第２部これから物流に何が起きるのか倉庫　物流不動産市況の行方を読む所有と利用の分離が加速するＧＬプロパティーズ　三木真人　社長[特集]：ロジスティクス・ビジネス[LOGI-BIZ]バックナンバー

2011年5号

特集
第２部これから物流に何が起きるのか倉庫　物流不動産市況の行方を読む所有と利用の分離が加速するＧＬプロパティーズ　三木真人　社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2011　　44 当日中に被害額を発表　三月十一日、ＧＬプロパティーズの東京本社ではジェフリー・シュワルツ会長や三木真人社長らによるミーティングが午前九時から続いていた。
午後になってようやく会議が終了すると、シュワルツ会長は宿泊していたホテルへ戻り、その日夕方の便で日本を発つ準備に取りかかった。
一方、三木真人社長らはオフィスでピザを食べながら一息ついていた。
そこに、あの震災が起きた。
　シュワルツ会長はホテルのエレベーターが不通となったことや空港までの道路が大渋滞したことからその日の出国を断念。
オフィスに戻ると震災時に偶然、日本に居合わせた欧米財界人のもとに海外メディアからのインタビューがいくつも舞い込んだ。
一方の三木社長らは被害状況の把握に奔走した。
三木社長は言う。
　「当社ではこうした緊急時に対応するためのマニュアルが整備されている。
今回の対応もそれに沿うかたちで進めた。
ただちに災害対策本部を立ち上げ、私が本部長に就いた。
まずは従業員の安否確認。
その方法も決まっている」　外出している従業員は緊急時用のメーリングシステムを使い、安否を知らせることになっている。
『自分は無事か』『家族は無事か』といった項目があらかじめアンケート形式でフォーマット化されており、従業員はそれに答えて送信する。
その連絡が本部に次々と入ってくる。
幸い、人的な被害は出さずに済んだ。
　次に保有する物流施設への被害状況の情報収集。
その段階では震災の影響が東北に限ったものなのかどうか判断がつかなかったため、全国六九棟全ての状況を調査することにした。
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韮魅廛蹈僖謄�璽困漏栃��楡澆隆浜�筌瓮鵐� ナンスといった現場業務を協力会社にアウトソーシングしている。
衛星電話や物件に導入している緊急時用の安否確認システムを使って彼らと連絡を取り合い、建物への被害状況やオペレーションへの支障を確認した。
調査の結果、東北地方を中心に、一部施設の破損や不具合が生じていることが明らかになった。
　「ここまで地震発生から約五時間。
日頃から緊急時に伝えるべき内容の確認や、情報伝達の訓練をしていたことが、迅速な状況確認に繋がった」　そこからは二つのフローを同時に進めた。
その一つが投資家へのアナウンスだ。
ＧＬＰグループはシンガポール証券取引所に上場している。
同社に出資している投資家が被害状況や損害の金額、経営に与えるインパクトがどれほど大きいのかを知りたがっていることは明白だった。
しかも欧米では震災に関して実態以上の深刻な報道がされていた。
東京に津波が押し寄せていると誤解している人も少なくなかったという。
　「これを放っておけば世界中の投資家が不安を募らせ、当社グループの株価にも影響が出てしまう可能性があった。
我々の物流施設は関東圏と関西圏に集中している。
関東でも一部被害は出たが、どこまで広がっても当社全体に与える影響はそれほど大きくならないことは明らかだった。
そのことを投資家に伝えるため、震災当日のうちに第一報を打った」　可能な限りかき集めた情報を分析し、被害額の見通しを五八三〇万ドル、日本円にして四七億九〇〇〇万円と弾いて、発表した。
日本の資産は総所有と利用の分離が加速する第２部これから物流に何が起きるのか倉庫　物流不動産市況の行方を読むＧＬプロパティーズ　三木真人　社長　地震発生から約5時間で社員安否と建物被害を把握し、その日のうちに被害額の見通しを投資家に発表した。
