2011年6月号
特集
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第1部難局をチャンスに変えるSCM
JUNE 2011 12
難局をチャンスに変えるSCM
垂直統合が強さを発揮
調達力の違いは誰の目にも明らかだった。
同じコ ンビニでも他のチェーン店の棚が空っぽだったのに対 し、セブン─イレブンの店舗には商品が並んでいた。
その結果として、同社の売上高は震災直後に前年比 二〇%増に跳ね上がった。
三月の月次で見ても九・ 五%増。
その後も売り上げは高水準をキープしている。
同様にイオンは、店舗の被災によって約三〇〇億 円もの特別損失計上を余儀なくされながら、震災後 も今期の業績見通しを修正していない。
事実、三月次、 四月次の売り上げは堅調で、夏場以降の今年下期に は「本格的な復興景気が出てくる」(岡田元也社長) と自信を持っている。
消費の自粛ムードや電力不足の影響で今期、小売 業全体の売上高は大きく落ち込むことが予想されて いる。
しかし、市場の縮小は各社に等しく影響する わけではない。
業態間の格差はもちろん、同じ業態 同士でも勝ち組と負け組が明らかになっていく。
S CMがそのカギを握っている。
今回の震災は各社のSCMの実力を浮き彫りにし た。
全国組織の後ろ盾を持たないローカルな小売店 は震災後のモノ不足に、なすすべを持たなかった。
百貨店は長期間にわたって開店することさえままな らなかった。
同じ時期にイオングループの店舗にはP B商品の「トップバリュ」や海外から独自に調達し た商品が山高く積まれていた。
イオングローバルSCMのジェンク・グロル社長は 「PBを通して我々はサプライチェーン全体を自分で コントロールする方法を学んできた。
そこで蓄積した ノウハウとインフラが緊急時の柔軟な対応を可能に した。
SCMを他社に依存してきた会社との違いが 出た」と胸を張る。
イオンは二〇〇四年からPBの生産委託先メー カーとの間で『CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment: 小売りとメーカー の協働による計画、予測、補充)』に取り組んできた。
イオンの物流センターの日々の出荷量を元に需要を 予測し、その情報をメーカーと共有して効率化を進 めてきた。
CPFRの対象は現在、約四〇〇メーカー・ 二〇〇〇品目に拡大している。
米国に本部を置くサプライチェーン標準化団体 の「V I C S(The Voluntary Interindustry Commerce Standards Association)」はCPFRの 標準プロセスとして、流通業者とメーカー間で結ぶ 基本合意書の策定から在庫補充に至る九つのステッ プを定めている。
イオンはこの標準プロセスに独自に 三つのステップを加え、工場の生産計画にまで踏み 込んだ協働を行っている。
物流面でも全国を網羅する専用インフラを構築。
情報システムを駆使して、工場出荷から店舗納品に 至る在庫のステータスをリアルタイムで管理してい る。
こうした“見える化”の仕組みによって、オペレー ションの細部まで管理する管理体制が震災時に威力 を発揮した。
もっともナショナルブランド(NB)商品のSC Mに関しては、イオンそしてセブン─イレブンも既存 の卸チャネルに多くを依存している。
加工食品や日 用雑貨品の中間流通は九〇年代以降、急速に寡占化 が進み、現在は大手卸数社が圧倒的なカテゴリーシェ アを握っている。
そのバイイングパワーや情報力には、 大手チェーンも適わない。
しかし、卸チャネルのサプライチェーンは多くの課 題も抱えている。
実際、今回の震災対応で卸は前近 東日本大震災は各社のSCMの実力を浮き彫りにした。
SCMに優れた企業は求心力を増し、対応に遅れを取った 企業は信頼を失った。
難局は差別化の舞台になった。
サ プライチェーンの勝敗はどうやって決まったのか。
競争力 を高めるポイントはどこにあるのか。
