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2011年6月号
特集

第7部 生産・物流施設の脆弱性を把握するプランテックコンサルティング 嶋 正和 取締役

JUNE 2011  32 サプライチェーンの復元力  今回の震災で、当社プランテックコンサルティン グには製造業を中心としたクライアントからの様々 な相談が寄せられている。
震災によってダメージを 受けた工場や物流施設の回復、夏に想定される電 力不足への対応(発電機などの調達や省電力化の アドバイスなど)、耐震チェックの相談などである。
 当社はプランテック総合計画という設計事務所 を核としたプランテックグループのコンサルティン グ部門としてファシリティのコンサルティングを行 っている。
震災以降、当社の担当者は休む間もな くクライアントのサイトを飛び回っている。
 そこから見えてくるのは、今日のサプライチェー ンの脆弱性である。
複雑かつ世界中に広がったサプ ライチェーンの、たった一カ所が途切れただけで、 システム全体が機能しなくなってしまう。
そうした 話が連日のように筆者の耳に入ってきている。
 今日の企業のケイパビリティ(企業が全体として 持つ組織的な能力)を決めるのは、必ずしも生産 単体の効率ではなく、むしろサプライチェーンの脆 弱性への対応が、ライバル企業との差別化要因とし て大きくなっている。
リスクに対する認識と評価、 そのインパクトからの復元力(Resiliency)が生き 残りのカギとなっているのだ。
 先進企業は既に体制を整えている。
当社のクラ イアントでもあるA社では、売れ筋商品の在庫を 三カ月積むことで、災害発生時の担保としている。
平時における設備の改修でも震災の発生を想定し、 三カ月以内に対応できないものを優先させている。
施設のなかには被災した場合には、放棄してしま う方が経済的というケースもある。
そうした経営 判断の基礎となる情報をA社は常に把握している。
 自動車部品メーカーのリケンは、二〇〇四年の中 越地震、〇七年中越沖地震の二度にわたってサイ トの被災を経験したことで、在庫のアロケーション を改めた。
それまではコスト効率を重視して新潟 県柏崎市のサイトへの一極集中を解としていたが、 これを二カ所に分散した。
コスト面も考え、自動 車メーカーの物流拠点に同居するかたちで在庫を保 管することにしたのである。
また同社は現在、日 本の生産基地が被災した場合の代替策として海外 工場を活用する体制を整えている。
 米半導体メーカーのインテルはさらに先を行って いる。
「Copy Exact」と呼ばれる戦略で、世界各 地の工場を全く同じ仕様にしている。
共通仕様の 工場、運用体制とすることで、サプライチェーンの どこかに断絶が起こっても対処できるようにして いるのである。
これまでのBCPの問題点  企業を取り巻くリスクに対するマネジメント方 法としては、従来から「事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)」を策定することが広 く行われてきた。
一般にBCPは以下のプロセスを 経て策定される。
 1.リスクの洗い出し  2.リスクの評価・選別  3.選別されたリスクへの対応方法の検討 3─1.組織 3─2.被害想定と目標設定 3─3.マニュアル作成、教育、シミュレ ーション 生産・物流施設の脆弱性を把握する  自社の生産設備や物流センターだけでなく、取引先や 協力物流会社の拠点まで含めたサプライチェーン施設の 脆弱性を把握し、災害時の回復力を強化する──その 手法をプランテックコンサルティングは「SCF(Supply Chain & Facility Risk Evaluation)リスク評価」と呼 ぶプログラムにまとめた。
プランテックコンサルティング 嶋 正和 取締役 しま・まさかず 1963年、兵庫県生まれ。
東京大学工 学部卒。
欧州経営大学院( INSEAD) MBA取得。
ボストン・コンサルティング・ グループ、フットワークエクスプレス、ロー ランド・ベルガーを経て2000年に物流 コンサルティングのロジスティックを設立。
代表に就任。
2010年からプランテック コンサルティング取締役を兼務。
第7部 特 集 33  JUNE 2011  日本でも多くの企業がこのプロセスを踏襲してい るが、ここには大きく欠けている部分がある。
サ プライチェーンの視点である。
自社施設に関して は、上記のBCPの中でそれなりの調査、評価が 行われている。
しかし、サプライチェーンの構成要 素となる施設や設備に関しては、リスクの評価ど ころか現状の把握さえほとんど行われていないの が実情である。
