2011年7月号
海外Report
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欧米SCM会議?SCMの効果を財務指標で説明するにはエンリコ・キャメリネル 米調査会社セレント社 シニア・アナリスト
JULY 2011 54
サプライチェーンの指標の改善は企業財務にどう貢献するのか、SC
Mマネージャーの多くが十分に説明できないでいる。
SCM部門と財務 部門との間に横たわる?大きな溝?を埋める必要がある。
金融サプラ イチェーンの研究者で二〇〇九年に「サプライチェーンの価値を測る方 法」(Gower社)を上梓した著者が解説する。
SCMの効果を財務指標で説明するには エンリコ・キャメリネル 米調査会社セレント社 シニア・アナリスト 現金化サイクルの短縮が焦点に 現在、私はアメリカ西海岸に本社を置く調 査会社セレント( Celent)社のヨーロッパ部 門で、シニアアナリストとして働いています。
当社に移る以前は、製造業のサプライチェー ン部門のマネジャーとして長年働いてきまし た。
そうした経験を元に、『サプライチェーン の価値を測る方法(Measuring the Value of the Supply Chain)』を二〇〇九年に出版し ました。
本日の講演は、その本から題材をと っています。
〇八年秋の世界同時不況を契機に、企業 のマインドセットは大きく変わってきました。
世界的に名の知れた大企業であれ、それを下 支えするサプライヤーであれ、どの企業にお いても、製品の販売から代金の回収までの期 間、つまり「現金化の期間(= cash to cash cycle)」を短くすることで、経営環境から売 掛金の未回収などの不安定要素を取り除こう とする傾向がはっきりしてきました。
企業経 営において、「現金こそが王様だ」という考 えが色濃くなってきたのです。
こうした環境下で、サプライチェーンの現 場を預かる担当者は、どうすれば会社に貢献 することができるのでしょうか。
私が現役のサプライチェーン・マネジャーだ ったころ、会社から求められたのはコスト削 減でした。
輸送費や在庫費といったコストを どれだけ切り詰めることができるのかが私に 与えられた役割でした。
いわゆる?コスト・ カッター”です。
当時の私は不満を抱えていました。
サプラ イチェーン部門は、コスト削減以外にも会社 に貢献することができるのではないかと考え ていたからです。
それ以降、私はサプライチ ェーン部門が会社に価値をもたらすにはどう すればいいのかを考え続けてきました。
サプライチェーン部門はこれまでも会社の戦 略的な役割を担うとみなされてきました。
し かし、SCMとは何かと改めて考え直してみ た時、そこにはSCM分野でしか通じない独 自の考え方や手法、専門用語が使われている ことが分かります。
「リードタイム」や「完全 注文遂行率( Perfect Order Fulfillment)」、 「サプライチェーンの柔軟性( Supply Chain Flexibility)」、「サプライチェーンの応答性 (Supply Chain Responsiveness)」──など です。
各社のサプライチェーン部門や、今日のよ うなサプライチェーンに関する会議では、何 の説明もなく使われる言葉ですが、社内の多 くの人にとっては、わけのわからない専門用 語に過ぎません。
サプライチェーンで使われ 欧米SCM会議? 55 JULY 2011 るKPI(重要業績評価指標)などの指標に も同じことが言えます。
会社の中には、もっと普遍的で広く受け入 れられている指標が既に存在しています。
そ れは財務諸表です。
貸借対照表と損益計算書、 そしてキャッシュフロー計算書です。
この中 で、特に重要視されるようになってきたのが キャッシュフロー計算書です。
サプライチェーンの専門用語が通用しない のは、大多数の経営トップがサプライチェーン の業務を経験したことがないことからも分か ります。
先に挙げた私の著作には、イギリス 企業二〇〇社の経営トップに対するアンケー ト調査の結果を掲載しています。