(大矢昌浩) 第1部 13 JUNE 2011 代的な商慣行と合理性を欠いた取引条件に大きく翻 弄された。
関東エリアでは在庫の確保を焦る小売り から実需を無視した買い占め的な発注が殺到。
その 対応に振り回された。
一方、本当に物資を必要としている被災地では、 小売りからの通信手段が途絶えて注文が入らない。
チェーン本部と違って卸が勝手に商品を送り込むわ けにもいかない。
そもそも店が開いているのかさえつ かめない。
かたやセンターフィーを徴収されている小 売りでは専用拠点が被災。
急遽、店舗納品を要請さ れるといった事態が相次いだ。
流通階層別に分断さ れたサプライチェーンの脆さが露呈した。
事後「調整」が抜け落ちている NBメーカー別の縦割りの特約店制度が機能して いた時代であれば、卸に代わってメーカーが小売りに 商品を供給することもできた。
しかし今やNBメー カーは中間流通を大手卸に完全に依存している。
サ プライチェーンの主導権を失って以降、NBメーカー は物流リストラを躍起になって進めてきた。
その反動として、過度な効率化がサプライチェー ンを弱くした、JITや拠点集約がモノ不足の元凶 になったという非難の声も上がっている。
リスク対策 として在庫の積み増しや拠点分散の必要性を指摘す る学者や専門家も現れている。
しかし、日本能率協会コンサルティングの小河原 光司オペレーション革新本部チーフ・コンサルタント は「一連の“JIT批判”は、トヨタ生産方式とリ スク管理に対する誤った理解が原因だ。
JITに正 しく取り組んでいる企業はリスクへの対応にも優れて いる」と反論する。
トヨタ生産方式の生みの親とされる故・大野耐一 氏はその著作のなかでトヨタ生産システムの柱として 二つを挙げている。
一つは、必要な部品を必要な時 に必要な場所に届けるための「かんばん方式」= J IT。
もう一つは、人偏の付く自動化、すなわち“自 働化”だ。
異常が発生した時には機械が止まり、人 間が問題を明らかにする。
「JITの目的はシステムの同期化だ。
これを事前 の『統制』だとすれば、自働化の目的はシステムの 錯乱からの復帰であり、事後の『調整』といえる。
今回の震災では、多くの企業が両輪のうちJITだ けしかやってなかったことが露呈した」と小河原チー フ・コンサルタントは指摘する。
サプライチェーンのどこまでを「統制」の範囲とし、 どのレベルまでを正常とするかという問題は、数学的 に正解を導き出せるわけではない。
リスクの発生確 率と管理コストのトレードオフ、リスクの影響の大き さなどを材料に、経営者が意思決定するしかない。
一方、事後の「調整」能力は、組織的に強化する ことができる。
その必要がある。
対策を判断する基 礎となる情報の質、情報の種類と内容がポイントだ。
調達先を始めとする外部情報だけでなく、調整の意 思決定に影響を及ぼす内部情報を整理し、見える化 する。
図1はその例だ。
製品を構成する各パーツの 代替可能性、生産能力、顧客・製品の優先順位など、 社内情報を整理していく過程で、部品の共通化や標 準化、取引先との関係性、さらには適切な在庫量と 拠点配置など、必要なリスク対策が見えてくる。
「調達先に関しては、かなり踏み込んでいるメーカー でも、肝心の内部情報が疎かになっていることは多い。
今回の震災を教訓として、事後『調整』機能を改め て見直すべきだろう」と小河原チーフ・コンサルタ ントは訴えている。
特 集 図1 「調整」のための意思決定情報 外部情報内部情報 どこまで引き当たっているのか(調達先別)調達可能量 (調達先別)納品タイミング (調達先別)納品可能スペック (調達先別)プレミアム価格 部品別代替調達先 製品機能 製品機能分割可能性 部品在庫量 生産可能プロダクトと生産可能数 顧客優先順位付け(誰に何を優先させるのか) 日本能率協会コンサルティングの小河原光司氏作成 いくら払えば納品してもらえるのか 代替可能なサプライヤーはどこか 制約条件を外す 生産可能数を見積もる プロダクトミックスを決定する いつまでにどのレベルのモノが 納品されるのか 保有しておかなければならない在庫は何か 戦略在庫量の決定 日本能率協会コンサル ティングの小河原光司オ ペレーション革新本部 チーフ・コンサルタント
