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2011年6月号
現場改善

震災対応で揺れる中小通販の物流

71  JUNE 2011 新センター予定地で液状化現象  通販向けに卸売業を営むT社は、年商一五 億円とまだ規模は小さいものの、ここ五年間で 大きく業績を伸ばしてきた。
日用雑貨品、家 電品、アパレル品などを扱い、取扱品目の八 五%は中国製が占めている。
中国に事務所を 設置し、現地で生産された商品を積極的に日 本に向けて輸出してきた。
 これまでT社は群馬の地場物流会社から二 〇〇坪ほどの既存の倉庫施設を賃借し、現場 作業もその会社に委託してきた。
しかし、年々 増加する取扱量に対応するため、中古ながら も自社物件を千葉県に取得した。
T社として は思い切った投資であった。
 T社ではこの自社物件の取得にあたり、セ ンター運営も外部委託から自社運営へ転換し ようと考えていた。
しかし、社内には物流の 専門家がいなかったため、我々日本ロジファク トリー(NLF)にお声がかかった。
新センタ ーの企画・プランニングから立ち上げ、安定軌 道化までのコンサルティングである。
 具体的には、?物流フローの作成、?センタ ー運営フローの作成、?作業方法・手順の決 定、?通路・動線の設計、?庫内レイアウト、 ロケーションの作成、?マテハンの選定と手配、 ?法的な申請という一連のプロセスをサポート するという役割であった。
 T社の既存のセンターは、中国からの輸入 で二〇フィートを中心としたコンテナが直付け されることがあるため、デバンニング(開梱) スペースを確保していた。
また庫内はスチール 棚の「ネステナー」を二段重ねにして、保管を 行っていた。
 出荷は大きく三つのパターンに分けられた。
中堅以上の通販会社向けは、パレットもしく はケース単位の出荷がメーンで、基本的には物 流センターへの納品となる。
小規模な通販会社 はケース単位で事務所に出荷する。
他にエンド ユーザー向けのピース出荷もあった。
 新センターの立ち上げに当たって、我々NL Fとしては「?庫内レイアウト、ロケーション の作成」に関して、保管方法を固定ロケーショ ンとするか、ロケーションを固定せず、空いた 保管棚を管理するフリーロケーションにするか が大きな関心事であった。
 そのために、先ずは定番品の割合がどれく らいになるかをT社に調べてもらうことにし 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  東日本大震災は、国内市場における数少ない成長分野と 目されてきた通販物流にも大きな影を落としている。
被災地 から遠い関東でも液状化によって使えなくなった拠点や、リ スク分散のために関西進出を検討する企業が出始めている。
震災対応で揺れる中小通販の物流 第101 回 JUNE 2011  72 た。
定番品の割合が高い場合には、固定ロケ ーションでも出荷頻度のABC分析から効率 的なレイアウト、ロケーションを組むことがで きる。
フリーロケーション用に、マテハンや情 報システムに投資せずに済む。
 翌日、新センターとなる千葉県の倉庫物件を 訪れた。
築一五年は経っているが、施設は十 分な広さと高さを有していた。
建物はワンフロ ア四〇〇坪の二階建て。
一階の荷受け・出荷 スペースには大きな雨よけが付いていて、スム ースな入出庫作業が期待できた。
他社に賃借 する予定の二階も床加重一・五トン/?と、頑 丈な作りとなっていた。
 この視察を受けて、我々NLFは旧センター をここへ移管する場合の保管、レイアウト、動 線のイメージを、「保管効率重視型」、「動線重 視型」、「作業生産性重視型」の三パターンの ラフ案にまとめて後日、T社に提示する予定 であった。
 しかし、その四日後のことである。
東日本 大震災が起こった。
幸いT社の群馬の既存施 設は、一部の商品が棚から落下する程度の被 害で収まった。
ところが千葉の新センター予定 地で液状化現象が発生してしまった。
 建物の構造に影響はなかったものの一階の フロアが地面から湧き出した泥水で水浸しにな った。
敷地内のあちらこちらに地割れが発生 し、復旧には多額の費用と時間がかかるのは 明らかであった。
 T社は建物にあまり手をかけず、現状のまま 新センターとして使用するつもりであった。
大 がかりな改修工事などは行わず、照明の電気 工事程度で済ませる予定だった。
大きな投資 をした直後であり復旧工事に費用をかける余 裕はなかった。
 こうしてT社の自社センター設置プロジェク トは棚上げとなってしまった。
今もまだセンタ ー予定地は何の手もつけられないまま放置さ れている。
T社の経営陣の行き場のない想い は察するに余りある。
エリア戦略を見直し  今回の大震災で大きな方向転換を余儀なく された通販関連企業を、もう一つご紹介する。
通販会社向け物流の受託をメーンとするD社で ある。
我々NLFはリーマンショック前に二年 弱ほどD社の現場改善のお手伝をしている。
 物流の運営ノウハウが欠けているとのこと で、現場スタッフを中心に計六回の実務研修 と、誤出荷・誤納品削減に向けた現場改善を 六カ月間にわたって実施した。
物流に対する 共通認識と現場ルールの欠如、そして現場を 統括する人材不足が目立ち、なかなか苦労し たことを覚えている。
 震災後、久しぶりにD社の二代目のM取締 役から連絡が入った。
「今回の大震災で、わず かではあったがウチも影響を受けた。
会社のこ れからについて相談に乗って欲しい」とのこ とであった。
