2011年5月号
物流行政を斬る

第2回モーダルシフトの普及には公的支援だけでなく取引制度の再考が必要だ

MAY 2011  80 モーダルシフトの普及には 公的支援だけでなく 取引制度の再考が必要だ  行政はモーダルシフトを推進するため、十分な予算をつけ、 企業が必要とする費用の支援を行っている。
しかし、鉄道や船 による輸送の割合は一貫して減少基調にある。
物流コストが取 引価格に埋没している現状の取引制度では、物流効率化のイン センティブが働かない。
脱トラックを実現するには、ハード面 の支援のみならず商流にまで踏み込んだ議論が必要だ。
第 2 回 モーダルシフト進展せず  鳩山由紀夫前首相は二〇〇九年九月、ニューヨ ークで開かれた国連気候変動サミットにおいて、我 が国の温室効果ガスの排出量に関する削減目標を発 表しました。
二〇二〇年までに一九九〇年比で二五 %削減、五〇年までに八〇%削減するという画期的 な内容です。
この国際公約を実現すべく、現在、官 民を挙げた様々な取り組みがなされています。
 その有力な手段の一つとして位置付けられている のがモーダルシフトです。
トラック輸送に大きく依存 した我が国の物流を鉄道や船といったモードに切り 替えることで、温室効果ガスの排出量を低減させよ うという狙いです。
今回はこのモーダルシフト問題 を見ていくことにしましょう。
 国土交通省の一一年度予算を見ると、モーダルシ フトに対する力の入れようが窺えます。
まず「安全 安心、環境等のための施策の推進」の中に「モーダ ルシフト等の推進事業」が新設され、予算一億七〇 〇〇万円が計上されていることが確認できます。
モ ーダルシフトの実証運行に掛かる経費の半額を国が 補助するという内容で、モーダルシフトを志向する 荷主の負担や不安を大きく軽減するものです。
 さらに内航海運・フェリーの競争力強化のための 予算を、昨年度の一億二〇〇万円から五億五四〇 〇万円に大きく増額しています。
船を運航する事業 者が、省エネ効果の高い機器を導入した際、半額あ るいは三分の一を補助するという内容です。
「運航 効率を向上させる船体改造・改修(整流板、船板低 摩擦化)」「推進効率を向上させる機器(プロペラボ ス取付翼)」などが支援対象の具体例として挙げら れています。
 〇九年度の鉄道による輸送量は二〇五億六二〇 〇トンキロ、船輸送は一六七三億一五〇〇トンキロ でしたが、国交省はモーダルシフトの推進を通じて、 一二年度までに鉄道輸送を約三六億トンキロ、船輸 送を約五三億トンキロにそれぞれ増加させたい考え を示しています。
これがシナリオ通りに進めば、一 二年度における輸送モード別の割合は鉄道四・六%、 船三三・二%、トラック六二・二%となります(注 :一二年度の総輸送トンキロが〇九年度と不変であ り、さらに鉄道輸送・船輸送の増加分が全てトラッ ク輸送からのモーダルシフトだと仮定した場合)。
国 交省はトラック輸送の割合を二〇年までに五〇〜六 〇%、五〇年までに四〇〜五〇%程度にまで低減す ることを中期目標として掲げています。
 このようにモーダルシフトを強く後押しする予算 が組まれたわけですが、これまでも官民が協力して 脱トラックを推進するプロジェクトは存在しまし た。
その代表的な取り組みが〇五年に発足した「グ リーン物流パートナーシップ会議」です。
 国交省、経済産業省、日本ロジスティクス・シス テム協会、日本物流団体連合会、日本経済団体連 合会が主宰するプロジェクトで、一〇年五月現在で 三一〇〇を超える企業や団体が会員登録しています。
モーダルシフトを行うにあたり、コンテナ、シャーシ、 貨物船等が必要になった場合は、NEDO(新エネ ルギー・産業技術総合開発機構)から必要資金の三 分の一が支給されるという内容です。
 しかし、このグリーン物流パートナーシップ会議の ような魅力的な制度が整備されているにも関わらず、 重量ベース、トンキロベースで見た鉄道輸送及び船 輸送の比率は一貫して減少基調を余儀なくされてい ます(図)。
これは企業にとって、国からの補助によ り低減できる輸送コストを放棄してまでも死守しな ければならない何かがあることを意味していま 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 81  MAY 2011 す。
すなわち、トラック輸送によるメリットが、船 や鉄道を使用することで手に入るコスト削減分を上 回るということです。
一般に、コストとサービスレ ベルはトレードオフ(二律背反)の関係にあります。
コストが高くついても、トラックによる多頻度小口 配送、時間指定納品、緊急輸送、短リードタイムと いった高いサービスレベルを実現する必要があると いうことでしょう。
商流にまで踏み込んだ議論を  なぜ高いサービスレベルを実現し続けなくてはな らないのでしょうか。
その理由は、取引制度に隠 されています。
大変細かい話になるのですが、わ が国における一般的な取引は運賃込みの条件でな されます。
つまり、取引価格の 中に納入するまでの物流コスト が含まれているということです。
物流コストが取引価格に埋没し ていると言い換えることもでき ます。
 買い手企業は物流コスト込み の金額で購入するので、高いサ ービスレベルの物流を望むよう になります。
どんな物流条件 でも取引価格は変わらないため、 これは当然のことと言えます。