同時に施設の復旧作業にも着手し、物流不動産専業としての対応力の高さを示した。
震災により不動産を所有することのリスクが顕在化したことで、今後は欧米市場のように所有と利用の分離が進むとみている。
　　　　　（石鍋圭）特集 3・11どうなる物流 45　　MAY 2011 額約五二〇〇億円にのぼる。
全体の資産に占める被害の割合は一％にも満たないことを周知した。
時間をかけて厳密な被害額を算出するより、その規模感をいち早く投資家に伝える方が重要だという判断だった。
　しかも第一報の被害額は最悪のケースを想定したもので、かなり多めに見積もった金額だった。
事実、震災直後の週末にさらに精査したところ被害はもっと軽微だったことが明らかになった。
そこで被害の予想額を計算し直し、週明けには三一億七〇〇〇万円に修正して発表した。
　「結果的に株価は震災には反応しなかった。
こうしたマーケットに対する一連の動きは、株式市場を意識している人間にとっては当然のアクションだったと考えている」施設の復旧工事に着手　マーケットへのアナウンスと並行して、傷んだ物流施設の復旧作業も急いだ。
震災の翌日から被害のあった物件を担当している管理会社や施工会社、エレベータ会社などと連絡を取り、散乱した荷物を片付け、壊れた設備を補修するよう手配した。
　「顧客がオペレーションを再開できるように一日も早く施設を元の状態に戻すことが何より重要なこと。
これができてこそ我々の価値がある。
さらに物流施設というのは社会にとっての重要な基盤でもある。
その機能を回復することが、被災地復興への貢献に繋がっていくと考えた」　復旧作業に際して強みになったのが、自社内にプロパティマネジャーやエンジニアなどを抱えていたことだという。
物流施設に精通したプロフェッショナルが一堂に会し、効率的な応急処置の方法や復旧までのスケジュール、コストの見積もりなどを迅速に導き出すことができる。
それをもとに、管理会社をはじめとする協力企業に的確な指示を次々に出すことができた。
　東北七施設のうち仙台港近くの物件では周辺エリアのインフラがストップしていることもあり復旧が遅れているが、その他の物件に関しては震災から一週間程度で大半の機能を回復することに成功した。
　「もしこうしたプロフェッショナルをインハウスで抱えておらず、全てをアウトソーシングしていたら、復旧にはもっと遅れが生じていたかも知れない。
こうした人材を抱えていることは、当社にとって大きなメリットだと改めて認識した」　足下では同社の物流施設に対する短期的なニーズが生じている。
東北地方では多くの倉庫が流されたり、致命的なダメージを受けている。
その代替施設として、一時的にＧＬプロパティーズの施設を利用したいという声が多いという。
同様の引き合いは関東圏でも多く発生している。
　「我々が開発した物流施設は免震構造になっており、今回の震災でも建物自体にダメージを受けることはほとんど無かった。
代替施設として機能できている。
当社としては本来、長期契約を志向しているが、短期的なニーズであっても可能な限り柔軟に対応し、少しでも困っている方々の役に立ちたい」　震災の中長期的な影響として、物流不動産を所有することのリスクが再認識される可能性があると三木社長は指摘する。
物流施設を所有・管理するには膨大なコストや手間がかかる。
専門的なノウハウも必要になる。
それに加え、自然災害によるリスクも顕在化した。
荷主が本業ではない物流分野に大きな投資をすることが果たして妥当なのかどうか、再検討が始まるとみている。
　「物流不動産を我々のような専業に任せてもらえれば資金的・人的な余裕が生まれ、それを事業のコアに回すことができる。
リスクも避けることができる。
何かトラブルがあった場合でも、専業の方がよりスムーズに対応できる。
震災はそうしたことを改めて考える一つのきっかけにはなるのではないか。
今後、日本においても欧米市場のように物流施設の『所有と利用の分離』がこれまで以上に進展する可能性がある」被災した仙台市のセンター。
1週間後には復旧した