これによると全CEOのうち、サプライチ ェーンの業務を経験したことのある人はわず か八%に過ぎません。
CEOの六〇%はセー ルスやマーケティングなどの出身者で、三二% が財務部門の出身者でした(図1)。
私はこれを当然の結果だと思っています。
セ ールスやマーケティング部門は、会社に新しい 顧客と売上高という“価値”をもたらします。
財務部門は投資家や社外全般に向けて、そう した“価値”を説明する能力を持っています。
そうしたバックグランドを持つ人たちが、経 営のかじ取りをしているのです。
先の本を書く上でもう一つ分かったことは、 このところ、CFO(最高財務責任者)が SCM部門を管轄をするケースが増えている ということです。
同アンケートでは、現在三 四%のCFOがSCM部門を管轄しており、 四九%のCFOが今後二年のうちにSCM部 門を管轄することになると答えています。
この調査結果から、CFOがSCMに強 い関心を寄せていると読むこともできますが、 その後の聞き取り調査によると、実態は逆で した。
つまり、多くのサプライチェーンの担 当者が、財務諸表やEVA(経済付加価値) などの指標を理解しておらず、現場の仕事や 効率化をそうした指標に置き換える能力が不 足していることに対して、経営層は不満を持 っていることが分かったのです。
SCMと財務を隔てる言葉の壁 まずは、財務部門とSCM部門の専門用語 がどれほど違うのかを見てみましょう。
図2を見てください。
左側がサプライチェ ーンの担当者が日ごろ使っている専門用語で、 右側が財務部門の担当者が使う専門用語で す。
お互い、相手が使っている専門用語が正 確に何を意味しているのかが分かってないこ とが少なくありません。
財務担当者の中には、 混載貨物と貸切貨物の区別もつかない人もい るのです。
しかし、財務部門とSCM部門の業務は密 接に結びついています。
図3を見てください。
一般的なメーカーの購買部門と工場における サプライチェーンの工程を上下に置き、中段 に?財務におけるサプライチェーン?を置い て、両者のどの工程がどのようにかかわって いるのかを表してみました。
たとえば、購買部門がサプライヤーと取引 条件の交渉をしている時、また工場が部品の 荷受けをしている時、財務部門はサプライヤ ーへの支払いのために、この先どのタイミン グでどれぐらい支払いのための現金が必要か を予測しているといった具合です。
また購買部門が部品の送り状を受け取る 時、また工場が製品を輸送する時、財務部門 は「支払いを巡る食い違いを解決」している のです。
どういうことかと言えば、もし工場 図1 CEO の主なキャリアパス 財務 32% SCM 8% セールス、マーケティング、 R&D、エンジニア 60% イギリス企業のCEO200 人を対象にした アンケート調査より 図2 現場と財務部門の専門用語の違い SCMの現場財務部門 WIP Work In Progress 仕掛品 SKU Stock Keeping Unit 最小在庫単位 EOQ Economic Order Quantity 1 回当たりの発注量 LTL/FTL Less Than/Full Truckload 混載/貸切貨物 STP Straight Through Processing 注文から決済までの 一貫処理 KYC Know Your Customer 本人確認業務 DSO Days Sales Outstanding 売掛金債権回転日数 DPO Days Payables Outstanding 仕入債務回転日数 JULY 2011 56 から配送された製品に、誤配や遅配があれば、 その分を割り引いて支払いを精算するという ことです。
このように、サプライチェーンの 現場の作業と財務部門の活動とは切っても切 れない関係にあります。
次に運転資金と現金化のサイクルについて 考えてみましょう。
運転資金と現金化のサイクルの間には二つ の計算式が成り立ちます(図4)。
運転資金 は在庫高、売掛金、買掛金から計算されます。
それに時間という要素を加えたのが現金化の サイクルの計算式です。
