2011年5月号
ケース
ケース
アシックス グローバル化
MAY 2011 50
巨大欧米メーカーとの競争が本格化
スポーツ用品メーカーとして国内最大手の
アシックスは、二〇一〇年度を最終年とする
五カ年の中期経営計画「アシックス・チャレ
ンジ・プラン」(ACP)で、マーケティング
戦略を大きく転換した。
かつてのアシックスは「総合メーカー」を志 向していた。
主力のスポーツシューズ以外に スポーツウエアやウィンタースポーツ用品など を幅広く扱い、カバーする競技という面でも、 ランニングだけでなくサッカーや野球、ゴルフ など全方位に目配りしていた。
ACPでは「ランニング事業で世界ナンバ ーワンをめざす」という経営方針の下に、「総 合」の旗を降ろした。
ランニング事業をビジ ネスの中核に据え、競技志向の「アシックス」 と、ファッション性を重視した「オニツカタイ ガー」を二大基幹ブランドに設定。
それ以外 のサブブランドの統廃合を進めた。
組織も見直した。
〇五年に全世界を統括す るマーケティング部門を日本の本社に初めて 設置。
それまでは世界四極(日本、米国、欧 州、アジア・パシフィック)で別々に進めて いた活動を、本社が主導して一元的に管理す る体制に改めた。
一連の改革はグローバル競争が本格化して いることへの対応だ。
アシックスの海外販売 比率は、九〇年代には総売上の二五%程度に 過ぎなかった。
それが二〇〇〇年代に入って 急拡大し、〇六年には五〇%を越えた。
今期 からスタートした新中計では二〇一五年度に 七五%という数値目標を掲げている。
グローバル市場でライバルとなるのは、米 ナイキや独アディダスなど、強力なマーケティ ングを武器とする巨大メーカーだ。
彼らとブ ランド力という点からも対抗していかなくて はならない。
およそ半世紀前、ナイキの創業者であるフ ィル・ナイト氏は、日本で出会ったオニツカ のシューズの高機能と低価格に驚き、米国で オニツカの販売代理店を営んでいたことがあ るという。
このエピソードに象徴されるよう に、かつてのアシックスは、高機能の製品さ え作れば市場に受け入れられるという発想に 立つプロダクト・アウト型の企業だった。
国内のマーケティング調査から浮かび上がっ てくるアシックスの一般的なイメージは、「部 活動で履いていた」とか「ジャージを買わさ れた」といったもの。
身近な存在ではあるが、 際立つ個性を欠いていた。
世界四極で別々にマーケティング活動を実 ブランドイメージをグローバルに統一し、かつコス トを抑制することを狙って、世界各地の直営店で使 う什器の調達先を中国に一元化した。
複数のサプラ イヤーから集荷した什器類を上海の物流園区にいっ たん保管。
ここから世界各地に送り込む物流体制を 構築した。
グローバル化 アシックス 店舗で使う什器の調達先を中国に一元化 物流園区に保管し世界各地の売場に供給 グローバルセールス・マーケ ティング統括室セールス・リ テールマーケティングチームの 玉井史朗マネジャー 51 MAY 2011 施していた従来は、ブランドの顔となる企業 ロゴでさえ統一されていなかった。
アシック スの企業ロゴは本来、白地に青い文字で描か れている。
ところが青色を好まない国では、 現地の判断でロゴの色を赤や黄色に変えたり、 緑に白抜きにするといったことが勝手に行わ れていた。
製品の陳列などに使う店舗什器や 店舗デザインも不統一だった。
アシックスは以前から百貨店の一角などに ショップ・イン・ショップと呼ばれる「自主管 理売場」を直営で運営していた。
しかし、そ こにも統一された指針はなかった。
まして卸 売業者に依存するその他の流通チャネルとな ると、なおさらアシックスの意向どおりにイ メージを発信するのは難しい。
この状況を変えるために、〇七年二月にラ ンニング用品専門の直営店「アシックスストア 東京」を銀座にオープンさせた。
店舗デザイ ンから運営までを完全にアシックスが手掛け るアンテナショップである。
ほぼ同じ時期に 開催された「東京マラソン二〇〇七」のオフ ィシャルスポンサーも務め、ランニング事業に 注力する姿勢を鮮明にした。
