊分、返品データが一日 六五万冊分という膨大な量だ。
このほかデー タセンターには毎日、全国三〇〇〇軒の書店 からPOSデータが集まる。
 これらのデータをもとに書店別の在庫を算 出したり、銘柄別に市場の在庫数を推計して 需要予測を行う。
その情報を出版社・書店と 共有することにより、書店の適正な仕入れを 支援し、出版社にはタイムリーに重版を行う 材料を提供する。
その結果として返品の減少 と売り上げの拡大を図るというのが桶川SC Mセンターの構想時に描いた青写真だ。
販売・在庫情報もとに自動補充  トーハンはこれを具現化するため、〇九年 に桶川SCMセンターの機能を活用した二つ の施策を相次ぎ打ち出した。
 一つめは「MVPサプライ」と名付けた商 品供給の新しい仕組みだ。
トーハンの開発し たアプリケーションを使い、桶川SCMセン ターで取得した送品・返品データと書店のP 一一年一月の実績には、新供給システムの成 果が明確に現れている。
MVPサプライを導 入した店の返品率は、未導入店よりもジャン ルによって一・五〜二・三ポイント低かった。
しかも売り上げは前年同期を二・〇〜八・ 三%上回っている。
 MVPサプライと並ぶもう一つの施策は、 書店に対して高マージンを約束する代わりに 返品に制限を設ける責任販売制度の導入だ。
トーハンでは以前から導入を検討していたが、 「どの書店から何がいくつ返品されたか」を 正確に把握できないことが運用面で課題だっ た。
桶川SCMセンターで書店別・銘柄別の 返品データを取得できるようになったため本 格的に導入を開始した。
 責任販売の銘柄を同社では「MVPブラン ド」の総称で呼んでいる。
出版社と商品の製 造段階から話し合い、マージン率や返品の許 容範囲などの条件を銘柄ごとに設定する。
す でに二〇銘柄のMVPブランドを開発してい る。
 これらの施策の結果、一〇年度上半期は返 OSデータから書店別・銘柄別の在庫数を算 出し、書店ごとに立地・店舗面積・地域で の競合関係などを加味して需要予測を立てる。
これらの数値をもとに、個々の書店にとって 最適な仕入れ数を提案して供給する。
 売れ行きの好調な新刊についてはトーハン がMVPサプライ専用の在庫を確保しておき、 店頭で欠品になる前に自動補充して売り損じ を防ぐ。
単純に売れた分を補充するのではな く、桶川のデータセンターで毎日、書店の販 売状況と在庫数を追いかけながら補充数を決 める。
売れ行きが鈍くなるにつれて徐々に補 充数を減らし、なるべく返品が起こらないよ うにする。
 まずは店頭の品揃えのおよそ二割を占め改 善効果の大きいコミックと文庫を中心にMV Pサプライの導入を進めている。
ほかのジャ ンルの商品と比べ年間を通じて売り上げが安 定していて需要を予測しやすく、巻数ものが 多いため早い時期に出版社の刊行計画を入手 し書店に仕入れ部数を提案できることから先 行させた。
 スタート当初は新刊の出荷基地である本社 にMVPサプライ専用の在庫を持ち担当部署 のスタッフが手作業で対応していた。
数量の 拡大とともに桶川SCMセンターの三階に在 庫を移し、注文品のオペレーションのなかに 組み込んで業務を効率化した。
 これまでに一三〇〇軒の書店がMVPサ プライを導入している。
直近の一〇年四月〜 栃木裕史ロジスティクス部長 兼桶川SCMセンター副センタ ー長 75  APRIL 2011 向けの返品にはオリコンを導入している。
使 用後に出版社が注文品を入れてトーハンへ送 品する形で回収している。
 しかし出版社と違って書店は全国に分散し 回収に不安があった。
このためICタグ(U HF帯)によるオリコンの供給・回収管理シ ステムを開発し、運用試験を経て〇九年秋か ら一部の書店向けに導入を開始した。
注文品 をICタグ付きオリコンで書店へ納品し、書 店から返品をオリコンで回収する。
 注文品の物流拠点を桶川SCMセンター一 カ所に集約したことでシンプルな管理ができ るようになった。
センターの一階で書店別に 仕分けた後でオリコンに詰めて梱包し、方面 別に仕分ける際にICタグのIDを読んで送 品先の書店を紐付ける。
返品時には垂直搬送 機で二階へ入庫する際にパレットごとICタ グを読む。
これにより「どの書店にいつ送品 したどのオリコンが回収された」という管理 を行う。
 オリコンのサイズは大小二種類に統一した。
大きいサイズには文庫本が八〇冊、小さいサ イズには五〇冊入る。
底面積は同じで高さが 異なる。
大型を二段積みにした高さが小型を 三段積みにした高さと同じになる。
底面の 縦横サイズは出版物で主流となっている九〇 〇×一一〇〇ミリのパレットサイズに合わせ て規格を決めた。
 これまでに出版社向けと書店向けを合わせ て四〇万枚のオリコンを投入している。
書店 向けはこのうち一〇万枚で、一日一万ケース をオリコンで送品している。
回収率は九八% で当初の想定よりも高い数値だという。
 今年度中に桶川で扱う量の八割まで拡大す る。
一〇〇万枚を投入して段ボールからオリ コンに切り替え、年間に一六〇〇万枚のオリ コン配送を実施する計画だ。
その場合、年間 六億円の資材費を削減でき、四〇〇〇トンの CO2排出量を削減できると試算している。
 出版業界でこれだけの規模のオリコン配送 を実施するのはトーハンが初めて。
出版物は 主に路線便の共同輸送網によって書店へ配送 される。
同社はオリコン配送を業界全体の取 り組みに拡大することによって輸送効率化や グリーンロジスティクスをさらに推進できる と見て、日本出版取次協会の物流部会などで 規格の統一を訴えている。
栃木部長は「ゆく ゆくはオリコンの共同利用も考えていきたい」 とも話している。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 品率が前年同期よりも総合で〇・八ポイント 下がった。
このうち書籍の返品率は一・〇ポ イント下がっている。
 同社のSCMプロジェクトは商品開発・仕 入れ・物流などの複数部門が連携して進めて いる。
物流部門を担当する執行役員の栃木裕 史ロジスティクス部長兼桶川SCMセンター 副センター長は「今後はほかの部門といっし ょに出版社と(データセンターの)オープンネ ットワークでの情報共有をもっと強力に進め たい」と話す。
 現在、およそ五〇〇社の出版社と在庫デー タを交換している。
ただしこのなかには在庫 の有無の情報しか提供してもらえないところ もある。
「より詳細なデータ交換によって在庫 のストックポイントを絞り込むことで、書店の 注文に対するレスポンスをもっとすばやくで きるようになる」と目論む。
ICタグ活用でオリコン配送を拡大  桶川SCMセンターではこれ以外に構想段 階からの施策として、注文品の配送にプラス チック製折りたたみコンテナの導入を進めて いる。
従来の段ボールによる配送は、書店側 で使用済み段ボールの処理負担が発生し、輸 送中の荷傷みも起こりやすい。
リターナブル 容器に変えることでこれを改善する。
返品に も利用できるため書店は返品用段ボールを購 入しなくて済む。
 桶川SCMセンターの稼働当初から出版社 桶川SCM センターの作業エリア

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