さらにこれを、サプライヤーの部材の購入 からはじまり、顧客からの集金に至る時系列 のお金の流れに当てはめると、現金化のサイ クルがどこにあたるのかが見えてきます。
つ まり、サプライヤーへの支払いから、顧客か らの集金までが現金化のサイクルと呼ばれる 期間に当たります。
金融ソリューションを利用する 企業としては、現金化のサイクルが短けれ ば短いほどいいわけです。
かといって、たと えばサプライヤーへの支払いを遅らせたりす ると、サプライヤーの経営が立ち行かなくな る恐れもあります。
優秀なサプライヤーが経 営難に陥れば、それは取引をしている企業の 経営にも跳ね返ってくるので、支払いの引き 延ばしは必ずしも賢明な策だとはいえません。
世界同時不況以降、現金化のサイクルを縮 めたいという企業側のニーズをくみ取って、こ うした企業とサプライヤーの取引に、積極的 に銀行が関与するようになってきました。
銀 行のそうしたサービスを利用するには、サプ ライチェーンの担当者と財務の担当者の協力 が欠かせません。
たとえば、サプライヤーが企業の購買部の 担当者に向かって、本当は三〇日の支払いサ イトなのだけれども、これを一〇日で支払っ てくれれば、支払金額を二%割引することが 図3 現場と財務からみたSCM の違い 工場部品の 荷受け在庫管理生産製品の 輸送 財務部門 信用リスク の審査 購買部門 送り状の 発行 必要な 現金を予測 運転資金の 管理 支払をめぐる 食い違いの解決支払い消し込み サプライヤー の確保 サプライヤー と発注部品 の決定 取引条件の 交渉 与信管理発注部品と送り状 をうけとる 支払い 購買履歴と 支払の チェック 図4 運転資金と現金化のサイクルの関係 運転資金 = 在庫 + 売掛金 − 買掛金 = 在庫日数 + − ÷( 売上原価 × 365) ÷( 売上高 × 365) ÷( 売上原価 × 365) 売掛金債権 回転日数 仕入債務 回転日数 現金化の サイクル サプライヤーからの購入 サプライヤーへの支払い顧客からの集金 顧客への販売 売掛金債権回転日数 現金化のサイクル 在庫日数 仕入債務回転日数 57 JULY 2011 る──ということです。
貢献を財務諸表で説明する サプライチェーンに関わる担当者、たとえ ば購買部門であったり、生産部門であったり、 輸送部門であったり、そうした担当者たちが、 現在のような環境下で自らの貢献を認められ るためには、サプライチェーンの成果や実績 を、財務諸表の数字と結び付けて説明する能 力が必要です。
たとえば、オンタイム配送率を上げること が何を意味するのかと問われた時に、それは 売掛金債権回転日数を減らすことです、と答 えられるようにすることです。
在庫水準を最 適化するということは、運転資金を減らすこ とを意味します。
また、物流センターやトラ ックの車両などの稼働率を上げるということ は、資産回転率を高めるということです。
日々の業務改善の取り組みについても同 じことが言えます。
たとえば、自動的に請 求支払い書を発行するシステム( self billing invoice)を導入することは、売掛金の回収時 に、取引先との間に起こるトラブルを少なく することを意味します。
また、物流センターでのクロスドッキング を使って貨物を混載して荷主に届けることは、 顧客にとっては迅速で手間のかからない配送 を意味しており、これは売り上げの増大につ ながる、という具合に説明することが、今後 ますます求められるようになってきます。
(ジャーナリスト 横田増生) できる、と伝えたとしましょう。
仮に月間の取引額は、四一七〇万ユーロ(四 七億九五五〇万円)あったとします。
二%の 割引ならば、月額八三万四〇〇〇ユーロの割 引となり、年間で一〇〇〇万ユーロを超す割 引となります。
購買部の担当者なら、すぐに も飛びつきたくなる 条件です。
サプライヤ ーとしては現金化の サイクルが短くなり、 取引企業として「W in─Win」の関係 に見えます。
しかし財務の担当 者から見ると、同じ 話が違って見えてき ます。