 今日の企業活動は個々の要素の足し算ではなく、 掛け算である。
学校の試験であれば、解けない問 題が一部あっても、合格点を取ることは可能だ。
し かし、サプライチェーンは一問でも零点があると、 アウトプットはゼロになる。
他の問題が満点でも零 点である。
 従って使えるBCPを策定するには、サプライ チェーンという鎖のどこに零点となる可能性 があるのかを、事前に把握し、その強度を評価し て、トラブルが現実化した時の善後策を準備して おく必要がある。
 その「現状把握」と「リスク評価」を実施する プログラムがプランテックグループの提唱する「S CFリスク評価」である。
ちなみに「SCF」と は「Supply Chain + Facility」を略した当社の造 語であり、Facilityとは企業の持つ設備や電力など のユーティリティを指している。
工場の出荷機能や 倉庫施設なども、もちろんそこには含まれる(図 1)。
﹁SCFリスク評価﹂の進め方  当社が推奨する「SCFリスク評価」のプロセス は以下の通りである。
 1.現状把握 1─1.サプライチェーンのボトルネック分 析︵調達先、販売先︶ 1─2.自社ファシリティに関連する脆弱 性分析︵建物、物流、ICT、ユ ーティリティ、組織、地方自治体 の対応力︶  2.リスクシナリオ作成とそのインパクト分析  3.シナリオ評価とアクションプラン  各プロセスについて以下に解説していこう。
1.現状把握  リスク評価の大前提が「現状把握」である。
特 に客観的情報を早急に収集できるかがカギとなる。
この現状把握はステップ2のリスクシナリオに基づ き、どのポイントで「破綻」の可能性があるかの 判断材料となる。
このデータはBCPとしての対 応だけではなく、企業戦略構築上、有用な情報と なる。
 サプライチェーン・ボトルネック分析  調達先、販売先など、サプライチェーンを構成す る各プレーヤーの評価を行う。
直接のヒアリングや 外部の調査機関を使って現状の客観的情報を入手 する。
その項目は以下の通りである。
■調達先の情報、評価項目︵例︶ ●会社名 ●調達品 ●ロケーション ●購買金額(社内でのシェア) ●主要顧客 ●資材調達先(住所) ●財務状況 ●依存度 ●生産能力(余力) ●契約形態 ●BCP対応の現状 ●代替サプライヤ情報 ●物流(ルート、倉庫) ●部材、商品在庫高 ●ほか ■販売先の情報、評価項目︵例︶ ●会社名 ●販売品(汎用、専用) ●ロケーション ●購買金額(先方でのシェア) ●主要競争会社 図1 サプライチェーン構成要素と    SCF リスク評価 調達先調達先調達先 調達先調達先 自社工場 物流センター 調達先 販売先販売先販売先 自社ファシリティの 脆弱性分析 JUNE 2011  34 ●主要販売先(住所) ●信用情報 ●BCP対応の現状 ●代替サプライヤ情報 ●物流(ルート、倉庫) ●商品在庫高 ●ほか  このうち、とくに調達先に関しては、一次調達 先だけでなく、一次調達先にとってのクリティカル な調達先、さらにその先へとサプライチェーンを遡 ることになる。
また、販売先に関しては、災害な どのリスクが現実化した時の販売への影響を把握 し、その対応における優先順位を定めておく。
 自社ファシリティに関する脆弱性分析  現状で皆の念頭にあるのは、建築物の耐震診断 であろう。
確かに大切であり、行っていない場合 は早急に実施すべきである。
しかし、ここで強調 したいのは、それ以外の領域、例えば構内のユー ティリティ敷設などの現状把握である。
 震災によって電力、ガス、水道、下水などのユ ーティリティが断絶すれば、当然ながら大きな影響 が出る。
ところが構内のユーティリティがどのよう に配管されているのか分からない、地面を掘ると 何が出てくるのか分からないというサイトが決して 珍しくないのである。
 協力物流会社を始めとする業務委託先の状況も 把握しておくべきである。
自社のファシリティでは ないが、原材料や商品の輸送が滞れば、結果とし て構内の被災となんら変わらないことになる。
 代替輸送手段の検討も必要だ。
某菓子メーカーは JR貨物が天災によって使えなくなったことから、 急遽トラックに頼らざるを得なくなった。
しかし、 JR貨物への依存度が高く、またトラック運送会 社とのパイプに乏しかったことから、車両の手配に 大変に苦労したという。
 平時から災害発生時を念頭に置いて複数の輸送 手段を手当てできる体制を整えておく必要がある。
 物流面では自動倉庫も一つの論点になる。
自動 倉庫は土地の効率的活用、正確なオペレーションと いう点では優位性のある設備である。
しかし、今 回のような大震災が起こった場合、その復旧には通 常のラック倉庫に比べて時間のかかることが多い。
