2011年7月号
特集
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第6部 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 3導入効果の実情と標準化への足並み
JULY 2011 40
まだメリットは受けていない
花王グループの卸機能を担う販売会社、花王カ
スタマーマーケティング(花王CMK)で情報シ
ステムを担当する松山義政管理部門統合事務グル
ープチームリーダーは、卸にとっての流通BMS
の恩恵は、変換プログラムの開発費削減や受注時
間のスピードアップ、物流業務の改善などに留ま
らないと言う。
「流通BMSが標準EDIとして普及すれば、 この五、六年で急激に増えてきた『ウェブEDI』 の拡大を抑えることができる。
卸にとってJCA 手順への対応と同等にかかっていた人的負担、コ スト的負担を軽減することができる」 ウェブEDIは一九九〇年代後半に登場したE DI手法だ。
インフラにインターネット回線を使 用しており、従来のJCA手順よりも通信速度の 向上が図れる。
ウェブ上に発注ページを立ち上げ るだけで導入できるという手軽さもあり、システ ムの置き換え時に採用する小売りが近年急増して いる。
しかし、対応する卸にはありがたくないシステ ムだ。
小売りからの発注データを受け取るには、 パソコン端末からその小売りの発注ページにアク セスし、データをダウンロードしなければならない。
さらにダウン ロードしたデ ータを自社の 基幹システム に送信する必 要もある。
人 の作業の介在 を強いるプル 型の「クライ アント─サーバ」 システムだ。
取引先企業 の少ない中小 卸や日配品メ ーカーなどには適しているが、「サーバ─サーバ」 型の自動取引を前提とする大手卸にとっては頭痛 の種となっている。
JCA手順より通信スピード は向上しても、自動化という面ではむしろ後退し ている。
そこで使われるデータフォーマットも各小売り で異なるため、JCA手順と同様に卸が一社ごと に変換プログラムを用意しなければならない。
通 信プロトコルも各社が独自に設定しており標準化 されていない。
花王CMKでは取引先企業約一二〇〇社のう ち、現在約八〇社とウェブEDIによる取引を行 っている。
「全体に占める割合はまだ多くないが、 放っておけば今後もどんどん増えていっただろう。
流通BMSが浸透すれば、その流れに歯止めが掛 かる。
当社では現在約三〇社の取引先と流通BM Sを本番稼働させているが、説明会などを通して 今後も積極的に導入をアピールしていく」と松山 チームリーダーは言う。
もっとも、流通BMSにも課題はある。
日本ア クセスの八十島幹夫情報システム本部システム開 発部長は「確かに取引している小売全体に浸透し きれば大きなメリットがあるが、一部の小売りだ けが導入してもあまり意味はない。
それどころか、 既存のJCA手順やウェブEDIとの二重運用、 導入効果の実情と標準化への足並み 標準化は閾値を超えない限り効果を発揮しない。
小売りへの普及が十分に進むまで、卸は既存システ ムとの二重運用を強いられる。
一方、既に情報イン フラを確立しているメーカーやコンビニは、新たな標 準の登場を素直には歓迎できない。
今後も課題は尽 きることがない。
(石鍋 圭) 花王CMKの松山義政管理 部門統合事務グループチ ームリーダー 日本アクセスの八十島幹夫 情報システム本部システム 開発部長 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 3 特集 41 JULY 2011 三重運用を強いられることになる」と指摘する。
取引先の小売りは各社でシステム改変や業務プ ロセス見直しの時期が異なる。
一斉に流通BMS に乗り換えてくれるわけではない。
完全に切り替 わるまでは、従来のEDIに流通BMSの運用が 一つ増える恰好になる。
一〇〇〇社以上ある日本アクセスの取引先の うち、流通BMSで通信しているのはまだ二五 社にすぎない。
そのため現在は流通BMSの専 用サーバは持たず、システムベンダーのA S P (Application Service Provider)を活用し、その 運用もアウトソーシングしている。
八十島部長は「全体の一割にあたる一〇〇社程 度の取引先が流通BMSに切り替わった時点で、 もう一度自社でサーバを構えるかを検討する予定 だ。
どこの卸も同じだと思うが、今のところ流通 BMSでは喧伝されているようなメリットは受け ていない」と説明する。
メーカー・コンビニは消極的 業界VAN(付加価値通信網)の普及によって 標準化が既に実現しているメーカーや、独自シス テムによる垂直統合の進んだコンビニにとっては、 さらに敷居が高い。