これまで三〇 日かけて用意してい た資金を一〇日で用 意するとなると、銀 行から短期で借り入 れなければなりませ ん。
銀行の短期金利 を一・五%とすると、 月間の調達コストは 四一万七〇〇〇ユー ロで、サプライヤーが 提示した二%という 割引額の半分に相当 します。
これを差し 引くと、年間の割引 額も半分の五〇〇万ユーロ超に収まることに なります(図5)。
一つのサプライヤーとの取引で五〇〇万ユ ーロの割引というのは大きな数字ですが、こ れはサプライチェーンの担当者と財務の担当 者の両方の視点があってはっきりする数字で す。
CEOやCFOにとって必要なのは、サ プライヤーからの二%の割引よりも、こちら の数字です。
もし同じように支払いサイトを 縮める話でも、割引率と銀行の金利によって は、損をする場合だってあり得るのです。
もう一つのサプライチェーン業務の金融を巡 る新しい動きとしては、「リバース・ファクタ リング(reverse factoring=売掛債権譲渡担 保融資)」という方法があります。
現在、銀 行や企業の財務部門で盛んに話し合われてい る方法ですが、まだ広く普及するところまで はいっていません。
これは銀行側がサプライヤーの売掛金を買 い取り、その買い取った銀行側が手数料をと って売掛金を回収するというやり方です。
も ちろん、ここで対象となるのは、支払いに問 題のない大企業に納入しているサプライヤー に限りますが、サプライヤーと取引企業、銀 行の三者の間に「Win─Win─Win」の 関係が成り立ちます。
サプライヤーにとっては、売掛金を銀行に 買ってもらうことで、すぐに現金にすること ができ、銀行は手数料を受け取ることができ る。
取引企業にとっては、優秀なサプライヤ ーの資金繰りまでを心配することが不要とな 図5 早期支払いによる割引と金利 早期支払いによる割引= 運転資金の調達コスト (支払いを20 日前倒 しするための費用) 4170 万ユーロ × ×1.5% 総合的にみた割引額= 1000 万8000 ユーロ − 500 万4000 ユーロ 30 20 ( ( 年間の調達コスト = 83 万4000 ユーロ/月 = 41 万7000 ユーロ = 500 万4000 ユーロ = 500 万4000 ユーロ = 4170 万ユーロ × 2% 換算レート:1ユーロ=115円
SCM部門と財務 部門との間に横たわる?大きな溝?を埋める必要がある。
金融サプラ イチェーンの研究者で二〇〇九年に「サプライチェーンの価値を測る方 法」(Gower社)を上梓した著者が解説する。
SCMの効果を財務指標で説明するには エンリコ・キャメリネル 米調査会社セレント社 シニア・アナリスト 現金化サイクルの短縮が焦点に 現在、私はアメリカ西海岸に本社を置く調 査会社セレント( Celent)社のヨーロッパ部 門で、シニアアナリストとして働いています。
当社に移る以前は、製造業のサプライチェー ン部門のマネジャーとして長年働いてきまし た。
そうした経験を元に、『サプライチェーン の価値を測る方法(Measuring the Value of the Supply Chain)』を二〇〇九年に出版し ました。
本日の講演は、その本から題材をと っています。
〇八年秋の世界同時不況を契機に、企業 のマインドセットは大きく変わってきました。
世界的に名の知れた大企業であれ、それを下 支えするサプライヤーであれ、どの企業にお いても、製品の販売から代金の回収までの期 間、つまり「現金化の期間(= cash to cash cycle)」を短くすることで、経営環境から売 掛金の未回収などの不安定要素を取り除こう とする傾向がはっきりしてきました。
企業経 営において、「現金こそが王様だ」という考 えが色濃くなってきたのです。
こうした環境下で、サプライチェーンの現 場を預かる担当者は、どうすれば会社に貢献 することができるのでしょうか。
私が現役のサプライチェーン・マネジャーだ ったころ、会社から求められたのはコスト削 減でした。
輸送費や在庫費といったコストを どれだけ切り詰めることができるのかが私に 与えられた役割でした。
いわゆる?コスト・ カッター”です。
