2011年6月号
特集
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Interview「次は即日配達で拠点分散を支援する」ヤマトホールディングス 木川眞 社長
JUNE 2011 18
「次は即日配達で拠点分散を支援する」
全国の主要都市間を当日配送
──今年一月に長期経営計画「DAN─TOTSU
経営計画二〇一九」を発表しました。
「当社が創業一〇〇周年を迎える二〇一九年にど のような企業でありたいかというコンセプトから入っ て成長戦略をまとめました。
その際には当社のコア コンピタンスを明確に意識しました。
ダボハゼ的に手 を広げて売り上げを肥大化させるのではなく、我々 のコアコンピタンスに合致した事業を選び、一〇〇 の事業を創出していくことで着実に成長していきます」 「それでは当社のコアコンピタンスとは何なのかと いえば、やはり『ラストワンマイル』です。
全国に 広がるラストワンマイルのネットワークと人、そして それを支えるIT、LT(Logistics Technology)、 FT(Financial Technology)です。
それを活かせ る事業領域を突き詰めていった結果として『アジア No. 1の流通・生活支援ソリューションプロバイダー』 というビジョンに至りました」 ──そのビジョンには「流通」と「生活支援」とい う二つのキーワードが入っています。
その意味は。
「『流通』というのはB to BとB to C、つまり企業 向けのソリューションです。
それに対して『生活支援』 というのは、個人や地方自治体に対するソリューショ ンを意識したものです」 ──そのうちまず「流通」についてですが、『宅急便』 のネットワークを改めて作り直すつもりだとか。
「その通りです。
当社の歴史を振り返ると、小倉 昌男元会長は宅急便の創生期の一九八一年から八九 年の九年間にわたり、『全国翌日配達』というサービ スレベルを目標に掲げ、三度の『ダントツ三カ年計画』 を実施して現在の基礎を作りました。
そして今や翌 日配達は一部の遠隔地を除いて実現している。
それ に対して現在の我々は『即日配達』を、向こう九カ 年の『DAN─TOTSU計画』の目標に掲げました」 「既に現在の枠組みのなかでも我々は『時間便』や 『Today Shopping Service(TSS:通販会社向け の当日配送サービス)』で即日配達サービスを実施し ています。
その対象エリアを、これから限りなく広 げていく。
同じエリア内の即日配達だけなく、主要 都市間での即日配達を実現します。
それもTSSの ように当社の拠点にストックしてもらった在庫を当日 に配達するというのではありません。
それなら他社で もできる。
そうではなくて東京で集荷した荷物をそ の日のうちに大阪の納品先に配達する」 「ただし、それをやるには従来のハブ・アンド・ス ポークのインフラを根本から変えて行かなくてはなり ません。
ベース拠点の位置付けから車両の運行、荷物 の積み方まで全て作り変える必要がある。
その壮大な 実験を、東京〜大阪間でこれから始めようとしています」 ──具体的には? 「リードタイムを短縮するためには仕分けの回数を 減らす必要があります。
そこで『発地側センター』 →『発地側ベース』→『着地側ベース』→『着地側 センター』という現在のフローを拠点間のダイレクト 輸送に変える。
大型トレーラーで幹線輸送してきた 荷物を、着地側の拠点でそのまま仕分け機にかけて 納品先に直送する」 「その拠点となる大型の『ゲートウェイ』を全国の 主要都市に設置していきます。
ゲートウェイでは庫 内のマテリアルハンドリングを完全に自動化します。
そうしないとスピードが上がりませんから。
そのため に荷物情報は完全にデジタル化する必要がある。
ロー ルボックスも使わない」 全国の主要都市間をドア・ツー・ドアの当日配送で結ぶ新 たな輸送商品のインフラ整備を開始する。
ハブ・アンド・スポー クのネットワーク、ロールボックスを使ったオペレーション、 車両の運行方法など、従来の「宅急便」の仕組みを全て作 り替えることになる。
まずは東京〜大阪間で実験に着手する。
(聞き手・大矢昌浩) ヤマトホールディングス 木川眞 社長 Interview 特 集 19 JUNE 2011 ──ロールボックスを使ったオペレーションは、これ まで宅急便の代名詞でもありました。
「それだけに思い切った発想の転換が必要になりま す。
