2011年7月号
特集

第6部 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 1有力49社が導入宣言書にサイン

JULY 2011  34 経営トップが“血判状”  流通BMS導入推進ワーキンググループは五月 一九日、製・配・販連携フォーラムにおいて『流 通BMS導入宣言書』を発表した。
宣言書にはフ ォーラムの発起人一五社を含む四九社が賛同企業 として名を連ねており、経営トップの名前と併せ て公表されている。
 賛同企業のうち流通BMSをまだ導入していな い企業は今後導入を積極的に進め、既に導入して いる企業はさらなる活用範囲の拡大を目指す。
各 社は今年九月末をメドに導入・拡大計画を策定し、 「製・配・販連携協議会」を通じて公表する義務 を負う。
 流通BMSは「流通ビジネスメッセージ標準」 の略称で、受発注や出荷、受領、請求、支払とい った企業間の商取引に関する情報を電子データ交 換(EDI)するための方式の一つ。
経済産業省 や日本チェーンストア協会(JCA)、日本スーパ ーマーケット協会(JSA)などの業界団体に加 盟する企業が中心になって二〇〇七年四月に策定 した。
 「流通BMSは企業間で使用する“言語”を共 通にすることで、円滑な商取引の実現を可能にす るもの。
そのために電子データのメッセージフォ ーマットとメッ セージの運用方 法を標準化し た。
通信インフ ラにはインター ネット回線を用 い、スピーディ かつ柔軟性に富んだ情報交換を実現する」と流通 BMS導入を推進する流通システム標準普及推進 協議会(流通BMS協議会)の坂本尚登部長は 説明する。
 もっとも、〇七年以降、経産省や流通BMS協 議会が普及活動に努めてきたが、これまでの導入 企業数は小売業で六七社、卸・メーカーで一〇七 社(いずれも一一年六月一日現在の社名公開企業 数)に留まっている。
流通業界全体からすれば、 まだほんの一部に過ぎない。
 しかし、今回の導入宣言が普及のドライバーに なる可能性は高い。
名だたる有力企業が経営トッ プの名の下、拘束力のある“血判状”にサインし たという事実は、各社の担当部署で導入を担当す る実務家たちにとって、強力な追い風になる。
 日立製作所情報・通信システム社の大木昇流通 システム本部第二システム部主任技師は「当社は 有力49社が導入宣言書にサイン  普及が遅れていた流通BMS に大きな転機が訪れて いる。
流通業界の有力企業49社が経営トップの署名 入りで導入宣言を発表した。
取引先企業やライバル 企業への波及は確実視されている。
従来の業界標準 であるJCA 手順はすでに限界に達している。
普及の 土台は整った。
            (石鍋 圭) 社名公開企業数 小売り業 1. スーパー 57 14 71 2. 百貨店 3 6 9 3. ドラッグストア 1 3 4 4. ホームセンター 3 1 4 5. 生協事業連合 3 3 合 計 67 24 91 業 態 導入済 導入予定 小計 卸売業・メーカー 1. 食品・飲料卸 48 48 2. 菓子卸 12 5 17 3. 日用品化粧品卸 9 5 14 4. 医薬品卸 4 2 6 5. アパレル・靴 卸・メーカー 11 1 12 6. 食品メーカー 16 2 18 7. 家庭用品 卸・メーカー 3 2 5 8. 包装資材 卸・メーカー 4 5 9 合 計 107 22 129 業 態 導入済 導入予定 小計 2011 年6月1日現在 流通BMS 協議会HPより 流通BMS 導入宣言書 私たちは、製・配・販の効率的な情報連携による サプライチェーン全体の最適化実現のため、 流通BMS の導入を推進します 上記を実現するため、 (1)私たちは、現在、普及段階にあるサプライヤー(メー カー・卸)と小売間の取引について、各社で流通 BMS 導入・拡大計画を策定し、製・配・販連携 協議会を通じて公表します (2)私たちは、積極的な情報公開を行い、流通BMS の普及啓発に努めます 流通BMS協議会の 坂本尚登部長 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 1 特集 35  JULY 2011 〇七年のスタート直後から流通BMS事業を開始 しているが、正直、昨年までは盛り上がりに欠け ていた。