同じコ ンビニでも他のチェーン店の棚が空っぽだったのに対 し、セブン─イレブンの店舗には商品が並んでいた。
その結果として、同社の売上高は震災直後に前年比 二〇%増に跳ね上がった。
三月の月次で見ても九・ 五%増。
その後も売り上げは高水準をキープしている。
同様にイオンは、店舗の被災によって約三〇〇億 円もの特別損失計上を余儀なくされながら、震災後 も今期の業績見通しを修正していない。
事実、三月次、 四月次の売り上げは堅調で、夏場以降の今年下期に は「本格的な復興景気が出てくる」(岡田元也社長) と自信を持っている。
消費の自粛ムードや電力不足の影響で今期、小売 業全体の売上高は大きく落ち込むことが予想されて いる。
しかし、市場の縮小は各社に等しく影響する わけではない。
業態間の格差はもちろん、同じ業態 同士でも勝ち組と負け組が明らかになっていく。
S CMがそのカギを握っている。
今回の震災は各社のSCMの実力を浮き彫りにし た。
全国組織の後ろ盾を持たないローカルな小売店 は震災後のモノ不足に、なすすべを持たなかった。
百貨店は長期間にわたって開店することさえままな らなかった。
同じ時期にイオングループの店舗にはP B商品の「トップバリュ」や海外から独自に調達し た商品が山高く積まれていた。
イオングローバルSCMのジェンク・グロル社長は 「PBを通して我々はサプライチェーン全体を自分で コントロールする方法を学んできた。
そこで蓄積した ノウハウとインフラが緊急時の柔軟な対応を可能に した。
SCMを他社に依存してきた会社との違いが 出た」と胸を張る。
イオンは二〇〇四年からPBの生産委託先メー カーとの間で『CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment: 小売りとメーカー の協働による計画、予測、補充)』に取り組んできた。
イオンの物流センターの日々の出荷量を元に需要を 予測し、その情報をメーカーと共有して効率化を進 めてきた。
CPFRの対象は現在、約四〇〇メーカー・ 二〇〇〇品目に拡大している。
米国に本部を置くサプライチェーン標準化団体 の「V I C S(The Voluntary Interindustry Commerce Standards Association)」はCPFRの 標準プロセスとして、流通業者とメーカー間で結ぶ 基本合意書の策定から在庫補充に至る九つのステッ プを定めている。
イオンはこの標準プロセスに独自に 三つのステップを加え、工場の生産計画にまで踏み 込んだ協働を行っている。
物流面でも全国を網羅する専用インフラを構築。
情報システムを駆使して、工場出荷から店舗納品に 至る在庫のステータスをリアルタイムで管理してい る。
こうした“見える化”の仕組みによって、オペレー ションの細部まで管理する管理体制が震災時に威力 を発揮した。
もっともナショナルブランド(NB)商品のSC Mに関しては、イオンそしてセブン─イレブンも既存 の卸チャネルに多くを依存している。
加工食品や日 用雑貨品の中間流通は九〇年代以降、急速に寡占化 が進み、現在は大手卸数社が圧倒的なカテゴリーシェ アを握っている。
そのバイイングパワーや情報力には、 大手チェーンも適わない。
しかし、卸チャネルのサプライチェーンは多くの課 題も抱えている。
実際、今回の震災対応で卸は前近 東日本大震災は各社のSCMの実力を浮き彫りにした。
SCMに優れた企業は求心力を増し、対応に遅れを取った 企業は信頼を失った。
難局は差別化の舞台になった。
サ プライチェーンの勝敗はどうやって決まったのか。
競争力 を高めるポイントはどこにあるのか。
(大矢昌浩) 第1部 13 JUNE 2011 代的な商慣行と合理性を欠いた取引条件に大きく翻 弄された。
関東エリアでは在庫の確保を焦る小売り から実需を無視した買い占め的な発注が殺到。