しかし、不可能だとは思いません。
二〇一二年 秋の稼働を予定している『羽田クロノゲート』(図1) には、フルデジタル化した荷物情報を使って、大物 から小物まで、全ての荷物を自動処理するマテハン 設備を導入します。
羽田の場合はそれを主に国際貨 物向けに使うわけですが、同じ仕組みを関東の厚木 を始め国内の主要経済圏の入口に設置するゲートウェ イに導入していく。
そのネットワークができあがった 暁には、もはや誰も当社に追いつけない」 経済圏の入口に﹃ゲートウェイ﹄設置 ──宅急便とは別の新しいサービス商品を売り出す ということですか。
「いや宅急便が即日化するんです。
二〇一九年に はかなりのエリアで即日配達が宅急便の基本サービ スとしてビルトインされる」 ──宅急便とは別のインフラを使うのに? 「即日配達と従来型の翌日配達のサービスが併存 するかたちになります。
インフラで言えば、例えば関 東エリアであれば、国際ゲートウェイとして羽田に建 てるクロノゲートは、従来型の宅急便のベース機能 も内包しています。
同様に関東圏の国内輸送のゲー トウェイとなる厚木も通常のベース機能を兼ね備え ている。
発地、着地のセンターを経由して翌日配達 する宅急便の仕分けもする」 「即日配達はゲートウェイ間でしかできません。
ま た荷物情報のフルデジタル化が条件になりますから、 手書き伝票の荷物は対象にできない。
それは従来型 のオペレーションで処理することになります。
個人発 で即日配達するなら個人会員制サービスの『クロネ コメンバーズ』にご入会いただき『ネコピット』(送 り状発行機能を持った情報端末)を使ってもらうこ とになる」 ──即日配達は荷主にどのようなメリットをもたらし ますか。
「一つは在庫の持ち方が変わってきます。
急ぎの荷 物が確実に届くようになるので、欠品させないために 持っている在庫の量を減らすことができる。
しかも通 販会社であればキャンセル率、返品率が圧倒的に改 善されます。
発注から納品までのリードタイムが短く なれば短くなるほど返品率は下がる。
そのことはT SSで既に実証されています。
そのため、ある通販 会社さんはTSSの利用を機に、取り扱いアイテム 数をどんどん増やしています。
小ロットで調達するよ うにして在庫水準を下げ、商品の回転率を高めるこ とで、品揃えを増やしています」 「さらに我々は従来から通販会社に対して在庫の分 散をお勧めしています。
発注を受けてから地方に横 持ちするのでは時間がもったいない。
その時間を短 縮できれば、もっと返品率は下がる。
物流の常識と しては在庫拠点を分散すればコストが増える、在庫 量が増えると言われている。
しかし、そうではないん です。
リードタイムを短縮することで回転率を上げ て返品率を下げることができます、という提案です」 ──今回の震災をきっかけとして、今後はリスク回 避のために在庫の分散志向が強まると言われています。
「過度な集中在庫、効率化偏重のサプライチェーン の弱みが露呈した格好です。
我々ならコストアップな しに在庫拠点を分散する仕組みを提案できます」 ──「流通」と並ぶもう一つのキーワード「生活支援」 については? 図1 首都圏エリアにおけるエリアの再編成 西日本エリア 関越道 東名・中央道 厚木:国内・関東の結節点 ゲートウェイ クロノゲート クロノゲート 常磐道 東北道 信越エリア 東北エリア 成田:欧米との結節点 羽田:アジア圏との結節点 圏央道を活用した東日本にお ける西日本・関東・北信越の ゲートウェイ機能と、分散在庫 機能を備えた施設 アジア全域におけるお客様の SCMニーズにお応えするため のトータルソリューションターミ ナル グローバルネットワークの 拠点として高効率な物 流提案を行う 羽田 厚木 成田(仮) 2012 年秋に稼働予定の「羽田クロノゲート」。
総額 1387 億円を投じて延べ床約6 万坪の施設を建設中 JUNE 2011 20 「これまでの『宅急便』はユニバーサルサービスで した。
全国で均質なサービスを提供してきた。
それ に対して今後は地域や個人に密着した、カスタマイ ズしたサービスも手がけて行きます。
そのキーワード が『生活支援』あるいは『生涯生活支援プラットフォー ム』です」 「従来は軽トラックの個人事業主が担ってきたルー ト配送や、最近ならネットスーパーさんが担っている 領域です。
スーパーが自前でロジを持って配送して も非効率だし、エリアを拡大できない。