ところが、導入宣言発表以降は引き合い が増えている」とその手応えを語る。
 これまでデファクトスタンダードだった電話回線 によるEDIは既に限界に来ている。
流通業界で は「JCA手順」と呼ばれるEDI方式が一九八 〇年七月に通商産業省(現・経産省)やJCA によって制定されており、現在に至 るまで広く普及・活用されている。
電話やFAXが主体だった当時の企 業間取引をオンライン化させること に成功するなど、JCA手順は流通 業界の商取引にとって欠くことので きない役割を果たしてきた。
 しかし、その制定から三〇年が経 過した現在、JCA手順はあらゆる 面で時代遅れとなっている。
電話回 線を使用したデータ交換は大量のデ ータのやり取りに対応できていない。
一日分の受発注データの受け渡しだ けで数時間かかることもある。
途中 で電話が切れてしまえば、再度やり 直しだ。
 データ表現も英数カナに限定され ている。
漢字や画像などは使えない。
送信可能なデータ容量は二五六バイ トのみの固定長で、新たな項目の追 加にも対応できない。
インターネッ ト環境が整備された現代においては、 非効率なレガシーシステムと言わざる を得ない。
 JCA手順による通信には受注す る卸側に専用モデムが必要になるが、 最近ではそのモデム自体が製造され なくなっている。
代替機の入手は困 導入宣言書への賛同企業49 社 アークス 横山清社長 アサヒビール 泉谷直木社長 味の素※ 伊藤雅俊社長 あらた※ 畑中伸介社長 イオン九州 岡澤正章社長 イオン北海道 植村忠規社長 イオンリテール※ 村井正平社長 イオン琉球 栗本健三社長 イズミ 山西泰明社長 イズミヤ 坂田俊博社長 伊藤忠食品 濱口泰三社長 イトーヨーカ堂※ 亀井淳社長兼COO 花王※ 尾崎元規社長 加藤産業 加藤和弥社長 カネボウ化粧品 植松正社長 キユーピー 三宅峰三郎社長 キリンビール※ 松沢幸一社長 光洋 豊田靖彦社長 国分※ 國分勘兵衛会長兼社長 コメリ 捧雄一郎社長 サークルKサンクス 中村元彦社長 サントリー食品インターナショナル 鳥井信宏社長 資生堂※ 末川久幸社長 資生堂販売 矢吹隆一社長 ジャペル 片岡春樹社長 セブンーイレブン・ジャパン 井坂隆一社長兼COO ダイエー 桑原道夫社長 日清食品 中川晋社長 日本アクセス 田中茂治社長 Paltac※ 三木田圀夫会長 フジ 尾崎英雄社長 プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン※ 桐山一憲社長 平和堂 夏原平和社長 マックスバリュ九州 柴田英二社長 マックスバリュ東北 宮地邦明社長 マックスバリュ西日本 岩本隆雄社長 マックスバリュ北海道 山尾啓一社長 マツモトキヨシホールディングス※ 松本南海雄社長兼CEO マルエツ 高橋恵三社長 三井食品 水足眞一社長 ミニストップ 阿部信行社長 ヤオコー※ 川野幸夫会長 ユニー 前村哲路社長 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 上垣内猛社長 ヨークマート 川上達郎社長 ライオン 藤重貞慶社長 ライフコーポレーション※ 岩崎高治社長兼COO 菱食※ 中野勘治社長 ローソン※ 新浪剛史社長兼CEO ※は発起人15 社 小売 商品マスタ登録 買掛 値札メッセージ 色の付いているメッセージが平成20年度以降に追加された流通ビジネスメッセージ標準を示している 値札作成依頼 発注 販売情報共有 返品 消込 支払 検品 卸・メーカー 商品マスタ登録 売掛 受注 請求 消込 出荷 請求メッセージ 支払メッセージ 卸・メーカーから小売へ 卸・メーカーへ 小売から 値札作成 販売情報共有 返品受領 POS 情報 返品メッセージ 受領メッセージ 集計表作成データ(受領用) 受領訂正メッセージ 出荷メッセージ 集計表作成データ(出荷用) 集計表作成データ (出荷梱包紐付有) 出荷梱包メッセージ(紐付有・無) 発注メッセージ 集計表作成データ(発注用) 発注予定メッセージ 納品提案メッセージ 商品マスタ 基本メッセージ一覧 難で、修理・修繕を繰り返しながら、だましだま し使っているのが現状だ。
