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2011年6月号
ケース

伊藤ハム 組織

JUNE 2011  46 今年一〇月に物流会社を新設  伊藤ハムは二〇一一年四月、「グループの 物流機能を一元化することによるスケールメ リットの拡大及び物流の整流化」のため、同 年一〇月に新会社を設立すると発表した。
今 期からスタートした五カ年の中期経営計画で 課題として掲げる「グループ再編」のための 施策の一つだという。
 同社はすでに一〇〇%子会社の伊藤ハム物 流を擁している。
〇五年四月に、それまで東 北・北海道エリアを担当していたデイリー物 流サービスと、関東で活動していたアイ・エ イチ物流サービス、近畿・中四国をカバーし ていた伊藤ハム物流の三社を統合するかたち で設立した会社である。
 しかし、伊藤ハム物流の売上規模は現状で 一〇〇億円余り。
四五二五億円の連結売上 高を持つグループの、ごく一部の物流しか担 っていない。
逆にグループ以外の荷主向けの 販売比率は三割を超えている。
その業態は他 の協力物流業者と同じ土俵で競争するオペレ ーション会社に近い。
 これに対して今年一〇月に設置する予定の 新会社は、グループの物流機能を一元化して いくことを明確な目標として定めている。
伊 藤ハムの長島泰三加工食品事業本部物流統 括部業務部部長は「新会社の詳細はまだ何も 決まっていない」というが、そのあり方しだ いでは、伊藤ハムグループのみならず国内の 食肉業界全体に大きな影響を与えていくこと になりそうだ。
 これまでも伊藤ハムのロジスティクスの取り 組みは、食肉業界の内外から注目され、また 高い評価を得てきた。
一九九〇年代には全国 六カ所に先進的なロジスティクスセンター(L C)を整備。
需給管理の中核にLCを据えて、 生産計画のための数値を物流部門が独自に設 定するという欧米流のロジスティクスの導入 に踏み切っている。
 このときハム・ソーセージの需給管理シス テムも構築した。
各地の営業所に集まる受注 情報を物流部門が一元的に管理しながら、在  今年10月に物流子会社の新設を予定している。
既 存の伊藤ハム物流が外販比率3割を超えるオペレーシ ョン主体の会社であるのに対し、新会社はグループ 全体の物流の一元管理をその役割とする。
筆頭株主 の三菱商事および同社傘下の米久との業務提携も活 かしながら物流効率化を進める。
組織 伊藤ハム グループの物流一元化担う新会社設立 商物分離につづき子会社の再編を加速 94/3 95 /3 96 /3 97 /3 98 /3 99 /3 00 /3 01 /3 02 /3 03 /3 04 /3 3 05 /3 06 /3 07 /3 08 /3 09 /3 10 /3 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 -1,000 1.4 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 売上高(億円)・営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 連結業績・在庫の推移、および特筆すべき事項 04 年から4 年越しで販売 (商物)分離を推進 業績の悪化を受けて 「伊藤ハムグループ 再生プラン」を策定 02 年3 月NPS 研究会に入会 01 年9月国内で BSE 騒動が勃発 08 年秋東京工 場で地下鉄汚染 のトラブル発生 原材料費の高騰 や販売価格の下 落で業績が悪化 94年1月に六甲LC が稼働したのち全国 6LCを整備 連結売上高(億円) 営業利益(千万円) 棚卸資産回転期間(カ月) 47  JUNE 2011 庫量などを加味して生産計画を立てるという 業務手順を確立した。
 〇四年になると営業所から物流機能を切り 離す「配販分離」(商物分離)に取り組み、長 年の懸案だった商物一体のルートセールスの 見直しにケリをつけた。
〇六年には物流管理 のデータベースを全国で統一。
トレーサビリ ティ(履歴管理)への対応力を高めた。
さら にトヨタ生産方式を手本とする業務改革にも 熱心に取り組んできた。
始まりは「物流 世紀委員会」  伊藤ハムの物流改革のターニングポイント は、九〇年に社内に設けられた「物流 21 世紀 委員会」というプロジェクトに遡る。
一〇年 後をにらんで物流を刷新するという目的から、 メンバーは当時三五歳以下の若手社員だけで 構成された。
実際、ここに参加していたメン バーが、今では伊藤ハムグループの物流管理 を牽引する立場にある。
 この委員会から「六甲LCプロジェクト」 が生まれ、九四年に関西・中四国エリアをカ バーする六甲LCを稼働させた。
外部のエン ジニアリング会社の協力も得ながら構築した 先進的な物流拠点だった。
 製品の日付や重量をシステムで管理するた めに、大容量のバーコード「コード128」を 国内で初めて本格的に採用した。
自動倉庫や 高速仕分け機、無人搬送車などのマテハンも 積極的に導入した。
 この六甲LCの稼働を皮切りに、中部L Cや東京LCを整備していった。