そこに我々 がプラットフォームを提供する。
個人宅向けの混載 配送と決済機能、さらには一人暮らしの高齢者の『見 守り(安否確認)』などのサービスを低料金で提供し ていきます」 「地方公共団体や商店街などの公的なセクターが 主な提案先になります。
日本の人口は既に減少に向 い、今後も高齢化がどんどん進んでいく。
地方の商 店街は衰退し、買い物困難者が急増している。
地方 自治体の役割はますます大きくなっているわけだけれ ども、彼等には人手もお金も足りない。
そこで我々 にアウトソーシングしてもらう。
その結果、コストを 変動費化し、効率的で質の高いサービスを住民に提 供できることになる」 東北の復興に独自の流通ビジョン ──CSRとしては理解できますが、事業性として はどうでしょう? 「間違いなく今後の事業の柱になります。
人口の減 少、少子化、過疎化、高齢化という社会構造の変化 は確実にやってくる。
そこには必ず新たな需要が生 まれます。
実際、この一〇年で老人ホームや介護ビ ジネスは考えられないくらいに肥大化したでしょう?」 「今回の震災で、私はますますその思いを強くしま した。
社会的には部品工場が被災して巨大メーカー のサプライチェーンがストップしたことばかり話題に なりましたけれど、それと同時に今回の震災では to Cの部分も壊された。
そのために被災地の住民たち は長期間にわたって大変な不便を強いられました」 「地元の商店街が衰退し、コンビニや量販店などの ナショナルチェーンに変わっていったことで、確かに 品揃えは豊富になり、地方の生活レベルは向上しま した。
しかし、そうした店が震災で閉まったとたんに、 住民たちには買い物の手段がなくなってしまった。
な んとか開いているコンビニを探しても商品は並んでい ない。
ガソリンがないのでGMSにも行けない」 ──ナショナルチェーンだからこそ、被災地に人を 送ったり、モノを送ったりでできた。
ローカルな店こ そ、なすすべがなかったのでは。
「そうは思いません。
本当は米でも野菜でも、東北 は産地ですから地元にたくさんある。
小売店はそれ を仕入れておにぎりにして店頭で売ればいい。
ナショ ナルチェーンはガバナンス上、それを認めるわけには いかないけれど、個人商店ならできる」 「何も私は全て昔に戻せと言っているわけではあり ません。
大型のショッピングセンターやコンビニはや はり便利です。
しかし、そうしたナショナルチェーン とうまく共存するかたちで、地産地消型の商店街の ネットワークも温存した方がいい。
それを我々は支援 したい」 ──その多くはパパママストアです。
ヤマトに何がで きますか。
「我々が想定しているのは従来型の“よろず屋”で はなく、もっと個性のある、地元の商品を調達する ルートをきっちり持った専門店街です。
そこに我々 陸前高田市を視察する木川社長被災したヤマト運輸の石巻営業所 特 集 21 JUNE 2011 が商品を供給する。
さらには消費者の自宅まで届け る。
例え店舗にない商品であっても、我々のプラッ トフォームを使えば、その日のうちに調達して、その 日のうちに自宅まで届けることさえできる。
そうやっ て地元の商店が再生していくことが地域の活性化に つながっていく」 ──確かに魅力的な構想ですが、相当に時間がかか りそうです。
「しかし今ご説明したプラットフォームに必要な パーツを我々は既にほとんど具体化しているんです。
それを一つのプラットフォームに統合し、ビジネスモ デルとして着地させる。
今回の震災で壊滅的な被害 を受けた東北がその格好の舞台になると考えていま す。
東北の復興には、産業の再生と同時に、商店街 の再生、そして行政機能の復活が必要です。
それに 対して当社は独自のビジョンを提示していきます」 一三〇億円以上を寄付する理由 ──今年度に取り扱った宅急便一個につき一〇円を 被災地に寄付すると発表しました。
宅急便の取り扱 い個数は昨年度実績で十三億個強ですから一三〇億 円以上を寄付することになります。
これも新しいビジ ネスモデルに向けた布石なのでしょうか。
「あれは純粋な恩返しです。
当社の『クール宅急便』 は水産業や農業に育ててもらいました。
日本の水産 業は水揚げのおよそ四割が東北に集中しています。
そのため当社の東北地方の営業所は業績が良かった。
当社にとってドル箱でした」 ──しかし一三〇億円という規模はヤマトH Dの 一〇年度の純利益の約四割に当たる金額で、株主に 対する説明責任を果たす必要があります。
