2011年5月号
現場改善

第100回 燃料不足と闘う中小運送会社たち

77  MAY 2011 ローリーを併走させて長距離輸送  大震災から六日目のことだった。
筆者の元に、 あるメーカーから重油を運んでくれる運送会社 を至急紹介して欲しいという依頼が入った。
輸 送だけではなく、重油を確保して、岩手に納品 するというかなりハードルの高い依頼内容であ った。
 この連絡を受けたのは、三重県の物流会社 A社に向かって車を走らせているところであっ た。
いったん電話を切り、ハンドルを握りなが ら、どこかに対応してくれる会社はないかと考 えを巡らせていたところ、A社が浮かび上がっ た。
今から向かう物流会社である。
 早速、A社の会長に連絡を取り、事情を説明 した。
面倒見の良さと強いリーダーシップを持 つA社の会長は二つ返事で「よっしゃ、わかっ た。
何とかしよう」と快諾してくれたのであっ た。
 ただし、一つ問題があるという。
仮に三重か ら岩手の花巻まで運ぶとすると片道で一〇〇〇 キロ弱、往復だと約二〇〇〇キロの走行になる。
燃費をリッター四キロとして計算しても五〇〇 リッターの軽油が必要だ。
A社のローリー車の タンクには二〇〇リッターしか入らない。
しか し今の状況では現地で給油することはできない とのことだった。
 それを受けて著者は、燃料輸送用の車両を並 走させて二台で運べないかと提案した。
すると 会長は「できるが、運賃が二台分かかる」とい う。
再度、依頼のあったメーカーにそのことを 伝えた。
すぐに「今はコストの問題ではない」 という回答が返ってきた。
 A社は早速、準備に入った。
具体的には?車 両の点検、?ドライバーの選定、?管轄警察署 (公安委員)への「緊急物資輸送」許可証の発 行手続、?重油の確保である。
 このうち重油の確保は、A社だからこそ実現 できたことだった。
会長の人脈を使って近隣の 様々なところから計一四キロリットルもの重油 をかき集めた。
工場の操業維持には十分な量だ った。
 A社の活躍はまだ続く。
納入予定であった金 曜日よりも二日も早く、水曜日にローリー車を 現地に到着させた。
運行の妙であった。
東北の 内陸道路は渋滞と被災の影響から通行できない 箇所があると予測し、日本海側を迂回して岩手 に入った。
そして三重県から約半日あまりの一 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  車両とドライバーの用意はできている。
輸送ルートも確保 した。
ところが燃料がない。
中小の物流会社は燃料の供給 も後回しにされがちだ。
このままでは荷主の要請に応えられ ないだけでなく、会社の存続自体が危うい。
各地でギリギリ の闘いが続いている。
燃料不足と闘う中小運送会社たち 第100 回 MAY 2011  78 四時間の連続走行をツーマンドライバーで実現 したのであった。
 しかしジャストインタイムとは良く言ったもの で、C社のローリー車の到着は皮肉にも早過ぎ た。
工場の燃料タンクにまだ空きができておら ず、流し込み(荷卸し)ができなかったのであ る。
 ローリー輸送の依頼は殺到しており、車両に は次の被災地に向かう予定が入っていた。
工場 側とギリギリの調整を行ったが結局、一泊待機 しての流し込みとなったのであった。
 それでもA社の会長は筆者には一言も愚痴を 言わず、「もう届けたよ」と一報を入れてくれ た。
A社の適切な準備、手際の良さ、そして 教育されたドライバーによる「心・技・体」が、 このメーカーを操業停止から救ってくれたので あった。
 震災以降、ローリー車は全国でフル稼働して いる。
しかし、震災前まではガソリンスタンド の減少が長く続いていたこともあって、「過去に はローリー車を所有していたが現在は廃車にし ている」、「台数を大幅に減らし、かつ小型化の 傾向にある」といった話ばかりを筆者は耳にし ていた。
今や稀少となってしまったローリー車 が、どれだけ重要な役割を担っていたのか、改 めて痛感させられたのは筆者だけではないはず だ。
荷主が無償サービスを要求  ローリー車の活躍は、北関東に本社を置き広 域配送を行っている中堅物流会社のB社でも見 られた。
B社は石油業界、住宅、アパレル、食 品といった様々な業種の荷主に対応し、原料か ら製品まで幅広く取り扱っている。
 B社の主力業務の一つが、港で陸揚げされた コンテナをそのまま目的地まで運ぶドレージ輸 送だった。
これが今回の震災で大きな被害を受 けた。
B社は関東から東北にかけて計九港にド レージ業務対応の営業所を設置していた。
この うち八営業所が津波によって大きな損傷を受け、 閉鎖を余儀なくされた。
 港自体が壊滅したのであるから影響を避けら れるはずもなかった。
震災から約二週間を経て 各自治体、国土交通省、海上保安庁などが復旧 に着手したが、湾岸地区には無数の瓦礫が流積 しており、救援緊急物資用船舶の着岸を確保す るのがやっとのことであった。