「流通BMS導入宣言書」には、多くのメーカ ーやコンビニも賛同企業として名を連ねている。
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P& Gジャパン)もその一社だ。
同社は「製配販連携 協議会」発起人一五社のうちの一社でもあり、「流 通BMS導入推進WG」のリーダー社の一角とし て宣言書の策定にも意欲的に取り組んできた。
既に導入にも踏み切っている。
「今年五月から イオンさんとの間で流通BMSを本番稼働させた」 とP&Gジャパンの山下敬介グローバル・ビジネス・ サービス・アジア・カスタマー・インテグレーション・ セクション・マネージャーは説明する。
しかし、P&Gジャパンのように流通BMSに 対して前向きなメーカーは珍しい。
表立って反対 こそしないものの、他の多くのメーカーは本音で は流通BMSを歓迎していない。
標準化が図られていない小売り・メーカー間の 取引とは異なり、メーカー・卸間の取引には、既 に加工食品VANのファイネット、日用雑貨VA Nのプラネットが普及し、ネット回線をベースに した標準インフラが確立している。
流通BMSに 合わせて仕組みを変更してもメリットはない。
P&Gジャパンが流通BMSを導入した対象も、 卸を介さず直接取引をしているマックスファクタ ーを中心とする化粧品分野に限られている。
実質 的に卸の役割を担っているため、流通BMSによ る効率化余地がある。
しかし、卸チャネルを前提とするメーカーには メリットがない。
事実、P&Gジャパンの山下マ ネージャーも「現時点では当社も、直接取引が流 通BMS導入の対象で、それ以外の分野は検討中」 と発言にその難しさを滲ませる。
コンビニも同様だ。
川上から川下までの垂直統 合を完成させているため標準化を必要としていな い。
そのためメーカーやコンビニには、導入計画 の策定を義務付けられる「流通BMS導入宣言書」 にサインすることに対して、二の足を踏む企業も あった。
導入推進WGでは発起人一五社全てが賛同でき ることを前提に導入宣言書の内容を詰めていった。
当初は宣言書に導入までの具体的な期限や取引高 まで盛り込む案も出ていた。
しかし、各社の事情 に配慮して、あえて内容をステップバックさせて 妥協点を探った。
「数社欠けた状態で刺激的な宣言を出すよりも、 みんなが乗れることを優先した。
その結果、経産 省の尽力もあって当初期待していた以上の賛同者 を得ることができた。
一つの流れを作ることがで きたと思う」と山下マネージャーは手応えを感じ ている。
P&Gジャパンの山下敬介 グローバル・ビジネス・サ ービス・アジア・カスタマ ー・インテグレーション・ セクション・マネージャー フォーラムで導入宣言書を読み上げるP&Gジャパンの山下氏。
流通業界に大きなインパクトを与えた
「流通BMSが標準EDIとして普及すれば、 この五、六年で急激に増えてきた『ウェブEDI』 の拡大を抑えることができる。
卸にとってJCA 手順への対応と同等にかかっていた人的負担、コ スト的負担を軽減することができる」 ウェブEDIは一九九〇年代後半に登場したE DI手法だ。
インフラにインターネット回線を使 用しており、従来のJCA手順よりも通信速度の 向上が図れる。
ウェブ上に発注ページを立ち上げ るだけで導入できるという手軽さもあり、システ ムの置き換え時に採用する小売りが近年急増して いる。
しかし、対応する卸にはありがたくないシステ ムだ。
小売りからの発注データを受け取るには、 パソコン端末からその小売りの発注ページにアク セスし、データをダウンロードしなければならない。
さらにダウン ロードしたデ ータを自社の 基幹システム に送信する必 要もある。
人 の作業の介在 を強いるプル 型の「クライ アント─サーバ」 システムだ。
取引先企業 の少ない中小 卸や日配品メ ーカーなどには適しているが、「サーバ─サーバ」 型の自動取引を前提とする大手卸にとっては頭痛 の種となっている。
JCA手順より通信スピード は向上しても、自動化という面ではむしろ後退し ている。
そこで使われるデータフォーマットも各小売り で異なるため、JCA手順と同様に卸が一社ごと に変換プログラムを用意しなければならない。
通 信プロトコルも各社が独自に設定しており標準化 されていない。
花王CMKでは取引先企業約一二〇〇社のう ち、現在約八〇社とウェブEDIによる取引を行 っている。
「全体に占める割合はまだ多くないが、 放っておけば今後もどんどん増えていっただろう。
流通BMSが浸透すれば、その流れに歯止めが掛 かる。
当社では現在約三〇社の取引先と流通BM Sを本番稼働させているが、説明会などを通して 今後も積極的に導入をアピールしていく」と松山 チームリーダーは言う。
もっとも、流通BMSにも課題はある。