「もちろんです。
そのため寄付金の使い道は、被災 地の産業再生と学校や病院など地域の生活基盤の再 生に限定させてもらいます。
東北の産業に復活して もらうことが我々の事業基盤の復活には必要なんで す。
長い目で見れば、この寄付は当社の企業価値を 大きく高めることにもなる。
株主にはそう説明してい ます。
それに対して、海外の株主も含め、褒められ ることはあってもダメだという人は一人もいませんで した。
株式アナリストたちにも、予想していた以上 のプラス評価をいただきました」 ──業界内には今回の寄付を上手いマーケティング だと評価する声もあります。
寄付つきの商品によっ て販促キャンペーンを張る手法が、欧米では「コー ズマーケティング︵Cause Marketing︶」と呼ばれて 広く定着しているとか。
「スタンドプレーだとか営業政策だといった批判を 受けることは覚悟していました。
しかし、こうした業 績連動型の手法をとらない限り一〇〇億円を超える ような寄付はできなかった。
通常の寄付では一〇億 円程度が限界です。
それ以上の金額を一度に寄付す るとなれば株主を説得できない。
しかし、その程度 では、あれだけの広域災害に対して大したことはで きない」 ──一三年度までの三カ年計画は震災前に発表した ものです。
数値目標を修正する必要は。
「初年度一一年度がどれぐらいの数字になるのか は、もう少し状況を見極めさせてもらいたいというの が正直なところです。
現状では原発や風評被害、そ して何より計画停電の影響がはっきりしない。
夏場 の停電となれば、とりわけクール便には大変な問題 です。
それでも向こう三年間で総額二八〇〇億円を 予定している設備投資計画は、大きく変えるつもり はありません。
せっせと駒を進めていきます」 連結営業収益 連結営業利益 営業利益率 ROE 宅急便取扱数量 図2 「DAN-TOTSU 経営計画2019」の数値目標 1 兆2,280 億円 640 億円 5.2% 6.5% 13 億4 千万個 1 兆4,400 億円 880 億円 6.1% 8.5% 16 億8 千万個 事業数100 事業 国内宅急便シェア 50% 超 ノンデリバリー 営業利益構成比50% 超 海外売上比率 20% 超 国内:15億6000万個 ROE11%超 海外:1 億2000 万個 2010 年度見通し2013 年度2019 年度
「当社が創業一〇〇周年を迎える二〇一九年にど のような企業でありたいかというコンセプトから入っ て成長戦略をまとめました。
その際には当社のコア コンピタンスを明確に意識しました。
ダボハゼ的に手 を広げて売り上げを肥大化させるのではなく、我々 のコアコンピタンスに合致した事業を選び、一〇〇 の事業を創出していくことで着実に成長していきます」 「それでは当社のコアコンピタンスとは何なのかと いえば、やはり『ラストワンマイル』です。
全国に 広がるラストワンマイルのネットワークと人、そして それを支えるIT、LT(Logistics Technology)、 FT(Financial Technology)です。
それを活かせ る事業領域を突き詰めていった結果として『アジア No. 1の流通・生活支援ソリューションプロバイダー』 というビジョンに至りました」 ──そのビジョンには「流通」と「生活支援」とい う二つのキーワードが入っています。
その意味は。
「『流通』というのはB to BとB to C、つまり企業 向けのソリューションです。
それに対して『生活支援』 というのは、個人や地方自治体に対するソリューショ ンを意識したものです」 ──そのうちまず「流通」についてですが、『宅急便』 のネットワークを改めて作り直すつもりだとか。
「その通りです。
当社の歴史を振り返ると、小倉 昌男元会長は宅急便の創生期の一九八一年から八九 年の九年間にわたり、『全国翌日配達』というサービ スレベルを目標に掲げ、三度の『ダントツ三カ年計画』 を実施して現在の基礎を作りました。
そして今や翌 日配達は一部の遠隔地を除いて実現している。
それ に対して現在の我々は『即日配達』を、向こう九カ 年の『DAN─TOTSU計画』の目標に掲げました」 「既に現在の枠組みのなかでも我々は『時間便』や 『Today Shopping Service(TSS:通販会社向け の当日配送サービス)』で即日配達サービスを実施し ています。