この東京マラソンの開催を一つのきっかけ として盛り上がった近年のランニング・ブーム の追い風もあって、「アシックスストア東京」 は予想を上回る成果を上げた。
新たな女性ユ ーザーの獲得にも成功し、狙っていた売り上 げの約二倍の実績を残すことができた。
アシックスのグローバルセールス・マーケテ ィング統括室でセールス・リテールマーケテ ィングチームを率いる玉井史朗マネジャーはこ う振り返る。
「最初はすべてが手探りだった。
正直なと ころ、このモデルが成功するかどうかもわか らなかった。
だが予想を上回る実績を残せた ことで、自分たちの立てたコンセプトに確信 が持てた。
わずか一店舗で成功しただけだっ たが、このモデルを国内外に展開していくこ とを決めた」 国際輸送で什器の破損が多発 〇八年三月、二号店となる「アシックスス トア大阪」を開設した。
ここに至って、ゼロ から蓄積してきた店舗運営のノウハウを文書 にまとめ、内装のルールや、接客サービスな どを標準化した約四〇〇ページのガイドライ ンを作成した。
次の段階では、これを競争力のあるかたち で世界各地に展開しなければならない。
その ために店舗で使う棚や備品、紙袋などの什器 類を、生産コストの安い中国で一元的に調達 することを検討しはじめた。
中国から世界中に什器を供給すれば、各地 で現地調達するよりも輸送費は当然高くつく。
しかし調査の結果、中国でまとめて調達する ことで輸送費の増加分を上回るコストメリッ トが得られることを確認できた。
直営店の什 器を集中管理することで、ブランド戦略上も やりやすくなる。
さっそく中国で什器のサプライヤー候補に なりうる現地企業との接触を開始した。
コス トを抑えるため、工場を持つサプライヤーと アシックスが直接取引することを基本方針と 過去10 年でアシックスの海外販売比率は急拡大した 00/3 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 00/3 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 (億円) 地域別売上高の推移 250 200 150 100 50 0 (億円) 地域別利益の推移 その他 ヨーロッパ アメリカ 日本 その他 ヨーロッパ アメリカ 日本 MAY 2011 52 して、商社に頼ることは避けた。
有力なサプライヤーさえ開拓できれば、世 界各地に什器を送り出す業務は何とかなる、 と考えていた。
すでに当時からアシックスは、 中国国内で生産した製品を世界各地に送り出 していた。
そうした物流管理の一環で什器も 扱おうとした。
しかし、そこに落とし穴があった。
トライ アルを兼ねて中国から什器を船便でヨーロッ パ向けに発送したところ、輸送中の破損事故 が多発してしまったのである。
新規で開設す る店舗ではオープン日に合わせてすべてのプ ロジェクトを動かしている。
什器の破損でス ケジュールが狂えば大きな損失を避けられな い。
実際、破損品に代わる什器を中国から航 空貨物で緊急輸送したことで想定外のコスト が発生するという事態にも直面した。
しっかりと箱詰めされた製品であれば、パ レットに積むなどして効率的に運ぶことがで きる。
だが什器はそうはいかない。
製品を店 舗の壁際に並べる棚や、ウエアを展示するハ ンガーラック、マネキン、椅子などは、荷姿 やサイズがまちまちでオペレーションに手間が かかる。
しかも多品種少量で、製品物流と一 緒に扱うのには無理があった。
什器の調達を中国に一元化するうえでポイ ントになるのは、国際物流の仕組みであるこ とを思い知らされた。
製品と什器を物流部門 が一緒に管理するのは現実的ではないと判断 して、什器の物流管理はマーケティング部門 このときヤマトロジの担当者は、上海の「物 流園区」を活用するアイデアを提案してきた。
物流園区とは保税区の一種で、さまざまな特 例措置が認められている。
園区に荷物を搬入 すると、その時点で輸出したものとみなされ、 中国に住んでいない非居住者の名義に所有権 を移転できる。