 地震発生時の自動倉庫のリスクに関して、現状 では明確な指針がない。
ユーザーは震災の際にどの ようなことが起こりうるのか、自ら自動倉庫メー カーと検討し、その復旧体制を考えておく必要が ある。
物流会社との協業によって、一時的に人手 で出荷するといった緊急措置策を用意しておく。
 組織面では、災害時の統括組織のフォーマットを 決めておくことは当然として、社員の連絡網、居 住地の確認(出勤できるかどうか含め)、さらには 地方自治体の危機管理能力を確認しておく必要が ある。
■自社ファシリティの確認要素  :生産設備以外の要素を中心として ●生産設備 ●建物(事務所、工場、倉庫など) ●敷地 ●インフラ設備(ユーティリティ含む) ──道路 ──電力(外部、自家発電)、ガス、熱源、 上下水道(排水処理施設含む) ──通信 ──消火設備 ●セキュリティ ●物流体制 ──物流会社(信用、財務状況、主要取引 先、倉庫などファシリティ) ──代替可能性 ──幹線道路、鉄道、空路、海上輸送の持つ 潜在的リスク ──在庫 ──自動倉庫 ●組織 ──自社の被災時の統括体制 ──社員の連絡網、居住地の確認 ──地方自治体の危機管理能力 2.リスクシナリオ作成と   そのインパクト分析  海外の生産設備であれば、テロや情勢不安など 様々なシナリオを想定する必要がある。
しかし、日 本の場合、主に検討すべきリスクはやはり地震で あろう。
それも揺れによる直接的影響だけでなく、 今回の震災でも明らかになったように、津波、液 状化によるユーティリティの断絶、放射能汚染など の地震に伴う副次的な災害についても想定が必要 になっている。
 今後、日本で発生が予想される大規模地震として 特 集 35  JUNE 2011 は、具体的には「南海大震災」「東南大震災」「東 海大震災」そして「首都直下型大震災」が挙げら れている。
それぞれの地震について、複数のシナ リオを用意しておく。
 図2は南海大震災が起こった場合の、各地域の 震度、津波の影響に関するシミュレーション結果で ある。
このシナリオAが現実化した場合に、ステッ プ1で確認したサプライチェーンとファシリティに どのような影響があるかを予測する。
 もちろん一〇〇%の精度で予測が当たるわけで はない。
それでも検討によってサプライチェーンの どこに問題があるのか、どこに脆弱性が潜んでい るのか、驚くほど明確に指し示されるはずである。
図3はシナリオAに対して起こりうる損害とその対 策例を示したものである。
こうして図示をするだ けで見えてくることも少なくはない。
図3 シナリオA における想定被害と対策例 シナリオAにおける想定被害と対応策例 各ステージ別復旧所要時間例 調達先 調達先 調達先 調達先 調達先 販売先販売先販売先 調達先 自社別工場 自社工場 物流センター 調達先X 協力会社Y 物流 センターZ 被害1 被害2 被害4 被害3 調達先→自社工場の空路の寸断 被害のない近郊協力会社Yへ支援 依頼 被害2 解決案 調達先→調達先の道路の寸断 関東の調達先会社Xからの調 達に変更 被害1 解決案 工場の一部が水につかり生産量低下 自社別工場で生産ラインを一部変更 し対応 被害3 解決案 物流センターから顧客への配送 ルート(道路)が寸断 被害のない物流センターZから配送 被害4 解決案 調達生産販売 30% 70% 90% 50% 60% 80% 50% 60% 70% 0カ月1カ月3カ月 運路の回復と調達先の設備復興に伴い回復 工場が一部の損傷で済んだ為、早期に回復 震災後顧客の需要が落ち、回復に時間を要する 在庫○カ月在庫○カ月在庫○カ月 在庫○カ月在庫○カ月在庫○カ月 津波の波源域 強振動波形計算による震度分布海岸の津波の高さ(満潮時) 3.シナリオ評価とアクションプラン  シナリオ別にどのサプライチェーン、ファシリテ ィにどのような影響があるかを経営陣を中心とし たプロジェクトチームで検討することで、その企業 が何をすべきかが明らかになる。
クリティカルチェ ーン(ボトルネックとなる連鎖)がどこにあるかが わかれば、その対策と優先順位も明確にできる。
 当然、評価で明らかになる「即座の対応」が必 須かつ有効なものは即座に実行に移すべきである。
また、評価の上、対応するメリットが見つからない ということで、一部の施設に全く手を付けないと いう経営判断もあり得る。
どれだけの復元力を持 つべきかは、その企業のポリシーに関わってくる。
そうした正解のない問題に、経営陣が判断を下す 材料を与えるためにも、事前に討議をしておくこ とが大切なのである。
図2 南海大震災のシミュレーション

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