その対象エリアを、これから限りなく広 げていく。
同じエリア内の即日配達だけなく、主要 都市間での即日配達を実現します。
それもTSSの ように当社の拠点にストックしてもらった在庫を当日 に配達するというのではありません。
それなら他社で もできる。
そうではなくて東京で集荷した荷物をそ の日のうちに大阪の納品先に配達する」 「ただし、それをやるには従来のハブ・アンド・ス ポークのインフラを根本から変えて行かなくてはなり ません。
ベース拠点の位置付けから車両の運行、荷物 の積み方まで全て作り変える必要がある。
その壮大な 実験を、東京〜大阪間でこれから始めようとしています」 ──具体的には? 「リードタイムを短縮するためには仕分けの回数を 減らす必要があります。
そこで『発地側センター』 →『発地側ベース』→『着地側ベース』→『着地側 センター』という現在のフローを拠点間のダイレクト 輸送に変える。
大型トレーラーで幹線輸送してきた 荷物を、着地側の拠点でそのまま仕分け機にかけて 納品先に直送する」 「その拠点となる大型の『ゲートウェイ』を全国の 主要都市に設置していきます。
ゲートウェイでは庫 内のマテリアルハンドリングを完全に自動化します。
そうしないとスピードが上がりませんから。
そのため に荷物情報は完全にデジタル化する必要がある。
ロー ルボックスも使わない」 全国の主要都市間をドア・ツー・ドアの当日配送で結ぶ新 たな輸送商品のインフラ整備を開始する。
ハブ・アンド・スポー クのネットワーク、ロールボックスを使ったオペレーション、 車両の運行方法など、従来の「宅急便」の仕組みを全て作 り替えることになる。
まずは東京〜大阪間で実験に着手する。
(聞き手・大矢昌浩) ヤマトホールディングス 木川眞 社長 Interview 特 集 19 JUNE 2011 ──ロールボックスを使ったオペレーションは、これ まで宅急便の代名詞でもありました。
「それだけに思い切った発想の転換が必要になりま す。
しかし、不可能だとは思いません。
二〇一二年 秋の稼働を予定している『羽田クロノゲート』(図1) には、フルデジタル化した荷物情報を使って、大物 から小物まで、全ての荷物を自動処理するマテハン 設備を導入します。
羽田の場合はそれを主に国際貨 物向けに使うわけですが、同じ仕組みを関東の厚木 を始め国内の主要経済圏の入口に設置するゲートウェ イに導入していく。
そのネットワークができあがった 暁には、もはや誰も当社に追いつけない」 経済圏の入口に﹃ゲートウェイ﹄設置 ──宅急便とは別の新しいサービス商品を売り出す ということですか。
「いや宅急便が即日化するんです。
二〇一九年に はかなりのエリアで即日配達が宅急便の基本サービ スとしてビルトインされる」 ──宅急便とは別のインフラを使うのに? 「即日配達と従来型の翌日配達のサービスが併存 するかたちになります。
インフラで言えば、例えば関 東エリアであれば、国際ゲートウェイとして羽田に建 てるクロノゲートは、従来型の宅急便のベース機能 も内包しています。
同様に関東圏の国内輸送のゲー トウェイとなる厚木も通常のベース機能を兼ね備え ている。
発地、着地のセンターを経由して翌日配達 する宅急便の仕分けもする」 「即日配達はゲートウェイ間でしかできません。
ま た荷物情報のフルデジタル化が条件になりますから、 手書き伝票の荷物は対象にできない。
それは従来型 のオペレーションで処理することになります。
個人発 で即日配達するなら個人会員制サービスの『クロネ コメンバーズ』にご入会いただき『ネコピット』(送 り状発行機能を持った情報端末)を使ってもらうこ とになる」 ──即日配達は荷主にどのようなメリットをもたらし ますか。
「一つは在庫の持ち方が変わってきます。
急ぎの荷 物が確実に届くようになるので、欠品させないために 持っている在庫の量を減らすことができる。
しかも通 販会社であればキャンセル率、返品率が圧倒的に改 善されます。
発注から納品までのリードタイムが短く なれば短くなるほど返品率は下がる。
そのことはT SSで既に実証されています。
そのため、ある通販 会社さんはTSSの利用を機に、取り扱いアイテム 数をどんどん増やしています。
小ロットで調達するよ うにして在庫水準を下げ、商品の回転率を高めるこ とで、品揃えを増やしています」 「さらに我々は従来から通販会社に対して在庫の分 散をお勧めしています。