園区内で流通加工のための作 業を施すことも可能だ。
ヤマトロジは園区内に拠点を構えている。
そこに什器を搬入すれば、その時点でアシッ クスの本社に所有権を移転できる。
店舗別の 仕分けなどの作業もできる。
しかも園区を利 用すれば、「増値税」(日本の消費税に相当)の 早期還付などによってサプライヤーの資金繰 りを改善する効果がある。
サプライヤーとの 条件交渉に有利に働く。
話はトントン拍子で進み、〇九年春、アシ ックスは什器物流のパートナーにヤマトロジを 選ぶことを正式に決定した。
その後、情報システムの構築を進めた。
ヤ マトロジが持つシステムをアシックス仕様にカ スタマイズして、受発注処理やフォワーディ ング業務の管理、そして園区内にある物流拠 点での倉庫管理までを包括的にこなせる仕組 みを整備した。
アシックスは現在、情報シス テムの使用料を定期的にヤマト側に支払って いる。
玉井マネジャーは、「ヤマトさんと組んだこ とで、アシックスの日本の本社が商社のよう な立場で什器のオペレーションをハンドリン が担うという役割分担を決定。
仕組みの構築 に乗り出した。
とは言え、マーケティング部門に物流管理 のノウハウはない。
「貿易管理グループや法務 の担当者にアドバイスをもらいながら作業を 進めた」(玉井マネジャー)。
商社を介在させる つもりは最初からなかっただけに、受発注を 効率的に処理できる仕組みから、輸送トラブ ルに伴う責任のルール化まで一つずつ構築し ていく必要があった。
ヤマトロジスティクスをパートナーに 複数の什器サプライヤーと契約する以上、 異なる場所で生産される什器をどこかで配送 先ごとに仕分けなければならない。
これを商 社のような中間流通業者を介在させずに中国 国内で手掛けるのは簡単ではなく、かといっ て第三国に持ち出して処理すれば余計なコス トが掛かってしまう。
不慣れな業務に悪戦苦闘していた玉井マネ ジャーにとって、〇八年秋の中国出張が転機 となった。
什器サプライヤーを新たに開拓す るために中国を訪れたとき、上海でヤマトロ ジスティクスの現地駐在員と話をする機会が あった。
アシックスは〇八年七月から、中国国内で 製品を販売するための物流管理をヤマト運輸 の現地法人に一括で委託している(本誌一〇 年十二月号特集参照)。
その縁でこのミーテ ィングが実現した。
53 MAY 2011 進捗を管理する必要があった。
伝言ゲームの ような煩雑なやりとりに加え、照会者への情 報のフィードバックに時間がかかるという問 題を抱えていた。
時差のために重要な連絡が 遅れ、着荷までのリードタイムが一日延びて しまうことも珍しくなかった。
この状況が新システムの稼働によって抜本 的に改善された。
海外現法の担当者はインタ ーネット経由でシステムにアクセスし、必要 な情報を入力する。
すると即座に、その什器 を調達するために必要な大まかなコストや到 着予定日が画面上に表示される。
これによっ てメールによる伝言ゲームも不要になり、什 器のオペレーションに携わる各地の担当者の 労力は格段に軽減された。
ヤマトロジは、輸送トラブルを減らすため の梱包改革にも積極的に関与してくれた。
多 品種少量で不規則な形状の什器を運ぶときの 問題点を、サプライヤーと一緒に改善。
結果 として輸送中のトラブルは激減した。
昨年十一月から新たな什器管理の仕組みが 本稼働した。
什器サプライヤーの数は少しず つ増え、現在では七社になっている。
玉井マ ネジャーとしては、将来的には二〇社程度ま で増えることを想定している。
こうして中国で一元的に調達した什器の導 入は、世界に六店舗ある「アシックスストア」 からスタートした。
これを現在、徐々にショ ップ・イン・ショップやアウトレット店など に対象を拡大している。
段階を踏んでビジネ ス全体に浸透させていく方針だ。
グローバル部門にSCM担当を配置 アシックスは今年四月、改めて組織を見直 した。
日本以外のマーケティングとセールス を担う部門を統合して、社長直轄の「グロー バルセールス・マーケティング統括室」を新 設。