日本ア クセスの八十島幹夫情報システム本部システム開 発部長は「確かに取引している小売全体に浸透し きれば大きなメリットがあるが、一部の小売りだ けが導入してもあまり意味はない。
それどころか、 既存のJCA手順やウェブEDIとの二重運用、 導入効果の実情と標準化への足並み 標準化は閾値を超えない限り効果を発揮しない。
小売りへの普及が十分に進むまで、卸は既存システ ムとの二重運用を強いられる。
一方、既に情報イン フラを確立しているメーカーやコンビニは、新たな標 準の登場を素直には歓迎できない。
今後も課題は尽 きることがない。
(石鍋 圭) 花王CMKの松山義政管理 部門統合事務グループチ ームリーダー 日本アクセスの八十島幹夫 情報システム本部システム 開発部長 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 3 特集 41 JULY 2011 三重運用を強いられることになる」と指摘する。
取引先の小売りは各社でシステム改変や業務プ ロセス見直しの時期が異なる。
一斉に流通BMS に乗り換えてくれるわけではない。
完全に切り替 わるまでは、従来のEDIに流通BMSの運用が 一つ増える恰好になる。
一〇〇〇社以上ある日本アクセスの取引先の うち、流通BMSで通信しているのはまだ二五 社にすぎない。
そのため現在は流通BMSの専 用サーバは持たず、システムベンダーのA S P (Application Service Provider)を活用し、その 運用もアウトソーシングしている。
八十島部長は「全体の一割にあたる一〇〇社程 度の取引先が流通BMSに切り替わった時点で、 もう一度自社でサーバを構えるかを検討する予定 だ。
どこの卸も同じだと思うが、今のところ流通 BMSでは喧伝されているようなメリットは受け ていない」と説明する。
メーカー・コンビニは消極的 業界VAN(付加価値通信網)の普及によって 標準化が既に実現しているメーカーや、独自シス テムによる垂直統合の進んだコンビニにとっては、 さらに敷居が高い。
「流通BMS導入宣言書」には、多くのメーカ ーやコンビニも賛同企業として名を連ねている。
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P& Gジャパン)もその一社だ。
同社は「製配販連携 協議会」発起人一五社のうちの一社でもあり、「流 通BMS導入推進WG」のリーダー社の一角とし て宣言書の策定にも意欲的に取り組んできた。
既に導入にも踏み切っている。
「今年五月から イオンさんとの間で流通BMSを本番稼働させた」 とP&Gジャパンの山下敬介グローバル・ビジネス・ サービス・アジア・カスタマー・インテグレーション・ セクション・マネージャーは説明する。
しかし、P&Gジャパンのように流通BMSに 対して前向きなメーカーは珍しい。
表立って反対 こそしないものの、他の多くのメーカーは本音で は流通BMSを歓迎していない。
標準化が図られていない小売り・メーカー間の 取引とは異なり、メーカー・卸間の取引には、既 に加工食品VANのファイネット、日用雑貨VA Nのプラネットが普及し、ネット回線をベースに した標準インフラが確立している。
流通BMSに 合わせて仕組みを変更してもメリットはない。
P&Gジャパンが流通BMSを導入した対象も、 卸を介さず直接取引をしているマックスファクタ ーを中心とする化粧品分野に限られている。
実質 的に卸の役割を担っているため、流通BMSによ る効率化余地がある。
しかし、卸チャネルを前提とするメーカーには メリットがない。
事実、P&Gジャパンの山下マ ネージャーも「現時点では当社も、直接取引が流 通BMS導入の対象で、それ以外の分野は検討中」 と発言にその難しさを滲ませる。
コンビニも同様だ。
川上から川下までの垂直統 合を完成させているため標準化を必要としていな い。
そのためメーカーやコンビニには、導入計画 の策定を義務付けられる「流通BMS導入宣言書」 にサインすることに対して、二の足を踏む企業も あった。
導入推進WGでは発起人一五社全てが賛同でき ることを前提に導入宣言書の内容を詰めていった。
当初は宣言書に導入までの具体的な期限や取引高 まで盛り込む案も出ていた。
しかし、各社の事情 に配慮して、あえて内容をステップバックさせて 妥協点を探った。
「数社欠けた状態で刺激的な宣言を出すよりも、 みんなが乗れることを優先した。
その結果、経産 省の尽力もあって当初期待していた以上の賛同者 を得ることができた。
一つの流れを作ることがで きたと思う」と山下マネージャーは手応えを感じ ている。
P&Gジャパンの山下敬介 グローバル・ビジネス・サ ービス・アジア・カスタマ ー・インテグレーション・ セクション・マネージャー フォーラムで導入宣言書を読み上げるP&Gジャパンの山下氏。
流通業界に大きなインパクトを与えた