 運用上の問題もある。
現在、小売りは独自のメ ッセージフォーマットを使って発注データを送って いる。
JCA手順では標準となるメッセージフォ ーマットが部分的にではあるが設定されている。
しかし小売側はそれを無視し、自分達の使い勝手 を重視した運用を続けてきた。
 受注する卸には、取引している小売りごとにバ ラバラのフォーマットでメッセージデータが送られ てくることになる。
そのため小売りごとに変換プ ログラムを組み、自社の基幹システムに繋げている。
取引先が一〇〇〇社あれば、一〇〇〇社分の変換 プログラムが必要になる格好だ。
システム開発費 と人的負担が卸に重くのしかかる。
JCA手順は限界に  こうした問題を打開するため、次世代EDI標 準として開発されたのが、流通BMSだ。
検討の きっかけは七年前に遡る。
〇四年四月に消費税の 総額表示が義務付けられたことから、JCAに加 盟する大手小売企業の情報システム責任者が集ま り、その影響と対策について協議した。
 普段顔を合わせることのなかった彼らは、消費 税の総額表示問題が一段落した後も情報交換を続 けた。
そこでインターネット回線を利用した次世 代EDI標準が新たな検討項目として俎上に乗せ られることになった。
既存のJCA手順は限界に きていることを全員が認識していた。
 有志を募り、〇五年中旬に自発的な会議体を立 ち上げた。
そこにはイオンやイトーヨーカ堂、ダ イエー、ユニーといった大手小売企業約一〇社の 情報システム担当者のほか、有力卸も顔を揃えた。
 設立からほどなくして、行政からの支援を得る ことになった。
経産省が当時推進していた「流通 サプライチェーン全体最適化促進事業(〇三年度 〜〇五年度)」の一環として、国がこの取り組み を後押しすることになった。
 経産省も当時、グロサリー分野のメーカーや卸 が中心となった「日本GCI推進協議会(GCI ジャパン)」と連携して、JCA手順に変わるE DIの策定を目指し、検討や実証実験を実施して いた。
新たに立ち上がった会議体への参加企業と GCIジャパンのメンバーが重複していることや、 複数のEDI規格が乱立することを避けるため、 取り組みを会議体の方に寄せ、一本化することに なった。
 会議体は「次世代EDI標準化ワーキンググル ープ(WG)」と名付けられた。
このWGの最大 の目的は、各社で異なっているメッセージフォー マットを統一し、その運用までを含めた標準化を 検討することだった。
 しかし、話し合いはすぐに暗礁に乗り上げた。
標準化を図るためには、各社が自分達の持つデー タ項目やそれに紐付いている業務プロセスを洗い 出し、その中から本当に必要な項目だけを採用し、 運用の方法までを一元化する必要がある。
 小売業にとってデータ項目や業務プロセスはビ ジネスの根幹となる重要事項だ。
それをライバル にさらけ出すことには、どうしても抵抗が生じる。
それでも各社はこの障害を乗り越えて全てのデー タ項目の開示に踏み切った。
 集まった項目の数は合計で二〇〇〇以上にも及 んだ。
項目をふるいに掛ける作業に移った。
侃々 諤々の議論は 「流通サプライ チェーン全体 最適化促進事 業」の期間中 には結局、決 着がつかなか った。
検討は 〇六年度から 始まった経産 省主導の「流 通システム標 準化事業(〇 六年度〜〇八 年度)」へと 引き継がれた。
同事業ではJ SAの加盟企 業や、大手シ ステムベンダ ーなどにも広 く参加を呼び かけた。
 全体最適化 事業および標準化事業における議論を経て、新た なEDIの具体的な仕様が次第に固まっていった。
二〇〇〇に及んだデータ項目は約十分の一にまで 削減・整理し、その運用方法も統一した。
 通信基盤にはインターネットを採用することが 確認された。
ネット回線は環境によって実行速度 が異なるが、大量・多種のデータを短時間で送受 信するためには、電話回線という選択肢はあり得 JULY 2011  36 通信プロトコルの比較 JCA 手順 ebXML MS EDINT AS2 JX 手順 インフラ 電話回線 インターネット インターネット インターネット 通信速度 2400/9600bps 10-100Mbps 10-100Mbps 10-100Mbps 通信可能なデータ 英数カナ 制限無し 制限無し 制限無し システム形態 プッシュ型 プッシュ型 プッシュ型 プル型 データ長 256KB 制限無し 制限無し 制限無し 対象 全流通業界 大企業 大企業 中小企業 特 集 なかった。