その 対応に振り回された。
一方、本当に物資を必要としている被災地では、 小売りからの通信手段が途絶えて注文が入らない。
チェーン本部と違って卸が勝手に商品を送り込むわ けにもいかない。
そもそも店が開いているのかさえつ かめない。
かたやセンターフィーを徴収されている小 売りでは専用拠点が被災。
急遽、店舗納品を要請さ れるといった事態が相次いだ。
流通階層別に分断さ れたサプライチェーンの脆さが露呈した。
事後「調整」が抜け落ちている NBメーカー別の縦割りの特約店制度が機能して いた時代であれば、卸に代わってメーカーが小売りに 商品を供給することもできた。
しかし今やNBメー カーは中間流通を大手卸に完全に依存している。
サ プライチェーンの主導権を失って以降、NBメーカー は物流リストラを躍起になって進めてきた。
その反動として、過度な効率化がサプライチェー ンを弱くした、JITや拠点集約がモノ不足の元凶 になったという非難の声も上がっている。
リスク対策 として在庫の積み増しや拠点分散の必要性を指摘す る学者や専門家も現れている。
しかし、日本能率協会コンサルティングの小河原 光司オペレーション革新本部チーフ・コンサルタント は「一連の“JIT批判”は、トヨタ生産方式とリ スク管理に対する誤った理解が原因だ。
JITに正 しく取り組んでいる企業はリスクへの対応にも優れて いる」と反論する。
トヨタ生産方式の生みの親とされる故・大野耐一 氏はその著作のなかでトヨタ生産システムの柱として 二つを挙げている。
一つは、必要な部品を必要な時 に必要な場所に届けるための「かんばん方式」= J IT。
もう一つは、人偏の付く自動化、すなわち“自 働化”だ。
異常が発生した時には機械が止まり、人 間が問題を明らかにする。
「JITの目的はシステムの同期化だ。
これを事前 の『統制』だとすれば、自働化の目的はシステムの 錯乱からの復帰であり、事後の『調整』といえる。
今回の震災では、多くの企業が両輪のうちJITだ けしかやってなかったことが露呈した」と小河原チー フ・コンサルタントは指摘する。
サプライチェーンのどこまでを「統制」の範囲とし、 どのレベルまでを正常とするかという問題は、数学的 に正解を導き出せるわけではない。
リスクの発生確 率と管理コストのトレードオフ、リスクの影響の大き さなどを材料に、経営者が意思決定するしかない。
一方、事後の「調整」能力は、組織的に強化する ことができる。
その必要がある。
対策を判断する基 礎となる情報の質、情報の種類と内容がポイントだ。
調達先を始めとする外部情報だけでなく、調整の意 思決定に影響を及ぼす内部情報を整理し、見える化 する。
図1はその例だ。
製品を構成する各パーツの 代替可能性、生産能力、顧客・製品の優先順位など、 社内情報を整理していく過程で、部品の共通化や標 準化、取引先との関係性、さらには適切な在庫量と 拠点配置など、必要なリスク対策が見えてくる。
「調達先に関しては、かなり踏み込んでいるメーカー でも、肝心の内部情報が疎かになっていることは多い。
今回の震災を教訓として、事後『調整』機能を改め て見直すべきだろう」と小河原チーフ・コンサルタ ントは訴えている。
特 集 図1 「調整」のための意思決定情報 外部情報内部情報 どこまで引き当たっているのか(調達先別)調達可能量 (調達先別)納品タイミング (調達先別)納品可能スペック (調達先別)プレミアム価格 部品別代替調達先 製品機能 製品機能分割可能性 部品在庫量 生産可能プロダクトと生産可能数 顧客優先順位付け(誰に何を優先させるのか) 日本能率協会コンサルティングの小河原光司氏作成 いくら払えば納品してもらえるのか 代替可能なサプライヤーはどこか 制約条件を外す 生産可能数を見積もる プロダクトミックスを決定する いつまでにどのレベルのモノが 納品されるのか 保有しておかなければならない在庫は何か 戦略在庫量の決定 日本能率協会コンサル ティングの小河原光司オ ペレーション革新本部 チーフ・コンサルタント