当時の私は不満を抱えていました。
サプラ イチェーン部門は、コスト削減以外にも会社 に貢献することができるのではないかと考え ていたからです。
それ以降、私はサプライチ ェーン部門が会社に価値をもたらすにはどう すればいいのかを考え続けてきました。
サプライチェーン部門はこれまでも会社の戦 略的な役割を担うとみなされてきました。
し かし、SCMとは何かと改めて考え直してみ た時、そこにはSCM分野でしか通じない独 自の考え方や手法、専門用語が使われている ことが分かります。
「リードタイム」や「完全 注文遂行率( Perfect Order Fulfillment)」、 「サプライチェーンの柔軟性( Supply Chain Flexibility)」、「サプライチェーンの応答性 (Supply Chain Responsiveness)」──など です。
各社のサプライチェーン部門や、今日のよ うなサプライチェーンに関する会議では、何 の説明もなく使われる言葉ですが、社内の多 くの人にとっては、わけのわからない専門用 語に過ぎません。
サプライチェーンで使われ 欧米SCM会議? 55 JULY 2011 るKPI(重要業績評価指標)などの指標に も同じことが言えます。
会社の中には、もっと普遍的で広く受け入 れられている指標が既に存在しています。
そ れは財務諸表です。
貸借対照表と損益計算書、 そしてキャッシュフロー計算書です。
この中 で、特に重要視されるようになってきたのが キャッシュフロー計算書です。
サプライチェーンの専門用語が通用しない のは、大多数の経営トップがサプライチェーン の業務を経験したことがないことからも分か ります。
先に挙げた私の著作には、イギリス 企業二〇〇社の経営トップに対するアンケー ト調査の結果を掲載しています。
これによると全CEOのうち、サプライチ ェーンの業務を経験したことのある人はわず か八%に過ぎません。
CEOの六〇%はセー ルスやマーケティングなどの出身者で、三二% が財務部門の出身者でした(図1)。
私はこれを当然の結果だと思っています。
セ ールスやマーケティング部門は、会社に新しい 顧客と売上高という“価値”をもたらします。
財務部門は投資家や社外全般に向けて、そう した“価値”を説明する能力を持っています。
そうしたバックグランドを持つ人たちが、経 営のかじ取りをしているのです。
先の本を書く上でもう一つ分かったことは、 このところ、CFO(最高財務責任者)が SCM部門を管轄をするケースが増えている ということです。
同アンケートでは、現在三 四%のCFOがSCM部門を管轄しており、 四九%のCFOが今後二年のうちにSCM部 門を管轄することになると答えています。
この調査結果から、CFOがSCMに強 い関心を寄せていると読むこともできますが、 その後の聞き取り調査によると、実態は逆で した。
つまり、多くのサプライチェーンの担 当者が、財務諸表やEVA(経済付加価値) などの指標を理解しておらず、現場の仕事や 効率化をそうした指標に置き換える能力が不 足していることに対して、経営層は不満を持 っていることが分かったのです。
SCMと財務を隔てる言葉の壁 まずは、財務部門とSCM部門の専門用語 がどれほど違うのかを見てみましょう。
図2を見てください。
左側がサプライチェ ーンの担当者が日ごろ使っている専門用語で、 右側が財務部門の担当者が使う専門用語で す。
お互い、相手が使っている専門用語が正 確に何を意味しているのかが分かってないこ とが少なくありません。
財務担当者の中には、 混載貨物と貸切貨物の区別もつかない人もい るのです。
しかし、財務部門とSCM部門の業務は密 接に結びついています。
図3を見てください。
一般的なメーカーの購買部門と工場における サプライチェーンの工程を上下に置き、中段 に?財務におけるサプライチェーン?を置い て、両者のどの工程がどのようにかかわって いるのかを表してみました。
たとえば、購買部門がサプライヤーと取引 条件の交渉をしている時、また工場が部品の 荷受けをしている時、財務部門はサプライヤ ーへの支払いのために、この先どのタイミン グでどれぐらい支払いのための現金が必要か を予測しているといった具合です。