発注を受けてから地方に横 持ちするのでは時間がもったいない。
その時間を短 縮できれば、もっと返品率は下がる。
物流の常識と しては在庫拠点を分散すればコストが増える、在庫 量が増えると言われている。
しかし、そうではないん です。
リードタイムを短縮することで回転率を上げ て返品率を下げることができます、という提案です」 ──今回の震災をきっかけとして、今後はリスク回 避のために在庫の分散志向が強まると言われています。
「過度な集中在庫、効率化偏重のサプライチェーン の弱みが露呈した格好です。
我々ならコストアップな しに在庫拠点を分散する仕組みを提案できます」 ──「流通」と並ぶもう一つのキーワード「生活支援」 については? 図1 首都圏エリアにおけるエリアの再編成 西日本エリア 関越道 東名・中央道 厚木:国内・関東の結節点 ゲートウェイ クロノゲート クロノゲート 常磐道 東北道 信越エリア 東北エリア 成田:欧米との結節点 羽田:アジア圏との結節点 圏央道を活用した東日本にお ける西日本・関東・北信越の ゲートウェイ機能と、分散在庫 機能を備えた施設 アジア全域におけるお客様の SCMニーズにお応えするため のトータルソリューションターミ ナル グローバルネットワークの 拠点として高効率な物 流提案を行う 羽田 厚木 成田(仮) 2012 年秋に稼働予定の「羽田クロノゲート」。
総額 1387 億円を投じて延べ床約6 万坪の施設を建設中 JUNE 2011 20 「これまでの『宅急便』はユニバーサルサービスで した。
全国で均質なサービスを提供してきた。
それ に対して今後は地域や個人に密着した、カスタマイ ズしたサービスも手がけて行きます。
そのキーワード が『生活支援』あるいは『生涯生活支援プラットフォー ム』です」 「従来は軽トラックの個人事業主が担ってきたルー ト配送や、最近ならネットスーパーさんが担っている 領域です。
スーパーが自前でロジを持って配送して も非効率だし、エリアを拡大できない。
そこに我々 がプラットフォームを提供する。
個人宅向けの混載 配送と決済機能、さらには一人暮らしの高齢者の『見 守り(安否確認)』などのサービスを低料金で提供し ていきます」 「地方公共団体や商店街などの公的なセクターが 主な提案先になります。
日本の人口は既に減少に向 い、今後も高齢化がどんどん進んでいく。
地方の商 店街は衰退し、買い物困難者が急増している。
地方 自治体の役割はますます大きくなっているわけだけれ ども、彼等には人手もお金も足りない。
そこで我々 にアウトソーシングしてもらう。
その結果、コストを 変動費化し、効率的で質の高いサービスを住民に提 供できることになる」 東北の復興に独自の流通ビジョン ──CSRとしては理解できますが、事業性として はどうでしょう? 「間違いなく今後の事業の柱になります。
人口の減 少、少子化、過疎化、高齢化という社会構造の変化 は確実にやってくる。
そこには必ず新たな需要が生 まれます。
実際、この一〇年で老人ホームや介護ビ ジネスは考えられないくらいに肥大化したでしょう?」 「今回の震災で、私はますますその思いを強くしま した。
社会的には部品工場が被災して巨大メーカー のサプライチェーンがストップしたことばかり話題に なりましたけれど、それと同時に今回の震災では to Cの部分も壊された。
そのために被災地の住民たち は長期間にわたって大変な不便を強いられました」 「地元の商店街が衰退し、コンビニや量販店などの ナショナルチェーンに変わっていったことで、確かに 品揃えは豊富になり、地方の生活レベルは向上しま した。
しかし、そうした店が震災で閉まったとたんに、 住民たちには買い物の手段がなくなってしまった。
な んとか開いているコンビニを探しても商品は並んでい ない。
ガソリンがないのでGMSにも行けない」 ──ナショナルチェーンだからこそ、被災地に人を 送ったり、モノを送ったりでできた。
ローカルな店こ そ、なすすべがなかったのでは。
「そうは思いません。
本当は米でも野菜でも、東北 は産地ですから地元にたくさんある。
小売店はそれ を仕入れておにぎりにして店頭で売ればいい。
ナショ ナルチェーンはガバナンス上、それを認めるわけには いかないけれど、個人商店ならできる」 「何も私は全て昔に戻せと言っているわけではあり ません。
大型のショッピングセンターやコンビニはや はり便利です。