専用モデムも不要で、通信コストも削 減されるというメリットもあった。
 企業間をつなぐ通信プロトコルは「ebXML MS」「EDINT AS2」「JX手順(SOA P│RPC)」の三種類を採用した。
流通BMSを 導入する小売業は自身のビジネスの規模や環境を 考慮し、このうちいずれかを選択する。
 ebXMLおよび AS2はいずれも国際標準 として広く普及している。
日本においてはebX MLの普及が先行しているが、ウォルマートをは じめとする欧米企業ではAS2を採用しているケ ースも多い。
データが発生する都度、プッシュ型 で相手に送信する方式で、自社と取引先とをサー バ同士で常時接続する『サーバ│サーバ型』の取 引を行う際に用いる。
取引量の多い大企業同士の 通信に適している。
 もう一つのJX手順は日本独自の通信プロトコ ルで、必要の都度、自社のPCなどから相手のサ ーバにアクセスしてデータを送受信するプル型だ。
「クライアント│サーバ型」と呼ばれる取引形態の 場合に採用する。
クライアント側はサーバを用意 する必要がないため、低コストで流通BMSに対 応することができる。
データ量が少ない中小企業 の取引に適している。
一時間の通信が数分で終了  メッセージフォーマットの標準化や通信規格の 整理がある程度ついた〇六年一〇月、本番稼働 を前提とした共同実証がスタートした。
小売りか らはイオン、ダイエー、ユニー、平和堂の四社が、 卸からは菱食、国分、あらた、パルタック、花王 販売(現・花王カスタマーマーケティング)など 九社が参画した。
システムベンダーとしては日立 製作所が加わった。
日立の大木主任技師は「検討 会では詰め切れなかった技術的な部分を、共同実 証を通して固めていった」と振り返る。
 共同実証の結果、多くのメリットが確認された。
通信時間は従来のJCA手順に比べて九四%削減 された。
一時間かかっていた受発注データの交換 が数分で済むようになった。
卸側のプログラム個 別対応も無くなった。
運用のガイドラインも同時 に定めたことで、作業効率も向上することなども 証明された。
 翌〇七年四月、流通BMSの基本形「バージョ ン一・〇」が発表された。
受注、出荷、受領、返 品、請求、支払の六業務を標準化したもので、主 な対象業態はGMSやスーパーマーケットだった。
 〇八年三月にはアパレル業界の商取引に必要な 要素を加味した「バージョン一・一」を、〇九年 四月にはチェーンドラッグストアやホームセンター 業界における検討結果を反映した「バージョン一・ 二」を公開し、対象業態を広げていった。
 業務プロセスが大きく異なるという理由から基 本形とは別に策定していた「生鮮バージョン」も 〇九年一〇月に統合し、基本形「バージョン一・ 三」となって発表された。
この「バージョン一・三」 をもって、流通BMSの基本形は完成された。
 この間、流通BMSの管轄は経産省の手から離 れている。
標準化事業が〇八年度をもって終了し たのに伴い、〇九年四月からは流通開発センター 内に設置された流通BMS協議会に引き継がれた。
協議会にはデータ項目の追加や変更などに対応す る窓口機能に加え、未導入企業への導入促進が重 要なミッションとして与えられている。
 流通BMS協議会の坂本部長は「これまでは普 及が遅れていたが、導入宣言で流れは変わるだろう。
我々としてもあらゆる面からこの動きを後押しし ていくつもりだ」と意気込んでいる。
37  JULY 2011 クライアント・サーバ型EDI モデル 小売企業 基幹システムサーバ 卸・メーカー クライアント 基幹システム インターネット バッチ処理 サーバ・サーバ型EDI モデル 小売企業 基幹システムサーバ 卸・メーカー サーバ 基幹システム インターネット 日立製作所情報・通信シ ステム社の大木昇流通シ ステム本部第二システム部 主任技師

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