東北や九州 でも物流業務の見直しを進め、全国を六LC (北海道・東北・東京・中部・六甲・九州) でカバーする体制を構築した。
 当時、六甲LCに勤務していた長島部長 は、同社のLCネットワークについてこう強 調する。
「やはり日付管理の問題が大きかっ た。
競合に勝つためには、より鮮度の高い商 品を、欠品することなく顧客に供給していく 必要がある。
全国を六カ所のロジスティクス センターでカバーするこの体制は、リードタイ ムなどを考えれば今でも当社の生産拠点の立 地に一番合っている」  しかし、自動化投資では苦い教訓も味わっ た。
過度な自動化のせいでオペレーションの 柔軟性が失われてしまったのだ。
出荷時の瞬 発力が機械の能力に制約されるデメリットに 気づいてからは、自動倉庫は一部のLCでし か使わなくなった。
大規模な高速自動仕分け 機も撤去してしまった。
 「コード128」にしても、その後の流通の 変化によって綻びが目立ちはじめた。
コード 128のラベルは外箱に付けて使用する。
だ が個々の製品には、日付情報を含まないJA Nコードしか印字されていない。
多頻度小口 化が進み、ピース単位の発注が増えてくるの に伴い、もっぱらケース商品の管理に威力を 発揮するコード128による自動化の効果は 薄れていってしまった。
 そうした事情もあって、近年はマンパワー の活用をメーンとする効率化に軸足を移して きた。
意識転換を促進するうえで大きな意味 を持っていたのが、トヨタ生産方式を参考と する経営手法の導入だった。
伊藤ハムは〇二 年三月にトヨタ流の経営手法を自動車業界以 外に広げる活動を展開する「NPS研究会」 に入会して、「IHPS」(伊藤ハム生産方式) の構築に乗り出した。
 IHPSの導入に東京LCで携わった経験 をもつ物流統括部企画部の近藤弘稔企画課 長は、「以前は工程ごとに在庫の山ができて いた。
これをきちんと『見える化』して、流 れるようにしなければいけないと指導された。
実際、後工程から遡って考えるように発想が 変わったことで、在庫の山は次々に消えてい った」と振り返る。
 輸送業務のためのトラックのダイヤグラム 化もこのとき実現した。
それまでは、各LC の限られた入出荷バースを、協力物流事業者 のトラックが早い者勝ちのように使っていた。
伊藤ハムの物流部門としては、時間を厳密に 加工食品事業本部物流統括 部業務部の長島泰三部長 21 JUNE 2011  48 決めても守れないのではないかと考え、それ 以上は踏み込めずにいた。
これを後工程から 遡って考えるトヨタ流の発想でスケジュール化 したところ、無理なく入出荷作業をこなせる ようになった。
 基準在庫を持って後補充で管理する考え方 が定着した結果、増加傾向にあった在庫水準 は減少に転じた。
BSE(牛海綿脳症)騒動 の最中に落ち込んだ業績も急回復した。
その 後、原料価格の高騰や業績の低迷などで在庫 水準が再び悪化してしまった時期にも、コン シューマー向け製品の在庫に限れば徐々に減 る傾向にあるのだという。
 もっともNPS研究会との付き合いも、約 九年間で終わった。
吸収すべきことを学び、 入会した当初の目的を十分に果たしたという 判断から今年初めに退会した。
役割を終えた 「IHPS推進室」は解体され、所属してい たメンバーは物流部門など関係部署に吸収さ れていった。
商物分離に繰り返し挑戦  前述した通り、伊藤ハムは二〇〇〇年代半 ばに営業所における商物分離を断行している。
それまでは顧客への配送業務まで営業担当者 が担うルートセールスが当たり前だった。
営業 所に製品在庫を常備して、注文に応じて営業 担当者自身が製品を届けるという管理方法で ある。
だが徐々にこのやり方の問題点が顕在 化してきた。
第一段階として、モノの流れはほぼ従来のま ま営業担当者から配送業務だけを切り離した。
在庫は原則としてLCに集約するが、営業所 の物流機能は残す。
そしてLCから出荷した 製品を営業所経由で協力物流業者が顧客に配 送するようにした。
 「埼玉県の熊谷営業所でトライアルを実施し たところ、営業所で荷役や商品管理を担当し ていた負担が一気に軽減された」(近藤課長)。
これに手応えを得て、関西や中部でも同様の 取り組みを進めることを決めた。
 〇六年から第二段階に入った。
営業所を経 由しない商物分離だ。
協力物流業者が運営す る仕分けのための通過型拠点を各地に設置し、 当該エリアではLCから出荷した製品をそこ で顧客別に仕分けて納品するようにした。
 この段階では、LCからの情報発信もスタ ートした。
すでに全LCを同一システムで管 理し、製品の在庫情報などをオンラインで共 有できる仕組みはあった。
それをさらに改良 し、必要なデータを社内の誰もが見られるよ うにして、欠品の発生などを防いだ。
 「営業のできる担当者ほど仕事が大変にな ってしまう。
その一方で、遠隔地に位置する 小規模のお得意様ばかりのルートはなかなか 効率が高まらない。
そうした悩みを解消しよ うとして、九〇年代から一部の営業所で、配 送と商談を分ける体制が現場レベルでぽつぽ つと生まれていた」(長島部長)  これを「配販分離」と呼んで制度化しよう として、九〇年代末に全社的な改革に乗り出 した。