また購買部門が部品の送り状を受け取る 時、また工場が製品を輸送する時、財務部門 は「支払いを巡る食い違いを解決」している のです。
どういうことかと言えば、もし工場 図1 CEO の主なキャリアパス 財務 32% SCM 8% セールス、マーケティング、 R&D、エンジニア 60% イギリス企業のCEO200 人を対象にした アンケート調査より 図2 現場と財務部門の専門用語の違い SCMの現場財務部門 WIP Work In Progress 仕掛品 SKU Stock Keeping Unit 最小在庫単位 EOQ Economic Order Quantity 1 回当たりの発注量 LTL/FTL Less Than/Full Truckload 混載/貸切貨物 STP Straight Through Processing 注文から決済までの 一貫処理 KYC Know Your Customer 本人確認業務 DSO Days Sales Outstanding 売掛金債権回転日数 DPO Days Payables Outstanding 仕入債務回転日数 JULY 2011 56 から配送された製品に、誤配や遅配があれば、 その分を割り引いて支払いを精算するという ことです。
このように、サプライチェーンの 現場の作業と財務部門の活動とは切っても切 れない関係にあります。
次に運転資金と現金化のサイクルについて 考えてみましょう。
運転資金と現金化のサイクルの間には二つ の計算式が成り立ちます(図4)。
運転資金 は在庫高、売掛金、買掛金から計算されます。
それに時間という要素を加えたのが現金化の サイクルの計算式です。
さらにこれを、サプライヤーの部材の購入 からはじまり、顧客からの集金に至る時系列 のお金の流れに当てはめると、現金化のサイ クルがどこにあたるのかが見えてきます。
つ まり、サプライヤーへの支払いから、顧客か らの集金までが現金化のサイクルと呼ばれる 期間に当たります。
金融ソリューションを利用する 企業としては、現金化のサイクルが短けれ ば短いほどいいわけです。
かといって、たと えばサプライヤーへの支払いを遅らせたりす ると、サプライヤーの経営が立ち行かなくな る恐れもあります。
優秀なサプライヤーが経 営難に陥れば、それは取引をしている企業の 経営にも跳ね返ってくるので、支払いの引き 延ばしは必ずしも賢明な策だとはいえません。
世界同時不況以降、現金化のサイクルを縮 めたいという企業側のニーズをくみ取って、こ うした企業とサプライヤーの取引に、積極的 に銀行が関与するようになってきました。
銀 行のそうしたサービスを利用するには、サプ ライチェーンの担当者と財務の担当者の協力 が欠かせません。
たとえば、サプライヤーが企業の購買部の 担当者に向かって、本当は三〇日の支払いサ イトなのだけれども、これを一〇日で支払っ てくれれば、支払金額を二%割引することが 図3 現場と財務からみたSCM の違い 工場部品の 荷受け在庫管理生産製品の 輸送 財務部門 信用リスク の審査 購買部門 送り状の 発行 必要な 現金を予測 運転資金の 管理 支払をめぐる 食い違いの解決支払い消し込み サプライヤー の確保 サプライヤー と発注部品 の決定 取引条件の 交渉 与信管理発注部品と送り状 をうけとる 支払い 購買履歴と 支払の チェック 図4 運転資金と現金化のサイクルの関係 運転資金 = 在庫 + 売掛金 − 買掛金 = 在庫日数 + − ÷( 売上原価 × 365) ÷( 売上高 × 365) ÷( 売上原価 × 365) 売掛金債権 回転日数 仕入債務 回転日数 現金化の サイクル サプライヤーからの購入 サプライヤーへの支払い顧客からの集金 顧客への販売 売掛金債権回転日数 現金化のサイクル 在庫日数 仕入債務回転日数 57 JULY 2011 る──ということです。