全社のグローバルビジネスの推進役とし た。
さらに、この部門内に「グローバルSC M」を担当するチームを新設した。
アシックスが組織名称に「SCM」を使う のは初めてのことだ。
過去にも「サプライチ ェーン管理」という言葉は使っていた。
しか し、これは製造業務などを外部委託するサプ ライヤーとの取引を適正化するための管理を 意味しており、需給調整や在庫管理を高度化 する経営手法としてのSCMとはまった く内容が異なっていた。
この組織改革に伴い、これまで製品の輸出 入などを管理してきた部門の役割は「日本に 輸入するための窓口業務」に限定された。
グ ローバル物流の最適化は、新設されたグロー バルSCMチームの管轄下におかれる。
アシックスは今後、SCMシステムの構築 も検討していくとみられる。
その際には、什 器のグローバル物流をローコストで一元管理 できる仕組みを構築した経験が必ず生きるは ずだ。
「当社はまさに今、変わろうとしてい る」と玉井マネジャーは意気込んでいる。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) グすることが可能になった。
什器サプライヤ ーとの契約はすべて本社が代表して結ぶため、 海外現法はサプライヤー管理のリスクや手間 を回避できる。
まさに最適のソリューション だった」という。
従来のやり方では、世界四極の販売拠点に 什器の調達担当者がいて、それぞれに日本の 本社とメールで連絡を取り合いながら作業の 什器の調達先を中国に一元化。
システムを導入しオペレーションを効率化した システムを導入する以前 海外関連会社 (販売現法など) 中国の輸送業者 (国際物流担当) ?照会・発注 ?回答 ?指示?指示 ?回答 ?回答 ?発注 ?指示 ?回答?回答 アシックス (日本の本社) 日本の 輸送業者 中国の 什器サプライヤー(複数) 中国の輸送業者 (中国国内の物流担当) 導入後 海外関連会社 (販売現法など) 中国の輸送業者 (国際物流担当) アシックス (日本の本社) 日本の 輸送業者 中国の 什器サプライヤー(複数) 中国の輸送業者 (中国国内の物流担当) ?アクセス ?回答
かつてのアシックスは「総合メーカー」を志 向していた。
主力のスポーツシューズ以外に スポーツウエアやウィンタースポーツ用品など を幅広く扱い、カバーする競技という面でも、 ランニングだけでなくサッカーや野球、ゴルフ など全方位に目配りしていた。
ACPでは「ランニング事業で世界ナンバ ーワンをめざす」という経営方針の下に、「総 合」の旗を降ろした。
ランニング事業をビジ ネスの中核に据え、競技志向の「アシックス」 と、ファッション性を重視した「オニツカタイ ガー」を二大基幹ブランドに設定。
それ以外 のサブブランドの統廃合を進めた。
組織も見直した。
〇五年に全世界を統括す るマーケティング部門を日本の本社に初めて 設置。
それまでは世界四極(日本、米国、欧 州、アジア・パシフィック)で別々に進めて いた活動を、本社が主導して一元的に管理す る体制に改めた。
一連の改革はグローバル競争が本格化して いることへの対応だ。
アシックスの海外販売 比率は、九〇年代には総売上の二五%程度に 過ぎなかった。
それが二〇〇〇年代に入って 急拡大し、〇六年には五〇%を越えた。
今期 からスタートした新中計では二〇一五年度に 七五%という数値目標を掲げている。
グローバル市場でライバルとなるのは、米 ナイキや独アディダスなど、強力なマーケティ ングを武器とする巨大メーカーだ。
彼らとブ ランド力という点からも対抗していかなくて はならない。
およそ半世紀前、ナイキの創業者であるフ ィル・ナイト氏は、日本で出会ったオニツカ のシューズの高機能と低価格に驚き、米国で オニツカの販売代理店を営んでいたことがあ るという。
このエピソードに象徴されるよう に、かつてのアシックスは、高機能の製品さ え作れば市場に受け入れられるという発想に 立つプロダクト・アウト型の企業だった。