しかし、そうしたナショナルチェーン とうまく共存するかたちで、地産地消型の商店街の ネットワークも温存した方がいい。
それを我々は支援 したい」 ──その多くはパパママストアです。
ヤマトに何がで きますか。
「我々が想定しているのは従来型の“よろず屋”で はなく、もっと個性のある、地元の商品を調達する ルートをきっちり持った専門店街です。
そこに我々 陸前高田市を視察する木川社長被災したヤマト運輸の石巻営業所 特 集 21 JUNE 2011 が商品を供給する。
さらには消費者の自宅まで届け る。
例え店舗にない商品であっても、我々のプラッ トフォームを使えば、その日のうちに調達して、その 日のうちに自宅まで届けることさえできる。
そうやっ て地元の商店が再生していくことが地域の活性化に つながっていく」 ──確かに魅力的な構想ですが、相当に時間がかか りそうです。
「しかし今ご説明したプラットフォームに必要な パーツを我々は既にほとんど具体化しているんです。
それを一つのプラットフォームに統合し、ビジネスモ デルとして着地させる。
今回の震災で壊滅的な被害 を受けた東北がその格好の舞台になると考えていま す。
東北の復興には、産業の再生と同時に、商店街 の再生、そして行政機能の復活が必要です。
それに 対して当社は独自のビジョンを提示していきます」 一三〇億円以上を寄付する理由 ──今年度に取り扱った宅急便一個につき一〇円を 被災地に寄付すると発表しました。
宅急便の取り扱 い個数は昨年度実績で十三億個強ですから一三〇億 円以上を寄付することになります。
これも新しいビジ ネスモデルに向けた布石なのでしょうか。
「あれは純粋な恩返しです。
当社の『クール宅急便』 は水産業や農業に育ててもらいました。
日本の水産 業は水揚げのおよそ四割が東北に集中しています。
そのため当社の東北地方の営業所は業績が良かった。
当社にとってドル箱でした」 ──しかし一三〇億円という規模はヤマトH Dの 一〇年度の純利益の約四割に当たる金額で、株主に 対する説明責任を果たす必要があります。
「もちろんです。
そのため寄付金の使い道は、被災 地の産業再生と学校や病院など地域の生活基盤の再 生に限定させてもらいます。
東北の産業に復活して もらうことが我々の事業基盤の復活には必要なんで す。
長い目で見れば、この寄付は当社の企業価値を 大きく高めることにもなる。
株主にはそう説明してい ます。
それに対して、海外の株主も含め、褒められ ることはあってもダメだという人は一人もいませんで した。
株式アナリストたちにも、予想していた以上 のプラス評価をいただきました」 ──業界内には今回の寄付を上手いマーケティング だと評価する声もあります。
寄付つきの商品によっ て販促キャンペーンを張る手法が、欧米では「コー ズマーケティング︵Cause Marketing︶」と呼ばれて 広く定着しているとか。
「スタンドプレーだとか営業政策だといった批判を 受けることは覚悟していました。
しかし、こうした業 績連動型の手法をとらない限り一〇〇億円を超える ような寄付はできなかった。
通常の寄付では一〇億 円程度が限界です。
それ以上の金額を一度に寄付す るとなれば株主を説得できない。
しかし、その程度 では、あれだけの広域災害に対して大したことはで きない」 ──一三年度までの三カ年計画は震災前に発表した ものです。
数値目標を修正する必要は。
「初年度一一年度がどれぐらいの数字になるのか は、もう少し状況を見極めさせてもらいたいというの が正直なところです。
現状では原発や風評被害、そ して何より計画停電の影響がはっきりしない。
夏場 の停電となれば、とりわけクール便には大変な問題 です。
それでも向こう三年間で総額二八〇〇億円を 予定している設備投資計画は、大きく変えるつもり はありません。
せっせと駒を進めていきます」 連結営業収益 連結営業利益 営業利益率 ROE 宅急便取扱数量 図2 「DAN-TOTSU 経営計画2019」の数値目標 1 兆2,280 億円 640 億円 5.2% 6.5% 13 億4 千万個 1 兆4,400 億円 880 億円 6.1% 8.5% 16 億8 千万個 事業数100 事業 国内宅急便シェア 50% 超 ノンデリバリー 営業利益構成比50% 超 海外売上比率 20% 超 国内:15億6000万個 ROE11%超 海外:1 億2000 万個 2010 年度見通し2013 年度2019 年度