 一方で北関東、東北地区のほとんどの港施設 が使用できなくなったことで、船舶が東京港に 集中した。
これによって東京港では荷捌き作業 に時間がかかり、到着した荷物が港から出せな い状況が続いているという。
 現在、B社は閉鎖となった営業所の従業員を 他の営業所に応援に回しているが、一部の従業 員には自宅待機を命じざるを得ない状況となっ ている。
今回の震災による業績へのダメージは、 まだ見通しさえ立っていない。
 そんなB社ではあるが、ささやかな光も差し ている。
従来から石油精製所を荷主とする燃料 輸送を行っていたため、タンクローリー車を二 〇台保有していた。
各企業や自治体からローリ ー車への依頼が殺到している。
現在は木更津か ら自衛隊が使用するジェット燃料を運ぶことで 復興の黒子として活躍している。
 しかし、荷主企業のなかには自分たちの業務 を継続するために、無償でローリー車やトラッ クを使わせて欲しいと要請してくるところもあ るという。
B社自ら被災者でありながら復旧活 動のサポートを行っている状態なのに、無神経 だと非難されても仕方のないところだろう。
燃料の確保に悪戦苦闘  今回の震災では燃料の確保が物流業の死活問 題となっている。
C運送は山形を拠点とする車 両二五台のトラック運送会社である。
同じ東北 でも日本海側に位置する山形は太平洋側の岩 手、宮城、福島などと比べると震災の被害はず っと小さかったとされる。
 それでもC運送もまた一〇トン車と四トン車 それぞれ一台ずつを津波で流された。
幸いにも ドライバーは自力で車内から脱出して無事だっ た。
しかし一〇t車はボデー部分が真っ二つに 折れた。
一方の四t車も運転席のキャビン部分 が跡形もなくなってしまうという有り様だった。
 さらにC運送の主な荷主である部品メーカー や地場の中小メーカーが震災後、相次いで生産 中止に追い込まれた。
これを受けてC運送も一 〇日間の休業を判断せざるを得なかった。
それ 以上、休業が長引くようであれば廃業も覚悟し なければならないところだった。
 幸いにも各荷主の復興は予想よりもずっと早 かった。
「早期に工場を稼動して製品を大手メ ーカーに納めたい。
ついてはC運送さんにも協 79  MAY 2011 力して欲しい」といった要請が複数の荷主から 舞い込んだ。
 しかし、事業再開直後に大きな問題がC運送 の前に立ちはだかった。
燃料の枯渇である。
地 下タンク(インタンク)の在庫が底をつきかけ ていた。
報道の通り、政府によって民間備蓄の 放出が行われたが、当然ながら供給先は自衛隊 や消防などが優先されるため、業務用トラック へ軽油が回り出すには時間がかかった。
 しかも物流会社に公平に軽油が供給されたわ けではなかった。
在庫の振り分けは石油元売り の地域販売代理店の営業担当者が胸先三寸で優 先順位を決める。
やはり大手が優先され、C運 送のような中小は後回しにされた。
一般のガソ リンスタンドと同レベルの扱いだった。
 C運送のM専務は燃料販売会社の営業担当 者と何度も連絡を取った。
しかし、答えはNO。
給油にはしばらく時間がかかるという。
 関東以西に向かう大型車両については卸し地 (着地)での給油で何とか凌いだが、近場を走 る中小型車両はインタンクへの給油に頼るしか なかった。
C運送は軽油をまとまって確保する 術のある業界団体や組合には属してはいなかっ た。
C運送にとってはインタンクの在庫が最後 の命綱であった。
 M専務は気持ちを引き締め、再び燃料販売会 社の営業担当者と連絡を取った。
一日に何度も 連絡して油を売ってくれるようにひたすら頭を 下げた。
他になす術もなかった。
必死の訴えは 三日目になってようやくOKが出た。
 ただし、確約できるのはインタンク一回分の み。
値段も通常よりもかなり割高であった。
そ れでもC運送にとっては恵みの油であり、納得 せざるを得なかった。
この時点でインタンクの 在庫は一日分しか残っていなかった。
 C運送が間一髪で燃料を確保できたのは、石 油備蓄規制のさらなる緩和と公的用途向けの 供給が一巡したことも追い風になったようだが、 M専務の粘り強い対応がなければ結果は違った ものになっていたに違いない。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 2010年版 カサイ式 トラック実勢運賃調査 ■媒体名    「2010 年版 カサイ式トラック実勢運賃調査」 ■体裁 A4 判 無線綴じ 153 頁(CD-ROM 付) ■発行 2010 年9月13 日 ■監修 月刊ロジスティクス・ビジネス編集部 ■編集協力      ロジスティクス・サポート&パートナーズ ■発行元 ライノス・パブリケーションズ ■定価 1万500 円(税・送料込み) 業種別トラック運賃の実勢価格が分かる! 1985年以降の実勢運賃の推移が分かる! トラック運賃の仕組みと実態が分かる!

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