貢献を財務諸表で説明する サプライチェーンに関わる担当者、たとえ ば購買部門であったり、生産部門であったり、 輸送部門であったり、そうした担当者たちが、 現在のような環境下で自らの貢献を認められ るためには、サプライチェーンの成果や実績 を、財務諸表の数字と結び付けて説明する能 力が必要です。
たとえば、オンタイム配送率を上げること が何を意味するのかと問われた時に、それは 売掛金債権回転日数を減らすことです、と答 えられるようにすることです。
在庫水準を最 適化するということは、運転資金を減らすこ とを意味します。
また、物流センターやトラ ックの車両などの稼働率を上げるということ は、資産回転率を高めるということです。
日々の業務改善の取り組みについても同 じことが言えます。
たとえば、自動的に請 求支払い書を発行するシステム( self billing invoice)を導入することは、売掛金の回収時 に、取引先との間に起こるトラブルを少なく することを意味します。
また、物流センターでのクロスドッキング を使って貨物を混載して荷主に届けることは、 顧客にとっては迅速で手間のかからない配送 を意味しており、これは売り上げの増大につ ながる、という具合に説明することが、今後 ますます求められるようになってきます。
(ジャーナリスト 横田増生) できる、と伝えたとしましょう。
仮に月間の取引額は、四一七〇万ユーロ(四 七億九五五〇万円)あったとします。
二%の 割引ならば、月額八三万四〇〇〇ユーロの割 引となり、年間で一〇〇〇万ユーロを超す割 引となります。
購買部の担当者なら、すぐに も飛びつきたくなる 条件です。
サプライヤ ーとしては現金化の サイクルが短くなり、 取引企業として「W in─Win」の関係 に見えます。
しかし財務の担当 者から見ると、同じ 話が違って見えてき ます。
これまで三〇 日かけて用意してい た資金を一〇日で用 意するとなると、銀 行から短期で借り入 れなければなりませ ん。
銀行の短期金利 を一・五%とすると、 月間の調達コストは 四一万七〇〇〇ユー ロで、サプライヤーが 提示した二%という 割引額の半分に相当 します。
これを差し 引くと、年間の割引 額も半分の五〇〇万ユーロ超に収まることに なります(図5)。
一つのサプライヤーとの取引で五〇〇万ユ ーロの割引というのは大きな数字ですが、こ れはサプライチェーンの担当者と財務の担当 者の両方の視点があってはっきりする数字で す。
CEOやCFOにとって必要なのは、サ プライヤーからの二%の割引よりも、こちら の数字です。
もし同じように支払いサイトを 縮める話でも、割引率と銀行の金利によって は、損をする場合だってあり得るのです。
もう一つのサプライチェーン業務の金融を巡 る新しい動きとしては、「リバース・ファクタ リング(reverse factoring=売掛債権譲渡担 保融資)」という方法があります。
現在、銀 行や企業の財務部門で盛んに話し合われてい る方法ですが、まだ広く普及するところまで はいっていません。
これは銀行側がサプライヤーの売掛金を買 い取り、その買い取った銀行側が手数料をと って売掛金を回収するというやり方です。
も ちろん、ここで対象となるのは、支払いに問 題のない大企業に納入しているサプライヤー に限りますが、サプライヤーと取引企業、銀 行の三者の間に「Win─Win─Win」の 関係が成り立ちます。
サプライヤーにとっては、売掛金を銀行に 買ってもらうことで、すぐに現金にすること ができ、銀行は手数料を受け取ることができ る。
取引企業にとっては、優秀なサプライヤ ーの資金繰りまでを心配することが不要とな 図5 早期支払いによる割引と金利 早期支払いによる割引= 運転資金の調達コスト (支払いを20 日前倒 しするための費用) 4170 万ユーロ × ×1.5% 総合的にみた割引額= 1000 万8000 ユーロ − 500 万4000 ユーロ 30 20 ( ( 年間の調達コスト = 83 万4000 ユーロ/月 = 41 万7000 ユーロ = 500 万4000 ユーロ = 500 万4000 ユーロ = 4170 万ユーロ × 2% 換算レート:1ユーロ=115円