だが定着させることはできなかった。
 従来はルートセールスで注文をとり、翌日 再び訪問して営業所から製品を届けるといっ たことが可能だった。
ところが在庫をLCに だけ置くとなると最短でも二日間の配送リー ドタイムが必要で、顧客にあらかじめ発注を 確定してもらわなければならない。
それまで 営業担当者が顧客の要望に融通無碍に応えて いただけに、このやり方を見直してもらうた めの交渉は一筋縄ではいかなかった。
 管理上の問題もあった。
販売と配送の専任 担当者の会社への貢献度をどう評価するのか、 返品の扱いをどうするのか。
種々の課題をク リアするのは容易ではなかった。
結局、関東 や関西などの大消費地では改革を軌道に乗せ ることができなかった。
 しかし、チェーンストアの多くが専用セン ターを持つようになっており、従来の体制に 無理が生じているのは明らかだった。
商物分 離は避けられない課題だった。
 そこで〇四年から、あらためて取り組んだ。
加工食品事業本部物流統括 部企画部の近藤弘稔企画課長 49  JUNE 2011 して〇四年に一三〇カ所程度あった加工食品 の営業所は、約一〇〇カ所に減った。
現在は 営業所の冷蔵庫をTC化したり、協力物流事 業者の拠点を活用するなど、全国に約七〇カ 所の通過型拠点を設置して、そこで仕分け作 業を行っている。
事業化から最適化に物流戦略を転換  一連の物流改革の進展と並行して、伊藤ハ ムの物流部門の組織上の位置づけも変わって きた。
古くは営業部門の傘下に入っていた物 流部門が、九〇年代に生産部門に移管された。
二〇〇〇年代半ばになると、物流業務の事業 化を強く意識していたこともあって、生産や 営業からは独立した「物流本部」を構えるこ とになった。
 これを一〇年四月に再び改組した。
ハム・ ソーセージなどの生産と営業を包含する「加 工食品事業本部」に所属するかたちで「物流 統括部」を設置し、現在に至っている。
物流 部門を再び事業部門の中に戻した理由を、長 島部長は次のように説明する。
 「各部門がそれぞれに目標を持って動くと、 どうしても他部門を悪者にしたり、仕事を押 し付け合うといったことがでてくる。
製品が 製造現場から販売へと流れていく工程すべて を一気通貫で考え、会社としての本当の利益 を見ていく必要があった。
そのために生産や 営業と同じ組織に物流を入れた」  物流統括部には現在、総勢約一〇〇人が 所属している。
このうち約九割の社員からな る「業務部」は、加工食品の受発注業務と、 LCの管理をこなしている。
現場の実務は原 則としてアウトソーシングしているため、社 員が手掛けているのは協力物流業者の管理や、 衛生や安全の管理などだ。
 そして残り一割の社員は「企画部」に所属 し、加工食品事業本部の中にいながら、食肉 事業を含む全社の物流に目配りしている。
 現状では、生肉を扱う食肉事業と加工食品 事業は、ほぼ別々に管理している。
これらを 横断的に管理することによる物流効率化の余 地は大きい。
体積が小さく重量のある食肉と、 かさばる加工食品の輸送を融合すれば相乗効 果を見込める。
従来は輸送時に問題になった 生肉のドリップ(肉汁)にも技術的に対応で きるようになった。
両者の相互乗り入れは物 流部門にとって今後の大きな課題だ。
 伊藤ハムは〇九年に三菱商事を引受先とす る第三者割当増資などを行って、同社を持株 比率二〇%超の筆頭株主として迎えている。
これと併せて、三菱商事および三菱商事系の 食肉加工メーカー・米久との三社による包括 業務提携も実施した。
 三社は物流共同化などで一〇億円の効果 を出すという目標を掲げて工夫を重ねている。
提携によるシナジー効果を確実なものにして いくためにも、今年一〇月に新設予定の物流 会社に対する期待は大きい。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)  第三段階では、販売拠点のネットワーク自 体を再編した。
営業所の統廃合や、拠点をオ フィス機能だけにする衣替えを推進。
結果と 商物分離によって在庫を営業所からLCに引き上げた 山口 浜田 松江鳥取 岡山 松山 宇和島高知 徳島 和歌山 新宮 奈良 滋賀 京都 福知山 高松 神戸 堺 大阪 西宮 中国TC 神戸TC 四国TC TC化の狙い ?拠点の在庫を集約することにより、 在庫量を圧縮するとともに商品鮮度 を向上させ、商品競争力を高める。
?営業所を冷蔵庫を持たないオフィ ス化し、固定費の削減が行える。
?営業担当者が商談に専念できる体 制を構築し、売り上げの拡大を目 指す。
従来のルートセールスの主な問題点 ●拠点ごとに在庫が存在し、在庫過 多になるとともに、商品鮮度が上 がらず、店頭での競争力が弱まる。
●営業担当者が商談に専念できず、 売り上げが伸びるほど負担が増加 する。
●量販店が台頭(専門店が減少)し てセンター化が進み、営業効率が 悪化傾向にある。

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