 その一週間後に、昼食を取りながらM取締 役と話をすることになった。
この日はM取締役 の右腕となっている若手部長も同席していた。
 D社は物流事業のほかに、情報システム開 発や帳票類の作成、印刷などを手がけている。
元々はそれら物流以外の事業をメーンとしてい たが、現在では年商三〇億円のうち四分の三 を通販物流で売り上げている。
 D社は通販分野が成長分野として注目され る以前から、中小の通販会社を主なターゲット と定めて荷主を増やしてきた。
拠点にはコール センターを併設させて、通販物流のワンストッ プサービスを目指し、付加価値の向上を図って きた。
当初の荷主の中には今では中堅、準大 手になった通販会社もある。
 D社は茨城県を地盤として現在、同じエリア に集中して全九棟の平屋倉庫を所有・運用し ている。
比較的地価が安かったことから、先 行投資で土地を確保し、そこに次から次へと 新棟を作っていった。
敷地内には常に新築に 向けた工事用建設車両が出入りし、さらには 同センターの周辺にも土地を買い増し、規模を 拡張していった。
 果敢な事業展開の裏付けとなる営業力も、D 社は備えていた。
体育会出身者で固めた営業 担当者たちが、どんどん新規案件を持ち込ん でくる。
なかには採算に合わない案件もあった が、それはM取締役がピシャリと?ダメ出し? を行う。
強気の経営戦略とエネルギッシュな営 業組織が上手くマッチし機能していた。
 もちろん、何の問題もなく、ここまで来ら れたわけではない。
物流専門で出発した会社 ではなかったこともあり、社内に物流のスペシ ャリストが育っていなかった。
日々のオペレー 73  JUNE 2011 ションは当初は人海戦術で「時間内に業務が 終われば良し」というレベルであった。
 商品の荷扱い、先入れ先出しなどの商品管 理、レイアウト、ロケーションなど、現場運営 面での課題は山積していた。
それが我々NL Fにコンサルティングを依頼した理由でもあっ たわけである。
関西進出でリスクを分散  話を元に戻そう。
M取締役と右腕の若手部 長は今回の震災で、茨城県に拠点を集中して いることが、大きなリスクであることを思い知 らされたという。
 震災の被害は金額にして二〇万円あまりで 済んだものの、拠点を集中させているエリアは 海岸から近く、津波の被害を受けてもおかし くない場所だった。
被災していれば会社の存 続自体が危うかったという。
 そこで新たに関西に進出し、事業エリアを分 散することを考えているという。
筆者にはや や唐突に感じられたが、荷主となる中小通販 会社が多いこと、またコールセンターに必要な 人手の確保などの諸条件を考えると、関西が 有力との判断であった。
 といっても、関西進出のための事前準備や 下地づくりは何も出来ていない状態であった。
これまでもD社は営業活動としては名古屋や 大阪方面にも足を伸ばすこともあった。
しか し、現地にセンターを置いて運営するとなれば、 土地勘のある責任者を現地採用することなど も検討しなければならないだろう。
限られた 既存スタッフを勝手の分からぬ関西へ送り込む ことになれば、安定稼働のみならず、足元の 関東の事業を揺るがすことにもなり兼ねない。
 本格的な関西進出には人材の他にも、もう 一つハードルがあった。
財務である。
これまで D社は拠点投資を続けざまに行ってきたこと から、有利子負債が膨らんでいた。
そのうえ での追加投資となると、土地、建物の新規取 得は元より、大型物件ともなれば賃貸でも負 担は大きい。
 昼食後に改めて議論を交わし、当面は自分 で進出するのではなく、関西を地盤とする物 流会社とのアライアンスを先行させるべきであ ろうということで意見の一致を見た。
 これに応じて筆者はすぐにD社のパートナ ー候補を選び、物流会社三社と連絡を取った。
幸いにして三社共「前向きに検討するので詳 細について聞きたい」とのことであった。
こ の後一カ月以内に三社をそれぞれ訪問し、D 社とのアライアンスによる相互補完、相乗効果、 そして相性を確認する予定である。
 通販という業種は、物流拠点の立地や配置 を比較的自由に選択できる。
調達先や部品メ ーカーが近隣に不可欠な自動車、電機などとは 大きく事情が異なる。
拠点を分散することで顧 客への配送リードタイムを短縮できるため、通 常ならコスト高になる拠点の分散も有効な選択 肢の一つになる。
通販物流に特化しているD 社にとっては環境の変化に対応して柔軟に拠 点を見直していくことも必要なことであろう。
 しかし、今回の震災を機に?右向け右?の ごとく、多くの会社が東日本の外に拠点を移 転させようとする動きに出ていることに、筆 者は少なからず疑問を感じている。
なかには 過剰とも思える反応も見られる。
検証レベルな らまだしも、拙速に拠点の分散を実施してし まうとオペレーションの混乱を招き、時間と資 金を浪費してしまうことにもなりかねないこ とに留意すべきである。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経て、 89年に船井総合研究所入社。
物流開発チーム・ トラックチームチーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に就任。
現 在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE

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