国内のマーケティング調査から浮かび上がっ てくるアシックスの一般的なイメージは、「部 活動で履いていた」とか「ジャージを買わさ れた」といったもの。
身近な存在ではあるが、 際立つ個性を欠いていた。
世界四極で別々にマーケティング活動を実 ブランドイメージをグローバルに統一し、かつコス トを抑制することを狙って、世界各地の直営店で使 う什器の調達先を中国に一元化した。
複数のサプラ イヤーから集荷した什器類を上海の物流園区にいっ たん保管。
ここから世界各地に送り込む物流体制を 構築した。
グローバル化 アシックス 店舗で使う什器の調達先を中国に一元化 物流園区に保管し世界各地の売場に供給 グローバルセールス・マーケ ティング統括室セールス・リ テールマーケティングチームの 玉井史朗マネジャー 51 MAY 2011 施していた従来は、ブランドの顔となる企業 ロゴでさえ統一されていなかった。
アシック スの企業ロゴは本来、白地に青い文字で描か れている。
ところが青色を好まない国では、 現地の判断でロゴの色を赤や黄色に変えたり、 緑に白抜きにするといったことが勝手に行わ れていた。
製品の陳列などに使う店舗什器や 店舗デザインも不統一だった。
アシックスは以前から百貨店の一角などに ショップ・イン・ショップと呼ばれる「自主管 理売場」を直営で運営していた。
しかし、そ こにも統一された指針はなかった。
まして卸 売業者に依存するその他の流通チャネルとな ると、なおさらアシックスの意向どおりにイ メージを発信するのは難しい。
この状況を変えるために、〇七年二月にラ ンニング用品専門の直営店「アシックスストア 東京」を銀座にオープンさせた。
店舗デザイ ンから運営までを完全にアシックスが手掛け るアンテナショップである。
ほぼ同じ時期に 開催された「東京マラソン二〇〇七」のオフ ィシャルスポンサーも務め、ランニング事業に 注力する姿勢を鮮明にした。
この東京マラソンの開催を一つのきっかけ として盛り上がった近年のランニング・ブーム の追い風もあって、「アシックスストア東京」 は予想を上回る成果を上げた。
新たな女性ユ ーザーの獲得にも成功し、狙っていた売り上 げの約二倍の実績を残すことができた。
アシックスのグローバルセールス・マーケテ ィング統括室でセールス・リテールマーケテ ィングチームを率いる玉井史朗マネジャーはこ う振り返る。
「最初はすべてが手探りだった。
正直なと ころ、このモデルが成功するかどうかもわか らなかった。
だが予想を上回る実績を残せた ことで、自分たちの立てたコンセプトに確信 が持てた。
わずか一店舗で成功しただけだっ たが、このモデルを国内外に展開していくこ とを決めた」 国際輸送で什器の破損が多発 〇八年三月、二号店となる「アシックスス トア大阪」を開設した。
ここに至って、ゼロ から蓄積してきた店舗運営のノウハウを文書 にまとめ、内装のルールや、接客サービスな どを標準化した約四〇〇ページのガイドライ ンを作成した。
次の段階では、これを競争力のあるかたち で世界各地に展開しなければならない。
その ために店舗で使う棚や備品、紙袋などの什器 類を、生産コストの安い中国で一元的に調達 することを検討しはじめた。
中国から世界中に什器を供給すれば、各地 で現地調達するよりも輸送費は当然高くつく。
しかし調査の結果、中国でまとめて調達する ことで輸送費の増加分を上回るコストメリッ トが得られることを確認できた。
直営店の什 器を集中管理することで、ブランド戦略上も やりやすくなる。
さっそく中国で什器のサプライヤー候補に なりうる現地企業との接触を開始した。
コス トを抑えるため、工場を持つサプライヤーと アシックスが直接取引することを基本方針と 過去10 年でアシックスの海外販売比率は急拡大した 00/3 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 00/3 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 (億円) 地域別売上高の推移 250 200 150 100 50 0 (億円) 地域別利益の推移 その他 ヨーロッパ アメリカ 日本 その他 ヨーロッパ アメリカ 日本 MAY 2011 52 して、商社に頼ることは避けた。