そして売り手企業は、その要求 に応えなければいけません。
「短 リードタイムで、時間指定納品 で、バラ‥‥」といった要求を されれば、船や鉄道といった輸 送モードの使用を諦め、トラッ クでの配送を余儀なくされてし まうのです。
 これが仮に、週に六回運んだ 場合は一ケースあたりプラス二 〇〇円、週三回であればプラス 一〇〇円というようなコストオ ン方式になっていけば、買い手企業にも物流コスト を削減する明確なインセンティブが働き、鉄道や船 といった輸送モードの使用にも繋がっていくことで しょう。
 モーダルシフトを進めてサプライチェーン全体の効 率化を図るには、実はこうした物流の裏側にある商 流すなわち取引制度の整備等も並行して進めなけれ ばなりません。
国による支援は現状、ハード面に重 きを置いたものがほとんどですが、こうしたソフト 面における事情も考慮したものであれば、モーダル シフトはさらに進展することでしょう。
 もっとも、この点に関しては企業の経営戦略に関 わる問題であり、国が関与出来る範囲はそれほど多 くありません。
それでも、公正取引委員会等の機能 及び権限を強化し、より公正な取引を目指す等の側 面支援をする、といったことは可能です。
またサプ ライチェーン全体で様々な企業が物流及び取引制度 について議論するプラットフォームを、公正な立場 である国が設置すると言うのも、重要な役割の一つ かも知れません。
 現在、国としてようやくモーダルシフトに関する 支援に本腰を入れ始めたところです。
今後、様々な 議論がなされ、より本格的にモーダルシフトが進展 するよう、官民を挙げた取り組みに期待したいとこ ろです。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
年度 合計 トラック 船 鉄道 航空 合計 トラック 船 鉄道 航空 (千トン) (%) (%) (%) (%) (百万トンキロ) (%) (%) (%) (%) 1970 2,616,397 83.8 6.9 9.3 0.0 185,726 26.1 43.4 30.5 0.0 1970 5,253,192 88.1 7.2 4.8 0.0 350,264 38.8 43.2 18.0 0.0 1975 5,025,721 87.4 9.0 3.6 0.0 360,490 36.0 50.9 13.1 0.0 1980 5,981,364 88.9 8.4 2.7 0.0 438,792 40.8 50.6 8.5 0.1 1985 5,597,256 90.2 8.1 1.7 0.0 434,160 47.4 47.4 5.0 0.1 1990 6,776,257 90.2 8.5 1.3 0.0 546,785 50.2 44.7 5.0 0.1 1995 6,643,005 90.6 8.3 1.2 0.0 559,002 52.7 42.6 4.5 0.2 1996 6,798,734 90.9 8.0 1.1 0.0 573,196 53.3 42.2 4.4 0.2 1997 6,677,063 90.8 8.1 1.0 0.0 568,880 53.8 41.7 4.3 0.2 1998 6,397,912 91.0 8.1 0.9 0.0 551,555 54.5 41.2 4.2 0.2 1999 6,445,607 91.0 8.1 0.9 0.0 560,161 54.8 41.0 4.0 0.2 2000 6,371,017 90.6 8.4 0.9 0.0 578,000 54.2 41.8 3.8 0.2 2001 6,157,977 90.6 8.4 1.0 0.0 580,710 53.9 42.1 3.8 0.2 2002 5,894,331 90.6 8.4 1.0 0.0 570,732 54.7 41.3 3.9 0.2 2003 5,734,255 91.3 7.8 0.9 0.0 563,873 57.1 38.7 4.0 0.2 2004 5,569,413 91.1 7.9 0.9 0.0 569,999 57.5 38.4 3.9 0.2 2005 5,445,574 91.1 7.8 0.9 0.0 570,443 58.7 37.0 4.0 0.2 2006 5,430,936 91.4 7.7 1.0 0.0 578,669 59.9 35.9 4.0 0.2 2007 5,394,228 91.4 7.6 0.9 0.0 582,241 60.9 34.9 4.0 0.2 2008 5,144,322 91.7 7.4 0.9 0.0 557,613 62.1 33.7 4.0 0.2 2009 4,830,481 92.2 6.9 0.9 0.0 523,587 63.9 32.0 3.9 0.2 重量ベースで見た輸送機関別シェアトンキロベースで見た輸送機関別シェア (注)1 . 昭和62 年度より、自動車には軽自動車を加えたので、昭和61 年度以前と連続しない。
2 . 平成6 年度の自動車の数値には、平成7 年1 月〜3 月の兵庫県の数値を含まない。
3 . 鉄道は、有賃のみである。
4 . 国内航空(定期のみ)の輸送量には、超過手荷物・郵便物を含む。
資料:総合政策局情報管理部

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