有力なサプライヤーさえ開拓できれば、世 界各地に什器を送り出す業務は何とかなる、 と考えていた。
すでに当時からアシックスは、 中国国内で生産した製品を世界各地に送り出 していた。
そうした物流管理の一環で什器も 扱おうとした。
しかし、そこに落とし穴があった。
トライ アルを兼ねて中国から什器を船便でヨーロッ パ向けに発送したところ、輸送中の破損事故 が多発してしまったのである。
新規で開設す る店舗ではオープン日に合わせてすべてのプ ロジェクトを動かしている。
什器の破損でス ケジュールが狂えば大きな損失を避けられな い。
実際、破損品に代わる什器を中国から航 空貨物で緊急輸送したことで想定外のコスト が発生するという事態にも直面した。
しっかりと箱詰めされた製品であれば、パ レットに積むなどして効率的に運ぶことがで きる。
だが什器はそうはいかない。
製品を店 舗の壁際に並べる棚や、ウエアを展示するハ ンガーラック、マネキン、椅子などは、荷姿 やサイズがまちまちでオペレーションに手間が かかる。
しかも多品種少量で、製品物流と一 緒に扱うのには無理があった。
什器の調達を中国に一元化するうえでポイ ントになるのは、国際物流の仕組みであるこ とを思い知らされた。
製品と什器を物流部門 が一緒に管理するのは現実的ではないと判断 して、什器の物流管理はマーケティング部門 このときヤマトロジの担当者は、上海の「物 流園区」を活用するアイデアを提案してきた。
物流園区とは保税区の一種で、さまざまな特 例措置が認められている。
園区に荷物を搬入 すると、その時点で輸出したものとみなされ、 中国に住んでいない非居住者の名義に所有権 を移転できる。
園区内で流通加工のための作 業を施すことも可能だ。
ヤマトロジは園区内に拠点を構えている。
そこに什器を搬入すれば、その時点でアシッ クスの本社に所有権を移転できる。
店舗別の 仕分けなどの作業もできる。
しかも園区を利 用すれば、「増値税」(日本の消費税に相当)の 早期還付などによってサプライヤーの資金繰 りを改善する効果がある。
サプライヤーとの 条件交渉に有利に働く。
話はトントン拍子で進み、〇九年春、アシ ックスは什器物流のパートナーにヤマトロジを 選ぶことを正式に決定した。
その後、情報システムの構築を進めた。
ヤ マトロジが持つシステムをアシックス仕様にカ スタマイズして、受発注処理やフォワーディ ング業務の管理、そして園区内にある物流拠 点での倉庫管理までを包括的にこなせる仕組 みを整備した。
アシックスは現在、情報シス テムの使用料を定期的にヤマト側に支払って いる。
玉井マネジャーは、「ヤマトさんと組んだこ とで、アシックスの日本の本社が商社のよう な立場で什器のオペレーションをハンドリン が担うという役割分担を決定。
仕組みの構築 に乗り出した。
とは言え、マーケティング部門に物流管理 のノウハウはない。
「貿易管理グループや法務 の担当者にアドバイスをもらいながら作業を 進めた」(玉井マネジャー)。
商社を介在させる つもりは最初からなかっただけに、受発注を 効率的に処理できる仕組みから、輸送トラブ ルに伴う責任のルール化まで一つずつ構築し ていく必要があった。
ヤマトロジスティクスをパートナーに 複数の什器サプライヤーと契約する以上、 異なる場所で生産される什器をどこかで配送 先ごとに仕分けなければならない。
これを商 社のような中間流通業者を介在させずに中国 国内で手掛けるのは簡単ではなく、かといっ て第三国に持ち出して処理すれば余計なコス トが掛かってしまう。
不慣れな業務に悪戦苦闘していた玉井マネ ジャーにとって、〇八年秋の中国出張が転機 となった。
什器サプライヤーを新たに開拓す るために中国を訪れたとき、上海でヤマトロ ジスティクスの現地駐在員と話をする機会が あった。
アシックスは〇八年七月から、中国国内で 製品を販売するための物流管理をヤマト運輸 の現地法人に一括で委託している(本誌一〇 年十二月号特集参照)。
その縁でこのミーテ ィングが実現した。
53 MAY 2011 進捗を管理する必要があった。
伝言ゲームの ような煩雑なやりとりに加え、照会者への情 報のフィードバックに時間がかかるという問 題を抱えていた。
時差のために重要な連絡が 遅れ、着荷までのリードタイムが一日延びて しまうことも珍しくなかった。
この状況が新システムの稼働によって抜本 的に改善された。
海外現法の担当者はインタ ーネット経由でシステムにアクセスし、必要 な情報を入力する。
すると即座に、その什器 を調達するために必要な大まかなコストや到 着予定日が画面上に表示される。
これによっ てメールによる伝言ゲームも不要になり、什 器のオペレーションに携わる各地の担当者の 労力は格段に軽減された。
ヤマトロジは、輸送トラブルを減らすため の梱包改革にも積極的に関与してくれた。
多 品種少量で不規則な形状の什器を運ぶときの 問題点を、サプライヤーと一緒に改善。
結果 として輸送中のトラブルは激減した。
昨年十一月から新たな什器管理の仕組みが 本稼働した。
什器サプライヤーの数は少しず つ増え、現在では七社になっている。
玉井マ ネジャーとしては、将来的には二〇社程度ま で増えることを想定している。
こうして中国で一元的に調達した什器の導 入は、世界に六店舗ある「アシックスストア」 からスタートした。
これを現在、徐々にショ ップ・イン・ショップやアウトレット店など に対象を拡大している。
段階を踏んでビジネ ス全体に浸透させていく方針だ。
グローバル部門にSCM担当を配置 アシックスは今年四月、改めて組織を見直 した。
日本以外のマーケティングとセールス を担う部門を統合して、社長直轄の「グロー バルセールス・マーケティング統括室」を新 設。
全社のグローバルビジネスの推進役とし た。
さらに、この部門内に「グローバルSC M」を担当するチームを新設した。
アシックスが組織名称に「SCM」を使う のは初めてのことだ。
過去にも「サプライチ ェーン管理」という言葉は使っていた。
しか し、これは製造業務などを外部委託するサプ ライヤーとの取引を適正化するための管理を 意味しており、需給調整や在庫管理を高度化 する経営手法としてのSCMとはまった く内容が異なっていた。
この組織改革に伴い、これまで製品の輸出 入などを管理してきた部門の役割は「日本に 輸入するための窓口業務」に限定された。
グ ローバル物流の最適化は、新設されたグロー バルSCMチームの管轄下におかれる。
アシックスは今後、SCMシステムの構築 も検討していくとみられる。
その際には、什 器のグローバル物流をローコストで一元管理 できる仕組みを構築した経験が必ず生きるは ずだ。
「当社はまさに今、変わろうとしてい る」と玉井マネジャーは意気込んでいる。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) グすることが可能になった。
什器サプライヤ ーとの契約はすべて本社が代表して結ぶため、 海外現法はサプライヤー管理のリスクや手間 を回避できる。
まさに最適のソリューション だった」という。
従来のやり方では、世界四極の販売拠点に 什器の調達担当者がいて、それぞれに日本の 本社とメールで連絡を取り合いながら作業の 什器の調達先を中国に一元化。
システムを導入しオペレーションを効率化した システムを導入する以前 海外関連会社 (販売現法など) 中国の輸送業者 (国際物流担当) ?照会・発注 ?回答 ?指示?指示 ?回答 ?回答 ?発注 ?指示 ?回答?回答 アシックス (日本の本社) 日本の 輸送業者 中国の 什器サプライヤー(複数) 中国の輸送業者 (中国国内の物流担当) 導入後 海外関連会社 (販売現法など) 中国の輸送業者 (国際物流担当) アシックス (日本の本社) 日本の 輸送業者 中国の 什器サプライヤー(複数) 中国の輸送業者 (中国国内の物流担当) ?アクセス ?回答
